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#歴史小説が好き

歴史小説への愛や、好きな作品・作家を語ってください!

新着の記事一覧

おねとまつ

「おまっちゃん」 「ナァに。おねやん」  時は十六世紀の戦国時代。二人の女子は仲が良い。  とかく、人の相性は初見で決まるのが世の常。 (おね)  素朴ながら、色白の肌艶が良い。織田の足軽弓衆、浅野又右衛門の養女。今は足軽組頭に出世した木下藤吉郎の妻。 (まつ)  幼き頃、父を失い、母が再婚。そのため、叔母が嫁いだ前田家に預けられた。成長したまつは従兄弟の又左衛門こと、利家と相思相愛。二人は結ばれて、子育てに追われる。   それにこの二人、互いの夫も交えて、家族

第十二話 平和が当たり前という勘違い 【独裁者・武田信玄(無料歴史小説) 第壱章 独裁者への階段】

何があったかを問う武田晴信に対し、真田幸隆は自分の過去を語り始めた。 「それがしの真田家は…… 信濃国の佐久郡[現在の佐久市、小諸市など]を治めていた、滋野一族の分家に当たります」 「滋野一族か。 我が武田家と同じ清和天皇の末裔にして、数百年に亘って佐久郡の平和を保っていた一族だと聞く」 「しかし。 長く続いた平和で…… 滋野一族は、致命的な『勘違い』をするようになってしまいました」 「勘違い?」 「平和が当たり前だと考えるようになったのです」 「平和が当たり前、か

第22話 露の玉の緒

 高遠城陥落の知らせはその日のうちに新府城の勝頼に届いた。  心肝寒からしめた勝頼は直ちに岩殿城へ移動する事を決め、翌、城を焼き払い、まず古甲府の一条家の屋敷へと向かう。このとき彼の許に残った従者は僅かに五百人ばかり───その中には怪しげな駄馬に乗せられた相模の方と、不安に表情を凍らせて歩く侍女たちの姿もあった。  塩崎村の小高い丘にさしかかった時、空に浮かぶ寂しげな三日月が見えた。相模の方は不意に馬を止めさせると、その月をしみじみ眺め、燃える新府城の方を振り返って、  「春

JW725 桃太郎、逝く

【景行経綸編】エピソード9 桃太郎、逝く 第十二代天皇、景行天皇の御世。 武内が東国視察の旅に出て、しばらくの時が流れた。 ここは、賀古郡城宮(兵庫県加古川市加古川町木村)。 景行天皇こと、大足彦忍代別尊(以下、シロ)は、大后の播磨稲日大郎姫(以下、ハリン)や皇子たちと共に、ある人物の最期を看取ろうとしていた。 その人物とは、若日子建吉備津日子(以下、タケ)である。  タケ「伝承にも『記紀』にも、このような場面は無いが、私も、これにて最期のようじゃ。」  シロ「

第十一話 真田登場 【独裁者・武田信玄(無料歴史小説) 第壱章 独裁者への階段】

武田晴信の妹・禰々。 たった1日で夫を失い、息子とも引き離されて茫然自失となった。 「どうして?」 この言葉を最後に何も語らなくなり、一切の表情が消えた。 人と心を通わせなくなった。  ◇ あまりにも辛い出来事に合った人間は…… 精神に強い衝撃を受け、一時的なパニック状態となってしまう。 これを見た脳は、命に関わる危険な状態になっていると認識し、身体全体に一つの『指令』を発する。 「心の扉を固く閉ざせ。 他人と一切関わってはならない。 そうすれば何も感じず、何の衝撃も

第十話 人々の崇敬の対象を討つ狡猾な手段 【独裁者・武田信玄(無料歴史小説) 第壱章 独裁者への階段】

武田晴信は、妹婿を殺すと決めていた。 妹婿の諏訪頼重が治める諏訪郡[現在の諏訪市、岡谷市、茅野市など]が、信濃国の入口に当たるからだ。 諏訪郡を通らずして信濃国の侵略などできない。 諏訪家は代々に亘って信濃国に住んでおり、故郷への深い愛着がある。 いくら義理の兄が率いる軍勢であるとはいえ…… 故郷への侵略行為を黙って見過ごすことなど有り得ない。 武器商人の質問に対し、晴信はこう答えていた。 「諏訪家が、故郷への侵略行為を見過すはずがあるまい。 妨害するに決まっている」

第九話 国を一つに 【独裁者・武田信玄(無料歴史小説) 第壱章 独裁者への階段】

一人の若い女性が、幼い息子を連れて逃げている。 六品の土地にいた民の一人である。 「こんな薄汚いやり方で銭[お金]を得ようとするなんて…… 人として間違っているぞ!」 女性の夫は、こう言ってお金を一切受け取らなかった。 強欲な人々の中でも際立って立派な人間であった。 それでも大量虐殺事件に巻き込まれ、家族を守って惨殺されたのだ。  ◇ 事件の直後。 六品の土地にいた民について、ある噂が飛び交った。 「六品と申せば…… 御勅使川の流れを変えた先の土地では?」 「うむ

【#1】 前田利家、石川県知事になる〜“強権”復興策〜

〜驚愕! 前田利家の“強権”復興策・加賀流タイムスリップの巻〜 ■執務室での相談 石川県庁知事室―― 歴史薫る障壁画に囲まれながらも、パソコンやモニターが整然と並ぶ不思議な空間。 若手職員・中山がドタバタと駆け込んでくる。 中山(若手職員) 「殿、失礼します! 今回は沿岸部にある町“M”の者が緊急のご相談です。地震の影響で、福祉避難所が過密状態らしく…。」 前田利家(知事) 「ほう。前にも高齢者の避難所問題があったな。今回はさらに深刻とみえるが、何事か、詳しく聞こう

第八話 悪人を一掃する好機到来なのか 【独裁者・武田信玄(無料歴史小説) 第壱章 独裁者への階段】

武田晴信の治水工事で、最も重要な部分が完了する。 京都にいる天皇すら驚かせた暴れ川・御勅使川は、川の流れそのものが変わっていた。 竜王の高岩という崖がある場所へと向かって流れ、そこで釜無川に合流したのである。 それからしばらく経ち、大雨の季節となった。 数日間大雨が続いたために御勅使川も釜無川も増水し始める。 特に御勅使川を流れる水の勢いは激しく、たちまち鉄砲水となって釜無川へと襲い掛かった。 「やはり…… あの川には、神が宿っていたのか。 人ごときが敵うような相手では

JW724 讃留霊王

【景行経綸編】エピソード8 讃留霊王 第十二代天皇、景行天皇の御世。 西暦93年、皇紀753年(景行天皇23)。 ここは、讃岐国(今の香川県)。 神櫛皇子(以下、ムック)は、悪しき魚を退治するため、現地に赴いていた。 合いの手は、若日子建吉備津日子(以下、タケ)。 そして「カルロス」と「ホセ」など、讃岐の民と共に、大船団で海原を進むのであった。  ムック「悪しき魚は、何処じゃ!?」  カルロス「さっさとやっつけて、昔のように、魚が獲れるようにするんじゃ!」 

第七話 独裁者と侵略戦争 【独裁者・武田信玄(無料歴史小説) 第壱章 独裁者への階段】

武田晴信は、甲斐国[現在の山梨県]の『独裁者』を目指している。 ただただ純粋に国を、民を憂う思いからであった。 親戚同士の今川と北条の両家が手を結んで甲斐国の弱体化を図り、隙を見せれば牙を剥いて襲い掛かって来るからだ。 既に今川家は遠江国[現在の静岡県西部]を、北条家は武蔵国[現在の東京都、埼玉県]を『侵略』していた。 甲斐国だけが無事で済む保障など一切ない。 秩序が崩壊した戦国乱世なのだから、むしろ侵略されて『当然』だろう。 侵略者から国を守るためには、国を一つにしな

短編小説~ 「神に捧げられし実 〜カカオの起源〜」

では、第1章 「神に捧げられし実」(古代マヤ文明)から書き始めますね! 「神に捧げられし実」(古代マヤ文明編) 1. カカオの森  太陽が森の奥深くに沈もうとするころ、イツァムは静かに手を合わせた。  足元には、彼が大切に育てたカカオの木が並んでいる。赤銅色の肌に汗が光り、額には今日も収穫の証であるカカオの実が揺れていた。 「今年も神々に捧げるにふさわしい実が実った…」  彼は丁寧に一つのカカオをもぎ取り、両手で捧げるように掲げる。  マヤの人々にとって、カカオは神

山本兼一「修羅走る 関ケ原」を読んで、関ケ原の合戦とは何だったのかを想う

関ケ原の合戦について、遠い昔にそんなことがあったくらいしか知識がなかった。 時代小説をむさぼり読むようになって、2年半過ぎた頃に読んだ本書。 特に池波正太郎の作品は、戦国時代、江戸時代、幕末、それぞれが面白くて、自然に日本の歴史に興味を持つようになった。 目についたものから読んでいったので、時代背景の順番はバラバラ。 1冊、1冊は点でしかなかった。 ところが、和田竜さんの「のぼうの城」を読んだあと、今回の「修羅走る 関ケ原」を読んだことで、これまで読んできた点の作品

JW723 神櫛皇子出陣

【景行経綸編】エピソード7 神櫛皇子出陣 第十二代天皇、景行天皇の御世。 西暦93年、皇紀753年(景行天皇23)。 ここは、纏向日代宮の近く。 若日子建吉備津日子(以下、タケ)の指導のもと、景行天皇こと、大足彦忍代別尊(以下、シロ)の皇子たちが、剣術修行に励んでいた。  メジャー(12)「聞いてないよ。こんなこと・・・。」  五百彦「良いではないか! 名のみの登場では空しかろう?」  リトル(12)「俺は漲っておるぞ! えい!」  イッサ「えいやぁ!」 

第六話 京の都の武器商人との取引 【独裁者・武田信玄(無料歴史小説) 第壱章 独裁者への階段】

武田晴信は、追い詰められていた。 治水工事の途中でお金が尽きてしまったからだ。 「人夫に手当が払えません。 一旦、工事を中止するしかないと存じます」 と。 何とか工事を続行したい晴信は、手当り次第に豪商たちを回ってお金を貸すよう求めたが…… 誰一人として首を縦に振らない。  ◇ ついに晴信は激高した。 「おのれ…… 生意気な商人ども! 武田家を何だと思っているのじゃ! 清和天皇の末裔にして、源義家公の弟である新羅三郎義光の血筋ぞ? 数百年に亘って続く源氏の『名門』で

女衒(ぜげん)とは何か、その歴史的背景

女衒(ぜげん)とは何か、その歴史的背景 女衒とは、歴史的に遊廓(公娼施設)や花街に女性を斡旋することを業とした人々のことである​ jbpress.ismedia.jp 。江戸時代後期には既にその存在が確認されており、当時の文献には「貧しい農民の家から娘を買い取り、遊廓に売る人買い稼業」として女衒が描かれている​ jbpress.ismedia.jp 。女衒は「嬪夫(ぴんぷ)」とも呼ばれ、売春労働に女性を仲介する専門家であった。彼らは女性の容姿や素質を瞬時に見極め、遊女

京都と舞妓: 歴史、文化、そして現代への継承

1. 歴史的背景と文化的意義舞妓の起源と発展 舞妓(まいこ)は、京都の花街(かがい)で芸妓(京都では芸者を「芸妓(げいこ)」と呼ぶ)の見習いとして芸を磨く若い女性を指します。その起源は今から約300年前、江戸時代中期にさかのぼります。当時、京都の八坂神社(祇園社)や北野天満宮の門前町にあった水茶屋(みずぢゃや)で働いていた「茶汲女(ちゃくみおんな)」や「茶立女(ちゃたておんな)」と呼ばれる娘たちが始まりでした​ 1shutakumi.co.jp 。彼女たちは参詣客に茶

第五話 晴信の治水方針を真似した江戸幕府 【独裁者・武田信玄(無料歴史小説) 第壱章 独裁者への階段】

川の流れそのものを変えるという前代未聞の治水事業・信玄堤。 非常に先進的な取り組みではあったが…… 自分ファーストの『人間』が妨げとなった。 洪水は、甲斐国全域に被害を及ぼしていたわけではない。 特に釜無川流域で起こっていた。 他の地域に住む人々にとっては他人事であったのだ。 政府から、あなた宛にこんな手紙が届いたら…… どうするだろうか? 「川の流れそのものを変える工事の実施が決定致しました。 お手数ですが、数ヶ月以内に今の家を立ち退いて頂きたい。 代わりの家とお金

第四話 湧き上がる憎悪 【独裁者・武田信玄(無料歴史小説) 第壱章 独裁者への階段】

甲斐国[現在の山梨県]の人々を何百年も苦しめていた、洪水という自然災害。 残念なことに…… 人々は洪水と戦うことを諦めて『現実』から目を逸し、こんな的外れなことを言い始めた。 「自然は神である。 人が神に対して無力なように、人は自然の猛威に対して無力なのだ。 自然という神を崇めよ」 続けて、こんなことまで言い出した。 「だからこそ。 我々は神話や風習[しきたりのこと]を守り続けなければならない。 絶やせば祟りが起こるぞ!」 と。 こうして人間が都合の良い神々を作り出し

JW722 猿が籠った山

【景行経綸編】エピソード6 猿が籠った山 第十二代天皇、景行天皇の御世。 西暦90年、皇紀750年(景行天皇20)春。 ここは、伊勢国の五十鈴宮。 二千年後の三重県伊勢市に鎮座する、伊勢神宮の内宮。 天照大神の御杖代が代替わりをした。 倭姫(以下、ワッコ)から、五百野皇女(以下、イオ)に替わったのである。 そして、景行天皇こと、大足彦忍代別尊(以下、シロ)の一行は、解説をおこなっていたのであるが、そのとき、猿のルフィが皇女に悪戯したのであった。  イオ「痛いっ

第参話 信玄堤 【独裁者・武田信玄(無料歴史小説) 第壱章 独裁者への階段】

武田晴信の側近の一人に、高坂昌信という男がいた。 武田家中でも特に有能な家臣として有名であり…… 後に信濃国・海津城[現在の長野市]を預かって越後国[現在の新潟県]の軍神・上杉謙信から善光寺平[現在の長野盆地]を守り切った名将だ。 晴信と昌信で最初に取り掛かったのが、甲斐国[現在の山梨県]の人々を苦しめていた『洪水』の対策であった。 「昌信よ。 民は何百年も洪水と戦ってきた。 高くて頑丈な堤防を築いても、数十年に一度の大雨が降ると必ず決壊してしまう…… これをひたすら繰り

第弐話 雌伏の時 【独裁者・武田信玄(無料歴史小説) 第壱章 独裁者への階段】

武田晴信の弟・信繁の言葉が、兄の目を覚ます。 「兄上は『利用』されたのです! 国衆や家臣どもは…… 武田家にも、兄上にも、忠誠を尽くす気など微塵もありませんぞ!」 「……」 「父上は確かに暴君でござった。 されど…… 国の平和を達成した名将であることも、紛れもない事実です」 「……」 「違いますか?」 「よくぞ申してくれた。 父上の追放計画を聞いたときから、わしには違和感があった」 「ならば、なぜ?」 「堪らなく嬉しかったのじゃ。 国衆や家臣のみならず、今川家や北条

大河ドラマ「べらぼう」シリーズ~一橋家の知られざる歴史~

前回の大河ドラマ『べらぼう』シリーズでは、徳川御三卿の一つである、田安家を取り上げました。 本日は徳川御三卿の1つ。 一橋家に焦点を当てていきたいと思います。 2025年の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」では、 一橋家が物語の舞台の一つとして描かれます。 主人公の蔦屋重三郎は、一橋家と深く関わり、その興亡を見つめることになります。 一橋家とは一橋家は、八代将軍徳川吉宗の四男である徳川宗尹を祖とし、いわゆる御三卿の一家として誕生しました。 御三卿(田安、一橋、

JW721 多気宮

【景行経綸編】エピソード5 多気宮 第十二代天皇、景行天皇の御世。 西暦90年、皇紀750年(景行天皇20)春。 景行天皇こと、大足彦忍代別尊(以下、シロ)の一行は、伊勢に赴いていた。 天照大神の御杖代の代替わりのためである。 ここは、伊勢国の五十鈴宮。 二千年後の三重県伊勢市に鎮座する、伊勢神宮の内宮である。  倭姫(以下、ワッコ)「大王! お久しゅうございます。お会いするのは、エピソード578以来にござりまするな。」  シロ「おお! ワッコ! 久方ぶりじゃ

第壱話 信虎追放事件 【独裁者・武田信玄(無料歴史小説) 第壱章 独裁者への階段】

武田信玄。 甲斐源氏の名門・武田家第19代目の当主である。 因みに信玄という名前は出家した際の法名であり、正式な名前を武田晴信と呼ぶ。 甲斐国[現在の山梨県]一国の大名に過ぎなかった武田家を、信濃国[現在の長野県]、駿河国[現在の静岡県東部]、上野国[現在の群馬県]を加えた東日本最強の大名へと飛躍させた戦国屈指の『英雄』でもある。  ◇ この当時。 日本の統治者は、天皇から武士の棟梁[代表のこと]を表す征夷大将軍に任命された、河内源氏の嫡流の血筋を持つ足利将軍家であっ

国を、民を守るために、武田信玄は独裁者を目指す 【武田信玄、辞世の句が教えてくれること(大罪人の娘・前編、第参章を終えて)】

武田信玄、辞世の句。 「大ていは 地に任せて 肌骨好し 紅粉を塗らず 自ら風流」 これは、以下のような意味である。 「大抵は世相[世の中の状況]に合わせて生きていくしかないが…… だからといって人目を気にして上辺だけ取り繕う[表面だけ良く見せる]ような生き方をしてはならない。 自分にとって本当の正しい生き方を、『自ら』動いて探し続けよ」 と。  ◇ 「大抵は世の中の状況に合わせて生きていくしかないが……」 まずは、この前半部分。 正直。 あの戦国最強の大名とも謳われた

第四十五節 教団と手を切る男、教団に挑む女 【大罪人の娘・前編(無料歴史小説) 第参章 武田軍侵攻、策略の章】

武田信玄は、息子・四郎勝頼と最後の言葉を交わし始めた。 「息子よ。 もし、織田信長との和平が成立しなかったときは…… どうする?」 「どうする、とは?」 「座して死を待つわけではあるまい?」 「当然でしょう」 「そうならば! 教団との結び付きを保っておいて欲しいのだが、どうじゃ?」 「あの本願寺教団と……」 「もう一度、信長を釘付けにする状況を作り出すことさえできれば…… 勝ち目は十分にある。 そなたには類まれな軍略の才があり、武将としての本能を極めた武田四天王もいる

JW720 伊勢からの言伝

【景行経綸編】エピソード4 伊勢からの言伝 第十二代天皇、景行天皇の御世。 景行天皇こと、大足彦忍代別尊(以下、シロ)が筑紫(今の九州)から帰還して、二年の歳月が流れた。 すなわち、西暦90年、皇紀750年(景行天皇20)春。 ここは、纏向日代宮。 大連や大夫たちが居並ぶ中、伊勢より、ある人物が訪れていた。 大若子こと、大幡主(以下、ワクワク)である。  ワクワク「エピソード598以来の登場だよ!」  シロ「して、何用で参ったのじゃ?」  ワクワク「実は、倭

第四十四節 織田信長の愛娘が産んだ男子を武田家の当主に 【大罪人の娘・前編(無料歴史小説) 第参章 武田軍侵攻、策略の章】

待ちに待った書状がついに来た。 武田信玄への、教団の総本山・石山本願寺からの回答である。 内容は大きく3つ。 1つ目は…… 「織田信長との和睦を命じた勅命[天皇からの命令のこと]に逆らう行動は、できるだけ避けたい」 ということ。 人気で成り立つ教団にとって一番怖いのは、その人気を失ってしまうことである。 だからこそ。 人気のない幕府よりも、人々から崇敬の念を抱かれている天皇の方がはるかに気を遣う相手なのだ。 これこそが。 人気を基盤とする集団が持つ致命的な『弱点』と言え

『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬(著)/独ソ戦をベースに「女性だけの狙撃部隊」を作り上げた物語

Kindle 版で495頁の長編小説。 エピローグ(WWII 終結から数十年後の設定)で「戦争は女の顔をしていない」を、著者スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチが書き始め、インタビュイー(interviewee:女性の元従軍兵士)を探しており、主人公たちがそれに興味をもつシーンが出てくる。 作者がこの物語を執筆するとき、参考図書にしたのではないかと思う。 この小説は本になる前、カクヨムに連載された(現在は非公開)。 カクヨムにインタビューがある。 戦闘シーンで主人公セラ

二年半泣き暮らした悲嘆を、歴史小説が救ってくれた

2020年、闘病中の夫が星になった。 コロナ渦の、志村けんさんが亡くなった1か月後、ロックダウンの真っただ中。 日本中が静まり返って、他県の車は石を投げられるという様相の時だった。 お葬式はまともにできず、他県に居る子どもとも簡単に行き来ができない。 とてもメンタルがやられてしまって、仕事以外はずっと閉じこもり、毎日毎日なみだが止まらなかった。 何も考えなくて済む方法は、読書だった。 物語りに集中している間だけは何も考えなくて済んだ。 断捨離をして本もかなり手放してしま

JW719 綺麗に避けて

【景行経綸編】エピソード3 綺麗に避けて 第十二代天皇、景行天皇の御世。 西暦88年、皇紀748年(景行天皇18)秋。 景行天皇こと、大足彦忍代別尊(以下、シロ)の一行は、筑紫(今の九州)の巡幸(天皇が各地を巡ること)を終え、国中(今の奈良盆地)に戻った。 ここは、纏向日代宮。 「シロ」の面前で、大連と大夫たちが、険しい表情をするのであった。  ちね「大王! これは、どういうことやねん!」  シロ「それは・・・。」  カーケ「筑紫を平定するのではなかったのかね

第四十三節 徳川家康の三河国統一に利用された教団 【大罪人の娘・前編(無料歴史小説) 第参章 武田軍侵攻、策略の章】

1573年2月。 野田城[現在の愛知県新城市]が、ついに落ちた。 藪の中にある小さな城と言われ、数百人の兵士しか収容できない程度の防御施設が…… 武田軍3万人の攻撃を1ヶ月以上もの長い間に亘って防いでいたらしい。 その割に、籠城戦を指揮した武将の名前が轟くどころか未だに無名なのはなぜだろう? 戦国最強と謳われ、しかも圧倒的な兵数を誇る武田軍の攻撃を『本当』に防いでいたなら眉唾ものだが、そんなことは不可能に決まっている。 実際に野田城の跡地を見た人がこんな感想を抱くからだ。

第19話 抗えぬ血脈

 さて、新府城に到着した真田昌幸が、まだ施工途中の本丸御殿に駆け込めば、広間の上段の間に座った武田勝頼は家臣たちと評議の真っ最中。ところが皆、思いもよらない事態に驚いているのか呆れているのか、深刻な表情をしているだけで発言する者もなく、普段は勇ましい者も大人しく、智に優れた者も頭が回らない様子で、勝頼でさえも言葉を失くして一人呆然と佇んでいた。  「一条信龍殿と穴山梅雪殿はどこにおる?」  昌幸は大事な協議の時は必ず在席する二人の姿が見えないのを怪しんで聞くと、譜代家老の小山

【改版】Kindle電子書籍&ペーパーバック『室町・戦国三都小説集』『日根野の王』新版完成しました!【歴史小説】

いつも見ていただいているみなさま、本当にありがとうございます。 この度、Kindle電子書籍&ペーパーバックで発売中の拙著、 『室町・戦国三都小説集』 『日根野の王』 の二作が、新版として再発売いたしました! 変わったところ👇 ●ペーパーバックの版型が変わり、より美しく、コンパクトな書籍になりました! ●ルビが増えて読みやすくなり、その打ち方も実際に出版されている書籍に準じたものになりました! 最終改定バージョンとなる今回の新版。 よろしければこの機会に、ぜひダ

JW718 左利きの兄者

【景行経綸編】エピソード2 左利きの兄者 第十二代天皇、景行天皇の御世。 西暦88年、皇紀748年(景行天皇18)9月20日。 景行天皇こと、大足彦忍代別尊(以下、シロ)の一行は、筑紫(今の九州)の巡幸(天皇が各地を巡ること)を終え、国中(今の奈良盆地)に戻った。 ここは、纏向日代宮。 「シロ」は、大后の播磨稲日大郎姫(以下、ハリン)の元を訪れていた。  シロ「ハリン! 今、戻って参ったぞ。」  ハリン「嗚呼! 大王! お会いしとうございました!」  シロ「我

第四十二節 30倍の敵を撃破した真の武人 【大罪人の娘・前編(無料歴史小説) 第参章 武田軍侵攻、策略の章】

加賀国・吉崎御坊[現在の石川県あわら市]。 この国の大名・富樫一族の醜い身内争いに兵士として加わった大勢の『民』が、激しい怒りを剥き出しにしている。 「我らは兄を大名の地位に据えるため、命を危険に晒して戦った。 『もう雇い続ける銭[お金]がない』 だと? ふざけるなっ! 権力者や裕福な奴らは、また権力や富を独占するつもりなのか!」 ある者が、こう叫ぶ。 「皆の者! 教団の教えを思い出すのじゃ! 『念仏さえ唱えれば、誰でも極楽へ行ける。 あとは何でも自由にして良い』 と」

菜の花忌特別企画・司馬遼太郎初期長編を読もう!⑤『風神の門』

こんにちは、青星明良です。 この読書エッセイ『青星の読書放浪記』は、私が色んなジャンルの本を放浪し、推し作品をみなさんに紹介していくための連載です。 2月12日は、私が尊敬する司馬遼太郎先生の命日にあたる菜の花忌。 そこで、今週の2月10日(月)~2月14日(金)の5日間にわたって司馬先生の初期長編小説『梟の城』『花咲ける上方武士道』『風の武士』『戦雲の夢』『風神の門』を紹介していくことにしました。 最終日の今日は、『梟の城』につづいて伊賀忍者が主人公の『風神の門』です。

JW717 豪族を信じる

【景行経綸編】エピソード1 豪族を信じる 第十二代天皇、景行天皇の御世。 西暦88年、皇紀748年(景行天皇18)9月20日。 景行天皇こと、大足彦忍代別尊(以下、シロ)の一行は、筑紫(今の九州)の巡幸(天皇が各地を巡ること)を終え、国中(今の奈良盆地)に戻った。 ここは、纏向日代宮。 そこには、当然、大連たちの出迎えがあった。  シロ「ただいま、戻ったぞ。」  ちね「おかえりなさいませ。長き御幸でしたなぁ。」  武日「して、おいの息子は、活躍しちょったんです

第四十一節 戦国時代に広がった格差問題 【大罪人の娘・前編(無料歴史小説) 第参章 武田軍侵攻、策略の章】

「父上。 戦で儲けた銭[お金]が、すべての人々へ『公平』に行き渡っているとお思いですか?」 「公平ではないだろうが…… ある程度は行き渡っているはずじゃ」 息子が言った質問の意味が、父にはよく分からないようだ。 「この戦国乱世は、100年以上に亘って続いているのです。 要するに…… 公平でない状態のまま、非常に長い『時間』が経っていることになります」 「多くの銭[お金]を得ている者と、わずかな銭しか得られない者との『格差』が広がっていると申したいのか? 息子よ」 「は

明治天誅組 その② 天誅組、西田仁兵衛とは

天誅組、西田仁兵衛。 「謎の男」と呼ばれている。 この稿では、西田について追いかけていくのだが、 まず、天誅組とはなにか。そこから始めよう。 天誅組は文久三年(1863年)八月、大和五條の代官所を襲撃した。 メンバーは土佐や九州の脱藩浪人や、大坂・奈良近辺の草莽の志士たち。 中核メンバーは四十人程度。 孝明天皇の大和行幸に呼応して、討幕の旗をあげたとされている。 しかし、挙兵の翌日、八月十八日の変が勃発。 即時攘夷派の公卿三条実美らと長州藩が京を追われ、彼ら

菜の花忌特別企画・司馬遼太郎初期長編を読もう!④『戦雲の夢』

こんにちは、青星明良です。 この読書エッセイ『青星の読書放浪記』は、私が色んなジャンルの本を放浪し、推し作品をみなさんに紹介していくための連載です。 2月12日は、私が尊敬する司馬遼太郎先生の命日にあたる菜の花忌。 そこで、今週の2月10日(月)~2月14日(金)の5日間にわたって司馬先生の初期長編小説『梟の城』『花咲ける上方武士道』『風の武士』『戦雲の夢』『風神の門』を紹介していくことにしました。 4回目の今日は、悲運の武将の転落とリベンジをドラマチックに描いた名作『戦雲

黄金の世界とわびさびの世界(秀吉と利休)👑🍵

石破総理が、トランプ大統領と初めての対談を行った。対談の際に石破氏は、トランプ氏に、石川県の九谷焼と黄金の兜飾りを贈った👑 石破総理なりに、日本人の精神性を一番よく表すものを、トランプ大統領好みに仕立て上げて、贈ったのだと思う⚔️ *以下、朝日新聞電子版記事より      (2025.2.10 谷瞳児氏の記事) 権力者は金(きん)を好む。それは金が換金できる富の象徴であるばかりでなく、黄金のような眩い存在に自らの権力を模し、自己陶酔を具現化したいからだ✨ 権力者の対極

第四十節 戦国乱世を望む、大勢の人々 【大罪人の娘・前編(無料歴史小説) 第参章 武田軍侵攻、策略の章】

野田城[現在の愛知県新城市]という小さな城を『ゆっくり』と攻めていた武田信玄の元に、近江国[現在の滋賀県]へと放っていた密偵[スパイのこと]が続々と帰還して来る。 四郎勝頼を同席させた上で聞いた、その報告内容は驚くべきものであった。 「何っ!? 朝倉軍2万人が『撤退』を始めた?」 「誠に残念ですが…… 近江国の商人から買った兵糧が全く届かず、兵が飢えて軍の体を成さなくなったようです」 「そんな馬鹿な! 湖を使った水運も、陸路を使って運ぶ陸運も、両方とも封じられたのか?」

ジャパンウォーズ再開

 みなさま、お待たせしました。  明日より、ジャパンウォーズを再開したいと考えております。  という事で、今回は、どのように物語を作成しているのか語っていきたいと思います。  まず、基礎となる「日本書紀」や「古事記」、更に「先代旧事本紀」の記事を時系列にします。  実は、これらの書物には、いきなり過去の話が出てくる事があるのです。  ですので、そういった記事も、なるべく時系列に沿った形で載せる事にしています。  それから、各地の伝承を盛り込んでいきます。  この

菜の花忌特別企画・司馬遼太郎初期長編を読もう!③『風の武士』

こんにちは、青星明良です。 この読書エッセイ『青星の読書放浪記』は、私が色んなジャンルの本を放浪し、推し作品をみなさんに紹介していくための連載です。 2月12日は、私が尊敬する司馬遼太郎先生の命日にあたる菜の花忌。 そこで、今週の2月10日(月)~2月14日(金)の5日間にわたって司馬先生の初期長編小説『梟の城』『花咲ける上方武士道』『風の武士』『戦雲の夢』『風神の門』を紹介していくことにしました。 菜の花忌当日にあたる今日は、謎の隠し国をめぐる壮絶な戦いを描いた伝奇小説『

第三十九節 素人は戦略を語り、プロは兵站を語る 【大罪人の娘・前編(無料歴史小説) 第参章 武田軍侵攻、策略の章】

武田信玄の立てた西上作戦を実行して越前国[現在の福井県]から近江国[現在の滋賀県]へとなだれ込んだ朝倉軍2万人。 その総大将・朝倉義景には大きな『試練』が待ち受けていた。 家臣の一人が、ある報告を持ってきたからだ。 名前を前波吉継と言う。 内容を聞いた義景は驚き、愕然とした。 「兵糧が尽きた…… だと? 一体、どういうことじゃ?」 「近江国の商人から買った兵糧が全く届かないようで……」 「兵糧が全く届かない!? そんな馬鹿な! 前に来たときは何の問題もなかったではないか

第18話 風雲、急を告ぐ

 望月六郎が血相を変えて、智月のいる根津の巫女屋敷に飛んで来た。お雪が死に、甲斐から戻った智月組の巫女たちは、この年はもう何処へも行かず静かに喪に服し、この季節、辺りの草むらでは轡虫が鳴いていた。  塀の外から中を覗こうとする怪しげな男に気付いた使用人のお杉婆さんは、そっと箒を持って、気付かれないように六郎の後ろに回り、思い切り彼の尻を叩いて、  「コノ変質男め! 恥を知れぃ! いったい何の用じゃ!」  と金切り声を挙げた。びっくり仰天六郎は、甲賀の忍びの者のくせして近寄る老

【読書日記R7】2/11 BGMは「地上の星」 雪夢往来/木内昇

先週からこの冬一番の寒気が流れ込み雪が降りました。にわか冬籠りのつれづれに、そういえば雪の話を積んでいたなあ、と本書を手に取りました。 雪夢往来 木内昇 著  新潮社 越後塩沢の縮仲買商及び質商を営む鈴木家の儀三治は二十七才。 父から受け継いだ家業をさらに興そうと日々研鑽し、また、同じような立場の若者たちと集い塩沢村を盛り立てていくことにも熱心です。 一方で家中が寝静まった後、文机に向かい書や絵を書き留めることをなによりの楽しみにしていました。 ああ、これは<わたし>だ

逢坂剛と冒険小説と警察小説等

一時期、エンタメ系の小説にハマっていた。ハードボイルド小説、探偵小説、警察小説など。その中で割と最初の方に耽読したのが大沢在昌(おおさわ・ありまさ、1956年~)の作品だった。 大沢在昌の作品を購入していると、本屋の棚の中の近場でよく見掛ける作家の名前がある。作品数もそれなりにある感じで気になってくる。その作家の名前が逢坂剛(おうさか・ごう、1943年~)であった。 逢坂剛は、東京都文京区の生まれ。本名は、中浩正(なか・ひろまさ)。開成中学校・高等学校を経て、1966年に

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