【読書記録】パンとタバコをひたすら切り詰める25年
「イワン・デニーソヴィチの一日」を読んた。表紙が好きという理由だけで選んだけど、予備知識なく期待もせず読めて幸運だった。
収容所の男がひたすら労働して、パンを節約している。
一口ごとに小さく味わって、隠して後でお粥の器をぬぐって食べる用に服に隠してとっておく。
仲間にタバコを分けて欲しくてずっと隣でタイミングをうかがってたり、極寒の中でまともな防寒対策もなく延々とレンガをつんだり、わずかな暖房のためにおがクズや枯葉のかけらを持って帰ろうとしたり、ちっちゃいエピソードが細かく細かく細かく書かれている。
「刑務所の中」のタバコのエピソードみたいだ。
読みながら、これは何の話をしてるのかわからなくて、調べたら
「スターリン政権下で収容された作者の実体験が元になった小説」
ということだった。スターリンがよくわからなくて、本当、無知でお恥ずかしい。
極寒のレンガ積みを毎日繰り返して、最初は10年っていわれてたのになんでか25年収容された。
なんでなのか本当によくわからないのが怖すぎる。
誰が悪くて何でこんな人生なのか、わからないまま目の前の労働をやりすごして、みんな自由が何だったのかも覚えていない。ただ、ここに収容される前は、スープに肉が入っててお腹もいっぱいになったような記憶はある…。
ふつうの長編小説の厚みで1日の出来事を書いていて、書かれてないこの前と後でトータル25年これが繰り返されたわけか、と思うと、読んだあとでぐったりする。
途中で一度だけ刃物のかけらを服に忍ばせて部屋に戻る場面がある。
持ちもの検査をクリアして牢屋にご禁制のアイテムを持ち込む場面って、
「ショーシャンクの空に」とか、いろんなマンガや映画ですごくハラハラする見せ場だ。のちにそれが脱出のキーアイテムになったりする。
だけど、この本では手に入れた刃物のかけらで何をするかというと、
ブーツをちょっと磨いたり…。
ただ、疲れと空腹で狂いそうな地獄の毎日で、ちょっとだけ気をまぎらわせることができる。
作者のソルジェニーツィンはこの経験を書かざるを得なくて、書いたことで田舎の先生からノーベル文学賞まで出世したけど、続けて収容所の経験を書いて国外追放されている。
世界には、人生に波風立てたくてずっと文章を書いてる人がいる一方で、書くしかない人生を送らされて、有名になってもしょうがないのに作家になってしまった人もいる。