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snafu_2020
【おはなし】 サイレン
月曜日の午後3時。
小休憩の時間になると、自動販売機の前には紙カップに入った液体を飲むために男性社員が集まってくる。
自動販売機のコーヒーは安い銘柄で90円。紙カップの商品よりも缶に入っている商品の方が少しだけ高くなっている。
軍手を外して帽子を脱いで壁にもたれながらコーヒーを飲んでいる男たちは、テレビのコマーシャルに登場してもおかしくない見た目をしている。
ボクは手洗い場で汚れた手を洗い、顔についた細かい紙くずも洗い流し、タオルで水滴を拭いながら自部署に戻ってペットボトルの水で喉の渇きを潤す。
以前のボクは彼らと同じように自動販売機のコーヒーを購入して短い休憩時間を満喫していた。欲しいものができてからは、わずかな出費さえも控えるようになってしまったので、彼らの話題にはもうついていけない。
「4号機のインクが詰まったんだってなあ」
「ああ、そうさ。できの悪いボンクラが掃除を怠ったのが原因さ」
「いっそのこと、あいつ自身を掃除した方がいいかもしれないぜ」
「まったくそのとおりさ。でもあいつは、俺たちの上司ってことになっている」
「どうにかならんもんかねえ」
タバコの煙を吐き出すのと同じように、体内に溜まった不純物を空気中に吐き出してから、工員たちはそれぞれの部署へと戻っていく。
「あと2時間を切ったな」
「ああ、はやく呑みてえよ」
くずかごの中に投げ入れた空き缶同士がぶつかる音に被さって聞こえるチャイムの音が工場に響き渡ると、ボクたちは勤務終了のサイレンが鳴るまで、再び機械を動かし続けるのだ。
おしまい