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#ほろ酔い文学

お酒をテーマにした小説やマンガなどの、創作作品を投稿してください!

新着の記事一覧

漂流

カウンターだけの古びた小料理屋。店内に貼られた「騒がないでください」「長居しないでください」という張り紙に、宮沢賢治の注文の多い料理店を思い出す。 年老いた女性が一人で切盛りしているその店は、客で埋まっているにも関わらず、張り紙の効果かしんと静まり返っていた。 注文をする時は小声で内緒話でもするかのように注文し、寡黙な店主は返事をする訳でもなく、ぶっきらぼうに頼まれたものをカウンターに出す。 別に出された料理が美味い訳でもないのに、おずおずと引き戸を開けた客が、満席を確認して

🍷下戸の飲みかた🍶

私は、いわゆる下戸で、 とってもお酒に弱い。 どれくらい弱いかというと、 ビールを二口飲んだだけで、パーっと顔が赤くなり、ドキドキして ビールをグラス半分でも飲めば、気持ち悪くなるか眠ってしまうくらい弱い。 お酒に強い、蟒蛇(うわばみ)などと呼ばれるような人からすれば、全く相手にならないレベル。 下戸が祟って、数年前の初詣でやらかしたことがある。 近所のお寺さんへ除夜の鐘をつきにゆき、 そのまま、別のお寺さんを梯子して、初詣に回るコースだったのだが 初詣が終わり、境

【エッセイ】「ほろよってる場合じゃ済まされない」

飲み会で許されないお酒【ほろよい】の謎私がお酒を始めて飲んだ20歳の誕生日からずっと疑問に思っていることがある。飲み会においての最大の理不尽。 「ほろよい」を選ぶと馬鹿にされる風潮。 おそらく誰もが一度は経験したことがあるのではないだろうか? この風潮はなぜなのか? おそらく、日本の飲酒文化に潜む奇妙な階級意識の表れではないだろうかと考える。 今回は、この日本に潜む密かな階級意識について掘り下げていきたいと思う。 例えば、お酒の場では「とりあえず生ビール!」と叫び、みん

東京、そして、だからこそ

あまりにもちっぽけさを感じる足元に 「ウエヲミロ」とそっけないマジックペン すべからく星を隠して、青黒くひかる空を あの砂時計ですら測れない雲の流れを 静かに、ただ悶々と映し出す 見えないこともないけれど ここだからこそ、 見えるものがあるのだと そう信じてもう一度僕は そっと足元を確かめた

【短編小説】虚構世界ーてつがく喫茶・Catharsis カタルシス 三篇

{スタッフ菜奈の独り言 三篇} またクセの強いことを書いているな。 「どうしてこのテーマなんですか? 」と聞けば、「なんでかなぁ」と書いた本人は黒板の前で首を傾げている。その後ろ姿がなんとなく切ない。 その人物が「菜奈ちゃん」と言って、くるりと体をこちらに向けた。 「AB型ってそこまで変わってると思う?好き嫌い激しくて、二重人格野郎って」 「マスター、誰かに言われたんですね」 「なんで分かったん」 「哀愁漂う背中を見せつけられると嫌でも分かりますよ。っで誰に言われたんです

noteは誰に向けて書いていますか?

何のためにnoteを書きますか? 私は相変わらず、noteは自分の頭の中の整理であることが多いです。あとは記録も兼ねているかもしれません。どちらにせよ、大きく“自分のため”に書いています。だからアクセス数もスキの数も気にしません。それでもやっぱりたくさん反応をいただけると嬉しいです。 でもここ数ヶ月、“自分のため”だけじゃない記事も増えてきました。 noterさんに向けてとか、フォロワーさんに向けて投げかけることも最近は多くなってきたと思います。 例えば、書きたいけど

不味い酒、黄色い車

 酒は好きだけれど何でも好きなわけではない。好きな酒とそうでない酒がある。  麦酒とウヰスキーとズブロッカが好きで、ジュースみたいな酒はあんまり好きではない。  麦酒はキリン贔屓だが、アサヒも飲む。もちろん他のメーカーのも飲むので、そんなにキリンばかりを贔屓しているわけではない。  ウヰスキーはロックで飲むのがいい。水割りは嫌だ。ハイボールはバーテンが出してくれたものと缶で売っているのは好きだが、自分で混ぜても一向美味いと思わない。  ズブロッカは冷凍庫に入れてとろみがつい

舞台

「私たちにできることは、この人生という 舞台の上で与えられた役割を演じることだけだ」 すごく昔に聞いた言葉。 たしか、高校生の時、授業で先生が 言ってたんだっけ。 どうしてそんな言葉を言ってたんだっけ。 先生にもっと聞いておけばよかったな。 どうしたら上手く演じきることができますか。 心を殺せば、役に徹することができますか。 思い通りにいかないことばかりなのは、 嫌ってほど今まで思い知らされてきたのに、 なぜ、歯痒くなってしまうんだろう。 理不尽なんて当然だし、人間なんて使

ヒトトキ

#短編小説 #イヤミス #読書好 #眠れない夜に 

修学旅行の結末は十数年後に

 大人になってみて、修学旅行というものの意義について考えることが度々ある。  おそらく、学業の延長の意味を持たせられているのだろうが、学生からしたら「学年の皆とわいわいオフィシャルトリップ」以外の意味を持たないだろうと思う。  私は高校二年生のとき、修学旅行で京都奈良大阪に行ったのだが、例に漏れず、ただわいわいやっていただけで、歴史的な建造物を目にしても「銀閣寺、銀じゃない」「東大寺の大仏のパーマひと巻きがキャベツ一個分のデカさ」というどうでもいい知識だけをスカスカの頭に差し

【おはなし】 サイレン

月曜日の午後3時。 小休憩の時間になると、自動販売機の前には紙カップに入った液体を飲むために男性社員が集まってくる。 自動販売機のコーヒーは安い銘柄で90円。紙カップの商品よりも缶に入っている商品の方が少しだけ高くなっている。 軍手を外して帽子を脱いで壁にもたれながらコーヒーを飲んでいる男たちは、テレビのコマーシャルに登場してもおかしくない見た目をしている。 ボクは手洗い場で汚れた手を洗い、顔についた細かい紙くずも洗い流し、タオルで水滴を拭いながら自部署に戻ってペット

去年 秋 見つけた

見せたいものってなに? 先に言ったら面白くないでしょ ごめん 変な聞き方して 見てからのお楽しみよ 結構歩いたね 今日は まあまあってとこじゃない 歩くの嫌いじゃないでしょ そうだけど… だったら こうしましょ うちに着くまでに あなたが当てたら何かご褒美あげちゃう 困ったな… 僕すごく勘がいいから すぐ当てちゃうよ あらそうかしら ヒントは無しよ そりゃズルいよ 僕だけが当てずっぽうにポンポン答え出しまくっても面白くないだろ じゃあ先ずあなたから何か言ってよ  その答えに

【風呂酒日和163-2】新発田屋(しばたや)

足早に川場湯を出てきた私。 駅前のお店をいくつかマップでチェックして、狙いを定めた。 よし、ここだ。 もつやきと書いてあるけど、いろいろあるっぽい。ここでさくっと飲みましょう。カラカラと扉を開けると中はかなり盛況している。 「いらっしゃいませー」 「1人です」 「どうぞー」 店内に入るとテーブル席はラスト1席、カウンターはラスト2席。 混んでるし、カウンターだね。1人飲みのおじさんたちの間に着席する。 後ろは店員さんがよく通る場所だったのでバッグをカウンター下にしま

猫の日に 犬(きみ)を眺めて ビール飲む

猫の日に 犬を眺めて ビール飲む 今日は2月22日「猫の日」 学生の頃、うちに迷い込んでそのまま飼った黒猫がいました とても人懐こい猫で高校生の時にはよく遊びました 勉強嫌だなあとずっとだらけていましたが、『こんなことではいけない』と思い直し勉強を始めた瞬間「ニャー」と言って教科書の上に乗ってきたり(猫あるある) 夜中に「ニャー」と部屋の前で鳴くので部屋に入れたら、押し入れの中を探検してそこで見つけた蜘蛛と遊びだし、そして取り逃し…(蜘蛛嫌いの私はその夜寝られなかった

短編小説|他人の不幸の味のソムリエ

 ハチミツはハンガリー、チーズはベルギー産と、欧州の食品も扱う店の名は「シャーデンフロイデ」。昨月、浮気した彼と別れたフランス料理店で飲んだワインが美味しかったのを思い出し、仕事帰りにワインを買ってみようと立ち寄りました。 「ワインは置いておりません」とソムリエ然とした格好の店員は言いました。ワインの選び方を尋ねた私への答えです。「棚に並んでいるのは?」と訊けば「こちらは蜜です。他人の不幸の味の蜜でございます」とソムリエは口ひげを撫でました。  他人の不幸の味の蜜? 問い返

【わたし大賞】この純文学が面白い

本は好きだけど、純文学は読まないという人は多いのではないだろうか。 難しい。とっつきにくい。シンプルに面白くない。 そんなところが理由だろう。 わからなくはない。というか、よくわかる。実際、読了したけど、これなんだったんだろうの作品は多い。 エンタメ小説は、参加さえすればあとは相手が楽しませてくる観光ツアーみたいなもので、純文学は厳しい登山みたいなところがある。自分で意義を見出さなければならない。 とはいえ、純文学の中にも、高速エレベーター付きの登山のような、圧倒的に

ハチミツはどこに消えた?(スピッツMix)

お遊び企画。 これからスピッツの名盤「ハチミツ」を使って、詩を組み立てます。 覚えておいてください。「ルナルナ」というキーワードが出てきます。このキーワードを見て、何を想像したか?  読み手の邪悪さがわかってしまうかも。 ハチミツはどこに消えた ちょうちょ結びをほどくように  素敵な恋人が溶かしていた  オレは誰よりもトンガっていて 君もトンガっていた 今 煙の中で愛のことばが溶けていく  潰れるグラスホッパー 消えるクローバー  あじさい通りで雨降り続いたら 

ほろ酔い文学

「明日からちゃんとする」 ほろ酔いで口にした言葉。 いつもの帰り道、頬を撫でる春風が心地よい。 少しだけ足取りが軽くなって、いつもより遠回りして帰る。 明日なんて永遠に来ないのに、今夜だけは自分を許してあげようと思う。 時には自分を甘やかすことも、自己肯定感を高める方法なのかもしれない。 #メンタルヘルス #ほろ酔い文学 #心理学 #自己肯定感 #アルコール依存症予防 #癒し #カウンセリング #生きる #スキしてみて 読んでほっこりしたら、フォローと「スキ」してくれ

ビール買い 夕飯忘れ 北風吹く

今日は一日休んでいました 朝から東京も寒く、特に北風が沁みます 犬の散歩以外、1日家にいましたが、夕方にふとビールが飲みたくなり出かけました 北風を受けながらいざ酒屋へ ビールを購入し帰宅 新潟の南魚沼市にある酒造さんのビール (※日本酒じゃないのか?というツッコミは置いておいて…) 少しお高いですが、口当たりが柔らかく飲みやすい あたたかい部屋で飲むのが最近のマイブームです さあ、飲もう!と冷蔵庫を開けた時に気がついたこと… ビールと空(雲)の撮影に気を取られ

【卒業のショートストーリー】明日また、繋がる

※ 終わりのチャイムってこんな音をしていたのか、なんて今更ながら気づく。 三年間、気にも留めなかった無機質なこの音が、今日は大きく鼓膜を揺らした。 ポケットから振動が伝わり、携帯を握る。多分、明日に関する連絡が吉川からあったに違いない。 携帯を取り出し画面を開こうとすると、低い声を後ろ背に感じた。 ー大地、行くぞ 振り返ると、裕二が教室のドアの近くに立っていた。一度こちらを見て首肯した。 “早く来い”ということだ。 分かったという代わりに、俺はグーを突き出した。裕二

折れてから初めて気がついたんだ。ヒール履いてたこと

 いくら私がぼんやりした人間でも、忘れない日がある。  当時私が働いていた会社が入る六本木ヒルズのフロアが、バランスボールの上に乗せられて上手にバランスを取るように、左右に円を描いてわんわんと揺れた。  私の隣のデスクに座っていたMさんという女性は「え! 大変! そうりちゃん! どうしよう」と泣きそうな顔でデスクの下に潜り込んでいたが、私は冷静だった。震度五くらいかなあ? なんて悠長に考えながら、自分とMさんのデスクトップが倒れないように押さえ「大丈夫です、多分」と周囲を見渡

冬の日暮れ

薄紅の 冬の日暮れの 羽ばたきは はやる心に 暖かきかな photo & words by なおみ

彼依存症

依存症、という言葉が頭に浮かぶほど、 それに執着している。 彼と交わらない日は、苦しくなる。 職場で出会って3ヶ月。 1ヶ月ほど前に同棲を始めてから ほとんど毎日セックスをしている。 しない日は不安定になるから、 お酒をたくさん飲んだり、煙草をたくさん 吸ったり、違うことで紛らわす。 今まで、自分でするのは好きだったが、 セックスは好きどころか、 しなければいけない義務ですらあって、 断じてこんな体ではなかった。 自分の変化に戸惑いながらも、 嬉しい気もしている。 誰かと抱き

連れてって。

 ココは東京。相変わらず東京だった。眠れないのか眠らないのかよくわからない大都会。その隅っこの公園で、私は男友達2人と一緒に友情の酒を交わしていた。たっくんは缶ビール、ゆうじはスミノフの瓶を片手に。私は何故か鬼ころしのパックにストローを刺してゴクゴク呑んでいた。別にアルコールに強いわけでもないのに、男2人に負けたくないという謎の張り合いをして、いかにも酒飲みな雰囲気を醸し出すために、平気な顔を装って呑んでいた。けれど食道から胃にかけて焼け付くように熱くなっていた私の身体は「あ

はらりはらりと咀嚼する。

カシュッ......カッ。息。香るアルコール。吐息は私に膜をはった。意識的にもう一度鼻で吸い、鼻で吐く。フルーティな香りが抜ける。 壁に預けた背は冷たく、自分に体温があったことを思い出す。 はらり、はらり。すっ...すー。さらさら。はらり、パタッ。物語が、言葉が、愛が、情景が、宇宙のような無限を漂わせている。本という物。形。四角。余白。線。紙。これだけで今夜の肴は充分だ。人前ではしない(していないはず)と思うけれど、手に持つ本の匂いを嗅いでは、例えようのない幸福感、充実感に

そこに愛はあった

#短編小説 #イヤミス #読書好 #眠れない夜に 

行動がすべて、ということ。

久しぶりに母校の大学に行きました。恩師との話の中で私は「できないけれどやりたいことを、とにかくやっていく力がある」というようなことを言っていただいて、自分のやっていることは間違っていないんだなと再認識できた気がします。 私の頭の中はやりたい事だらけで、それが無限に出たきて尽きない。土日もやりたいこと、行きたいところがありすぎて追いつかない。平日だって本当はやりたいこと山ほどある。 でも時間を大きく費やせないから、毎週もどかしい気持ちになります。「本当はこれをやりたかったの

【風呂酒日和162-2】 おふろの王様 大井町店〜お食事編〜

さーて整ったぞー。お腹も減ったぞー。 かなりの数のロッカーがあったので上着や荷物は一旦ロッカーに残し、リストバンドだけ持って階下のお食事処へ。荷物を持って大移動しなくていいの、楽すぎる...。 「いらっしゃいませーお好きな席どうぞー」 店内は明るい雰囲気、大きなテーブルに椅子が並ぶフリー席っぽいところと、ボックスのテーブル席。1人だけど混んでないしボックス席に座ってもよいかしら…。 やっぱり平日に来るとどこも程よく空いていて居心地がいい。 まずは飲み物メニューを見る。

【短編小説】妄想めくるめく

ああ、また遅刻だ。 手首のG-SHOCKは8時45分を示している。 今日で10回目の遅刻となり、反省文の提出をしなくてはならない。 僕はどうも朝には弱いのだ。 そもそも朝早くから学校に来るのに特別な意義なんてあるもんか。 学生にもフレックス制度を導入するなり、zoomでも授業を受けられるようにするべきだ。 どうしようもない主張を脳内で掲げながら、僕は目立たないように教室のドアをそっと開けた。 「おい、また遅刻したのか。」 担任の西村先生が呆れた顔をしながら、僕の方へ詰め寄っ

結婚したいとかしたくないとか

結婚というものにイメージがわかなかったから、“結婚しなくていいや〜!私には仕事があるし!仕事楽しい!”って思っていた20代前半。 先輩方に『結婚しなくていいやって思ったり周りにそう言ってると本当に結婚できないよ』と言われたり、周りの友人を見ていて“結婚したいな〜”ってなんとなく思い始めた20代半ば。 “結婚は覚悟”という言葉を聞いたり、当時好きな人(片思い)が『結婚したらこういうところに住んで、こういうお家にしたくて〜〜』とか結婚生活の話をしてきたり、お互い貯金額とかお給

魔法 (詩)

彼がいないと生きていけない あの頃はそう思ってた でも今、彼がいなくても生きてる 恋の魔法が解けたのね もう、彼の面影は追ってこない だけどまた、恋の魔法をかけられたみたい そう、キミに…… 魔法の期限はいつまで? それとも、解けない魔法かしら?

#000000

急にこんな感覚がある。 首を締め上げられているような、 胸を押さえつけられているような、 とりあえず、呼吸が上手く出来なくて、 ただ、息を荒らげる。 足元が突然に、ぱらぱら、バラバラと崩れ落ちていくようで、そのまま下にゆっくりと落ちていく。 真っ白な空間、重力は地球よりも遥かに弱いのか、本当に、ゆっくりと、ゆっくりと、落ちていく。 沈んでいく、という方が、近いのかもしれない。 私は林檎にはなれず、誰も何も発見はしない。 人の心が閉じていくように感じたのは、 きっと、気

【チョコエッセイ】バレンタインデーの主役って誰だ?

バレンタインデーの主役と言えば 「チョコをもらう人」だと、ずっと思っていた。 でも、本当にそうだろうか。そう思うのは、あの日のバレンタインがあったから。 誰に渡す? あと少しで私は四年生か、 なんて考えていた小三の冬。 クラスの女子の会話は「バレンタインデーは誰にあげる?」で持ちきりだった。 (なぜか私は、小学校時代の記憶をやたら鮮明に覚えている……) 私は仲の良かったみきちゃん(仮名)と ある男子に渡すことにした。 彼の名は石川くん(仮名) 石川くんは 成績優

「言葉責めと文学と僕」

インチュニブ(ADHDの薬)の効果を感じている。以前は3ミリグラムだったが、最近は4ミリグラムに増量された。心の変化も感じている。  これまでの人生で、ピンクサービスの店には何度も足を運んでしまっていた。収入が入ると、快楽を求める衝動に駆られた。結婚してからも、時折そうした場所に向かったことは否定できない。しかし、妻は僕とは違い、そうしたサービスを利用せず、仕事も休まずに日々努力している。  風俗という世界での遊びは、もう充分に堪能した。控えようとも思う。しかし、一方で、

ボツ

#短編小説 #読書好 #眠れない夜のために 

【ショートショート】そして瞳を綴じた

夜空に花火が散った。 無数に分離された光は、行き先など分からず静かに消えていく。 横には彼女がいる。 眼は伏せられ、美しく弧を描いた長い睫毛が花火の振動とともに微かに揺れる。 陶器のように白い肌は、キャンバスのように花火の色を淡く反映する。 「ねえ、瞳を綴じて。」 落ち着きのある滑らかな声色で彼女は言った。 僕はそっと瞼を閉じた。 一瞬が永遠になればいいのにと思った。 直後、僕の眼から生暖かい液体のようなものが噴出していることに気づいた。 追ってくるように激痛が襲う。

指輪の彼女【短編小説】

僕は、LUSHのバスボムが好きだ。 手に持ったバスボムをお湯に浸すと、しゅわーっと掌から崩れ、お湯に溶けていく。 色んな色が混ざって綺麗、いい匂い。 抗鬱剤と入眠剤をレモンサワーで流し込み スマホから心地よい音楽を流して この時間で僕は僕を取り戻す。 生きていく事の不安、人間関係、将来への絶望が 日中ずっと脳内を侵食し、ちくりちくりと小さな刀で僕の内側を突いてくる。 傷口が膨れ上がり、重たくなった体。バスボムがしゅわりと溶けていく浴槽の中に、僕の不安も絶望もしゅわりと溶

#15 二元論が蔓延る世の中の苦しさ

「それは結局、どっちなの?」 そう問われるたびに、わたしは戸惑う。なぜなら、世の中には「どっちとも言えないこと」が無数にあるのに、多くの人はあまりに簡単に「どっちか」を求めてくるからだ。 たとえば、仕事を辞めたい気持ちと、辞めたくない気持ちがせめぎ合うとき。「仕事が嫌いなの? それとも好きなの?」と聞かれると、「嫌いだけど、でも……」と曖昧に言葉を濁すしかない。辞めたい理由もあれば、辞めたくない理由もある。仕事自体が嫌いなわけではないが、今の環境に息苦しさを感じている。そ

「自由」に殺されない様に

色んな事から 許されたいんだと思う でも 許されないから なるべく正しく生きようと思った せめて 自分の幸福くらいは望まずに 日々 生きていれば 嫌な思いをする事もある 悲しい思いをする事もある 苦しく感じる事もあるけど けど 仕方ないよね それ以上に 恵まれた生き方が出来てたし 生きていく中で 先に良い事があっただけ しかも 多くあっただけ 個人的な考えだから 賛同も批判も 聞く気にならないけど 生きていく中での 「良い出来事」と「悪い出来事」の量は 同数だと思っ

小説・ぬるい臨界

 賢吾が中学生の時から、真由子は「個別指導塾 桜風会」の講師として、彼に数学を教えている。  彼の授業は火曜日の20時45分から。先月までは19時からのコマで通塾していたが、この4月から始まった怱怱たる高校生活に忙殺されて、あれよあれよと後ろ倒しになっていた。  前のコマの生徒が皆捌けてしまうと、教室は瞬く間に夜のしじまに覆われていく。春冷えを振り払うように、真由子は軽く伸びをした。 *  入口扉に据え付けたベルが、カランと乾いた音を響かせた。 「お、こんばんはー」 「

誕生日おめでとう(詩)

今日は母さんの誕生日だね 誕生日、おめでとう 母さんが魂の故郷に旅立って もう6年が過ぎたね そちらの居心地はどうかな? もしかしたら、肉体を脱ぎ捨てたら もう歳は取らないのかもしれないね だけど、毎年言うよ 誕生日おめでとう、って 追伸 今の時期 母さんが作ったきりたんぽ鍋 食べたくなるよ 母さんの味 忘れられない……

詩|咲かない春

空をぜんぶ、ひとりじめしたくなる あの青をぜんぶ、わたしのものに どれだけうばってもなくならないもの 空の青は永遠だから わたしはなんて小さくて浅はかで 空の下ではうんざりするほど無力 冬が、泣きそうなくらい冬で、 わたしの中で始まっていくのに 春を、降らせようとして春が、 恋が咲くのは春だなんて嘘ばっかり 流れることのできない流れ星が どんどん落下していく そんなに忘れられないのなら わたしが心を洗ってあげるわ 春なんてどこにもこないけれど 春なんてきっと咲かないけ

弄する夜の

回された腕が、頸動脈を圧迫する。 手の甲で顎を押し上げられて、 彼の唇に引き寄せられる。 舌が口の中に優しく入ってくる。 ゆっくりと口の中を這う唇と 中を激しくかきまぜる指の、 対照的な動きに痺れるような感覚が走る。 私が苦しそうに呻くと、彼の笑い声が聞こえた。 暗闇に慣れてきて、表情が見える。 彼が笑っていて、その笑顔を見ると、 また体に気持ちいい感覚が込み上げてくる。 その感覚が溢れそうになった瞬間、 ふいに舌と指の動きがとまる。 またさっきとは違う、 体のおかしくなる感

ワッタワンダフル日曜日

もーえろよもえろーよー 炎よもーえーろーーー っと、今夜は焼肉を食べてきた。 焼き肉マウント日記。 飲んでから書いてるから誤字脱字があることでしょう。 「二番絞り」というのを発泡酒として出したらいいのでは?と思いついたけど、どうでしょうKIRINさん? 二番って書かれてるとやっぱり売れないんだろうか。 やっぱりみんな、一番がいいのだろうか。 私はいつだって四番打ちたいと思ってたけど、思ってただけで野球部にすら入らなかったから叶わなかった。バスケ部のマネージャーやってた

彷徨う夜に

馨と仁志は、いつも曖昧なまま、夜のどこかで落ち合った。バーのカウンター、路地裏の喫煙所、人気のないビリヤード場。会えば酒を飲み、手を伸ばせばすぐ触れた。けれど、お互いに「好き」なんて言葉を口にすることはなかった。 ホテルの部屋のベッドの上、馨はタバコをくわえながら、天井を見つめる。 「ねぇ、あたしたちってさ、何?」 馨は時々、そんなことを言う。 「何って、別に」 「そう。別に、ね」 仁志は煙を吐いた。枕元の灰皿には、吸い殻がいくつも転がっていた。 「別に……でも

ババア、逝去です。

 祖母が死んだ。誕生日を目前に、九十四歳で死んだ。  よく芸能人が死んだとき、神輿を乗せたような浮かれた黒い車が「プヮーーーー!」と発情期の象みたいな音を出して敷地を出ていく出棺のシーンを目にするが、祖母の遺体を乗せた車はマイクロバスだった。一丁前に、発情期の象の声を鳴らしてマイクロバスは走り出し、田舎の壮大な枯山水の景色を切る道路を、火葬場に向けて進む。  火葬場はいやに天井が高い建物で、お坊さんが鳴らす「チーン!」の音がよく響いた。夫の母親が亡くなったときに行った火葬場は

憧憬 (詩)

知性、色気、協調性 あなたは何でも兼ね備えてる 全て私より勝ってる 叶わない 憧れを通り越して嫉妬してしまう 特に不意に見せる、あなたの色気 魔性さえ感じる あなたを狙ってる女性は数知れず あなたの虜になるのも分かるわ なぜ、そんなに完璧なの? ( Xの、深夜の二時間作詩に投稿しました )

「小説」が私の名刺。

青い女の人が私だけを知っている。 実際それは妖怪みたいに真っ青な女がいるわけではない。両手を胸に添え、首だけを捻って右を見ている女性が一人。背景は海だけが光っている。そんな写真が紺色の額縁にあるので、頭の中にある店内の景色を思い浮かべた時に、ぼんやり青く、ただしっかりと、看板の如くこちらを向いている。 ロマン亭。 常連客の風貌でそこへ足を運ぶくせに、毎回数ヶ月経っているので、マスターからすれば常連でもなければ、覚えてさえいない。けれど「常連」だと声にする人間は大体こんなも

彼との暮らし9ヶ月目と一人時間を見つめること

彼のいない夜は、どうしても彼のことを考えてしまいます。離れている時くらい自分の好きなことを、とも思うけれどなかなか難しいです。 彼と付き合ってどのくらいだろう、ざっくりでも1年半が経っているようで、その事実に驚きました。え、四捨五入したら2年ですか? 元彼も友達から恋人になったタイプだったので長かったですが、彼らとはなんとなく終わりがあるような気がしながら付き合っていました。こう書くと失礼だけれど、なんとなくなので言語化されないモヤッとした感じで頭の中にそうあったという感

[エッセイ] 誰かの言葉

人は出会いと別れを繰り返す。否応なしに。 それでも、 人は絶えず "誰かの言葉" を胸に生きていくのかもー 最近、あらためてそんなことを強く思います。 ・ 学生時代、派遣で掛け持ちをして、 死にたい記憶しかない暗黒期に 上司から言われた 「お前はいっつも明るくて、 悩みなんて何ひとつ無さそうだな」。 独身の頃、当時慕っていた人に告げられた 「僕には性欲があるから。 あなたと会う時間はもう作れない」。 結婚後、 悩んでばかりの私に昔からの知り合いが言った 「