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「本の帯」についての感想文...(私の新刊読書のお楽しみ)


 久しぶりの note です。

 ご無沙汰だったのに、こんな地味なテーマですみません!
 今回は「本の帯」の話なんです。

 「帯」というのは、よく新刊本なんかに巻かれているやつのことです。

 これ、今年、文庫化で話題になった『百年の孤独』の「帯」です。
 中央に "聴け、愛の絶叫を。見よ、孤独の奈落を。" というメインのキャッチコピーが配され、周りにはサブコピーとともに ”ノーベル文学賞” や ”46言語 5000万部” といった、本や作家さんの受賞状況やデータ等が掲載されています。
 その他、著名人からの推薦文もよく使われるのですが、この本の場合は "解説:筒井康隆" が目を引きます。

 眺めてみると実に様々な情報がレイアウトされてるのが分かると思います。
 こういう「帯」を付けるのって、日本特有らしいのですが、出版社側としては、少しでも手に取ってもらえるよう、あの手この手のいろんな工夫をしてるんですよね。
 もちろん、惹きつけられるものばかりでなく、時にはネタバレ気味に「驚愕のドンデン返し!」みたいなコピーが付けられてることもあって、残念に思うこともあるんですけど…
 捨てちゃう人も一定数いるんでしょうが、この「帯」も含めて本を楽しんでる人もいるのです。

 今回は、私が読んだ今年の新刊の「帯」について、(いい意味でも悪い意味でも)アレコレ言っていこうと思います。

この記事では「本の帯」の内容について批判する部分もありますが、「紙の本」を愛し、「帯」文化を大切に思う者の私的な "つぶやき" とご理解ください!


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    特に知らない作家さんの新刊を手に取る際、この「帯」の情報は非常に重要です。
 私の場合、海外作品の "初読み作家" さんなんかは、事前情報がなければ、ほとんどジャケ買いに近いんで、「帯」によって左右されることも多いのです。

 まずは『ハーパーBOOKS』からの新刊本です。
 『ハーパーBOOKS』というと、ドン・ウィンズロウやS・A・コスビーら、ノワールのイメージが強くて、私的にはそれほど注視してこなかったのですが、今年は私好みのミステリーが立て続けにリリースされたんです。


『あんたを殺したかった』

 著:ペトロニーユ・ロスタニャ

 何となく昭和歌謡チックなタイトルからしてB級感も漂いますが(失礼💦)、期待通りクセのあるフレンチ・ミステリーでした。
 「帯」の ”死体なき奇妙な殺人事件” という部分に惹かれたのですが、読んでみると、まあ、”何だこれ?” 展開で、好き嫌いは分かれるかもですが、私はそこそこ楽しめました。
    ただ、良くないのがメインコピーでもある ”ラスト10頁であなたも驚愕する” の部分です。
 こういうコピーは、興味を惹くには効果的かもしれませんが、読む側が期待する ”驚愕” を与えられなければガッカリにつながっちゃうんです。
 この作品でも、正直、あまり驚愕しなくて…w  でも面白くないってわけじゃないんですよ、だから、ちょっと罪なコピーに感じたんですよね。



『サリー・ダイヤモンドの数奇な人生』

 著:リズ・ニュージェント

 アイルランドのミステリーです。
 あまりミステリーらしくないとこが面白かったのですが、タイトルやカバーデザインから受ける印象より ”エグみ” の強い印象でした。
 これはもう「帯」に大きくレイアウトされた "アンソニー・ホロヴィッツ絶賛!" のコピーに惹かれて読んだのは間違いないんですよね。
 ただ、ホロヴィッツといえば、近年、質の高い本格ミステリーで各種ランキングを席巻してる作家さんなのですが、この本は、そのホロヴィッツから連想する本格ではないんで、そこにミスリードがあるのです。



『ぼくの家族はみんな誰かを殺してる』

 著:ベンジャミン・スティーヴンソン

 「帯」のコピーにあるように、雪山のリゾートホテルで起きる連続殺人、容疑者はそこに集められていた一家全員という、王道の犯人当てフーダニット小説です。
 メインコピーである "わが家は全員嘘つきで、人殺しだ" というのはタイトルを増幅するものなんですが、興味を惹かれちゃったんですよね。
 読んでみると、想像通り私好みの物語で、ミステリファンにお馴染みの ”ノックスの十戒” が冒頭に掲げられてたり、自分を ”信頼できる語り手” と断言する語り役など、あくまでフェアな謎解きにこだわった本なんです。
 「帯」の情報自体もフェアだったのが好印象なのですが、『ぼくの家族はみんな誰かを殺してる』というタイトルには、作者の仕組んだささやかなミスリードがあります。
 家族全員が人殺しという前提で進んでいくのですが、読者側としては、終盤になって、まだ人殺しの情報が明かされない家族こそ犯人ではないか…. なーんて思っちゃうんですよね。
 実はそこにも作者の仕掛けがあって、なかなか巧みな作品なのです。


 さて、続いては「創元推理文庫」から__
 昨年末に東京創元社の2024年の隠し球として紹介されていた作品で、私自身リリースを楽しみにしていた一冊を紹介します!

『白薔薇殺人事件』

 著:クリスティン・ペリン

 メインコピーの通り、若い頃、殺されると予言されていた大叔母フランシスが殺されるところから物語が始まります。
 フランシスは予言を受けた後、様々な資料を残していて、主人公はその資料の中に犯人の手がかりがあると考え調査を始めていく…  という展開です。
 現代の捜査に、大叔母フランシスの過去編が断片的に挿入される構成で、なかなか面白かったのです。
 ただ、サブコピーの ”クリスティの後継者による犯人当てミステリ!” には強いミスリードがあります。
 そもそも原題は ”HOW TO SOLVE YOUR OWN MURDER” なんで、本来なら『あなた自身の殺人の解き方』とでも訳すべきところを『白薔薇殺人事件』というタイトルにしたことも出版社側のミスリードが仕組まれてると感じます。
 いかにもクリスティのような "古き良き本格推理小説" の雰囲気を出しているのですが、本格らしいロジックは薄味で、むしろ、過去と現代を並行して描きながら真相が明らかになっていくみたいな、プロットを楽しむ現代的なミステリーなんですよね。
 こういう出版社側のミスリードに引っ掛からないことが本書を楽しむポイントなのです。


 続いては「新潮文庫」から__


『魂に秩序を』

 著:マット・ラフ

 何よりも "新潮文庫史上「最厚」1,088ページ、一気読み!" というサブコピーが心を躍らせます。
 本屋でもひときわ ”厚さ” が目立っていて、「厚い本好き」の私にとって、嬉しいリリースでした。
 それにしても情報量の多い「帯」です。
 11のジャンルが並べられているのですが、1000頁超の物語なんで、いろんな要素があるのは当たり前ですよね。(”情痴小説” って何?w)
 多重人格者が主人公の本なんで、”ノワール” や ”サスペンス” という要素が示されると、つい、「ジキルとハイド」的な展開を想像しちゃうんですが、決してそういう小説ではありません。
 私的には「二人の多重人格者の出会いを軸にした冒険小説」というべき本だと思いました。


 同じく「新潮文庫」からなんですが、ここまで海外作品ばかりなんで、国内作品も紹介しておきます。

『檜垣澤家の炎上』

 著:永嶋恵美

 これも800頁級の文庫本なんですよね~、ありがたや!(←厚い本好きのつぶやき)
 あまり馴染みのない作家さんだったのですが、もうコピーどおりの本でした!
 "『細雪』✕『華麗なる一族』✕殺人事件 " なんてサブコピーは巧いですよね~、谷崎潤一郎や山崎豊子を読んでなくても、なんか雰囲気が伝わって来るのです。
 ただ、”刊行前から絶賛の嵐!”ってのは、よくよく考えてみると不思議なコピーですよねw 書下ろしなのに… 
 まあ、そういうとこが気にならないぐらい、なかなか引き込まれる本だったことは間違いないです!


 さて、最後に、私的にもっとも驚きがあった「帯」が、白井智之さんの新作短篇集『ぼくは化け物きみは怪物』です。

『ぼくは化け物きみは怪物』

 著:白井智之

 普通の「帯」より覆う面積の多い、いわゆる「高帯」タイプのやつです。
 白井智之ファンの方なら、同じ「光文社」からリリースされた短篇集『少女を殺す100の方法』や『ミステリー・オーバードーズ』と同様のギミックが仕掛けられてるといえば想像できると思うのですが、落差はこれが一番大きかったです。
 相変わらず、近年の白井智之さんは質が高い!
 いつまで「帯」が付けられてるかは分かりませんが、付いてるうちに手に取っていただくことをお薦めします。


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 今年読んだ新作ミステリーについては、後日、総括していきたいと思うのですが、その前段として、「本の帯」という地味なテーマで紹介してみました。

 基本、「帯」というのは、書店で「平積み」されている状況を想定して作られているものだと思います。
 ただ、近年は書店も少なくなってきてるし、電子書籍の割合も増えているので、そのうち、この「帯」文化は消えていくのかもしれませんね。
 今回の記事ではいろいろ文句も言っちゃってますが、この「帯」文化は、読者と編集者/出版社とのコミュニケーションだと思ってるんで、これからも大事にしていきたいと思ってます。(本当です!)


 これまでの読書記事の中にも「帯」に触れてるものがあるんで紹介しておきます。


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