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【チョコエッセイ】バレンタインデーの主役って誰だ?
バレンタインデーの主役と言えば
「チョコをもらう人」だと、ずっと思っていた。
でも、本当にそうだろうか。そう思うのは、あの日のバレンタインがあったから。
誰に渡す?
あと少しで私は四年生か、
なんて考えていた小三の冬。
クラスの女子の会話は「バレンタインデーは誰にあげる?」で持ちきりだった。
(なぜか私は、小学校時代の記憶をやたら鮮明に覚えている……)
私は仲の良かったみきちゃん(仮名)と
ある男子に渡すことにした。
彼の名は石川くん(仮名)
石川くんは
成績優秀&運動神経抜群の文武両道男子。
切れ長の目を持つ整ったお顔立ちで
ちょっとシャイで女子から人気は当然の如し。
さてみきちゃんと私は
なぜに石川くんにチョコを渡すことに決めたのか。
それは、
みきちゃんも私も石川くんのことが好きだったから。
でも、”好き”の種類が違った。
みきちゃんの好きは「恋愛的な好き」
私の好きは「ファン的な好き」
小三の私は、”恋愛の好き”がよく分かっておらず、みきちゃんが渡すなら私も!と、便乗させてもらったのだ。
みきちゃんも本当は一人で渡したかったかも知れないのに、便乗組の私を快く受け入れてくれた。
そう、私は単純にバレンタインデーというイベントを楽しみたかった。
そしてバレンタインデー前日。
学校が終わって、
みきちゃんと一緒にチョコの準備。
チョコを刻んで、湯煎して、色んな型に流し込んで、上からトッピングをパラパラ。
そして冷やした。
包装にも拘ったりして、
完成した時の達成感といったらなかった。
「私のファンイベントが明日、幕開けする……」そんな気分だった。
渡された側の気持ち、
考えたことある?
そして当日。
冷蔵庫からラッピングしたチョコをそっと取り出す。
「先生に何か言われるかな? 」
一瞬過った迷いは「イベントだからいいんだよ」ともう一人の自分がすぐさま掻き消した。
授業中、
ランドセルの中にあるチョコが気になっては、
先生の目を盗んでロッカーをチラ見した。
何度も。
中で溶けて
変なカタチになっていないだろうか?
寄り弁ならぬ
寄りチョコとかなってないだろうか?
そもそもちゃんと持ってきたよね?
一抹の不安を抱き、
休み時間にそっと確認。
うん、ご無事。
そして待ちに待った放課後。
幸い石川君とは同じクラスだから、
焦る必要もない。
終わりのチャイムが鳴って、私はみきちゃんと目配せした。ロックオン(石川くん😎)
二人で石川君を呼び止めて「はい」と手作りのチョコを渡した。
「ありがとう」
石川君は下を向いて小さく呟いた。
耳が紅くなっている。
私たちまで顔が紅くなった。
私は満足した。
みきちゃんも別に告白するとかでなく、
チョコを渡せたことに納得したようだった。
そのあと、
後ろ目に石川くんを見れば、
他の女子からもチョコを渡されていた。
「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」
その度に石川くんの頬が紅く染まる。
男子が茶化す。
石川君は黙る。
なんか、
申し訳なく感じたファンイベントになった。
懺悔に満ちたホワイトデー
3月14日。
ホワイトデーがやって来た。
バレンタインチョコを
渡したことで満足していた私は、
お返しは正直もらえたらラッキー
くらいにしか思っていなかった。
だから、授業が終わって石川君に呼び止められた時はびっくりした。
そして、「はい」とバレンタインデーのお返しをくれた。とっさの出来事だった。
すぐさま、石川くんは他の女子を呼び止め、同じようにお返しを渡していた。
もちろんみきちゃんにも。
石川君は何せシャイボーイだ。
自ら女子に話しかける事なんて
慣れていないだろうに、
バレンタインデーがあったばかりに、
無理に自分を鼓舞して話しかけているのが
手に取るように分かった。
そんな石川くんを見ていたら、
「お返しはお母さんと用意したんやて」
石川君と仲の良い男子が言ってきた。
何でそんな事知ってんだよ、
ってかそれってお母さんに
「ちゃんと渡してきなさい」
と念を押された義務&通過儀礼ホワイトデーじゃないか。
真面目な石川君のことだから、
義務&通過儀礼ホワイトデーを遂行すべく
ひとりひとりに声をかけてお母さんから
言われた事を律儀に守っているんだ。
なんかもうめちゃくちゃ切なくて、
申し訳ない。
「ごめん……」
私は心で石川くんに謝った。
つまるところ、
バレンタインデーの主役は誰?
そもそも、 手作りのチョコとか言ってるけど、
当時の私の手作りチョコは、
ただチョコを溶かして、また固めただけだった。
それを「手作りチョコだから」と豪語していた。
だったら既製品のチョコを渡せばよかったんじゃないのか?
いや違う。 そういうことではない。
ただ、みきちゃんと一緒に作る過程が楽しかったんだ。
だったら渡す相手が別に石川くんじゃなくても良かったんじゃないか?
と今更ながら気づく。
結局あの日のバレンタインデーの主役は、
チョコづくりを楽しんだ自分であって、
石川くんではなかった。
そして、渡したのはチョコのかたまりをした
自己満足のかたまり。
エピクロスがこの世にいたら、
「相手にも自分にも負担のないバレンタインデーにしようよ」
なんて言うかも知れないなと、
少し空を見上げてみる
(何となく上にいそうだなと)
そう言えばアメリカの
バレンタインデーの日は
男の子が女の子にギフトを贈る日。
それは古代ローマ、中世ヨーロッパの
歴史的背景の影響を少なからず受けている。
じゃぁなんで日本は女の子が男の子に
チョコを贈ることになったんだ?
それは、
チョコレート会社の販促のせい。私もそのマーケティングにまんまとハマった。
エピクロスがいたなら(また出てきた)
「もぅ誰が誰に渡してもいいんじゃーん」
と言ってそうでまた空を見上げてみる。
さて、今年のあなた様のバレンタインデーは、
何のかたまりですか?
今宵も最後まで読んでいただきましてありがとうございました。
Happy Valentine☆
しゃろん;