推し活翻訳22冊目。The Night Raven、勝手に邦題「殺人鬼の名は闇烏」
原題:The Night Raven(Nattkorpen)
原作者:Johan Rundberg、英訳 A. A. Prime
勝手に邦題:殺人鬼の名は闇烏
出版社:AmazonCrossing Kids(Natur & Kultur)
カバーデザイン:Edward Bettison Ltd.
概要と感想
1880年冬、極寒の街ストックホルムが舞台。主人公のミカは12歳、自分が育った公設孤児院の子どもたちが、みな無事に冬を生きのびられるか気が気ではありません。いつにもまして厳しい冬のせいで、十分な薪も食料も買えないのです。
でも、連続殺人犯の闇烏(ナイトレイヴァン)はついに捕まりました。一人の少女と3人の男性を次々に襲った男の死刑が執行され、やっと街にささやかな平和がもどった―だれもがそう思っていました。新たな殺人事件が起こるまでは。
そんなある夜、孤児院をこっそり訪れた見知らぬ少年が、生まれたばかりの女の赤んぼうをミカに託していきます。「ダークエンジェルは、おれがこの子を連れだしたって知ってるんだ」と謎のメッセージを残して。赤んぼうの足首には、赤いバラの模様がついた革ひもが結ばれていました。
孤児院はすでにいっぱいで、暖房に使う薪も食料も乏しいなか、生まれたばかりの赤んぼうなど受け入れられないはずなのに、施設長のアメリアは、なぜかあっさりとこの子を引き取ります。朝になって足首から消えていたあの革ひもと、なにか関係があるのでは…と、ミカの第六感がささやきます。
ミカには、小さなことに気づく特別な能力がありました。孤児という身の上で厳しい暮らしを生き抜くために、知らず知らずに身についた観察眼、推理力、判断力。赤んぼうの調書を作りにきた警察官にも、こと細かにそのときの状況を説明します。
第5の殺人事件を追う刑事のホフは、この調書の緻密な内容に興味を引かれ、孤児院にミカを訪ね、非公式に捜査に協力するよう依頼します。公にはされていませんが、被害者は死の間際に「ナイトレイヴァンにやられた」と言い残していたのです。
この大柄で不愛想な刑事の頼みを聞くのは危険だと知りながら、孤児院出の子どもの将来には、夢のかけらもないと知っているミカは、スリルとサスペンスに満ちた冒険にのりだします。
☆ ★ ☆
原作はスウェーデン語なので、英訳本で読みました。スウェーデンの有名な文学賞を2つも取っているだけあって面白い! 暗い雰囲気が漂う冒頭からたたみかけるような展開で、ページをめくる手が止まらず、あっという間に読み終えてしまいました。
たしかに、かなり短めなので、人物描写など、もう少し知りたいなと感じるところはありましたが、2作目は物語の深みも増して、いよいよ引きこまれること請け合いなのでご心配なく。ミカと刑事ホフの出会い、死んだはずの連続殺人犯を追うストーリー、赤んぼうの出生の秘密などがぎゅっとつまっていて、シリーズの幕開けとしては、ほぼ完ぺきだと思います。
主人公のミカは、ちょっとシニカルでユーモアがあり、孤児院の子どもたちのお姉さん役のしっかり者です。でも、それだけではありません。厳しい暮らしを生き抜くための知恵としたたかさを身につけ、大人顔負けのガッツもあり、意志が強くて大胆で…。作品には、ふつうに刑務所の独房や死体が出てきますし、ちょっと残酷なシーンもあるので、このくらいの強さを秘めた子じゃなければ、主人公は務まらないでしょう。
中盤あたりで登場する知人(友だちじゃない)のテクラもぶっ飛んでいるし、ホフとの関係も、この先どうなるのか気になるところ。あと、初読みのときは、この時代のストックホルムって、こんなにダークな感じだったのかと不思議な感じがしましたが、きっと冬から始まったシリーズが、春、夏、秋へと季節を移していくにつれ、街のほかの顔も楽しめるのでは、と思っています。
物語は、ミカや赤んぼうの出生の秘密を抱えたまま次巻に続きます。そして、ダークエンジェルの謎も。後日、続編も紹介する予定ですが、クライムノベルの要素が加わってスケールアップしていきますよ。
スウェーデンでは、ムーンウィンドミステリーシリーズとして、4作発表されていて、3作目の英訳本は2025年早々に刊行予定とのこと。いまから待ちどおしい!
受賞歴:The August Prize、The Crimetime Award