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【わたし大賞】この純文学が面白い
本は好きだけど、純文学は読まないという人は多いのではないだろうか。
難しい。とっつきにくい。シンプルに面白くない。
そんなところが理由だろう。
わからなくはない。というか、よくわかる。実際、読了したけど、これなんだったんだろうの作品は多い。
エンタメ小説は、参加さえすればあとは相手が楽しませてくる観光ツアーみたいなもので、純文学は厳しい登山みたいなところがある。自分で意義を見出さなければならない。
とはいえ、純文学の中にも、高速エレベーター付きの登山のような、圧倒的に面白い作品がある。こういう作品は読まなければ損だと思うのでいくつか紹介したい。
蒲団(田山花袋)
これほど誤解されている作品もめずらしい。
主人公の中年男が、女子大生が使っていた布団に顔をうずめるラストシーンだけが強調され、ただの変態小説だと思われている節があるが、まったく違う。
ここに描かれているのは、あまりにも哀しい人の業。男の慟哭の物語。涙も出ないくらいに胸が締め付けられる。現代最強の韓ドラを超えられるのは、この作品しかない。
砂の女(阿部公房)
歴史の教科書なんかに載るから、かえって人を遠ざけているんじゃないかと思う。一部難しい描写があって、社会背景も踏まえないと理解が困難なのだけど、そんなことが些事に思えるほど、スリリングでミステリアスな展開。
補助金目当てのために、世帯ごとに砂の穴に住んでいる集落がある。外者の男が集落につかまってしまい、穴のひとつに閉じ込められる。彼は逃げ出すことができるのか?
第一級のミステリー小説だ。現代なら、このミス大賞とか四冠くらいとっていると思う。安部公房はノーベル文学賞の最終候補にもノミネートされていた。
斜陽(太宰治)
太宰治は、とにかく文章力のある作家なのだけど、ストーリーテリングも第一級。その才が炸裂した長編小説。
「それが地獄のはじまりだったのです」。こんなの、絶対に「なになに?」となる。
そこに最高のキャラクター造形が加わった。弱さと強さ、かわいらしさと狂気が同居したヒロインのお姉さんが魅力的。タイトルに副題を付けて「斜陽 ~勇敢な恋の歌~」としてしまいたくなるね。
わたしの評価フレームの項目がすべて完璧に押さえられてしまっている……
太宰先生が「どうだ、この傑作。やってやったぜ」と言っているような気がして仕方ない。
コンビニ人間(村田沙耶香)
過去の偉人たちに交じって最近のお方。
友人にこのコンビニ人間を薦めたところ、「面白かったです。思った以上にコンビニ人間でした」という感想が返ってきた。そう、思った以上にコンビニ人間なのだ。
いい文学作品とは何か? いろいろな定義があるとは思うが、わたしは価値観を強烈に揺さぶってくる作品ではないかと思う。いわゆるアート思考だ。課題解決を目指していない。課題自体を創りだす。
わたしはこの作品を読んで、人間なんてものは空っぽで、なんとなく他人の真似をしてるだけの生き物なんだなあ……と認識を新たにすることができた。
その事実があまりにも気持ち悪くて受け入れられないとき、あなたはコンビニ人間になる。「……???」 思った以上にコンビニ人間とだけ言っておこう。
これらの名作を読めば、布団で韓ドラ10本分の慟哭をし、砂の穴から一生抜けられず、最強のストーカーとなり、コンビニと一体化する人生を追体験することができる。
恐るべし、純文学。
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📚他にも 「銀河鉄道の夜」をあたらめて読むと……
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