【読書】珍しいSFの芥川賞作家。高山羽根子「暗闇にレンズ」
なんでもっと話題にならんのや
高山羽根子作品を3作読んだけど、もっと話題になってないとおかしくないですか?
感覚が今っぽい。
男に頼らない、小柄でインドア派だけどひとりで平気そうな女性が主人公。
設定はSFが入ってるけど、読んでいる最中は純文学というか。解釈はある程度読者にまかせられていて、面白いけどスッキリは終わらない。難解だけど押しつけがましくない。ふしぎなバランス。
「暗闇にレンズ」は特に変わってて、最初のほうはずっと、いつの時代の何の話をしているのか、本と打ち解け合うのに時間がかかった。
ある程度すすむと、別々の話が3つほど同時進行しているのがわかる。
カメラをはじめて見た日本女性が海外に飛び立つ話。
スマホカメラを使う現代女子の話。
映像で人を殺す「映画爆弾」がある時代の記録。
「カメラと映像と記録」をモチーフにした、それぞれ関係ないけど関係あるような話が、細かく区切られて進んでいく。
とくに1800年代の日本人女性が単身留学して、欧米で自分の能力をいかして映像関連の仕事をする話がまっとうに時代小説として面白い。
女子高生の「私」が主役のはなしも、こ憎たらしくてちゃんと若者っぽいし、SF編はちゃんと不穏。
小柄な日本女性が海外に出て、クセのあるスタッフ相手に大事なポジションを勝ち取る話では、映画やカメラは「夢」そのもの。
未来編?では映画を街に投下して観た人を廃人にする、映画爆弾という、直接人を殺す武器になっている。
盲目のために映画を観ることなく生存した人だけが生き残ったけど、それ以外の人は何を観てしまったのかもわからない。
いま、感想をまとめながら気づいたけど…映画の「はじまり」と「終末」の時代の話ってことなのか。
ほかのことばに置き換えると安っぽくなる。読んでいる間にしか味わえない、独特のバランスと面白さがある気がするんだよな。たしかにわかりやすいカタルシスはないけど、自分の感じた凄さと高山羽根子の知名度が合ってない気がする。