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#海外文学のススメ

おすすめの作品や作家、注目している国や地域を教えてください!

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♡今日のひと言♡アルトゥール・ショーペンハウエル~今日のマンガ

アルトゥール・ショーペンハウエル (1788- 1860~ドイツ・哲学者、思想家) 「意志と表象としての世界」(1819)などの著者として知られる。芸術論や自殺論が特に有名であるが、仏教やインド哲学、さらには法律学から自然学まで、様々なジャンルに精通している。その独特な厭世思想と主意説は、ニーチェやワーグナーらに大きな影響を与えた。 『へなちょこ鳥獣図鑑』~「デイトレーダー」

瞬間の詩学 -ポール・ヴァレリーの詩を巡るいくつかの随想

    【水曜日は文学の日】   言葉とは、物語を「語る」ためだけにあるわけではありません。   20世紀初頭のフランスの詩人ヴァレリーの作品は、様々な意味で、言葉そのものについて考えさせられるものです。 ポール・ヴァレリーは、1871年、フランス南部の地中海沿岸の生まれ。大学で法学を学びつつ、ボードレールやマラルメ等、象徴主義の詩に傾倒。自作詩を雑誌に発表し、大学卒業後、パリに出てマラルメのサロン「火曜会」に出ることになります。   1892年「ジェノヴァの夜」と呼ば

プラトンの『イデア論』超概略~今日のマンガ

「イデア」とは?プラトン(紀元前427ー紀元前347~古代ギリシア・哲学者) ソクラテスの弟子。弟子のアリストレスとともにアカデメイアという名で学校を開き、西洋哲学の大きな礎となった。主著「ソクラテスの弁明」「国家」「饗宴」等。

♡今日のひと言♡エミリー・ディキンソン(改訂)~今日のマンガ

エミリー・ディキンソン(1830-1886~アメリカ・詩人) ホイットマンと同じ時代を生きた詩人です。世間の評判を気にせず、自室に閉じこもり、自由な作風で内面の世界をひたすら精緻に綴ることに一生を捧げました。死後に1700以上の作品が公になり、世界中で高い評価を受けるようになりました。代表的な詩集としては、「自然と愛と孤独と」(初版 1999)。   『お墓さんが来た!』~「体育教師・ヒグチ」

ムーミンの作者が描く孤独 ー 【誠実な詐欺師 / トーベ・ヤンソン】

 「誠実な詐欺師」。  このなんとも不思議なタイトルの物語は、こんなふうに始まる。  うっとりするような出だしだ。  過不足なく清潔、それでいて詩情に満ちている。たったこれだけの描写で、わたしはすっかりその世界に連れていかれてしまう。  そこに立ち、あたりを見まわしてみる。  静かで、恐ろしく寒い。朝日の恵みはまだ届かず、室内だというのに吐く息がうっすらと白い。冷たい雪のにおい、獣の毛の匂い。  ポットからは湯気がたちのぼり、やがてコーヒーの香りが部屋に満ち始める。ゆらゆ

スタンダールの入口「恋愛論」(改訂)~今日のマンガ

. 1822年に発刊された「恋愛論」は、スタンダールが一人のイタリア女性への激しい片想いに悩んでいた時に書かれたものでした。 また、彼は生涯、この作品に何度も書き直しを加え続けたといいます。この著書に対する思い入れは相当強いものだったのでしょう。 作品の中で述べられている「恋愛の七段階」や「恋愛の四つのタイプ」などはよく知られています。また、「ただの塩がダイヤモンドに見えてしまう」(要は、あばたもえくぼ)等の「結晶作用」への言及も有名です。 たいへん長い(600ページ

♡今日のひと言♡トマス・アクィナス(改訂)~今日のマンガ

古代ギリシャ・ローマの後、ヨーロッパは1000年に及ぶ中世の時代を迎えます。そしてソクラテス、プラトンを主な源流とした西洋思想史は、キリスト教の「神学」に座を譲りました。 しかし12世紀ごろ、アリストテレスによる著書が知識人たちの間で読まれるようになります。 プラトンの弟子であった「万学の祖」アリストテレスは、自然科学を追究し、ソクラテスからプラトンへ引き継がれた観念論(イデア論)とは袂を分かちました。 また、彼は論理学の祖でもあったので、そのロジカルな思想は後のキリス

情熱の結晶に触れる -名作小説『若きウェルテルの悩み』の面白さ

    【水曜日は文学の日】   物語には、作品の内容を超えて、ある種の象徴・神話になっている作品があります。ソフォクレスの『オイディプス王』、ナボコフ『ロリータ』等。   ドイツの文豪ゲーテの名作『若きウェルテルの悩み』もそんな作品の一つ。若者の自殺についての名称になるくらい名高い結末は、最早あらゆる神話と同様、ある意味配慮をする必要のない作品でもあります。   しかし今読み返すと、色々な問題点も含めて、大変興味深い作品であり、その意味でも神話と同様の力を持っています。

霧の街の神話 -シャーロック・ホームズを巡る随想

    【水曜日は文学の日】     あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。   さて、新年初投稿は何にしようか考えていたのですが、私のルーツというか、最も影響を与えたものについて書こうと思います。 幼少期の私に最も影響を与えた文学、それは色々考えると、コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズのような気がします。   図書館にあった阿部知二訳の「シャーロック・ホームズ」シリーズに夢中になったわけで、今でも私は推理小説には「点数が甘い」と

芳醇な抒情 -テニスンの詩の魅力

    【水曜日は文学の日】     例えば歴史小説や、神話を題材にした映画等の作品には、しばしば、その過去の時代以上に、作者や創られた現在のものの考えや見方が反映されます。   19世紀のイギリスの詩人テニスンの作品は、古代に題材をとったものながら、その感情は19世紀的で、しかも荘重さを崩さない、今もって面白い詩です。 アルフレッド・テニスンは1809年イギリス中部生まれ。14歳の時には戯曲を自作し、18歳の時には兄弟と一緒に詩集を出す等、幼い頃から文学への才能を発揮しま

ロジックの魔が燃える -ヒラリー・ウォーの警察推理小説の面白さ

    【水曜日は文学の日】     推理小説の面白さは、意外な犯人を当てる楽しみの他に、その推理する過程、ロジックによって真相に迫る部分の面白さがある、というのは、推理小説が好きな多くの人が同意してくださると思います。   アメリカの推理小説家、ヒラリー・ウォーの作品は、警察による捜査と古典的な謎解きを凝縮した、推理小説の楽しみに満ちた作品です。 ヒラリー・ウォーは、1920年アメリカのコネチカット州生まれ。イエール大学で美術を専攻し、第二次大戦中に海軍にいる時に、暇つぶ

時代の魂を掴む -名作小説『ジャン・クリストフ』の面白さ

    【水曜日は文学の日】     長い小説というのは、枝葉末節が沢山ついているからこそ、面白いものです。物凄く整合性の取れた大長編小説というのは、ある意味矛盾した語句であり、整合性がなくとり散らかっているからこそ、長くなり、面白くもなるものです。   ロマン・ロランの長篇小説『ジャン・クリストフ』は、そんな長編大河小説の一つであり、古臭く思われがちでも、いざ読んでみると色々と面白い発見のある名作です。 主人公のクリストフが酒浸りの父親と優しい母の元に生まれる場面から、物

神話の力が燃え上がる -小説『ノートルダム・ド・パリ』の面白さ

    【水曜日は文学の日】     文学において「神話」というのは、決して切り離せないものです。小説であれ詩であれ、古代から続くその定型が、現代の文学にまで影響を及ぼします。   「ノートルダムのせむし男」で有名なヴィクトル・ユーゴーが1831年に書いた小説『ノートルダム・ド・パリ』は、そんな神話を結晶させつつ、新たに様々な力を加えることで、近代の神話に到達した、様々な意味で面白い傑作です。先日火災からの修復が済んだノートルダム大聖堂を舞台にしています。 15世紀のパリ。

空の彼方で煌めいて -サン・テグジュペリ『人間の大地』の魅力

    【水曜日は文学の日】      フランス文学の中でも、『星の王子様』の作者、サン・テグジュペリは、一般的な知名度が高い文学者の一人でしょう。   飛行士でもあったこと、そしてその悲劇的な最期も併せて、他にはなかなかいない作家であり、『人間の大地』は、そんな彼の特徴が良く表れた秀作です。 作品は全8章からなり、一貫して飛行機、そして空を飛ぶことに関する自伝的エッセイというか、独白のような形式になっています。   郵便物を運ぶための飛行機会社に入社したころの霧の中に迷い

♡今日のひと言♡ウォルト・ホイットマン(改訂)

ウォルト・ホイットマン(1819–1892~アメリカ・詩人、随筆家) 19世紀アメリカを代表するホイットマンの長編詩「草の葉」(1855)は、後世のケルアックらビート文学に至るまで、大きな影響を与えてきました。 日本には夏目漱石によって紹介されています。 伝統を打破したその壮大な世界では、自由なスタイルで人間性が称えられています。

過去の呼び声で振り返る -小説『終わりの感覚』の面白さ

  【水曜日は文学の日】     年齢を重ねるにつれ、どれ程楽天的な人であっても、悔恨することが増えてきます。   イギリスの小説家、ジュリアン・バーンズによる2011年の小説『終わりの感覚』は、そんな老年の悔恨のありようをアイロニーにくるんで切れ味よく描いた傑作です。イギリス最高の文学賞、ブッカー賞を受賞しています。   引退した生活を送る平凡な老人トニーに、見知らぬ弁護士から連絡が来ます。   ある女性の遺言で、ある人物の日記を寄贈したいとのこと。その女性はトニーの昔の

大地のざわめきを聴く -T・S・エリオット『荒地』の面白さ

  【水曜日は文学の日】   私はある統一された禁欲的なトーンの作品も好きですが、ざわめきや様々な色彩で溢れかえった、ごった煮の作品も大好きです。   詩人T・S・エリオットが1922年に発表した長編詩『荒地』は、あらゆる時代、場所の要素を溶かし込んだ記念碑的大作であり、今もってユニークな作品と言えます。 五部構成からなるこの長編詩。第一部『死者の埋葬』は、有名な詩句から始まります。     しかし、この荘重な始まりからすぐ、ドイツのリゾート地でのとりとめのない回想に移り

2024年12月読書記録 春樹、ウエルベック、文フリ本

 1月下旬になってしまいましたが、今更、先月の読書記録です。 村上春樹『中国行きのスロウ・ボート』(中公文庫)  村上さんの最初の短編集です。電子化されたので、ようやく読むことができました。初期作品なのに、完成度が高い! 長編第一作の『風の歌を聴け』が好きなのですが、それと似た雰囲気の短編が多かったです。あの羊男が登場する「シドニーのグリーン・ストリート」以外は、高等遊民風主人公の心象風景が中心の地味な話なんですよね。一応、突拍子もないことも起きるのですが、だから何という

とても切なくて、うつくしい愛*『ひかりのあめ』

 フランチェスカ・リア・ブロック『ひかりのあめ』は、ほぼ詩のようなうつくしい文体で、ある兄妹の愛をうたいあげた物語。  そのふたりを、やはり愛を抱いて見つめているウェストという青年がまたすてきです。  とにかく全体が詩的なので、翻訳作業はものすごくたいへんだったでしょうが、詩情があり、かつ物語としてちゃんと理解できるという、とても良い訳に仕上がっていると思います。 『ひかりのあめ』という邦題が、この作品の世界観を象徴していて、読後感はまさに「ひかりのあめ」のよう。  こ

痛々しいほどに純粋な心の救済*『人魚の涙 天使の翼』

 フランチェスカ・リア・ブロック『人魚の涙 天使の翼』を読んで、この作家のファンになってしまいました。  詩的な文章もすてきだし、自分の心を救うためにあえて自らを傷つけていくような少女の生き方に引きこまれました。とてもピュアで、どんなに傷ついてもそこで落ちていこうとするのではなく、うつくしいものを見出そうとして次の場所へ――そんな、きらきらした生命力が愛しくなります。  続けて読んだ短編集『“少女神”第9号』も、すごくよかったです。  作者は、アメリカのロサンゼルス在住

♡今日のひと言♡エラ・ウィーラー・ウィルコックス(改訂)

エラ・ ウィーラー・ウィルコックス(1850-1919~アメリカ・作家、詩人) 平明な文章で韻を踏ませた、軽快で楽観的な表現・作風で知られている。代表作は“Poems of Passion”(情熱の詩~19 c 末頃)や“Solitude”(孤独~1883)など。

STC対策💛 ✅輸出令別表第3の2に該当する国💣 国連武器禁輸国・地域のこと アフガニスタン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、イラク、レバノン、リビア、北朝鮮、ソマリア、南スーダン、スーダン ✅輸出令別表第4 懸念国のこと🚀 イラン、イラク、北朝鮮 ※2025年1月現在🌏

2025年1月読書記録 大江、不条理、夢見る騎士

大江健三郎『死者の奢り・飼育』/『芽むしり仔うち』(新潮文庫)  大江健三郎の初期短編集と初期長編を読みました。どちらも再読で、前はとても感動したのですが、今回は、あまりにもグロテスクな描写についていけない部分がありました。年取って、軟弱になったんだなーと思います。映画でも、昔好きだった暴力描写満載作から目を背けるようになってしまいましたし。タランティーノの初期〜中期作を今観て感動できるのか、自分でもわかりません。  とはいえ、タイトルにもなっている「死者の奢り」や「飼育

ハン・ガンの邦訳作品をすべて読む(全8冊それぞれの短いレビュー)

ノーベル文学賞に、韓国の作家ハン・ガンが選ばれた。アジア人女性がノーベル文学賞を受賞するのははじめてのこと。——報せを聞いて、どうしてかわたしは動揺した。部屋に林立する本棚は溢れかえり、つねに混乱をきわめているけれど、ハン・ガンの一連の著作がどこにあるのかおよそ思い出すことができる。調べてみると、邦訳された本はすべてもっていて、そのほとんどを既に読んでおり、一部はくりかえし読んでいた。そうなると、受賞の報に、喜ばしいだけとは少し異なる新たな戸惑いが生じてくる。 そういった動

♡今日のひと言♡ミシェル・ド・モンテーニュ(改訂)

ミシェル・ド・モンテーニュ(1533- 1592~フランス・哲学者) 16世紀ルネサンス期を代表する人文主義者です。 16世紀以降のフランスは、「モラリスト」と称される思想家を輩出しました。 彼らは人間性を鋭く観察し、「人間とは何か」「人はいかに生きるべきか」を短い箴言や散文で表しました。 その一人モンテーニュは「エセー」(1580)の著者として知られています。 「随筆」というジャンルを創始し、シェークスピアや後のパスカルらにも影響を与えたと言われています。  

ざわめきのリズムを感じて -ヘミングウェイ『日はまた昇る』の魅力

    【水曜日は文学の日】     一般的に流布されているイメージと、読んでみた感想が違う文学は結構あったりします。   ヘミングウェイの初期の小説『日はまた昇る』は、マッチョとしばしばいわれるこの作家の作品の中でも、都会と旅の魅力に満ちた、煌めきに溢れる作品のように思えます。その鮮やかな描写は、また、「マッチョ」とは別の魅力に感じるのです。 新聞記者のジェイクは、第一次大戦の戦場で受けた傷で性的不能になり、パリでその日暮らしをしています。   元看護婦のブレットとジェイ

2024年おすすめ本⑤

「人間の絆」サマセット・モーム 〈あらすじ〉 イギリスに戻ったフィリップの前に、傲慢な美女ミルドレッドが現れる。冷たい仕打ちにあいながらも青年は虜になるが、美女は別の男に気を移してフィリップを翻弄する。追い打ちをかけられるように戦争と投機の失敗で全財産を失い、食べるものにも事欠くことになった時、フィリップの心に去来したのは絶望か、希望か。モームが結末で用意した答えに感動が止まらない20世紀最大の傑作長編。 (Amazon概要より) 〈感想〉 人生のバイブルとして手元に置き

きらめきと抒情の記録 -チェーホフの短編の美しさ

  【水曜日は文学の日】     短編には長篇にはない良さがあります。短いからこそ、人生を圧縮して集中して味わうことができる。   『桜の園』等の戯曲でも名高いロシアの作家、チェーホフの短編は、そんな短編小説の醍醐味を堪能できる逸品ぞろいです。 アントン・パーヴロヴィッチ・チェーホフは、1860年ロシア生まれ。モスクワ大学で医学を学びながら、雑誌に短編を発表して生計を立てます。大学を卒業後、医師として働きつつ、本格的な戯曲も書いて、旺盛な文学活動を広げています。   『決

世界の熱に触れる旅 -小説『蒸気で動く家』の面白さ

    【水曜日は文学の日】     ある作品が、その作り手の中で例外的な存在でありながら、それ故に美しく感じられることがあります。   『八十日間世界一周』や『海底二万哩』といった空想科学小説で知られるジュール・ヴェルヌが1880年に発表した冒険小説『蒸気で動く家』は、彼の特徴が出ながらも、彼の作品群からやや逸脱した面白さのある作品です。   インスクリプトから「ジュール・ヴェルヌ 驚異の旅 コレクション」の一冊として翻訳出版されており、原作の優れた挿絵を全てつけて、冒険に

アガサ・クリスティー再読感想文 その1 推理小説に詳しくないけれど

 初めに  長編小説を再読することが好きです。  アーヴィングとかドストエフスキーとか『指輪物語』や『百年の孤独』など。  その中にアガサ・クリスティーもあって、折に触れ、読み返します。  でもクリスティーの作品のほとんどは推理小説。  推理小説なのに再読するの?  トリックも犯人もわかったのに?  と思う方も多いと思いますが。  よくできた推理小説は再読に値する魅力を持っている。  と私は思っています。 (少し前に公開した「『カラマーゾフの兄弟』再読感想文その2

♡今日のひと言♡ブレーズ・パスカル(改訂)

パスカルは数学者、自然科学者として早くから「パスカルの三角形」「パスカルの原理」「パスカルの定理」などの発見で功績を残しました。 その一方で彼は、ルネサンスを経た「科学・理性の時代」にあって「キリスト教を信仰すべき」と人々に説得することを使命としたのでした。 それを著書にまとめる前に、パスカルは39才の若さで病死してしまいます。 「パンセ」(1670)は、その準備段階として思いついた事を書き留めた数多くの断片的な記述を、遺族らが編纂し刊行したものです。 第一部では、人

♡今日のひと言♡バーナード・ショー

バーナード・ショー(1856- 1950~アイルランド・文学者、政治家) ヴィクトリア朝時代から近代にかけて活躍、53本もの戯曲を残し、「他に類を見ない風刺に満ち、理想性と人間性を描いた作品を送り出した」として1925年にノーベル文学賞を受賞した。 代表作「ピグマリオン」(1912)は、オードリー・ヘップバーン主演の映画「マイ・フェア・レディ」の原作として知られている。

スタインベックの短編 | 朝めし (Breakfast)

 今年になって、英語学習の一環として、ラルフ・エリソン「透明人間」を、原文で読んでいたのですが、少し飽きてきたので、ここ数日スタインベックの短編を読んでいます。1つの短編ならすぐに読み終わりますしね。  「怒りのぶとう」という長編小説を書いたスタインベックは短編小説の名手としても知られています。  ペンギン・クラシックスに収録されているスタインベック短編に「Breakfast」という作品があります。正味3ページ程度。  テントで赤ん坊に乳をやりながら女が作る朝食を3人の

青春の熱気を叫ぶ -シュルレアリスム文学の面白さ

  【水曜日は文学の日】   イメージというのは、それが何に基づいているかが重要に思えます。   20世紀初頭の、いわゆるシュルレアリスム運動によって生まれた文学や絵画は、強烈なイメージを持ちつつ、その来歴を考えさせてくれる作品群です。 シュルレアリスムの運動自体は、同時多発的に色々と起きているのですが、きっかけは第一次大戦であり、そのメインストリームは、大戦中に始まったダダの活動から始まっていると考えていいでしょう。   特に重要なのは「チューリヒ・ダダ」。スイスのチュ

ボードレール抄|『異教派』より

▶ 情熱と理性を追い払う、それは文学を殺すことである。 ▶ 唇で言い馴れたことは、心が自ら信じてしまうものだ。 ▶ 凡そ、文学が科学と哲学の中間を親しく進むことを拒むなら、それは殺人の文学、自殺の文学であることを我々が理解する日は、そう遠くない。 ▶ 姿形に対する過度の嗜好は、怪物じみて得体の知れない無秩序へと成長する。美しさ、奇妙さ、愛らしさ、画趣によって駆り立てられた情熱に心奪われていると、そこには段階があるからなのだが、正義や真実の観念は見えなくなってしまう。芸術

見えないものを語るために -名作短編『ねじの回転』の面白さ

    【水曜日は文学の日】     古今東西、物語にはジャンルという名の、ある種の「型」があります。 イギリスの小説家、ヘンリー・ジェイムズが1898年に発表した短編『ねじの回転』は、作者の技量と、そんな物語の型がうまくはまって深みを増した名作短編です。 クリスマスイブの夜、古い屋敷に集まった人々で怪談話をするところから始まります。ダグラスという初老の男性が、自分より10歳上の女家庭教師の書いた文章があるという。それを朗読したダグラスの原稿を作者が貰ったという設定で、女

ドストエフスキーのすごさはどこにある?その魅力を味わうためのおすすめ解説書15冊を厳選してご紹介!

はじめにロシアの文豪ドストエフスキー。 誰もが知るその名を知る文豪でありますが、その作品たる『罪と罰』や『悪霊』、『カラマーゾフの兄弟』を読み通したことのある方はこの読書離れの時代においてかなり少ないのではないかと思われます。 それもそのはず、まずこれらの作品はとにかく長い! タイパタイパと時間の効率化がものを言うこの時代において、読んでも読んでも終わりの見えない長編小説にどうして時間を割くことができましょうか・・・。 しかもとにかく難しい・・・。聞きなれないロシア

こんなに素敵な物語だったとは…◇秘密の花園

 小学生のころから存在を知っていた名作ですが、じつは、いまになってはじめて読みました。  F.H.バーネット『秘密の花園』。  複数の出版社からいろいろな翻訳本が出版されている中で、今回私が読んだのは、2024年3月に教文館から出たばかりのハードカバー(訳:脇明子)です。常体(だ・である調)で訳されていて、大人も読みやすく、ジェリー・ウィリアムズの挿絵も素晴らしい!  そもそも、長年読まずにいた名作をなぜいま手に取ったかといえば、「教文館が出している?」と興味を持ったから。

読書記録「ピーター・パン」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です! 今回読んだのは、ジェームズ・バリー 本多顕彰 訳「ピーター・パン」新潮社 (1953) です! ・あらすじ 英国 ロンドンはケンジントン公園。閉門時間を過ぎると、ピーター・パンが妖精たちと遊んでいるのを見られるかもしれない。 ピーター・パンはいつからここにいるのか。それは定かではありません。 彼はいつも同じ年齢なので、数日前なのか、あるいは数十年前なのかもしれません。 ピーター・パンは生まれて7日を過ぎる前に、窓から飛んでいっ

輝く季節を旅する -フォークナーの小説『八月の光』の美しさ

    【水曜日は文学の日】     光あるところに影があるように、物事には、二つの対照的な側面があります。   しかし、例えば一つの小説の中で全く対照的な物語を進めることは、案外困難で、少ないように感じます。 アメリカの小説家ウィリアム・フォークナーの1932年の長篇『八月の光』は、二つの異なった物語を合わせた傑作であり、しかも、驚くべき後味のよさを持つ作品です。 物語は、リーナ・グローブという少女の話から始まります。身重の身の彼女は、お腹の子供の父親であるルーカス・バ

推し活翻訳27冊目。Why You Should Read Children’s Books, Even Though You Are So Old and Wise、勝手に邦題「そんなに賢く大人のあなたでも、子どもの本を読むべきその理由」

原題:Why You Should Read Children’s Books, Even Though You Are So Old and Wise 原作者:Katherine Rundell 勝手に邦題:そんなに賢く大人のあなたでも、子どもの本を読むべきその理由 出版社:Bloomsbury Publishing   概要と感想:   今日ご紹介するのは、珍しく大人向けのエッセイ。 朱色が鮮やかな装丁にフクロウのイラストが効いていて、ほぼ文庫本と同じサイズ。そして、本文

先週届いた本。世界の絶滅危惧種についてのエッセイで、いろいろ考えさせられる…。手もと本はイギリス版の The Golden Mole ですが、とっても素敵なイラストの雰囲気がわかるよう、去年出たばかりのアメリカ版の表紙を載せておきますね。最後の「人類」の章はみんなに読んでほしい。

読書記録「飛ぶ教室」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です! 今回読んだのは、エーリヒ・ケストナー 池内紀 訳「飛ぶ教室」新潮社 (2014) です! ・あらすじ 寄宿学校の五年生たちは、終業式後に行う劇「飛ぶ教室」の稽古に励んでいた。 キルヒベルクはヨーハン・ジギスムント・ギムナジウムの寄宿学校の生徒は、誰もが浮足立っている。 なぜなら、まもなくクリスマスを迎える時分。休暇中は学校を離れて、両親の待つ故郷に帰省できるのだ。 しかし、全員が帰省できるわけではない。 例えば、幼い頃に両親

ハックルベリーが会いに来る(小説をめぐる冒険)

小学6年のとき、朝の読書の時間が終わって『トム・ソーヤーの冒険』を片づけていると、女子に話しかけられた。 「子供っぽいやつ読んどるんじゃね」 おせっかい焼きの島田さんだった。「それ終わったら、これも読んでみんさい」と本を渡された。 「ハックルベリー・フィンの冒険……?」 私がたどたどしく書名を読みあげると、「『トム・ソーヤー』の続編なんよ」と島田さん。「こっちは大人向けじゃけえ」 5年生のとき、島田さんと同じ図書係で『星の王子さま』をすすめられたことがあった。私が小

第二アドベント

 今日は2024年のアドベント第二主日。  アドベントクランツの2本目のキャンドルに光が灯される日です。  平和を強く祈ります。  わたし自身のまわりは平穏で、静かに、心安らかに暮らすことができていますから、それには喜びと感謝でいっぱいです。  ただ、世界のあちこちでは争いが続いています。  どうか、わたしたち人類が平和を選んでいけますようにと祈らずにはいられません。  いま読んでいる、デイヴィッド・アーモンド『火を喰う者たち』に、こんな記述がありました。  時代と

「オディロン・ルドン―光の夢、影の輝き」展覧会レポート|ひろしま美術館

 象徴派の画家と目され、その謎めいた幻視を描き続けたフランスの画家、オディロン・ルドン。  画業の前半を彩った、あまりにも豊かなモノクロームの次元、また後半に開花した光と波の干渉しあう色彩空間──たっぷりと夢の中を逍遥することのできる展覧会でした。  ルドンの版画、木炭画、パステル画、油彩画など、岐阜県美術館のコレクションを中心に、画業の全容を紹介する巡回展。  展示室は第1から第3に分かれています。広島会場では、《プロローグ〜ルドンと日本》と題する第1展示室で、モノクロ

書くことへの殴り書き【夢の話、または短編小説の種 #25】

シャルロットには二十歳をすぎたころから五年近く、よく見る夢がある。 どこかのホテルのロビーラウンジに座っているシャルロットはまだティーンエイジャーになったばかりで、なぜ自分がそこにいるのかわからない。世間知らずの少女は一人がけのソファーに腰かけていて、誰かを待っているような気がする。誰かは心当たりがない。 レーズン色のワンピースはいくらか大きくて、いつも自分で裾を踏みつけている。そのたびにシャルロットは裾をつまみ上げて自分の股に挟み込み、自分が生理中だったと気づく。そうだ

読書の記録 『The Justice of Kings』 ファンタジーミステリ

面白いファンタジーミステリないかな~と思って探してたら、Redditで似たような内容のスレッドを見つけました。 Any recommendations for fantasy that has murder mystery s the plot line? Fantasy Mystery or Detective Stories そのスレッドの中でおすすめされてた未読作品のあらすじやレビューや値段をAmazonで調べ、なんならGoodreadsの評判も確認して、よしこれ

現代版『人魚姫』。物語がどこへ向かうのか先が読めなかったけど、たっぷりのイラストが美しくて大満足。装丁には金色の箔押しもあって、お部屋のインテリアにもなりそう。こちらで、アーティストさんが中の絵を紹介している短い動画見られます。https://berliedoherty.com/books/the-seamaidens-odyssey/

【推し活翻訳・番外編】屋根の上のソフィー、原題Rooftoppers📘刊行御礼🌸 あらすじや試し読みも😊

このnoteで最初にご紹介した作品「Rooftoppers」が、岩波書店から『屋根の上のソフィー』の邦題で刊行されました。 原作は、イギリスでウォーターストーンズ児童文学賞とブルーピーターブック賞を受賞、カーネギー賞とガーディアン賞の最終候補にもなり、さらにフランスでソルシエール賞を受賞しています。それもそのはず、子どもの持つ可能性とパワーがつまった、魔法のような物語なんです。 本の形になるまでも、形になってからも、たくさんの方に支えられました。どんなに言葉をつくしても感