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弄する夜の
回された腕が、頸動脈を圧迫する。
手の甲で顎を押し上げられて、
彼の唇に引き寄せられる。
舌が口の中に優しく入ってくる。
ゆっくりと口の中を這う唇と
中を激しくかきまぜる指の、
対照的な動きに痺れるような感覚が走る。
私が苦しそうに呻くと、彼の笑い声が聞こえた。
暗闇に慣れてきて、表情が見える。
彼が笑っていて、その笑顔を見ると、
また体に気持ちいい感覚が込み上げてくる。
その感覚が溢れそうになった瞬間、
ふいに舌と指の動きがとまる。
またさっきとは違う、
体のおかしくなる感覚になる。
戸惑いながら彼を見つめると、
どうしてほしいかちゃんと言って、と囁かれる。
体は熱くて、息もうまくできなくて、
くらくらした頭に彼の声だけが響く。
彼の首に腕を回し、しがみつく。
もっとしてください、と震えながら言う。
それからは何度も何度も体がおかしくなり、
もうやめて、苦しい、と懇願する。
その度に彼の笑い声が聞こえて、
指は一向に動きを止めない。
思わず涙が溢れる。
自分の体が自分のものではなくなって、
完全に彼の手中にあるような感覚に陥る。
前戯とは思えない前戯が終わる頃には、
体は震えていて、壊れそうだった。
彼がそのまま中に入ってくる。
だめだとわかっているのに
最近は避妊をせず入れてしている。
足を持ち上げられて、
何度も出し入れされる。
たとえば今、私が全力で、本気で抵抗しても
その甲斐なく私は好き勝手されるんだろうと
思うと、たまらなく興奮した。
私の体はもはや私の管理下にはなく
彼の下にあり、この瞬間だけは
私は本当に彼のものになったように思えた。
また首を絞められる。
死にそう、と思うところで手を緩められる。
殺してほしいのに。
あと少しのところで必ず手は離れる。
気持ちよさと、もどかしさと、苦しさで
心がぐちゃぐちゃになる。
彼と出会うまで、男の人と寝るたびに
私は自分から乖離しているような感覚だった。
抱かれながら、乖離した自分がこちらをみて
いるようで、居心地の悪さを覚えていた。
体は抱かれていても、心まで抱かれていなかったということなのだと、今さら思う。
今どうしてこんな風に、自分の全てを
彼に奪われているのかわからないけど、
こうしている間は、自分が自分じゃなくなって
解放されたような、許されたような、
そんな気持ちになる。
けど、それは本当に束の間で、
終わったあとは、現実に引き戻されて
急に冷静になった頭に不安が押し寄せる。
彼は終わるとすぐ寝てしまうけど、
私はなかなか眠りにつけない。
彼に起きてとせがむと本当に眠そうな彼が、
起きてるよ、君が眠ってから眠るよと
言ってくれる。
それを聞いた途端に罪悪感と安心感が湧いて
彼にせがむのをやめられた。
彼の腕の中で、私の体は徐々に元の体温を
取り戻していく。
目を瞑る。
今日がおわってしまう。いやだ、と願うのに
私も眠りにさらわれていく。
死にたい、と思うことは減ったけど
彼に殺されたい、と思うことは増えた。
彼はいつか、私を殺してくれるだろうか。
そんな考えが最後に頭をよぎって、
私は意識を失った。