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SF、読書のよろこびマガジン

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大人になってからSFの楽しみを知った人の記録。本が好き、ゲーム興味ないかたはここで。
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【マンガ感想】ジョージ秋山と詰み本の呪い「ドストエフスキーの犬」など

【マンガ感想】ジョージ秋山と詰み本の呪い「ドストエフスキーの犬」など

ジョージ秋山は毒薬だ。
コンプレックスまみれのうじうじした男がひとりで傷ついて、通りすがりの女を横目で見て、欲情をおさえきれずに乱暴する。した方のくせに自分に嫌気がさして布団をかぶって泣く。死ぬ。

ジョージ秋山の代表作「浮浪雲」を父親が20年以上前に読んでいた。
今、それとは関係なくKindleで息子のぼくが同じ作者にたどり着いたことにちょっと恐怖を感じている。
なんで嫌悪感があるのに自分はジョ

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福本伸行はずっと、人が本気になる瞬間を書いている「無頼な風」

福本伸行はずっと、人が本気になる瞬間を書いている「無頼な風」

福本伸行「無頼な風 鉄」を読みました。
初期の人情マンガは「カイジ」「アカギ」でブレイクしたあとと違うんだろうなと思っていたら、初期福本、いいんです。どれも今の漫画にないアナログな力強さがあって、根っこの部分は変わっていない。
独特のテンポも言い回しも、あか抜けないギャグも、ずっと変わっていない。
枠線が歪んでたり、アシスタントの描いたモブの顔のタッチが明らかに違ってたり、手描きの味がする漫画は久

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アメリカの価値観 VS アジアの神秘「世界しあわせ紀行」

アメリカの価値観 VS アジアの神秘「世界しあわせ紀行」

久しぶりのテレビで「外国人の日本褒め」を浴びて気持ち悪かったけど、これを読んだら治った。
世界の人の大半は、外国人の評価がなくても、なにが誇りでなにが欠点か自分で決めるし、そもそも他人を気にしない。

これは、日本にも住んでいた鉄火巻き好きのアメリカ人記者が、「しあわせ」とされている国をめぐり、しあわせ迷路に迷い込む一冊だ。

読むだけでふつうに驚けるし、実際に旅行する100分の1かもしれないけど

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ファンタジー小説への苦手意識が減った

ファンタジー小説への苦手意識が減った

ほぼ初めての筒井作品だったけど、あまりに文章が落ち着いてて心地よくて、過酷な場面でもずっと幸せだった。
「超能力を持つ人々が出てくるSFファンタジー」を読んでいる感覚はなくて、旅行記を読んでいるみたいだった。

主人公はラゴスという青年。
「スカシウマ」に乗って南を目指している。この世界の人々は心を読んだり超能力を使ったりできるようだが、科学技術は発達していない。

最初の話に出てくる能力は「転移

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【読書】珍しいSFの芥川賞作家。高山羽根子「暗闇にレンズ」

【読書】珍しいSFの芥川賞作家。高山羽根子「暗闇にレンズ」

なんでもっと話題にならんのや

高山羽根子作品を3作読んだけど、もっと話題になってないとおかしくないですか?

感覚が今っぽい。
男に頼らない、小柄でインドア派だけどひとりで平気そうな女性が主人公。

設定はSFが入ってるけど、読んでいる最中は純文学というか。解釈はある程度読者にまかせられていて、面白いけどスッキリは終わらない。難解だけど押しつけがましくない。ふしぎなバランス。

「暗闇にレンズ」

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「さようなら、ギャングたち」を読んだり、ネットニュースを見るクセがついてしまったりした

「さようなら、ギャングたち」を読んだり、ネットニュースを見るクセがついてしまったりした

いつか読もうと思っていた高橋源一郎デビュー作を読んだ。(アマゾンの中古本シミだらけ)

「ギャングたち」がアメリカ大統領を殺し、「わたし」は詩の学校の先生をしながら恋人の「ソングブック」猫の「ヘンリー4世」と暮らす。

何百個も不条理な詩のようなものが連続して、読んだ人によって違う世界が浮かび上がる。

途中で娘の「キャラウェイ」もしくは「緑の小指」ちゃんがすてきなレディになるには、ダンスと数学と

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「月が綺麗ですね」と言わせたのは太宰治じゃないの

「月が綺麗ですね」と言わせたのは太宰治じゃないの

アイラブユーを「愛してる」と訳さずに「月が綺麗ですね」とでも言っておけ、
と夏目漱石が言ったことにされている。

読んでも、そんな場面ないので調べてみたら
「漱石が教師時代に言ってそうなこと」だった。
架空の名言がミーム化された野原ひろしみたいなことになっていた。
沢山文章あるのになんで架空の言葉追加した!お札の肖像画でいちばんイケオジやぞ!

だけど、太宰治の「津軽通信」を(金がないので図書館で

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【読書】人生は痛いものだとしつこくしつこくしつこくしつこくしつこくしつこく

【読書】人生は痛いものだとしつこくしつこくしつこくしつこくしつこくしつこく

しつこくしつこくしつこくしつこく語りかける、花村萬月の「ハイドロサルファイト・コンク」を読んだぞ!
「なんでこの作品への賛否で世間は荒れ狂っていないんだ!」と思いながら読んだ。

血液のがんになった作者の体験をもとにした、フィクションと一応銘打った、ノンフィクションに見える小説。
もともとの血液に放射線をあびせて殺し、ほかの人の血液を輸血して入れ替える治療で、血液型が変わり、顔かたちが変わり、爪が

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龍が如く外伝とワンピースの前に、原点の「宝島」の宝は何だったのか読んでみた

龍が如く外伝とワンピースの前に、原点の「宝島」の宝は何だったのか読んでみた

ワンピースが終盤だったり、龍が如く外伝のテーマが海賊だったりするじゃないですか。
この手の話は「伝説の宝とはいったい何なんだ!?」ってナゾが重要だけど、そもそも最初の「海賊の宝の地図もの」の宝箱には何が入っていたのか。

原点を知りたくてスティーブンスン「宝島」を読んだ。同作者の「ジキルとハイド」は読めなかったけど、訳も新しくて少年の心で読めた。

原点じゃなかった。
この本以前にも海賊伝説は山ほ

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【読書】台北プライベートアイ2(ネタバレなし)

【読書】台北プライベートアイ2(ネタバレなし)

前作は風呂で読んだから紙がしけちゃったけど、今回は夏なので湯船の影響を受けない。
かわりにマウントレーニアのコーヒーをトートバッグに入れて、フタしてるから大丈夫だろう、って忘れててしっかりシミになっていた。

なんで毎回半月で好きな本をボロボロにできるんだ!

台湾のミステリー「DV8 台北プライベートアイ2」
読みづらい。進まない。わき道にそれる。
登場人物がやたらと多く、主人公は本筋と関係ある

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【読書】権力を持つ人はなんでもやる「ルナ・ゲートの彼方」

【読書】権力を持つ人はなんでもやる「ルナ・ゲートの彼方」

R・A・ハインライン「ルナ・ゲートの彼方」を読みました。

見た目で本を選んでいるので、この、あえて派手じゃない、といって古臭くもない、表紙が気に入った。

でも、amazonにはまた違ったテイストのカバーしか載ってない。美しいけど、本格派の難解なSFと似たタッチ。

新しいほうは「トライガン」の内藤泰弘によるもの。
小中学生から楽しめる「ジュブナイルSF」のシリーズなので、あえて少し昔の少年マン

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【読書記録】ヴァージニア・ウルフ「灯台へ」

【読書記録】ヴァージニア・ウルフ「灯台へ」

文学を学んでいないから、ちゃんとした文章の書き方も、おさえておくべき古典も知らない。

ブックオフでそれっぽいオーラを出してたら「さては古典やな」というのが僕の文学に対する姿勢です。
だから英文学で重要な、ヴァージニア・ウルフという方も全く存じ上げず…。
すごく良かった。
今思えば、ドストエフスキーを読んでたときは無理してた。通好みとされてる音楽や味付けを、わかったフリじゃなくて、
「あ!これ好き

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【本好き日記】ヤーレンズ出井の禁煙、海外小説ツアーを経まして、四国のあやしい古本屋へ

【本好き日記】ヤーレンズ出井の禁煙、海外小説ツアーを経まして、四国のあやしい古本屋へ

年に一度の本棚整理の準備をしています。
8月は僕だけじゃないだろうけど異常なだるさ。
温度差と無気力が原因なのはわかってるのに、何これ軽めの熱中症?症状の出ないコロナ?と疑うぐらいだった。

読み切れなかった本も、難しいけどなんか好きな本も、自分ごときが感想書けない本もいっぱい出てくる。

台風の時に家にこもって、秘密基地みたいにして分厚い文芸誌を読むのよくね? って思ってできるだけお菓子を買い込

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【読書記録】パンとタバコをひたすら切り詰める25年

【読書記録】パンとタバコをひたすら切り詰める25年

「イワン・デニーソヴィチの一日」を読んた。表紙が好きという理由だけで選んだけど、予備知識なく期待もせず読めて幸運だった。

収容所の男がひたすら労働して、パンを節約している。
一口ごとに小さく味わって、隠して後でお粥の器をぬぐって食べる用に服に隠してとっておく。

仲間にタバコを分けて欲しくてずっと隣でタイミングをうかがってたり、極寒の中でまともな防寒対策もなく延々とレンガをつんだり、わずかな暖房

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