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    読んだ本の紹介をしている記事のまとめです。

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    本の紹介をしていない日記です。

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Han Kang(한강)の小説を読もう : The Vegetarian / Heavy Snow

現代韓国文学の盛り上がり  ここ数年、アジア文学がアツい!!という話が、アジアのみならず英語圏の読書家たちの間でもよく話題にあがるようになった印象がある。その中でもとりわけ大きなムーブメントになっていたのが、家族社会、ジェンダー、苛烈な競争社会、経済格差などをテーマとして扱った現代韓国文学だった。私の知る限り英語や日本語、中国語など他の言語圏への翻訳も活発に行われており、世界的に話題になっているジャンルというべきだろう。今年はHan Kang(한강)さんがノーベル文学賞を受

    • 「熱帯」 森見登美彦のescapismと魅惑の物語 / オススメされた本を読もう!②

      現実から抜け出す物語の魅力  森見登美彦の作品に初めて触れたのは高校生のとき。高校で出会った友人の勧めで「夜は短し歩けよ乙女」を手にとり、京都の街を舞台とした幻想的な物語の世界に引き摺り込まれていった。森見作品の多くは、"角を曲がるたびに面白いことがある"とされる京都の街角からひょっこりと現れる、不思議なものたちの登場によってファンタジーに色付けされる。その一方で、もし正しい時間に、正しい場所に行きさえすれば、彼らは本当にこの世のどこかに生きているのではないか、と思わせる力

      • "Intermezzo" by Sally Rooney / 立体的な現代人のポートレート

        新作を待つ日々  The New Yorkerに"Intermezzo"からの抜粋 "Opening Theory" が掲載されてからというものの、予約注文したApple Booksの画面をちらちらと眺めながら発売日を待つ時間があった。使っているiPadの保護カバーをペーパーライクな質感のものに貼り替えたりしつつ、いそいそと準備万端で発売日を迎えたのでした。  今回はAmazonで物理書籍の注文ができなくなっていたこともあり、せっかくなら電子書籍に親しむきっかけにしようと

        • 小説のなかに流れる音楽、うつる映像: "Other Voices, Other Rooms" by Truman Capote / "elephant" by Raymond Carver

           心地いい秋晴れ、乾いた空気とカエデの葉、澄んだ空気に浮かぶ月に恵まれ、読書がかなり捗る季節になった。冷房のついていない書庫もかなり過ごしやすくなってありがたい。最近読んだ本は2冊、どちらも20世紀のアメリカ文学で、ずっと忘れられなくなるような作品たちだったので記事にすることにした。一冊はTruman Capoteのデビュー作、"Other Voices, Other Rooms"。これに対するもう一冊は、Raymond Carverの遺作というべき最後の短編集"elepha

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        記事

          The New Yorkerで面白かった短編フィクション③: Bryan Washington, Sigrid Nunez

          スターティング・オーバーは人生の踊り場  2024年も残すところ4ヶ月となり、今年1月から始めていたリーディング・チャレンジも残り時間が少なくなってきた。進捗はおおよそ去年と同じか少し多いくらい、といったところ。今年はThe Booklist Queenさんのリストをできる限り埋めようとしているのだけれど、この時期になると意外と埋まらない項目が目立ってくる。例えば…  何か新しいこと、新しい関係を改めて始めることについて書かれた本。目新しいテーマには思えないが、今年は意外

          The New Yorkerで面白かった短編フィクション③: Bryan Washington, Sigrid Nunez

          地獄を生きるためのシスターフッド: "The Color Purple" by Alice Walker

           ここ数ヶ月、薄暗い大学図書館の書庫に籠っている時間が増えた。滞在時間が一番長いのはNDC分類933-934、米英文学の棚。表の書架に置かれない古い小説たちは、一世紀前の、されども現代と地続きの匂いを纏って並んでいる。Charles Dickens、O. Henry、Mark Twain、Henry James、少し時代が進んでErnest Hemingway、F. Scott Fitzjerald、George Orwell、名だたる作家たちの名作が連なる。うちの大学は文学

          地獄を生きるためのシスターフッド: "The Color Purple" by Alice Walker

          オススメされた本を読もう①:"Where the Crawdads Sing" by Delia Owens

           幼い頃、祖母に連れられて近所の林に栗を拾いに出かけたことがあった。人工林の中に敷かれた林道を抜けると、豊かな腐葉土に包まれた広葉樹の森に出た。森の先には崖と小さな沼地があり、小さな川がいくつも流れていた。定期的に手入れがなされる人口の杉林とは異なり、植物たちの独立した営みによって代謝し続ける、数少ない自然らしい自然の森だった。ニュータウンに住む子どもたちは寄りつかない(あるいは存在を知らない)森と沼地は、幼い私にとって秘密の遊び場になり、人間社会の外で適度に危険を学ぶ絶好の

          オススメされた本を読もう①:"Where the Crawdads Sing" by Delia Owens

          20世紀のアメリカ文学・短編小説を読む / J. D. Salinger, Raymond Carver

           短編小説集には独自のよろこびがある。文芸誌などで偶然出会った一本を読むのも良いが、それらがいくつも織り重なった短編集は、一つ一つの作品に個別に出会う場合とは全く異なる体験を与えてくれる。複数の作家を集めた作品集であれば、編集者がどういった読者層にどのような意図を持って届けようとしているか、という視点で楽しめるし、普段小説を手に取らない人にも効果的な入り口として機能するだろう。これに対して、私のように読書を趣味とする人に最も馴染み深いのは特定の作家の作品を集めた短編集で、特定

          20世紀のアメリカ文学・短編小説を読む / J. D. Salinger, Raymond Carver

          2024年のサマー・リーディング・リスト

          読書の夏がやってくる!  夏といえば読書!という感覚が身についたのはどうしてだろう?小学校の夏休みに読書感想文の課題が出たり、学校がないので図書館に通い詰めたりしていたせいだろうか。学校図書館では夏休みを見据えた長期貸出が始まり、書店を訪れれば夏の推薦図書や課題図書がきれいに並べられ、いくつもの出版社が競って夏の文庫本フェアを盛り上げる…。本のあるところに行けばどこでも「夏だし、たくさん読みましょう」という雰囲気が漂っていて、当たり前のこととして受け止めてきたのかもしれない

          2024年のサマー・リーディング・リスト

          "Opening Theory" by Sally Rooney: 新作"Intermezzo"がやってくる!

          新作がやってくる  2024年7月8,15日合併号のThe New Yorkerに、Sally Rooneyの新作長編である"Intermezzo"の一部が掲載された。先行して7月1日に電子版が掲載され、予告もなんも知らずに9月の新作発表を心待ちにしていた私はというと、ひっくり返ったり、取り急ぎTwitterにポストしたり、あえて平静を装ったりして過ごしていた。Sally Rooneyの新作が発表される時は、書籍の発売前に一場面を抜粋してThe New Yorkerに掲載す

          "Opening Theory" by Sally Rooney: 新作"Intermezzo"がやってくる!

          人間を「精巧な機械」に作り替えるには: The Handmaid's Tale by Margaret Atwood

           子供を産むことにはかなり抵抗がある。抵抗というか、けっこうな恐怖がある。ひとたび子供を身籠ると、自分の制御のもとにあった(少なくともそう思われた)体は自分の意思と無関係に変化を始める。それは一年に満たない一過性のものだと分かっていても、腹の中で別の個体が発生し、個を捨てて尽くさねばならない…という状況は、自分には耐え難いことのように思われる。こうして書いてみると、自分が恐れているのは自由と自律が脅かされること、一生物として急激な変化を強いられることであって、つくづく子供を産

          人間を「精巧な機械」に作り替えるには: The Handmaid's Tale by Margaret Atwood

          中古本の過去を辿る

           本を中古で買うことはよくある。できれば新品がいいな、とは思いつつも、お金に困りがちな学生の身ではいつでも叶うわけではない。図書館からリユース本を譲ってもらうこともある。この場合、古くてなかなか出回らなくなった本が書庫の奥底から掘り起こされることもあるので面白い。  人から人へ、本棚から本棚へと長い時間を辿ってきた本たちは各々の歴史を持っている。人の手の上で日の光を浴びたり、本棚の上で埃を払われたり、時々店に持って行かれて旅に出たりしてきたかもしれない。あるいは、ツルリとし

          中古本の過去を辿る

          死を想えど、悟ったふりもできなくて : “Beyond Imagining” by Lore Segal

           読んだ直後には深く感動せずとも、数日かけてポコリポコリと感想が浮かんでくるうちに、気がつけば大のお気に入りになっている。何日もかけて意識の裏側で消化をして、ある時を境にさまざまな言葉が自分の経験と結びつき飛び出してくる。色々な小説を読み漁っていると、時たまそんな作品との出会いがある。先日のthe New Yorkerに掲載されたLore Segalによる短編 “Beyond Imagining”とは、まさにそういう類の出会い方をした。  この作品は、老年の女性たちによるラン

          死を想えど、悟ったふりもできなくて : “Beyond Imagining” by Lore Segal

          [本と日記]きょうだいの類似性と夢、パラレルワールドの私 (夜のピクニック、Klara and the sun、Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow)

           本ばかり読む生活をしていると、出来事に対する考えの中に読んだ本のことを思い浮かべたり引用したりということが日常的になってくる。今回は、読んだことのある本の思い出しをいくつか含む形で日記をつけてみる。 姉の夢の話を聞く  見たばかりの夢について話す相手がいることは幸せだと思う。話した方も話された方も日中にはどんな話だったか忘れてしまうのだが、夢という意外にもパーソナルでとりとめのない内容を、朝起きて間もなく、遠慮せずに話すことのできる人がそばにいるのは豊かなことだ。  姉

          [本と日記]きょうだいの類似性と夢、パラレルワールドの私 (夜のピクニック、Klara and the sun、Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow)

          (日記)趣味程度の、ものづくりの欲求がある人 / 「無駄づくり」が大好き / 癒しとしての趣味・ものづくり

           小さい頃からものづくりが好きだった。保育園のお昼寝時間を抜け出して先生たちの元へ行き、お手玉の生地を見よう見真似で縫い合わせる時間が好きだった。どんな平面の縫い合わせがどんな方向に強い立体物を作るのかを考えるのは楽しかった。田舎の広い家と庭全体を使って、10-30体ほどの人形たちを使った群像劇を考えるのが好きだった。そこには何やら自分なりのワールドビルディングがあったようである。(人形たちは広い外の世界に憧れるが、あくまで"人形"として生を受けたため、実際に野外に出るとたち

          (日記)趣味程度の、ものづくりの欲求がある人 / 「無駄づくり」が大好き / 癒しとしての趣味・ものづくり

          リセットできない世界を生きる話: "Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow"by Gabrielle Zevin

           北斎の巨大な荒れ狂う波。ゲーミングデバイスを連想させる虹色のポップな書体。一度目にしたら忘れることのないタイトル。"Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow"は、初めて書影を見た時から私の意識の片隅に居座り続け、あらゆる雑誌のレビューから顔をのぞかせ、発売当初から「もしかして読んだ方がいいんじゃない?今」と絶えず訴えかけてきた小説だった。日本語訳が近所の書店に平積みされ始めたあたりであらすじに目を通し、観念して購入した。書籍のデザインや広報に

          リセットできない世界を生きる話: "Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow"by Gabrielle Zevin