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洋書選びの視点

 海外の作品であっても、名著と呼ばれる作品や有名な著者な作品ならば、日本語に翻訳されていることが多いですね。英語その他の外国語の知識がなくても、少し待てば邦訳で読むことができます。また翻訳ソフトもあるので、原書で読む必要はないと考える人も多いことでしょう。だから、学術的な論文を執筆したり、仕事上、文書を読まなければならないという必然性がない限り、一般の読者は原文にあたる必要はない、という考え方が成り立ちますね。

 原文を読む必要がないという主張に対して、反論しようと思えば反論できなくもありません。しかしながら、私は「絶対に原文にあたらなければならない」という強い論拠を持ち合わせていません。

 「翻訳は翻訳であって、著者の言葉遣いの細かなニュアンスを知るためには、原文にあたらなければならない」とか、「原文を読むことを通して、論理的な思考を鍛える必要がある」とか、翻訳ではなく、原文を読む必要性を説く様々な理由を挙げることはできます。
 しかしながら、翻訳ではなく原文を読みたいと思うのは、「外国語が好きだから」という理由をおいてほかにない、と考えています。

 きっかけは何でもいい。学校で英語やその他の外国語を学んで関心をもった。資格試験があるから。昇進に必要だから、等々。
 けれども、必要性に迫られて外国語を学ぶと、嫌々語学をやっているような気分から脱することは難しいでしょうね。それに、資格試験や昇進のためにやる学習というものは、合格したり昇進した瞬間に急速に意欲を失うことになるでしょう。

 語学なんて、やる気さえあれば誰にでも出来るものですが、楽しいと思える経験がないと関心を持続することは難しいものです。
 どういうときに関心を持てるのかということは、それこそ千差万別であり、「どうしたら英語(あるいはその他の外国語)に関心を持つことができますか?」という質問には答えることは出来ません。


 この記事の読者は次のような人を想定しています。
 きっかけはどうであれ、外国語(主に英語を念頭においています)に関心があるけれども、どのような本を選んだら良いのかと悩んでいる人。
 仕事上で差し迫った必要性はないけれども、英語が好きで、何か自分にとって楽しい洋書はないかと探している人。


 万人向けの洋書選びの方法については、私には書く能力はありません。以下に書くことは、あくまでも私自身の個人的な洋書選びの基準です。ということなので、参考にする程度の軽い気持ちでお読みいただけたら幸いです。




(1) 万人向けのレファ本はない


 「英語多読○○」のような洋書選びのレファ本や、洋書の帯に時折ついている「TOEIC○○点レベル」のような指標を私は信頼していません。
 そのようなレファ本や帯の言葉というのものは、語彙力に沿った基準で書かれているものであって、あなたの関心の強さによって決められているものではありません。
 他人の意見を参考にするのは悪いことではありませんが、結局のところ、あなたが読みたい本やあなたが必要とする本は、あなた自身が探すよりほかありません。


(2) 総論① | 関心の強さを基軸にしよう


 まず、どの洋書を選ぶのかと考えるときに1番大切なのは、あなたの関心が強い分野の作品を選ぶという姿勢です。

 専門分野ならば、あまり一般的には用いられない語彙が登場しますが、どんなに難しい言葉で書かれていたとしても、あなたには理解可能でしょう。また、まったく知らない言葉に出会ったとしても、それはあなたにとっては必要な言葉です。

 中学生や高校生の使う教科書というのは、偏りがないように、小説だったり、エッセイだったり、サイエンス系の素材を扱っています。総花的ですね。
 様々な素材をバランス良く取ろうという態度は、一見、良いことのように思えます。しかし、語学は、食べ物とは違い、分野によるバランスを考える必要はない、と私は考えています。

 語学は食事ではありません。だから、私はあなたの関心に応じて、大いに偏食したほうが良いとすら思っています。バランスを考えて、わざわざ嫌いな分野の読書をしようとすると、ストレスになるだけです。

 あなたの関心がサイエンスにあるならば、小説の類いを読むのではなく、サイエンス系の論文や読み物を読めばいいでしょう。そのほうが、あなたに必要な専門用語も自然と覚えやすい。

 もしかしたら、サイエンス系の論文ばかり読んでいると、偏った英語だけしか使えるようにならないのではないか、と不安に思う人がいるかもしれません。けれども、心配ご無用です。

 たしかに、専門用語(technical term, expertise, jargon)は覚えても、広く一般的に使われるわけではありません。しかし、同じ関心を持つ人同士なら頻繁に使う言葉ですから、あなたは覚えておいたほうがいい。
 加えて、大事なことは、どんな専門分野の文献を読むとしても、専門用語の大半は名詞であって、動詞ではない、ということです。

 もちろん、科学的な論文と小説とを比較すれば、頻繁に使われる動詞の種類は多少異なることでしょう。しかしながら、小説であっても論文であっても、基本動詞はほとんど同じなのです。
 英語ならば、be動詞、have、get、makeなどの基本動詞は、話し言葉でも書き言葉でも頻繁に用いられます。だから、英語にしろ、その他の外国語にしろ、専門分野に特化した読書だとしても、偏るということを過度に心配をする必要はありません

 むしろ、バランスを取ろうとして、文学や科学、新聞など様々な教材に手を出そうとすると失敗しやすいのではないか、と私は考えています。

 洋書選びにおいては、「英語『を』学ぶ」ということより、「英語『で』何を学びたいのか」を考えることが先でしょうね。


(3) 総論② | メンターをもとう!


 関心のある分野の本を読んでいれば、どの本が標準的な学説に基づいて書かれた書物なのかということはわかってきます。

 たとえ甲論乙駁があったとしても、意見の相違をこえて「この本だけは読んでおかなければ」という文献がわかってきます。

 たとえば、経済学の本ならば、ケインズ経済学とマルクス経済学というように分かれていますが、どちらの系統の学派であっても、アダム・スミスが数多く引用されています。

 どちらの学派の文献を読んでいるだけでも、アダム・スミスが経済学の出発点だと早晩、気がつくものですが、脚注や参考文献にも目を通す習慣をつけておくとよいでしょう。思想書だけでなく、科学的な文献であっても、数多く引用されている文献や論文は、入手できるならば読んでおいたほうがいい。

 どんな分野でも、数十冊読めば、必読書は何か分かってきますが、メンター(指南役)をもっておくといいかもしれません。

 指南役と言っても、必ずしも面識がある人でなくても構いません。場合によっては、故人でもいい。
 この人の紹介する本なら、間違いなく面白い、と思える人に出会ったら、その人が紹介している本を片っ端から読んでみましょう。

 あくまでも私の場合ですが、哲学者・中島義道さんと言語学者・黒田龍之助さんが紹介している本は、私にとってほとんどハズレがありません。このお二人の方は、私の「読書メンター」です。


(4) 各論① | 海外文学の探し方


 海外文学に関心があり、英語で読んでみたいという場合を考えてみます。

 人にもよりますが、英語を学習したい人のほとんどは、日本語のほうが得意でしょう。

 あなたが関心にある文学や小説を読むことが大前提ではありますが、資格試験の英語とは異なり、英語の原文では、スラングや方言が含まれていることが普通です。資格試験的には不合格な語法や口語表現も原書では頻繁に登場することがあります。

 そういったものも読みこなせるのが理想ではありますが、非ネイティブの私たちには読みにくいものです。また、非標準的な英語を覚えるよりも、標準的な英語を覚えてから読んだほうがいいと、私は考えています。


 私のオススメは、重訳の英語です。
 最初のうちは、英語ネイティブが書いた英文ではなく、他の言語から英語に翻訳された英文を読むのが良いのではないかと考えています。

 重訳とは、具体的には、フランス語やロシア語、ドイツ語などから英語に翻訳された文学のことです。
 なぜ、重訳の英語が良いかというと、方言が標準語として訳されていることが多いですし、その国に特有な文化・習慣のことが脚注で詳しく説明されていることが多いからです。

 元々の原文が英語の場合、英語ネイティブの人にとっては注釈がなくても理解できることが多いので、詳しい注釈がないことが多いのです。だから、ヨーロッパ系の文化圏から隔たっている私たちにとっては、原文が英語の海外文学は理解するのに苦労が多いです。ですから、洋書をまだ読んだ経験が浅い人には、重訳の英語海外文学がオススメです。


(5) 各論② | 複数の日本語訳も読み比べてみよう!


 元々の原文が英語の場合、それが特に文学作品の場合、読みこなすことは難しいでしょう。おそらく、英語ネイティブであったとしても、専門書と異なり、小説では何が出て来るのかわかりませんから、難しいということはあるでしょう。ましてや、非ネイティブである日本人にとってはなおさら難しい。

 しかし、名作ならば、必ずと言っていいほど邦訳が出版されていますし、複数の日本語訳がある場合も多いです。

 同じ作品であっても、かなり異なる趣きの日本語になっている場合もあります。そういった複数の日本語訳を眺めてから原書の英文を読むのもいいかな、と思っています。

 直接、英語が読めることが理想ではありますが、話の筋を理解したあとに英語を読むほうが心理的な抵抗感は少なくて済みますね。
 英文に読み慣れてきてから、邦訳のない同じ著者の作品を読んでみるのもいいでしょう。
 同じ著者の作品ならば、使われる語彙が共通しているので、読みやすいと思われます。


むすび


 この記事に書いた内容は、今までに投稿してきた記事の内容と重なる部分も多かったと思います。
 英語の本を何か読んでみたいと思った時の何らかのご参考になればさいわいです。

 最後になりますが、洋書選びに限らず、自分にとって役に立つ本を選ぶには、それなりに失敗を重ねる必要があります。そして、ノウハウ云々よりも、好奇心(curiosity)をいつになっても持ちつづけることができるのか、ということが最も大切であることは、言うまでもないことです。


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記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします