秋山 茂之(おはなし屋さん)

日常のできごとを料理して読み物をつくっています。よくつかう調味料は「おかしみ」と「かわ…

秋山 茂之(おはなし屋さん)

日常のできごとを料理して読み物をつくっています。よくつかう調味料は「おかしみ」と「かわいさ」です。隠し味は「ナイショ」だよ。ティータイムにお楽しみください。

最近の記事

【おはなし】 ビー玉会議

9月の土曜日の午後。 天気予報を信じたボクは、2日分の食糧を買い込み、週末はずっと家にこもる準備を整えていた。 金曜日の午後に天気予報を確認したところ、「土日は雨が降ったり止んだりを繰り返すでしょう」と予報士のお姉さんが控えめな声でささやいていた。 ボクはいつ雨が降り出しても困らないように、洗濯物を屋根のあるベランダの内側に干し、窓を半分開けていつでも出入りできる準備を整えたうえで、リビングで雑誌を読んでいた。 ときどき窓の外を確認する。 うっすらと雲が出ているけど

    • 【おはなし】 ネコを仕掛ける

      「どうして道にネコが落ちているのかしら?」 動画を見ているわたしがつぶやくと、 「撮影者が仕掛けたに決まってるだろ」 彼が応えてくれた。 「どういうことなの?」 「あん? じゃあ、やってみるか」 彼が実演をはじめた。 「いま、ボクは知り合いのひとから依頼を受けて現場に来ています。こちらのお宅のガレージの中で、なにやら子猫の鳴き声が聞こえたということです。さっそく中に入ってみましょう」 ガラガラガラー 「いまシャッターを開けて中に入りました。車が停めてあります

      • 【おはなし】 消された待ち時間

        今あなたが使っている受信機で「呪詛」という言葉の意味を調べてもらいたい。 かつては一家に1台存在した黒電話の後継機として、我々がひとり1台所有している受信機は、今ではさらに深化して呪詛機と成り果ててしまった。 「たのしい、うれしい、カラフル」といった気分を向上させるキャッチコピーと共に広まった受信機。 メッセージ、写真、検索、投稿機能。 アプリという名の娯楽への入り口が我々のネガティブな感情を呼び覚まし、受信機を呪詛機として、ホーム画面にアイコン表示されている。 電

        • 【おはなし】 少年とカート

          図書館でショッピングカートを使っているお客さんを見かけた。 若いママさん風のお客さんは、カートの上段に絵本などの大きな読み物をたくさん乗せて本を選んでいる。紙はたくさん集まると予想のほか重たく感じてしまうものだから、なるほど、ショッピングカートを使うと便利なのか。 両手にどっさりと本を持ってしまうと、どこかに本を置かないとページをめくることができないもんね。 ふむふむ。 楽しそうだからボクも使ってみようかな。 ショッピングカートの置き場所を探していると、入り口の横っ

        【おはなし】 ビー玉会議

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        記事

          【おはなし】 紙皿と割り箸

          「おにく焼けたよー」 友達と日帰りキャンプに出かけた週末の午後。 わたしの彼氏はみんなにいいところを見せようと、ここぞとばかりに張り切っている。むかしの大工さんみたいにおでこにねじり鉢巻をつくり、汗が垂れてくるのを防ぎながら食材を焼いてくれている。 そんな彼氏をサポートするのが今回のわたしの役目だから、紙皿と割り箸をみんなに配りながら「調味料は塩と焼き肉のタレを用意してます」とできる夫人を演じている。 「トウモロコシは、もう少し待ってー」 誰にも聞かれていないのに、

          【おはなし】 紙皿と割り箸

          【おはなし】 仮眠室とモーニング珈琲

          午前5時。 今日もあいつは近隣住民の睡眠なんて気にしない音量で配管を叩いている。あいつは右手に持った金槌を振りかぶり、まるで自分が甲子園で優勝するシーンを思い描いているかのようにチカラを込めて右手を振り下ろしている姿が目に浮かぶ。 この時間には、まだ眠りについている住民がいると私は何度も彼に注意したはずなのに。 あいつは私の言うことをほとんど聞いちゃいない。いや、私を目の前にしたときのあいつの目には私に対する恐怖心が写っているのを確認できる。つまり、あいつは私に怯えては

          【おはなし】 仮眠室とモーニング珈琲

          【おはなし】 夏のドライブ

          みなさま、あれからお元気に過ごされているでしょうか。 改めまして、わたしの名前は、なっちゃんと申します。とあるホームセンターの園芸用品売り場にてマスコットをしている珍種の生命体でございます。 今回の「お手紙」は前回のつづきとなります。5,000文字くらいあります。少し長くなりますので休憩をはさみながらお楽しみください。 前回の「お手紙」をまだご覧でないみなさまは、こちらからどうぞ。 ぶっきらぼうな店員のおじさんの日々のお世話の甲斐もありまして、わたしの身体は少し成長し

          【おはなし】 夏のドライブ

          【おはなし】 白色の境界線

          服屋さんに行くと、ボーダーのポロシャツが安くなっていた。 色は白と薄い灰色のコンビネーション。 白と黒だと目がチカチカしてまわりに迷惑をかけるかも、ってボクは考えるんだけど、薄い灰色だからそれほど目にダメージはなさそうだ。 サイズを確認すると、S M L XL の4種類が揃っている。 Mサイズを鏡の前に持っていく。ポロシャツの背中とボクのお腹の面を合わせて鏡を見ながらサイズを確認する。ちょうどピッタリのサイズ感。だけど、夏だし空気の通り道を作りたいから少し大き

          【おはなし】 白色の境界線

          【おはなし】 ドーナッツのひとびと②

          わたしは歯を磨いてる。 お店のドーナッツを棚のはしからはしまで、ぜ〜んぶ食べたから念入りに磨いてる。 「歯ブラシセットあるか?」ってエプロンを巻いてるおじさんに聞いたら「そんなもんないわ」って言われたから「じゃあ、買って来て」って答えたら、おじさんが買って来てくれた。 「おっちゃん、ありがとう。でもな、歯磨き粉がないで」 「そんなもん、しおつけてみがいたらええんや」 「そうなんか?」 「そや」 おじさんは厨房の中に入っていくと、小皿の中に塩を入れて出て来た。

          【おはなし】 ドーナッツのひとびと②

          【おはなし】 夏の霧吹き

          みなさま、暑い日が続いておりますがお元気に過ごされているでしょうか。 わたしはビルが立ち並ぶ大都会に不時着してしまいました。 ここには森はなく、木だってそれほど多くはありません。地面はカチカチのアスファルトですし、空気中には化学物質が充満しています。わたしにとっては快適な空間とは言えません。ですがわたしはここに不時着してしまいましたので、お迎えが来るときまでなんとか耐え抜くつもりであります。 さきほど、わたしは園芸用品売り場にやってきました。アスファルトの上でのびている

          【おはなし】 夏の霧吹き

          【おはなし】 ヨットのおっちゃん

          わたしはおっちゃんのヨットに乗ってる。 おっちゃんはホンマにお金持ちみたい。自分のヨットを持ってるくらいだから、さぞかし豪華なおうちで暮らしているのだろう。 おっちゃんはハンドルを握ってヨットを操っている。わたしにも触らせてほしいけど、おっちゃんはわたしにハンドルを握らせてくれない。 「これはな、めんきょがひつようなんや」 おっちゃんはケチくさいことを言う。ちょっとくらいわたしにも触らせてくれてもいいのにな。 わたしはヨットの手すりにつかまりながら、通り過ぎていく景

          【おはなし】 ヨットのおっちゃん

          【おはなし】 ドーナッツのひとびと

          わたしは今日もドーナッツ屋さんに来てる。 地元の小さな駅から電車に乗って、田んぼを超えて、山もいくつか超えて、とっても大きな駅にやってきた。 大きな駅に着いたとたんに、知らないおじさんに声をかけられた。 「ちゃーしばきにいこか」って、言われたから「ドーナッツ食べたい」って答えたら、知らないおじさんが連れて来てくれた。 「ねえちゃん、かわええな。ごっつすきや」 知らないおじさんはわたしの顔を見ながらなんか言ってる。ここは大阪だからわたしもそれなりの言葉をつかう。 「

          【おはなし】 ドーナッツのひとびと

          【おはなし】 アイスくん

          夏休みになったわたしは図書館で過ごしている。 家にいるとお母さんがエアコンの温度がどうとか、宿題がどうとかうるさいから、落ち着く場所を探していると図書館が見つかった。 この図書館はわたしが小学生だったときに何度が入ったことがある。当時でさえも建物の中を歩くと床は軋み、窓を開け閉めするたびに「ギーギー」と気持ち悪い音が聞こえていた。だから今回もそれなりに期待ゼロ状態で入ったからなのかな。思ったよりも不快な空間ではないことに気づいてしまった。 館内を歩くとあいかわらず床は軋

          【おはなし】 アイスくん

          【おはなし】 水あそび

          せっかくの休日なのに、わたしは朝からやる気がでない。 エアコンが休んでいる室内では、扇風機が首を回してわたしに風を届けてくれている。「うーん」と「ぶーん」の間くらいの音は、冷蔵庫の音と共鳴してわたしの鼓膜を震わせる。耳の後ろからポトリと汗がこぼれ落ちてわたしのキャミソールを濡らしていく。 「こんなにも暑いとね、なんにもする気が起きないわよ」 わたしは大きめの独りごとを空気中に解き放ってから、よいしょっと重たいおしりを持ち上げて台所へと向かった。 園芸用のジョーロの中に

          【おはなし】 静かにしてください

          小学生の僕はマジメ人間だった。 クラスメイトの男子が授業中に騒ぎ出すと「静かにしてください」と椅子から立ち上がって注意をした。おしゃべりを中断された男子はめんどくさそうに静かになった。 当時の教室にはテレビがあった。黒板の上のど真ん中にぶら下がっていた。テレビを見るのは授業に関係する映像を見るときに使われていた。 あるとき、クラスメイトのやんちゃな男子が給食の時間にテレビをつけた。教室には先生がいなかった。 「笑っていいとも見ようぜ」 お昼休みにうきうきウォッチング

          【おはなし】 静かにしてください

          【おはなし】 まちがい配達

          雨降りの日曜日。 家の中で静かに本を読んでいるとチャイムが鳴った。急な音にビックリしたわたしは、本にしおりを挟むのも忘れて急いで玄関のドアを開けた。 「こんにちは、マクドナルドです」 赤色の大きな四角い荷物入れを背負った制服姿のお兄さんが立っていた。年齢は10代の後半くらいかな。高校生のアルバイトかもしれない。巨大な荷物入れは大人用のリュックサックみたい。小学一年生が持つサイズの合わないランドセルを見ている気分。 「えっと、わたし、頼んでません・・・」 「あれっ、こ

          【おはなし】 まちがい配達