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短編小説~ 「神に捧げられし実 〜カカオの起源〜」
では、第1章 「神に捧げられし実」(古代マヤ文明)から書き始めますね!
「神に捧げられし実」(古代マヤ文明編)
1. カカオの森
太陽が森の奥深くに沈もうとするころ、イツァムは静かに手を合わせた。
足元には、彼が大切に育てたカカオの木が並んでいる。赤銅色の肌に汗が光り、額には今日も収穫の証であるカカオの実が揺れていた。
「今年も神々に捧げるにふさわしい実が実った…」
彼は丁寧に一つのカカオをもぎ取り、両手で捧げるように掲げる。
マヤの人々にとって、カカオは神聖なものだった。
王や貴族だけが口にすることを許され、戦士たちはこれを飲んで力を得た。
しかし、イツァムにとってカカオはそれ以上の意味を持っていた。
それは、亡き父が遺したものだった。
「お前が育てたカカオは、王宮の神官にも認められるだろう」
村の長老が彼の肩に手を置き、微笑む。イツァムの胸は誇らしさで満たされた。
父の意思を継ぎ、この森で最も良いカカオを育てることが、彼の使命だった。
2. 王宮への献上
翌朝、イツァムは村の男たちとともにカカオの実を運び、ティカルの王宮へ向かった。
黄金に輝く装飾が施された神殿の前には、神官たちが並び、厳かな空気が漂っていた。
献上の儀式が始まると、イツァムは静かに前へ進み、精選したカカオを神官に差し出した。
神官はカカオの実をじっと見つめると、一口かじり、中の白い果肉を確かめる。
その後、実を砕き、石皿の上で粉状にすりつぶし、湯と唐辛子、バニラを加えて泡立てる。
儀式の間、誰一人として言葉を発さなかった。
王がその液体を口にすると、しばし瞑想するように目を閉じた。
「このカカオには…大地の力が宿っている」
王の言葉に、神官たちは深く頷いた。
イツァムの胸は高鳴った。
3. 予期せぬ運命
儀式が終わり、イツァムは村に戻る準備をしていた。
しかし、突然、王の近衛兵が彼の前に立ちはだかった。
「お前のカカオは、神々に捧げるにふさわしいものだ。王宮で育てることを許可する」
イツァムの目が見開く。
村を離れ、王宮で仕えるということは、もう家族のもとへ戻れないことを意味していた。
それでも、彼は迷わなかった。
「父の願いを叶えるために…」
静かに頷くと、彼はカカオの森に最後の別れを告げた。
次の章では、カカオがアステカ帝国に伝わり、チョコレートとして進化する過程を描きます。
物語を進めながら、歴史的な背景やチョコレートの起源を織り交ぜていきますね!