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#海外文学のススメ

おすすめの作品や作家、注目している国や地域を教えてください!

急上昇の記事一覧

過去の呼び声で振り返る -小説『終わりの感覚』の面白さ

  【水曜日は文学の日】     年齢を重ねるにつれ、どれ程楽天的な人であっても、悔恨することが増えてきます。   イギリスの小説家、ジュリアン・バーンズによる2011年の小説『終わりの感覚』は、そんな老年の悔恨のありようをアイロニーにくるんで切れ味よく描いた傑作です。イギリス最高の文学賞、ブッカー賞を受賞しています。   引退した生活を送る平凡な老人トニーに、見知らぬ弁護士から連絡が来ます。   ある女性の遺言で、ある人物の日記を寄贈したいとのこと。その女性はトニーの昔の

#27 最近の読む本の決め方

1.動画で読みたい本を見つける読書好きですが、実は数か月前まで読む本を決められなくなっていました。 近所の図書館には何万冊は蔵書があるはずなのに、何から選んでいいかわからない状態でした。 そんな時に出会ったのが、次の動画でした。 本当にたまたまYouTubeのおすすめの動画で表示されたので、見ることにしました。 夕食後のだらけきった状態でTVで見始め、その熱量と私好みの選書で、スマホでスクショが止まりませんでした。 しかもその一冊が、この動画に出会った日に表紙に惹かれ

敬体小説を求めて(散文について・04)

「敬体・常体、口語体・文語体(散文について・03)」の続編です。 *敬体と常体  あれは「です・ます調」で書かれていた、とはっきり記憶している小説があります。童話や昔話を除いての話です。  どんな文体だったかを覚えている小説はそんなには多くないのですが、敬体で書かれた小説として、それがとくに印象に残っているのは、お手本にしたからなのです。  私はエッセイのたぐいはだいたい「です・ます体」で書いていますが、一編の文章をすべて敬体で通しているかというとぜんぜんそうではなく、

読書記録「ティファニーで朝食を」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です! 今回読んだのは、トルーマン・カポーティ 村上春樹訳「ティファニーで朝食を」新潮社 (2008) です! ・あらすじ 彼女の消息を知ったのは、バーテンに見せられた一枚の写真だった。アフリカの集落にて、彼女の顔そっくりの木彫を見つけたと。 作家希望の「僕」にとって、彼女、ホリー・ゴライトリーとの共通点は、同じアパートに住む住民だけであった。 彼女は駆け出しの女優だった。気まぐれで、可憐、そして自由奔放に生きてきたように見える。 男

翻訳という仕事

 先週の日曜日(11月10日)に東京出張から帰ってきました。  6日には日仏学院(Institut français de Tokyo)で、対談形式の講演をやりました。対談の相手は東京創元社の私の担当編集者です。  日仏学院は言うまでもなく、フランス政府公認かつ大使館直轄の語学学校です。何を隠そう、私もかつて学生時代にここで学びました。  今回、私がここに呼ばれたのは、「短期集中翻訳者養成プログラム」というイベントに参加するためです。これは今年から新たに試みる企画なのだそうで

読書は著者との真剣勝負~マンツーマンで偉人と語り合える貴重な時間

ナポレオンやエジソンなど、歴史に名を残すリーダーや偉大な発明家たちはその多くが猛烈な読書人として知られています。 やはり読書を通して学べることは大きい。 よくよく考えてみればそうですよね。何十年に1人、いや、何百年に1人の天才の言葉を本では聴くことができるのです。しかも本のいいところは著者と一対一で自分のペースで向き合うことができる点にあります。 歴史に名を残すほどの偉人と面と向かって語り合うことができるなんて、なんと贅沢なことか・・・! 本というと、ただ文字を読むだ

推し活翻訳22冊目。The Night Raven、勝手に邦題「殺人鬼の名は闇烏」

原題:The Night Raven(Nattkorpen) 原作者:Johan Rundberg、英訳 A. A. Prime 勝手に邦題:殺人鬼の名は闇烏 出版社:AmazonCrossing Kids(Natur & Kultur) カバーデザイン:Edward Bettison Ltd.   概要と感想   1880年冬、極寒の街ストックホルムが舞台。主人公のミカは12歳、自分が育った公設孤児院の子どもたちが、みな無事に冬を生きのびられるか気が気ではありません。いつに

ハードボイルド書店員日記【212】

朝礼が変わった。 入荷のない休配の土曜、日曜そして祝日は、従業員がオススメの本を紹介することになった。持ち時間は5分で質疑応答も可。異動してきた正社員のアイデアである。ビブリオバトルの経験者らしい。 「あれ、どう思います?」 平日の午前中。年末年始に備え、カウンターでひたすらカバーを折る。隣に入った雑誌担当に声を掛けられた。 「あれ?」 「朝礼の」 「ああ」 彼は次の土曜の担当である。 「べつに紹介したい本とかないんですけど」 「コミックや雑誌でもOKらしい」 「うーん、

【お得情報】Holafly(オラフライ)纏め 海外旅行 e-sim

皆さん!どうもこんばんは! naotoです☆ 今回は〜 Holafly(オラフライ)纏めです!!! 先にこちらからアクセスすると私からの紹介クーポンが適応となり5%オフとなりますので良ければご了承下さい♪ 皆さん!海外旅行に行かれる際にスマートフォンのインターネットってどうされてます??? simカードを入れ替える? e-sim? ポケットwifi? 現地sim? 各キャリアのデータローミング? 色々ありますよね!!! 私は世界一周をして、訪れる国に合ったsim

ヨン・フォッセ『朝と夕』

2023年にノーベル文学賞を受賞したノルウェーの作家で、主に戯曲の分野で有名な方ですが、『朝と夕』は小説の形式です。昨年の受賞で一気に翻訳紹介が進み、2024年に本作含む4作品ほど出たと思います。 作者は1959年生まれ。その功績から同国の文豪イプセンの再来と呼ばれているそうです。「言葉で表せないものに声を与えた」という言葉をノーベル賞委員会が出しています。 ストーリー二部構成。共にフィヨルドの街 141ページ 一部は息子の誕生を待つオーライという男の随想のようなもの。

心の距離(ジェーン・オースティン『高慢と偏見』)

人と人の心が離れていることを表す表現はいろいろある。 「心の壁」や「心の扉」といった物理的なものだったり、冷たさなど温度だったり、それこそ距離だったり。「彼までラブkm」なんてマンガもあった。以前似たようなことをロシア語のポップスについても書いた。 冒頭の引用では、英文学最高峰のひとつと目されるのこの小説の主人公エリザベスとダーシー氏の二人は、今二人が席についている机の幅と同じくらい遠くに離れている、と言っている。 当たり前と言えば当たり前だ。だって2人の間に机があるん

Han Kang(한강)の小説を読もう : The Vegetarian / Heavy Snow

現代韓国文学の盛り上がり  ここ数年、アジア文学がアツい!!という話が、アジアのみならず英語圏の読書家たちの間でもよく話題にあがるようになった印象がある。その中でもとりわけ大きなムーブメントになっていたのが、家族社会、ジェンダー、苛烈な競争社会、経済格差などをテーマとして扱った現代韓国文学だった。私の知る限り英語や日本語、中国語など他の言語圏への翻訳も活発に行われており、世界的に話題になっているジャンルというべきだろう。今年はHan Kang(한강)さんがノーベル文学賞を受

パリ郊外のエミール・ゾラの家を訪ねて~文豪も愛したセーヌの流れに癒される

ゾラについてはこれまでの記事でもお話ししてきたが、いよいよこれからパリ郊外のメダンにあるエミール・ゾラの家を紹介していく。 ゾラの家があるメダンまではパリのサン・ラザール駅から電車に乗車して向かうのが一番行きやすい方法だ。 サン・ラザール駅はゾラの『獣人』でもその舞台となり、印象派の画家モネがこの駅を描いたことでも知られている大きなターミナルだ。 最寄りの駅「Villennes-Sur-Seine」まではおよそ30分弱。 駅に到着。ここからは徒歩。ナビ上ではおよそ25

『後任者たち』

the replacements Charles Bukowski ジャックロンドンは奇妙で勇敢な男たちを書きながら 酒で自身の命をすり減らしていった ユージーンオニールは暗く詩的な文章を書きながら 酒で我を忘れていった 現在の作家たちはネクタイを締めスーツを着て大学で講義をする、 若い男たちはしらふで勤勉で、 若い女たちは目をキラキラさせ 将来に思いを馳せる、 芝生は濃い緑色で、書物は退屈だ、 人生は渇望で 死につつある

「本の帯」についての感想文...(私の新刊読書のお楽しみ)

 久しぶりの note です。  ご無沙汰だったのに、こんな地味なテーマですみません!  今回は「本の帯」の話なんです。  「帯」というのは、よく新刊本なんかに巻かれているやつのことです。  これ、今年、文庫化で話題になった『百年の孤独』の「帯」です。  中央に "聴け、愛の絶叫を。見よ、孤独の奈落を。" というメインのキャッチコピーが配され、周りにはサブコピーとともに ”ノーベル文学賞” や ”46言語 5000万部” といった、本や作家さんの受賞状況やデータ等が掲載

海外文学好きにはたまらない競訳、ふたたび!『MONKEY vol. 34 特集 ここにもっといいものがある。』岸本佐知子+柴田元幸短篇競訳

文学ラジオ第175回の紹介本 海外文学好きにはたまらない競訳、ふたたび! 『MONKEY vol. 34 特集 ここにもっといいものがある。』 岸本佐知子+柴田元幸短篇競訳 スイッチ・パブリッシング パーソナリティ二人で作品の魅力やあらすじ、印象に残った点など、読後の感想を話し合っています。ぜひお聴きください! ポッドキャストウィークエンドの感想/文学フリマ東京39出店/梅屋敷ブックフェスタ出店/短篇競訳第2弾/変わってるけど海外文学の入門になるかも/どれも新鮮に読める

パリ滞在を終えてドストエフスキーに思う~なぜラスコーリニコフはラスティニャックにならなかったのだろうか

一週間ほど滞在したパリでの日程もいよいよ終わりを迎える。 『秋に記す夏の印象』ということでドストエフスキーに倣って私の印象を述べていこうという趣向であったが、なかなかドストエフスキー本人についてのことはここまで多くは語れなかった。 ドストエフスキー自身もパリの名所や芸術などについてはほとんど語らなかったが、パリ篇の最後はやはり彼について思ったことを書いていきたいと思う。 華の都パリ。世界の首都パリ。バルザックのパリ。 圧倒的な繁栄と物欲の世界。華やかな社交界と資本家の

越前敏弥著『訳者あとがき選集 』初読感想文 2024年に読んだ本から2

 長い物語を再読することが好きです。  ジョン・アーヴィング、ドストエフスキー、トールキン、アガサ・クリスティ。  そしてエラリー・クイーンの長くてずっしりと重い本格推理小説たち。  でもこうしてみると。  私の好きな小説は、特に選んだわけではないのですが、何となく海外小説が多いです。(あと長い。)  そして海外小説を読むためには、外国語が達者でない私は翻訳されたものにお世話になることに。  つまり翻訳してくださる方がいなかったら私はこれらの物語に出会うことはなかったのだ

アルタニアンのダルタニアン(『三銃士』アレクサンドル・デュマ)

『三銃士』の原書より。前書きを読んでいておどろいた。 ダルタニアンは d'Artagnan だったのだ。 「ダ」の d は前置詞の de だったのだ。 ダルタニアンは、南仏にある地名「アルタニアンの」という意味だったのだ。 「銃士ダルタニアン」といえば聞こえはいいが、いわば「東京もん」とか「関西人」などと言っているようなものだ。 つまり例えば「私は秋田出身の己斐です」をフランス語で言うと Je suis Kohi d'Akita. (秋田の己斐)で、人からは「ダキタ

スティーヴン・キング『浮かびゆく男』中編集コロラド・キッドより

スティーヴン・キング作家活動50周年記念作品です。『異能機関』『ビリー・サマーズ』『死者は嘘をつかない』に続く中編集です。 今回の中編集には『浮かびゆく男』『コロラド・キッド』『ライディング・ザ・ブレット』が収録されています。その中で『浮かびゆく男』はさわやかな感動を感じることができた作品でした。 登場人物とあらすじリチャード・マシスンの『縮みゆく男』に影響を受けた作品です。『縮みゆく男』が身長が少しづつ低くなる設定に対し、『浮かびゆく男』は体格が変わらずに体重が少しずつ

こんなに素敵な物語だったとは…◇秘密の花園

 小学生のころから存在を知っていた名作ですが、じつは、いまになってはじめて読みました。  F.H.バーネット『秘密の花園』。  複数の出版社からいろいろな翻訳本が出版されている中で、今回私が読んだのは、2024年3月に教文館から出たばかりのハードカバー(訳:脇明子)です。常体(だ・である調)で訳されていて、大人も読みやすく、ジェリー・ウィリアムズの挿絵も素晴らしい!  そもそも、長年読まずにいた名作をなぜいま手に取ったかといえば、「教文館が出している?」と興味を持ったから。

書籍レビュー『十二月の十日』ジョージ・ソーンダーズ(2013)意味がわかった時、あなたも戦慄を覚える

【約1300字/3.5分で読めます】 ジョージ・ソーンダーズは今、 アメリカで注目されている作家本書の訳者あとがきによると、アメリカでは短編小説の名手として知られ、「作家志望の若者にもっとも文体を真似される作家」なんだそうです。 本作も発行されるとすぐに、『ニューヨーク・タイムズ』で絶賛され、その年のベストセラーリストをトップで独走したとのことです。 そんなことを知らずに読みはじめたがとにかく変わった文体でした。 文章自体は決して硬いものではないのですが(むしろ下品な

112回目 "The Fixer"を読む(Part 9 読了回)。下働きの人々の『命の扱われ方の軽さ』と『苦しい生活に鍛えられた人の芯に宿る優しさ』の対比。

いよいよ読了回です。最後の章 Chapter 9 に来るまでは、それほど明示的には表現されていなかった、人の心の底に育まれる「優しさ」が感動的に読者に迫ります。 未決囚として刑務所に拘束された Yakov に加えられる過酷な仕打ち。挫ける寸前まで追い詰められるものの Yakov は何とか持ちこたえます。その為の気力の源泉は何だったのか? 復讐心・恨みではなかったはずです。   二つ目は、ユダヤ教の教えに縋り付いて生き延びる Yakov の義父 Shmuel。この男の哲学に心

読書記録「キャッチャー・イン・ザ・ライ」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です! 今回読んだのは、J.D.サリンジャー 村上春樹訳「キャッチャー・イン・ザ・ライ」白泉社 (2006) です! ・あらすじ これから君たちに話すのは、去年のクリスマス前後に、僕(ホールデン・コールフィールド)の身に起こったどたばたについてだ。 その頃、僕は学校を追い出されたばかりだった。ペンシー・プレップスクールというとんでもなくくそったれしかいない学校さ。 いや、全員がくそったれなわけじゃないぜ。きっと2人くらいはちょっとましな

忘れてしまうことを忘れないで【二〇〇〇文字の短編小説 #30】

おじいちゃんに買ってもらった自転車が思いがけずパンクしてしまったので、ロディは泣きそうになった。秋の夕暮れ間近、ケズウィックの街の坂道を登っている途中だった。気づくと、前のタイヤがしょげ込むように凹んでいる。 今朝「小学校から帰ってきたらおじいちゃんの家にじゃがいもを届けてきて」と母さんにおつかいを頼まれた。トートバッグにたっぷり詰め込まれたじゃがいもが自転車の前かごに入っていて、バランスを取るのが少し難しかった。段差で余計な衝撃が加わったのか、捨てられたくぎか何かが刺さっ

『これだ』

this Charles Bukowski タイプライターを前に酔っ払っているほうが これまでに見たあるいは知り合った あるいは話しに聞いた女たちと過ごすよりもよっぽどいい ジャンヌダルク、クレオパトラ、ガルボ、ハーロウ、マリリンモンロー、 その他何千のスクリーンに映る女たちよりもだ あるいは時に目にする素敵な女たち 公園のベンチで、バスの車内で、ダンスパーティーで、ビューティーコンテストで、カフェで、サーカスで、パレードで、デパートで、スキート射撃で、熱気球飛行、カーレー

特濃コーヒーを愛飲したバルザックのコーヒーポットに感動!パリのバルザックゆかりの地巡り

はじめに前回の記事でナポレオンの墓についてお話ししたが、今回の記事ではそのナポレオンの影響を強く受けたバルザックゆかりの地を紹介していきたい。 バルザックは「彼が剣で始めたことを自分はペンで成しとげよう。」という言葉を座右の銘にするほど、ナポレオン的成功を夢見ていた。己の才覚によって成り上がることを何よりも望み、まさに彼の人生は「小説は現実より奇なり」を地で行く凄まじいものだった。 彼の生涯を知るにはシュテファン・ツヴァイクの『バルザック』という伝記がおすすめだ。彼の豪

パリのゾラゆかりの地を訪ねて~『ナナ』の劇場やファンにはたまらない様々なスポットをご紹介

はじめに今回の記事では私が尊敬する作家エミール・ゾラの代表作『ルーゴン・マッカール叢書』ゆかりの地を紹介していく。 だがそのお話を始める前にまずは「なぜ私がエミール・ゾラという作家に出会ったのか」を簡単にお話ししたい。 私がエミール・ゾラを読み始めたそもそものきっかけもやはりドストエフスキーだった。ドストエフスキーがフランス文学、特にバルザックの作品に強い影響を受けていたのはこれまで当ブログでお話ししてきた通りだ。ドストエフスキーは彼らフランス文学を通して19世紀中頃の

窓越しの時間【夢の話、または短編小説の種 #21/一二〇〇文字の短編小説 #22】

このごろシルヴィアは同じ夢を見る。どこかを歩いている途中に、ハイヒールが折れてしまう。 突然高さを失うのは、決まって左足だ。セントパンクラス駅の構内で、ケンジントン・ガーデンズの池のほとりで、ロンドン塔の階段で、故郷バンゴールのささやかな通りで、旅先で訪れているだろうチェコのカレル橋の上で、とにかく色々な場所で小さいけれども硬い音を立てて、左足が出し抜けにぐらつく。バランスを崩す感覚はとにかく生々しい。今日の舞台はシティにあるロンバード・ストリートだった。 シルヴィアはた

【お礼😊】【推し活翻訳・古典翻訳1作目】勝手に邦題「わたしのロビン君」、長文なので読んでださる方はいないだろうと思っていましたが、コメントやメールやサポートやXで反響をいただき大感激!自分と同じものが好きな方がいるんだと思うと心がぽっとあったかくなります💓ありがとうございました!

あら捜しされる美人と魅力的な不美人(ジェイン・オースティン『高慢と偏見』、シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』)

英文学最高峰のマッチング小説より。 主人公エリザベスの恋敵キャロラインが、ダーシ氏に告げた悪口である。悪口以外の何物でもない。 登場人物にここまで言わせておいて「怒りにかられた人は、いつも賢明であるというわけにはいかない」なんて評を差し込むのだから、オースティンさんもなかなか意地が悪い。 そして、最近の例では2005年の映画版でエリザベスを演じているのがキーラ・ナイトレイだから、まあ文句なしの美人である。キャロラインもよくもこれだけいちゃもんをつけられたもんだ。 ちな

真帆しおん*MAHO Shionさんのnoteで【推し活翻訳・古典翻訳1作目】My Robin、勝手に邦題「わたしのロビン君」をご紹介いただきました😊教文館版の『秘密の花園』をお読みになったとのこと。引用されている箇所がまた素敵です💓 https://note.com/shinmaho2009/n/nb77ce7e4c2f7?from=notice

風呂の前に物語に浸かる

はじめての韓国小説を読む。 ハン•ガン「別れを告げない」 月が照らす秋夜 街灯のそばに車を停める。 サンルーフから月が見える。 月あかりで、この本の”第二部 夜”を読みたかった。 さすがに月あかりは弱い。 夜路は照らすが本までは照らせない しょうがない街灯の灯りで我慢しよう。 ページを捲る。 うん。よい雰囲気だ。 僕は本にはカバーをしない。 読み続けるに従ってクタッとした紙の使用感が読み跡として残るのがいいからだ。 でも、今回は違う。 久しぶりにカバーをかけた。

心を強くする詩集「独り 気高く 寂しく」アン・ドヒョン著、ハン・ソンレ訳

文学ラジオ第174回の紹介本 心を強くする詩集 「独り 気高く 寂しく」 アン・ドヒョン著 ハン・ソンレ訳 オークラ出版 パーソナリティ二人で作品の魅力やあらすじ、印象に残った点など、読後の感想を話し合っています。ぜひお聴きください! ゲラ読みから参加/文学や言葉に向き合ってきた人の詩集だと感じた/最初の詩「君に聞く」のたった3行に心をつかまれた/Netflixドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」にはまった/著者&作品紹介/心が強くなれる詩集/最後の「私を悲しくさせる詩」

■ギヨーム・アポリネール - 芸術革新の世紀を生きた詩人

序章 - 世紀末パリの文学的土壌 19世紀末のパリは、芸術の大きな転換点を迎えていました。エッフェル塔の完成が象徴する新時代の幕開けと、象徴主義の詩人たちが体現する世紀末的な精神が交錯する特異な時代でした。マラルメの「火曜会」では、なお象徴主義の灯火が燃え続けていましたが、その炎は次第に新しい光へと姿を変えようとしていました。  当時のパリの文学界では、象徴主義の第一世代から第二世代への移行が進んでいました。マラルメやヴェルレーヌといった巨匠たちの影響力は依然として強く、その

【パリ旅行記】ナポレオンの墓があるアンヴァリッドへ~文豪達も憧れたナポレオンというカリスマを考える

パンテオンでルソーやヴォルテール、ゾラ、ユゴーのお墓参りをした後に私が向かったのはアンヴァリッド。ここにはあのナポレオンが葬られている。 パンテオンもそうだったのだが、この建物も元々はキリスト教の教会だった。ルイ9世の遺体を安置するために作られたのがそもそものきっかけで、1706年に完成した。 その建造物がフランス革命後、1840年にナポレオンの墓所として転用されることになったのである。 それにしても、この堂々たる立ち姿にはため息が出るほどだ。これほどの建築物がある意味

日記:11/2(土)☔️ ・11月になっても過去最大レベルの大雨を記録していて複雑な心境🫢 →スペインの洪水や台湾の台風など異常気象が多すぎるような💦 ・睡眠の量を増やせば、食事をするための時間も減るのか? →食べ過ぎ注意⚠️ ・10日の試験本番に向けてあとはひたすら音声学習📼

洋書選びの視点

 海外の作品であっても、名著と呼ばれる作品や有名な著者な作品ならば、日本語に翻訳されていることが多いですね。英語その他の外国語の知識がなくても、少し待てば邦訳で読むことができます。また翻訳ソフトもあるので、原書で読む必要はないと考える人も多いことでしょう。だから、学術的な論文を執筆したり、仕事上、文書を読まなければならないという必然性がない限り、一般の読者は原文にあたる必要はない、という考え方が成り立ちますね。  原文を読む必要がないという主張に対して、反論しようと思えば反

サクレクール寺院から見るパリの絶景~ゾラ後期の傑作小説『パリ』との関係についても

前回の記事ではエミール・ゾラの『ルーゴン・マッカール叢書』ゆかりの地をご紹介した。 そして今回の記事では『ルーゴン・マッカール叢書』を書き上げたゾラが満を持して執筆した「三都市双書」の最終巻『パリ』の主要舞台となったサクレクール寺院をご紹介したい。 サクレクール寺院はモンマルトルの丘の上に立つ教会だ。 こちらは凱旋門から見たサクレ・クール寺院。小高い丘の上に立っていることがわかると思う。 モンマルトルの丘周辺は観光地としていつも賑わっていて、お土産屋やカフェも多い。ち

『海底二万里』の冒険へ。そして、ノーチラス。

深海は宇宙と同じくらいに神秘に溢れた世界である。 世界を。深海を。大海原を。 地球という青い星でたくさんの謎を含む冒険の旅を。 『海底二万里』。この本は映画にもなり、『海底二万マイル』という名で知っている方もいるかもしれない。 ヴェルヌが1800年後半に描いた海をテーマとした大冒険の話である。 たかが、小説。 されど、この本はまるで深海の世界に飛び込んだようなリアリティを提供してくれる。 気がつけば主人公と同じ潜水艇に乗り、世界を共に旅している。 そんな世界観に浸ることがで

書評。物語はこんな宇宙#14:チェーホフ 「かもめ」後編

かもめ 著チェーホフ 訳浦雅春 岩波書店 本書評は、前回の書評の続きになります。 先にこちらをお読みください。 https://note.com/gurisan/n/n24c675f3af4c 創作も前回からの「魔法と自覚」からの続きです。 三幕目 三幕開始時点で、トレープレフは自殺未遂を起こしている 三幕目あらすじ 食堂から芝居は始まる。 出発が近づき、ニーナは、トリゴーリンに別れのメダルを渡しにくる。そこには文字が刻まれている。 一方、トレープレフは自殺未遂を

【ぶんがQ】特捜部Qに登場するシェイクスピア作品

英語圏の文学作品を読む際、聖書と並んでシェイクスピアの知識は必須と言われている。 例えばシャーロック・ホームズのシリーズにはたびたびシェイクスピア作品からの引用やオマージュ?が登場するし、赤毛のアンやアガサ・クリスティ作品にもシェイクスピア作品に言及している部分がある。 ところで、デンマーク人作家によって書かれた北欧ミステリー「特捜部Qシリーズ」にもシェイクスピア作品の名セリフに言及している箇所があるのをご存知だろうか。 それは『特捜部Q - Pからのメッセージ -』冒

クリスマスの夜のこと【八〇〇文字の短編小説 #46】

ライアンはときどき、いつかのクリスマスを思い出す。三年前か四年前か、それとも五年前か、キングス・クロス駅で文字どおり息をのんだことが忘れられない。 その日の夜、ライアンは恋人のナンシーとフレンチレストランで夕食を楽しんだあと、寒さが包むロンドンの街を歩いていた。クリスマスだからだろう、キングス・クロス駅の周りは観光客であふれていた。浮かれた雰囲気をぼんやりと眺めているのはホームレスの人たちだ。誰も彼もフードかニット帽で顔を隠すようにして地べたに座り、年季が入った毛布で体をく

『境界の扉 日本カシドリの秘密』 初読感想文 2024年に読んだ本から1

 長い物語を何度も読むことが好きな私ですが。  再読ばかりではありません。  初読の本ももちろんあります。  今年2024年の夏に文庫化された『百年の孤独』を初めて読みました。そしてあまりにも面白かったので、その勢いで初読感想文を書きましたが。 (そちらもぜひ読んでいただけると嬉しいです。)  ほかにも今年初読したものの中で面白かったものがたくさんあったので。  そこからいくつかお話ししたいと思います。  再読ほどは読み込んでいないのでいつもよりちょっと軽めに。  あく

「失われた時を求めて」を巡る冒険⑪

↓を読了しました。 アルベルチーヌと結婚すると宣言し、同居を始めた途端に「もう愛していない」と言い出す。やがて探偵みたいな猜疑心で倍加させた裏切りのイメージに苛まれ、苦しむなかで「愛している」と翻す。 かつてスワンとオデットの関係性が綴られた際も「手に入らないからこそ燃える」という趣旨の描写が何度となく見られました。あとは想像(多分に妄想を含む)の価値。実際に知り合い、話をして距離を縮めることを強く求める反面、いざそうなると期待を裏切られて冷めるみたいな。 わからなくも

『小さな試みでは何も得られない』

Short non-moon shots to nowhete Charles Bukowski オマエらのことだ まったく 薄っぺらで 腑抜けた面 笑いたくもないのにヘラヘラ笑いー オマエらに言わせてくれ オレはスラムの安宿で頭のイカれた酔っ払いどもと 飲んだくれていたことがある やつらの大義は立派なものだったし 目にはまだいくらか輝きが残り 声にはある種の感性さえあった、 朝になっても オレたちは酔ってはいても落ちぶれてはなく、 カネには困っていたが思い違いはしていなか

2024年11月読書記録 青春、風変わりな人々、チューリングが生きながらえたら?

福永武彦『草の花』(新潮文庫)  SNSで何度か目にして気になっていた作品です。福永については、堀辰雄の弟子、中村真一郎の盟友、池澤夏樹の父親…といったことしか知りません。が…読み始めると、サナトリウムの話だし、文体や雰囲気も、あまりにも堀辰雄に似すぎていることに驚きました。堀辰雄自身、初期の作品はラディゲやプルーストに似すぎなのですが、そのあたり、戦後になっても、文学界は無頓着だったのでしょうか。今なら、例えば、村上春樹さんの影響をここまで受けた小説は、文学賞の一次選考も

Oxford旅行記 ―イギリス最古の図書館、ハリポタロケ地巡り―

観光はロンドンのみの予定だったけど、せっかくなので足を延ばしてひとり電車に揺られオックスフォードまで行ってきた。 権威ある大学、自然、図書館、美しい教会、かつてオスカー ワイルド、C.S. ルイス、J.R.R. トールキンが学んだ風景が今も続く街。ハリーポッターシリーズにおいてはロケ地にも選ばれた場所である。 ボドリアン図書館はヨーロッパ最古の図書館の一つであり、大英図書館に次いでイギリスで2番目に大きな図書館。大英図書館では見たかったもの(ジェイン・オースティンの物書机

ざわめきのリズムを感じて -ヘミングウェイ『日はまた昇る』の魅力

    【水曜日は文学の日】     一般的に流布されているイメージと、読んでみた感想が違う文学は結構あったりします。   ヘミングウェイの初期の小説『日はまた昇る』は、マッチョとしばしばいわれるこの作家の作品の中でも、都会と旅の魅力に満ちた、煌めきに溢れる作品のように思えます。その鮮やかな描写は、また、「マッチョ」とは別の魅力に感じるのです。 新聞記者のジェイクは、第一次大戦の戦場で受けた傷で性的不能になり、パリでその日暮らしをしています。   元看護婦のブレットとジェイ

感想『神曲』(ダンテ 山川丙三郎訳)下巻 天堂

神曲最終巻天堂編。初恋の淑女崇拝宇宙旅行です! ……中世イタリアのSFでした、びっくり。 神曲世界観では、天堂(天国)は天の星々なので、ダンテは各星におられる聖人や天使、キリストやマリアを、ベアトリーチェと訪ねてまわるわけです。 中世イタリア人が想像する宇宙空間は、天使の光が輝く善と美の世界。 ベアトリーチェの微笑み、ベアトリーチェの瞳が、信仰の深さを表すため、ダンテは彼女を見よう見ようとします。 この物語は、詩人が永遠の女性を追いかけながら――政治の愚痴を言いまくるた