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【読書】権力を持つ人はなんでもやる「ルナ・ゲートの彼方」

R・A・ハインライン「ルナ・ゲートの彼方」を読みました。

見た目で本を選んでいるので、この、あえて派手じゃない、といって古臭くもない、表紙が気に入った。

でも、amazonにはまた違ったテイストのカバーしか載ってない。美しいけど、本格派の難解なSFと似たタッチ。

新しいほうは「トライガン」の内藤泰弘によるもの。
小中学生から楽しめる「ジュブナイルSF」のシリーズなので、あえて少し昔の少年マンガを意識してそう。

ストーリーは、学校の最終試験で「宇宙のどこかに飛ばされて、終わりまで生存」という課題に挑むというもの。
「十五少年漂流記」や「蠅の王」と同じ、漂流モノの宇宙版だ。大人の思い付きで少年少女が犠牲になる「バトル・ロワイヤル」も連想する。

試験に持ち込む道具も自分で考えないといけない。行き先の環境によって装備が変わるのに、どうすればいいのか?
ヒントは「出題者の先生は、生徒を殺したいわけではない」という事実しかない。
なので、宇宙のド真ん中とか深海に飛ばされることはないだろうと予想して、主人公はあえてスタンダードなサバイバル用品を試験に持ち込む。
ここで、「マッチ」「方位磁石」が現役なのが、昔に書かれたSF小説のおもしろいところ。ワープ技術や宇宙開発は進んでいるのに。

世界のどこかに飛ばされた主人公は、ナイフを頼りに見知らぬ生物を観察し、木に登って体力を回復させたり、星を観察して実は地球なんじゃないかと予想しながら、終了のサイレンを待つ。

だが、サイレンはいつまでたっても聞こえて来ない。同じ試験の仲間と洞窟に潜んで自分たちの境遇を整理する。
なんらかのトラブルで救助が来なくなったか、見当違いの場所まで移動してしまったか、試験官は予想よりずっと殺す気マンマンで監視してるのか。

試験の地で少年少女がひとり、ふたりと集まって、たくましく団結する。
役割を分担して、ときに対立して、選挙でリーダーを決めて・・・
宇宙のどっかに飛ばされたのに、帰還を諦めて独立国家を作って、ぼくたちの孫の代ではおいしいパンを食べられるようにしよう、って長期ビジョンで食料確保を始める。
時代性なのかお国柄なのか知らないが、異様にたくましい。

最終的には助かるんだけど、そこでみんな「やったー!帰れる!」じゃない。
自分たちが開拓した土地、作ったシステムを手放したくない、と抵抗して、地球に帰るかどうか「待ち」になる。
地球のメディアは「野生化した少年が生きていた」と面白がって記事にしようとする。つよい子供たち。ひどい大人たち。
学校の試験のシステムエラーで生徒に死人を出してしまったのに、あいさつもそこそこに「きみたち、裁判を起こす権利があるからサインして」みたいな、ひどい扱いが待っている。

少年少女向きに書かれた本なのに、「お前ら、おとなってやつを信用するな」と、耳打ちされたようだ。

序盤のわずかな情報から生きるすべを学ぶ冒険要素も面白いし、翻訳小説とSF小説に興味があるけど難しそう・・・って方も、これ一冊で同時入門できる。
翻訳小説で検索するとサジェスト「難しい」「読みにくい」と出るが、それはたぶん昔の翻訳のイメージか、名前で男女や年齢をイメージできないとかだ。今は個性の強い文体の日本語小説より自然な語り口で読みやすい。作品にもよる。

作者は1907年生まれで、本当に軍隊でしごかれたと知って読むと、さらに印象が変わってくる。
「権力を持ったやつらは、なんでもやる。あいつらは下のものを人間と思ってない」
という思想が根底にある。
だから、へたに希望を抱かないから失望しない。

同じ作者の本です。読み返したら自分の文章がすごく読みづらかったので全面的に書き直しました。

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南ミツヒロ
読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。

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