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指輪の彼女【短編小説】

約1300文字です、お時間ある方
よろしければお付き合いください。


僕は、LUSHのバスボムが好きだ。

手に持ったバスボムをお湯に浸すと、しゅわーっと掌から崩れ、お湯に溶けていく。
色んな色が混ざって綺麗、いい匂い。

抗鬱剤と入眠剤をレモンサワーで流し込み
スマホから心地よい音楽を流して
この時間で僕は僕を取り戻す。

生きていく事の不安、人間関係、将来への絶望が
日中ずっと脳内を侵食し、ちくりちくりと小さな刀で僕の内側を突いてくる。
傷口が膨れ上がり、重たくなった体。バスボムがしゅわりと溶けていく浴槽の中に、僕の不安も絶望もしゅわりと溶けていく。

さっきlineに入っていたメッセージは彼女からだった
「今から行くね」と一言だけ。
毎週末、僕の家に泊まり、怠惰な時間の中で
愛していると僕を抱きしめてくれる彼女。
怠惰な彼女。

彼女の素性はよくわからない
彼と一緒に住んでいたはずなのに
最近、別居し始めたらしい。

その話を聞いて、僕は期待していた
次に会ったときには、左手の薬指の指輪が
外れているんじゃないかと期待していたが
今日も彼女の薬指には、細いシルバーにキラキラがついた指輪。

「彼に別れたいと伝えた」
それなのにどうして指輪を外さないんだい?

僕が浴槽で1本タバコを吸いながら
レモンサワーを飲んでいると
彼女も浴槽に入ってきた。

「君もよかったら一杯飲まない?」

彼女は一口レモンサワーを飲んだ
彼女の長い髪の毛が湯船をふわふわと泳ぐ
薔薇のように頬を赤らめながら、視線は冷たい。あぁ、なんて妖艶なんだ。

「ねぇ、どうして指輪を外さないんだい?」


気がついたら僕はパジャマを着て、布団の中にいた。

彼女は部屋のどこにも見当たらなかった。

彼女は消えてしまった。

彼女のスマホに電話をかけると、浴室から着信音が聞こえる。
浴室を覗くと、彼女は浴槽の底に沈み
薔薇色だった頬は青白く、水面を見上げていた。

硬く、冷たくなってしまった彼女の体を拭き
ペンチで薬指の指輪を切った。

台所にあるのは、入眠剤を細かく砕いた時に零れた、白い粉がこびり付いたアルミのシート。

こうでもしないと
君は間違った選択をしたまま
生きることになったでしょ?

自分で決断できないなんて
悲しい事を言わないで。

僕がいる事をどうして忘れてしまったの?

こんな事で怒らないよ。
これからは僕を一番に頼ったらいいんだよ。
僕が君を一番幸せにするから。

寒いだろ?僕のパジャマを着て
一緒に布団に入ろう。

そうだった、こうだった
君は布団に入ると一番に「愛してる」
そう言ってくれたんだ。

僕も愛しているよ。


浅い夢を見た、彼女と僕はかつて
恋人まがいな生活をしていて
何がきっかけか忘れてしまったけど
音信不通になってしまったのだ。

また連絡をすれば
会えるだろうか。

温かい紅茶を飲みながら
スマホをスクロールする前に気がついた

僕は彼女に触れた事も
会話すらした事もない。

彼女のSNSを見ると、ストーリーが2時間ほど前に更新されていた。投稿されていた写真は
ベーグルを持つ手、薬指に光る指輪。


【指輪の彼女】終わり


ほろ酔いながら、ざっと書いた作品です。
最後まで読んでいただき
ありがとうございます。m(__)m

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