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おきにいりnote

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なんとなくいいな、の世界 (読ませていただいてる長編小説のしおりにも使用しています🍀)
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#小説

【短編小説】水色の平凡な日常

【短編小説】水色の平凡な日常

 お昼休み、トイレから戻ると僕の席に岡田さんが座っていた。足を組み手を叩いて笑う姿はまるでここの席は私の席だといわんばかりの堂々とした態度だ。どけ。そこは僕の席だ。話すなら立って話せ。と心の中で呟いて僕はトイレへと逃げる。
 今日でもう五日目だ。最初は偶然だろうと思っていたけれど、どうやら偶然ではないらしい。岡田さんは僕が何も言ってこないことを知ったうえでわざと僕の席に座っている。三日目に近づいて

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自分の文章について今一度見つめ直す野良犬

自分の文章について今一度見つめ直す野良犬

 Xでスペースなるものを利用してみた。とはいっても、部屋を作ったっきり何も発言はしない。一人だから。
 どうせ私がやるとき(深夜四時を回ったころ)には誰も起きていないだろうし、あまり話す予定も覚悟も無いのだけれど、いつ聞かれても、いつ話しかけられてもおかしくないという状況下に置かれると、すこぶる作業が捗る。意外といいかもしれない。

 いや、嘘だ。正直に言うと、緊張して気が気でない。全然捗らない。

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【小説】推し認欲求

【小説】推し認欲求

 お腹がすいているのに、ご飯を食べないで帰ることにしたのは、仕事帰りのお父さんと顔を合わせたくなかったから。
「お父さんには、まだ言わないでね」
「別にいいじゃない。おめでたいことなのに」
 さっき喜んでくれたお母さんは、ちょっぴり呆れ顔だった。

 薄暗くなった外は、異常な残暑が立ちのいて、秋らしい空気が心地よかった。遠回りして駅に向かうと、大きな公民館の前にある、インドカレーのお店に目が留まっ

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掌編小説|ついたち

掌編小説|ついたち

 足音が近づく。手にしていたスマートフォンは布団の中に隠し、枕元にあった漫画を開いた。
 予想通り、足音は私の部屋の前で止まり、次にはドアをノックされた。
「こん、ばん、み」
 気に入っているタレントの挨拶を真似て部屋へ入ってきた母は、手にコミック本を数冊抱えている。
「どうしたの、それ」
 触れないのも気まずい。だから質問を投げた。
「もうさ、我慢できなくて大人買いよ。知ってるよね?〝あたいらの

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【短編】 マキちゃん、

【短編】 マキちゃん、

「大人になると、親友ってなかなかできないものらしいよマキちゃん」
 放課後の音楽室で、柔らかい春の雨を背景にして、グランドピアノと向き合ったマキちゃんを眺めながら、いつものように話しかけた。

 人を指差すのと同じ仕草で鍵盤を弾くマキちゃんが顔を上げないので、集中力すごいな、と感心しながら、
「大人になると、親友ってなかなかできないものらしいよマキちゃん」
 と、同じ言葉をもう一度、さっきよりも少

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物語の作り方 No.2

物語の作り方 No.2

2) モチーフ(題材)について

 最初に、百均で、A4サイズのノートを買うことをお薦めします。

①主人公はだれか。 

 長文を執筆するとき、書くにあたって、まず、考えなくてはならないのは、どんな人物を主人公にするかということです。自分史の場合は、書き手本人が主人公です。小説の場合は、不特定多数のだれでもいいのですが、はじめて書く小説にかぎっては、自分自身を主人公と考えてください。

②自分し

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小説『インタビューパンチマンを捕まえて、そして大人になった。』

小説『インタビューパンチマンを捕まえて、そして大人になった。』

「えと、僕の頬に当たってる、この拳は何?」

「だーかーらー、聞いてなかったのかよ」

「うん、ごめん」

夕方になると、最近行くのを辞めた塾のことを考えしまう。
勉強も手についていない。

「インタビューパンチマンだよ」

「ああ、そんな話してたね」

そうそう、最近、僕らが住む辺鄙な街で世間を賑わせている連続事件の話だった。

てっちゃんは、テレビのリポーターみたいに背筋をシャンとして、僕にエ

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読まれてください、と願いを込めて。創作大賞2024、私のイチオシ。

読まれてください、と願いを込めて。創作大賞2024、私のイチオシ。

創作大賞2024の締めに、本気で推したい小説の感想を書きます。

最近私は、『孤人企画』としてお世話になった方へのお礼に作品紹介の記事を連続で投稿していました。しかし、普段の私は紹介記事をほとんど書きません。

だけど、森葉芦日さんに関してはどこかのタイミングで書きたいとずっと思っていました。とても差し出がましいことですが。

森さんをご存知無い方は多いと思います。御本人もそう自覚されています。

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短編小説 | バースデーバルーン | 創作大賞2024

短編小説 | バースデーバルーン | 創作大賞2024

 妹の頭が徐々に大きくなっていく。病気じゃない。
 わかっているんだ。家族の誰もが。だけど何も言えやしない。
 傷ついても、恥ずかしくても、怒っても、どうしたって、妹の頭は大きくなって、その成長を止めることは出来ない。

 (一)

 妹は僕の八つ下で、ぼくにとっては目に入れても痛くない存在だった。だけど、そんな例えですら口にするのも憚られるくらい、妹の頭は大きくなっていた。
   その始まりはた

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掌編小説 | 銀ノ月 |#君に届かない

掌編小説 | 銀ノ月 |#君に届かない

 せっかくの月夜にあなたは来てしまった。女はそう思った。

 ひとり静かに湯に浸かり、ガラス窓越しに月を見ていた。それはそれは怪しい月だ。銀色の月。
 そこに男の気配がある。女に近づいている。
 バスルームのドアを開け、男が顔をのぞかせた。ついで男はゆっくりと歩き始める。すると女は僅かに落ち着きをなくした。しかし、実際はそれを少しも感じさせることなく、歩み寄る男を不敵な笑みで迎えたのだ。

「今夜

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掌編小説 | 儀礼

掌編小説 | 儀礼

※暴力的な表現を含みます。

 平日の昼間だ。早朝から江の島観光をした帰り、新宿までの普通電車の車内は空いていた。座席のシート一列を二、三人で分け合い、それぞれが他人の空間に立ち入らない配慮をして座っている。

 わたしには晶の右側を半歩下がって歩く癖がある。彼の前に立とうと思ったことはない。それはわたしが彼と保つ、絶妙な角度と距離であって、彼の方でもおそらくそう感じている。そのことについて二人で

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【小説】映るすべてのもの #13

【小説】映るすべてのもの #13

 大人から見れば高校2年生とはきっとたのしい時期に映るだろう。
中学生のような子ども扱いもされず、だけどまだ子どもでもある時期。
来年になればおいたてられて進路をきめなければいけなくなる。
 その進路も中学生の高校進学という選択ではなくおおきく人生に影響する選択をいきなりせまられる。

 あこがれの職業があったり、家によっては目指す道はもうきまってる子もいるだろうが大抵は「なんとなく」という子も多

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小説家になる夢はアダルトビデオを観て諦めた

小説家になる夢はアダルトビデオを観て諦めた

 十年経っても忘れられない思い出がある。それは私が中学生か、高校生の頃だっただろうか。夏の夜、友人数人とアダルトビデオを見る機会があった。
 経験のない私達は練習の一環としてその儀式(?)を行い、来るべき日のために知識を共有、ひいては自身に落とし込む必要があった。今考えれば正気の沙汰ではないし、勿論大人数でする必要はない。一人でやればいい。ただ、当時の私達はそう考えるには些か若く、視野が狭かった。

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【小説】蝶に宿りて

【小説】蝶に宿りて

 愛とは、見捨てないことだと、誰かが言ったそうです。けれど、見捨てるべき人を見捨てられない場合は、愛と呼べるのでしょうか。
 結局、私は何度裏切られようとも、母を見捨てられませんでした。

 六年ぶりの再会は、歌舞伎町で働いていた頃です。
 桜が咲き始めた三月の夜、どこで噂を嗅ぎつけたのか、母は客として現れました。金回りの良さそうな身なりで、目立つ黄色いジャケットを着ていましたが、瞬時に誰か分から

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