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福本伸行はずっと、人が本気になる瞬間を書いている「無頼な風」

福本伸行「無頼な風 鉄」を読みました。
初期の人情マンガは「カイジ」「アカギ」でブレイクしたあとと違うんだろうなと思っていたら、初期福本、いいんです。どれも今の漫画にないアナログな力強さがあって、根っこの部分は変わっていない。
独特のテンポも言い回しも、あか抜けないギャグも、ずっと変わっていない。
枠線が歪んでたり、アシスタントの描いたモブの顔のタッチが明らかに違ってたり、手描きの味がする漫画は久しぶりに読むとぜいたくな気分になった。

「無頼な風」は、気性が荒すぎて処分寸前の馬と、八百長にのれないまっすぐなジョッキーの話。

かつて若い女性に「にわか競馬ブーム」があって、ワンカップ片手のおっちゃんたちの中に、急に派手な女たちが現れて武豊に声援を送っていた(と浅田次郎のエッセイで読んだ。)そんな時代に、本気の勝負をするひとりのジョッキー。

福本作品はずっと
「くさっていた人が、本気になるきっかけと出会う話」を描いていた。
主人公も、命をかけて走る馬を見てなにかを感じて騎手になり、競馬ってのは金にならない馬を殺す最低のギャンブルだといいつつ、生き残るために勝つ。最後にその姿は、競馬場に来ていた人に伝染する。


もうひとつ、刑務所を舞台にした短編マンガ「懲りないサンバ」も収録されている。これは阿部譲二のエッセイ「塀の中の懲りない面々」を下敷きにしたもの。
刑務所の様子が「無頼伝 涯」の人間学園、「賭博破戒録カイジ」の地下帝国をイメージさせる。あの地下帝国、最低限の読み物や娯楽はあって、刑務所っぽかった。

この中に、だまされて運び屋にされて収容された外国人受刑者をはげますため、看守の肉を失敬するエピソードがある。
連想するのは「カイジ」でハンチョウが食っていたTボーンステーキだ。底辺のやつに見せつけるために食うステーキ。

原案の阿部譲二のエッセイを読んだら、(絶版。電子書籍にある)
元ネタになった実在の人物はいても、漫画で描かれたエピソードはほぼ創作だった。もちろん刑務所で肉を食うやつも出てこない。Tボーンステーキの源流になるエピソードがあるかと期待したのだが。

「塀の中の懲りない面々」
刑務所内のユニークなエピソード集と言うと「反省していない」と思われそうだけど実際は相当こたえたんだと思う。寒さに震えながら、それでも目は完全に死ぬことなくギラついていて、閉ざされた世界で拾い集めた話で大ヒットをとばした。





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南ミツヒロ
読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。

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