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113回目 Somerset Maugham 'Cosmopolitans' に収載の短編を読む。 "In a Strange Land", "The Luncheon" & "Salvatore"
モームの作品とは、社会の中下層に居る人々の暮らしが楽しみに溢れているものだと、読者の頭に誤認させる、読者を錯覚に落とし込む、そのような作品群なのかと思えてきます。だから駄目だと唾棄するのでなく、解った上で、ひとときを「錯覚によるやすらぎ」で過ごし元気をもらう読書です。 読書対象の作品はここに公開されています。 1. In A Strange Land では Turkey の田舎に旅行。 この短編は語り手自身の生活様式、基本的な姿勢の「表明」で始まります。 今回の投稿で
112回目 "The Fixer"を読む(Part 9 読了回)。下働きの人々の『命の扱われ方の軽さ』と『苦しい生活に鍛えられた人の芯に宿る優しさ』の対比。
いよいよ読了回です。最後の章 Chapter 9 に来るまでは、それほど明示的には表現されていなかった、人の心の底に育まれる「優しさ」が感動的に読者に迫ります。 未決囚として刑務所に拘束された Yakov に加えられる過酷な仕打ち。挫ける寸前まで追い詰められるものの Yakov は何とか持ちこたえます。その為の気力の源泉は何だったのか? 復讐心・恨みではなかったはずです。 二つ目は、ユダヤ教の教えに縋り付いて生き延びる Yakov の義父 Shmuel。この男の哲学に心
111回目 "The Fixer" by Bernard Malamud を読む(Part 8)。Yakov を残して男と姿を消した Raisl 。面会に刑務所の Yakov を訪れた Raisl もヨブ記の世界の住人です。
12 才のロシア人児童が殺害され洞窟に死体が隠されていた事件、その犯人としてユダヤ人が逮捕されたニュースに、Yakov の義父 Shmuel は 即座に反応しました。逮捕されたのが自分の娘 Raisl の夫である事にも確信を深めます。Kiev の刑務所に面会が許されるよう、何度も申請したものの拒否され続けました。そうとは知らない Yakov は何とか自分が刑務所にいることを伝えたいもののそれが出来ずに苦しんでいたのです。大金を袖の下として支払い、刑務員(刑務所保安員)を買収、
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109回目 "The Fixer" by Bernard Malamud を読む(Part 6)。無関係な一人を官憲が恣意的に犯人に仕立て上げる。組織の規律がその構成員に加える圧力も併せて権力が犯す罪を考える。
手続きとして不可欠な起訴が証拠集めの遅延によってできないままに、未決囚なる扱いで刑務所に収容されている Yakov に向けた、官憲側の「不規則」な、こそこそとした行動が、一つ、また一つと発生します。時は第一次大戦が始まる以前、日露戦争後の時代です。 1. 恣意的な証拠作りの進行? 今更、容疑者の髪の毛を採取するなんて。 未決囚として刑務所の雑居房に入れられたものの、幾つかの違反行為の咎で Yakov は独房に監禁されます。来る日も来る日も、保安員が一日数回、鉄の扉を開いて
108回目 "The Fixer" を読む(Part 5)。拘置所の中で「自分と社会との繋がり」「自分の生き方」を考える主人公。Malamud が自身の価値(感)を描き出すために作り出したストーリーを楽しむ。
1. 時の権力側に与して立身出世を目指す生き方を選択した法廷検察官の尋問を受ける Yakov 。 秘密警察に所属する大佐 Colonel Bodyansky と法廷検察官の Grubeshov ら勢力は、ユダヤ人排斥運動を扇動するかのごとき作戦を進めます。この作戦行動の存在を嗅ぎつけたのが捜査担当の検察主任 Bibikov 。児童の殺害容疑で獄中にある Yakov は、Grubeshov と Bibikov の二人から代わるがわる複数回の尋問を受けます。 次の引用は G
107回目 "The Fixer(修理屋)" by B. Malamud を読む(Part 4)。容疑者への尋問の後は、被害者側の事情見分・聴取。「事実」と「事態の認識」との間を埋めるすべの重要さにハッとさせられます。
ウクライナ、ロシア、ベラルーシ、リトアニアなどこの小説に関わる地域の臭いを今少し勉強したいと画策していてNHKのサイトに分かり易い記事を発見しました。 『元駐ウクライナ大使で『物語 ウクライナの歴史』の著者の黒川祐次さんに、キエフ・ルーシの歴史について話を聞きました。』として書き始められる記事です。私の今回の投稿記事のバナーの背景写真はこの記事から頂いています。 1. 殺害された児童の母親の住まいの前で、心に潜む反ユダヤ人的感情を煽るような証言をするよう官憲たちから求めら
106回目 "The Fixer" by Bernard Malamud を読む(Part 3)。小説の舞台は 1900-1915 年頃の Kiev です。街では未だ馬が引く客車、荷車、そして冬にはソリが人・物の移動を担っています。
馬が人や貨物の移動を担っているとはいっても、今に残る様なコンクリート作りの建物(104回目の記事のバナー写真)も巨大な橋(106回目の記事のバナー写真)も建設された時代です。技術知識を独占していた一群の人々が大勢の肉体労働者を呼び集めれば大洋を行き来する舟も戦艦や戦車も作れたのでしょう。 しかし、そこには知識の普及、どれだけ大きな割合の人がそのレベルに達していたのかを思うと、少数の人々、少数で成る特定の社会階層に属しその階層が社会全体を(自分たちがそうと信じるところに従い)
105回目 "The Fixer"を読む(Part 2)。ユダヤ人を街・国から排除しようという民間団体が蠢く Kiev に立身出世の機会を求めて移り住んだ男の格闘の日々。
"The Fixer" by Bernard Malamud を読む。Part 2 の今回は Chapter II が読書対象です。原書:Farrar, Straus & Giroux の Paperback(edition 2004) 1. 人種的は偏見、妬みや嫌悪感、これらをシンボル的に示すエピソードとなるとこれに限るのでしょうか? 結婚後5年半の生活の終焉を余儀なくした Yakov は未だ 30 才に届いていません。経済的な豊かさ、そして広い世界に知識を求めて大都市
104回目 "The Fixer" by Bernard Malamud を読む (Part 1)。全 335 頁の小説です。Malamud の作品の roots が Isaac Babel と Russian fictions にあると知った以上は読むしかありません。
John Updike の手になる Isaac Babel の作品への案内(101回目と題した私の記事参照)を読み、次に何を読もうか思いを巡らせている中で "The Fixer (1966)" is Bernard Malamud's best-known and most acclaimed novel, and one that makes manifest his roots in Russian fiction, especially that of Isaac Ba
103回目 "German Harry", "The Happy Man" & "The Dream" を読む。W. S. Maugham の短編集 'Cosmopolitans' に収載された 30 編中の三篇
前回につづいて Maugham の 'Cosmopolitans' にある短編を読み続けます。利用する原文は archives.com に公開された pdf ファイルです。 単語の「意味」、慣用句が持つ「特定の意味」を丁寧に辞書で確認しながら読み進めます。併せて「単語や慣用句や文法を理解して文の意味をとること」から、「一冊の本という長さの文章を読み続けること」の間に待ち受ける難しさ・関門の具体的な事例(だと私が思うもの)を取り上げて私なりのコメントを加えます。 1. "G
102回目 "Raw Material" & "Mayhew" by W. S. Maugham(first published in 'Cosmopolitan' magazines in 1920s)を読む。娯楽用の短編を楽しみます。
今回の記事、私の英語理解(深読み)には異論を覚えられる方もいらっしゃるでしょうが、今回は恥を忍んで私の楽しみ方を公開してみます。面倒をいとわない方はぜひその異論をコメント欄にてお聞かせください。読みが一層深まることを願っています。 《 英語の勉強 1 》定期的に刊行されていた雑誌 "Cosmopolitan" に毎号1編ずつ公開されていたことから、Short Stories from Cosmopolitans という複数形の Cosmopolitans が使われています。
101回目 "Hide-and-Seek" by John Updike を読む。書き出しの文章が昔読んだ Pontito, a Tuscan hillside village に生まれ育った男の話(by Oliver Sacks)を思い出させたから。
Pontito, a Tuscan hillside village に生まれた男の話は東京大学教養学部の教科書(今や昔の教科書)"The Universe of English II" に採用された Oliver Sacks (脳・神経学者)の Essay, "The Landscape of His Dreams" です。 一方、今回読もうとしているのは John Updike の Essay, "Hide-and-Seek"、The New Yorker 誌、2001
100回目 "The Four Horsemen" を読む(Part 4:読了回)4人の討論会の後半部分。「神の物語に関わる虚構は解る、しかし信仰は捨てられない」と言う人々の存在をどう考える?
今回の読書では、討論会の後半部分 'A Discussion II' を読み切ります。 1. 後半部分の冒頭、 Sam Harris は「理屈」と「心」を一つにできない人の多いことに焦点を当てて討議しようと提案します。 Harris の提案を受けた Dawkins は即座にこの Process に立ちはだかる困難を、具体的な例を取り上げて明確にします。 「And there's nothing, I suppose, neurologically wrong with
99回目 "The Four Horsemen" を読む(Part 3)。いよいよ4人の Native Speakers がテーブルを囲み進めた討論の「文字起こし」を読むことになります。
この討論会は September 2007 に Washington D.C. にあった Christopher Hitchens の自宅に4人が集まり行われたものです。 この様子を録画した映像(討議中の会話を文字化したテロップ付き)は youtube のサイトに公開されています。 この討論は Part I & II の2部に分けて文字化されこの本に収載されています。今回の記事で読むのはこの Part I です。 ここに引用するのは「Atheist 達」のいらだちの訴え
98回目 "The Four Horsemen" を読む(Part 2)。 Daniel Dennett と Sam Harris それぞれのエッセイ。前回 Part 1 で読んだ Richard Dawkins のものとは違います。個性の違いが印象的です。
前回はRichard Dawkins のエッセイを読みました。今回は Daniel Dennett と Sam Harris それぞれのエッセイを読みます。加えて今回記事の最後のパラグラフでは彼ら三人のエッセイそれぞれから、強烈な印象を残す一節を取り出し再読します。意味を慎重に読み取り、自分の気づきの範囲を広げるための作業です。 1. 4人の Horsemen の一人である Dr. Dennett は 生命の進化に関心を寄せる哲学者。 Dr. Daniel Dennett