百裕(ひゃく・ひろし)

日常をそれっぽく書いてます。 国文学科卒業→外食チェーンの店長→人材派遣屋の営業→ネットでものを売る人→なんか営業。 まとまりのない人生を送ってきました。 大名古屋在住の広島っ子。心の故郷は横浜。

百裕(ひゃく・ひろし)

日常をそれっぽく書いてます。 国文学科卒業→外食チェーンの店長→人材派遣屋の営業→ネットでものを売る人→なんか営業。 まとまりのない人生を送ってきました。 大名古屋在住の広島っ子。心の故郷は横浜。

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牛おばさん

 にぎやかだと思ったら近所で祭りをやっていた。この土地に住み始めて10年になるが、こんな近くで祭りをやっているなんて知らなかった。ひょっとしたら今年から祭り会場が変わったのかもしれない。  考えてみれば、地域の祭りなんて中学時代以来行っていない。ちょっと覗いてみようかと思ったけれど、たまたま長く住んでいるだけで自治会にも入っていない “よそ者” がふらりと現れて、「君ぃ、わた菓子を売ってくれたまえ。金ならあるぜ」とやった場合、「おい、あの見慣れない顔は一体どこのどいつだい?

    • お多福

       小四の時、お多福風邪に罹って学校を休んだら、早速松岡と中田が見舞いに来た。 「お多福風邪じゃけぇ感染るよ?」と玄関で母が言うと、松岡は「お多福風邪にはまだかかっとらんけぇ、もらってきんさいってお母さんに言われました」と、けろりと返す。 「中田君も大丈夫?」 「僕はお多福風邪、なったことあるけぇ大丈夫です」  それで、じきに二人が部屋へ来た。  お多福風邪と云っても、まだこの時はそう診断されたばかりで、見た目は普通である。 「全然普通じゃん」 「まだ、今日お多福って(医者に)

      • ねじれ

         二十年ばかり前、工場へ人を派遣する仕事をしていた。自分は営業職だったのだけれど、ある時出社すると営業所長の伊藤茶が深刻な顔をして「頼みがある」と云ってきた。 「何だい?」 「今日はこのまま帰ってもらって構わないから、明日から二週間ばかり、◯◯工場の夜勤に入ってくれないか?」 「は?」 「ライン作業じゃぁなくて、管理の方だよ」  夜勤チームの管理者が急に辞めてしまったから、その代理ということだった。 「それは本当に二週間で済むのだろうね?」 「□□事業所から管理者を一人回して

        • ブンブンの系譜

           店を閉めた後でスタッフと喋っていたら、パートタイマーの林さんがブンブンで買うとか、何だかわからないことを云い出した。 「ブンブン? 何です、それ?」 「セブンイレブンのこと。そう云いません?」 「初めて聞きました」 「横浜だとそう云うんですよ」  林さんは元美容師だが、その前はパンクスで、有名バンドのギタリスト◯山◯子と一緒に演っていたのだそうだ。それなら◯山◯子もブンブンと云っていたのだろう。  自分はそれで納得したけれど、バイトの斉藤君が横から妙な勢いで噛み付いてきた。

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        • 百卑呂シ随筆
          396本
        • 夢百日(ゆめひゃくじつ)
          15本
        • 百卑呂シ言行録
          303本
        • 百卑呂シの『なんのはなしですか』
          63本
        • 記憶とカレー
          16本

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          相応

           郊外へ電車通勤していた頃は、いつも帰りにコンビニで缶ビールを買って、車内で飲んだ。飲まない日はおにぎりを一個買って車内で食べた。それが自分の中で一日の締め括りになっていたのだろう。  ある時、ビールの代わりにトリスハイボールを買って電車に乗った。  自分はあんまりウイスキーを薄めて飲むのは好きでないけれど、何となく買ってみたら随分美味くて感心した。向後もハイボールで一日を括ろうかと思っていたら、次の駅で向かいに座ったおじさんも手に缶を持っている。見ると、同じトリスハイボー

          高速塩焼き

           新幹線の車内販売を近頃見ないと思ったら、知らない間に廃止されていた。回って来られても何も買わないけれど、無いとわかると何だか淋しいように感ぜられる。  ある時、新幹線が動き出した後でトイレへ行こうとしたら、車内販売の女性スタッフが通路で接客していて通れない。  仕方がないから少し離れた所で通路が空くのを待っていると、後から来たおじさんが、ワゴンと座席の僅かな隙間を無理やりこじ開けながら通り抜けた。女性スタッフも大いに困惑した様子だったが、おじさんは一向構わず、スタスタ歩い

          電車にまつわるお礼の話

           仕事帰りに電車で、随分きれいなお母さんが幼い男の子を連れて座っているのに出くわした。  その人は青いノースリーブのワンピースを着ていた。昼間は割と暖かいけれど、朝夕はもうその格好だと寒そうだ。子供の方も服装に何だか違和感があったから、恐らく異国の人らしく思われた。  母子は次の駅で下りた。下りる際、母親は子供の手を引きながら、近くに立っていた丸眼鏡のビジネスマンへお辞儀をした。男はスマホから少し目を挙げて目礼を返した。  知り合いにしてはどうもあっさりしすぎているようだ。き

          電車にまつわるお礼の話

          移動飲食 その2

           前回、駅の立ち食いうどんのことを書いた。  それに付随して思い出したことがあるから、今日はそのことを書いておく。  高校時代、塾帰りに駅のホームでうどんや蕎麦の立食いをちょくちょくやった。菓子やパンなどでなく、その場で調理されたものを自分の金で食べられることが、大人になったようで嬉しかったのだろうと今は思う。  ある時、電車の時間の五分前に店へ入った。  入口で天ぷらうどんの食券を買って、カウンターのおばちゃんに渡すと、おばちゃんは早速ちゃっちゃっちゃっとうどんを茹でて、

          移動飲食

           新幹線内での飲食について、においが強いものは控えるのがマナーだと最近どこかで読んだ。全体、車内でクサヤや納豆を食う人もないだろうから、具体的にどういうものがNGなのだかいまひとつ判然しないが、どうも面倒な世の中になったものだと思う。  自分は仕事で新幹線を使った場合など、帰りは車内で弁当を食べながら晩酌するのが常である。においはきっと出てないけれど、これだって事によると、隣席の人には快く思われないだろう。  高校時代、バスで隣に知らない爺さんが座った。車が動き出すと爺さんは

          重傷を追う

           小二の時、大掃除中に黒川がふざけて振り回した箒が自分の顔に当たった。あっと思って押さえたら、指の間から血が流れてきた。鼻血である。  自分も驚いたが担任の佐々木先生がもっと驚き、「百君、座りんさい!」と手近な椅子に座らせた。そうして上を向かせて、首の後ろへチョップを食らわせる。鼻血が出た際にそうするのが無意味と知れ渡ったのはもう少し後の時代で、あの当時はみんな上向きにしてチョップを食らわせたのである。  それを見た土屋が「空手チョップじゃ!」と目を輝かせた。自分は少しイラッ

          1978年の右肘

           もうじき幼稚園を卒園する頃に、飯島が突然、一緒に遊ぼうと家へ来た。「友達が来たよ」と母が言うから、誰かと思って出たら飯島だったのである。  飯島は隣のクラスで、それまで話したこともなかった。突然の訪問は大いに意外だったけれど、遊んでみたら随分気が合ったので、それから毎日一緒に遊んだ。  小学校に入ったら、飯島と同じクラスだった。誰と誰が仲が良いというような申し送りが幼稚園からあったのだろう。幼稚園の同じクラスにも友達はいたのに、敢えて飯島とペアだったのは、よほど気が合って

          白川夜船

           横浜で最初の休みに、中華街へ行ってみようと思い立って部屋を出た。  今と違ってネットもスマホもない頃だったから、知らない場所への行き方は事前にガイドブックなどで調べるか、駅で調べるしかない。この時は、わざわざ事前に調べるほどでもないだろうと思ってとりあえず横浜駅まで行ってみた。  ところが、行ったはいいが、そこから何線に乗って何駅で下りたらいいものか、果たしてとんとわからない。みなとみらい線ができるよりも随分以前で、「中華街」と名の付く駅がなかったのである。  さすがに準備

          赤い世界

           まだ幼稚園にも上がらない頃、祭や初詣の露店でよく仮面ライダーのお面を買ってもらった。  同じようなお面は今でもあって、娘が幼い頃にはプリキュアのを買ってやったこともあるけれど、あれは元来ペラペラだからすぐに壊れる。大事にしていても、じきにゴムを掛けた部分から破れて来る。それで祭や初詣などで見つける度に買ってもらったように思う。  仮面ライダーは目が赤いので、お面の目の部分にだけ赤いフィルムみたいな素材が使われていた。だからお面を着けると視界が赤くなり、何だか本当に仮面ライダ

          クリスマスと暴走族

           やっぱり店長になって間もない頃、バイトの山中さんが店の窓ガラスにスプレーでクリスマスのデコレーションをしたいと云い出した。  あれは剥がす時が存外大変だから、自分はやりたくない。けれどもバイトが自らやりたいと云うのを「面倒だからダメだ」とやってしまっては士気に関わる。結局、剥がすところまで責任をもってやるという条件で承諾した。  果たして当人たちは、翌日早速スプレーとテンプレートを持って来て、キャッキャと云いながらサンタや雪だるまをガラスに描いた。随分派手にやったから、これ

          クリスマスと暴走族

          砂金探し

           仕事中に目の見え方がおかしいと思ったら、コンタクトレンズが片方失くなっていた。店長になって間もない頃である。  休憩中のバイトに代わって洗い物を片付けていた時で、足許を探したけれど見当たらない。どうもシンクに落としたらしい。シンクには水を溜めて、汚れた皿が浸けてある。水はミートソースの色に染まって、油が浮いている。 「うーわ、俺コンタクト落としたわ」  ちょうどバイトの上田君が戻って来たので、ぼやいてみた。 「まじですか、その辺に落ちてないですか?」 「探したけど、ない。ど

          ※ショッキングな内容を含みます。そういうのが苦手な方には、読むのをおすすめしません。 「あの時、水道工事で断水してるのを知らなくて、うんこをしたから困ったよ」  ミスドで辻が、ポン・デ・リングを手にとってしみじみと語り出した。大学時代の話らしい。  仕事の帰りにコンビニでたまたま出くわして、ちょっと茶でもしようと云うことになった。コンビニとミスドの間には、不動産屋とクリーニング屋と昭和っぽいブティックが入っていた。前を歩きながら、今時こんなブティックで服を買う人があるんだろ