書籍レビュー『十二月の十日』ジョージ・ソーンダーズ(2013)意味がわかった時、あなたも戦慄を覚える
【約1300字/3.5分で読めます】
ジョージ・ソーンダーズは今、
アメリカで注目されている作家
本書の訳者あとがきによると、アメリカでは短編小説の名手として知られ、「作家志望の若者にもっとも文体を真似される作家」なんだそうです。
本作も発行されるとすぐに、『ニューヨーク・タイムズ』で絶賛され、その年のベストセラーリストをトップで独走したとのことです。
そんなことを知らずに読みはじめたが
とにかく変わった文体でした。
文章自体は決して硬いものではないのですが(むしろ下品な表現も多め)、読解力を要する点で、知性を感じさせます。
決して親切ではないんですよね。
どの短編も読みはじめた時は、独特な世界観と表現に、ちょっと躊躇する気持ちもありました。
しかし、その個性的な文体に惹きつけられるところがあるのもまた事実です。
説明的な文章が少ない
ゆえに人を突き離したような印象も与えるのですが、なんだか先が気になって読んでしまうんですよね。
もっとも衝撃的だったのが、本書の中では一番長いページ数になっている「センプリカ・ガール日記」です。
この短編は、タイトルのとおり日記風の文体で話が進んでいきます。
主人公は父親で、妻、小さな娘二人との四人家族です。
父は娘たちが友達に自慢できるように、家の庭を改築し、そこに「SG」なるものを用意します。
「SG」は物語の序盤から登場するのですが、最初はこれに対しての説明は一切ありません。
そのため、読んでいる側は「自分が知らないだけで、これは一般的には知られているものなのだろうか」と思ってしまうのです(実際、私も読んでいる時に「SG」とググってしまった)。
家の中にある飾りかなにかか? 人形か? 剥製か? 文中にあるわずかなヒントから読者は「SG」のビジュアルを想像することになります。
そして、最終的にその「SG」の正体がわかった時に、読者は戦慄を覚えるのです。
このように本書に収められた短編の多くには、見慣れない固有名詞が多く出てきます。
その固有名詞に対する丁寧な説明は少なく、おもにその描写によって、そのモノを伝えるんですよね。
読み慣れないと、そういう部分が難しく感じるかもしれませんが、意外と読んでいるうちに意味がわかって、おもしろく感じるのです。
こういうおもしろさは、他の小説では味わったことがなかったので、とても新鮮に感じました。
また、作中に出てくる事象が、現実世界に対するブラックユーモアになっていて、「あながちこういうことが現実になってもおかしくないな」というリアリティーも感じさせるのが、またすごいところです。
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