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読まれてください、と願いを込めて。創作大賞2024、私のイチオシ。

創作大賞2024の締めに、本気で推したい小説の感想を書きます。

最近私は、『孤人企画』としてお世話になった方へのお礼に作品紹介の記事を連続で投稿していました。しかし、普段の私は紹介記事をほとんど書きません。

だけど、森葉芦日さんに関してはどこかのタイミングで書きたいとずっと思っていました。とても差し出がましいことですが。


森さんをご存知無い方は多いと思います。御本人もそう自覚されています。
なぜなら森さんはあまりno+eにいないし、たまにシロクマ文芸部の企画に参加しても、たぶんコメント交流なども積極的にしていないと思われます。ついでにいえば彼は日本にすらいません。

わたしが森さんと知り合ったのは約一年前です。わたしのnoteを読みに来てくれた森さんに、初めてコメントを送ったのはわたしからでした。そこから、読まれて読んでという関係を続けるうち、エッセイの投稿が多かった森さんのno+eにちらほら小説が見られるようになりました。

わたしが最初に『スキ』マガジンに入れさせていただくことになった小説はこちらです。

ショートです。へんてこ話です。身の内をぞわぞわさせる、不思議な魅力を持っています。「森さんの小説は面白い」と気づいてしまいました。

以下の二つは私がおすすめしたい作品です。
森さんの小説は冒頭部分が印象的なので読み進める早い段階で物語に飲まれていきます。

未読の方には、ぜひこの中から読んでみていただきたいです。

森さんをご存知なくこれから読まれる方のために補足すると、小説を数多く読まれている目の肥えた方からすると森さんの小説はとても繊細でありながら、少々粗いのかもしれません。
(私自身のことを棚に上げて言ってます…)


森さんの小説の特徴として一つ私が思うのは、一見、〝腑に落ちるところまで掴みきれない描写や表現が多い〟というところ。だけど読者は、森さんの独特な表現に納得できないものがあったとしてもそのことを心配する必要はありません。そのまま読み進めて、ぜひ最後まで読み切ってほしいのです。
途中で放り出すにはもったいない。なぜなら森さんの小説は読後、なんともいえない特別な余韻を残すからです

執筆を続け深みを増すと共に、シンプルに読む側に伝わりやすくなった森さんの小説世界。
彼の小説を読み慣れてくると、森さんの作品は長ければ長いほど良いと気づきます。森さんにはきっと、言いたいことがたくさん、たくさん、あるのです。

わたしは、森さんが今回の創作大賞でなにか作品を出されるのではと、期待して訊ねました。すると、すでに書き始めているという返事が返ってきました。エッセイかな? と思っていましたが、彼が今期創作大賞にぶつけてきたのは恋愛小説でした。しかも11万7000文字。

創作大賞締め切りギリギリのある日、わたしのタイムラインは森葉芦日氏の長編小説「制服にサングラスは咲かない」で埋め尽くされました。
この状況には正直驚きましたが、同時に歓喜しました。

森さんの長編を読める。今こそ感想を書こう。
実はこの記事をここまで書いた時点では、私は全23話中、7話までしか読み終わっていませんでした。
だけど、確信しました。これはすごい。これは多くの人に読んでもらいたい作品だ。

恋愛小説部門には大賞確実なのではと思われる作品が既にありますが、ひるむことはない。
わたしはこの作品を推します。

夏が来る。いつまでもオンラインゲームで惰性の時間を過ごしていて良いのか、そんなことも考えるのを辞めていた。考えることを辞めると人生は停滞するのかと思っていたけれど、どうにも違うらしい。

小さな選択がいつか大きな結果を生む。バタフライ効果ってやつらしい。

まさか、とは思うけれど人生は選択の連続だ。少し間違えた。選択しているという意識のないまま人生は連続する。

だから僕は一人の少女との出会いで、ゲームコントローラーではなくペンを握り小説家になることになった。

『制服にサングラスは咲かない』あらすじ。


全話を読み終えたところで、どう感想を書こうか悩んでいます。幸い、吉穂みらいさんが先に感想を書かれたので、内容に関してはそちらを参考にしていただくとして、私はとにかく読みながらメモした、私自身が感じた多くのことを書きたいと思います。
ネタバレしないので、これから読む方向けです。ストーリーにもほとんど触れません。
内容の説明ではなく、どのように感じる作品かということを主に書きます。ぜひお付き合いください。

まず、私はこの小説を読み切るのにすごく時間がかかりました。一言一句逃さず読んだことも理由ですが、この小説は私にとって「映像作品」だったからです。ひとつひとつの動作、会話の間だったり、文字では描かれないシーンまでもが見えてくるので時間を必要としました。映像で見るこの物語は、日常行われる人の動作と同じスピードを持っていました。だから、登場人物が朝目覚めて、活動してやがて夜を迎えて眠りにつき、再び朝がくる、そして……というように、ずっと続いていく時間をともに過ごしながらこの作品を「観て」いたのです。

まるでミニシアター系の映画。日本でヒットする前に海外で絶賛される感じの、静かなストーリーと映像美。だけどものすごく胸に迫る。臨場感溢れる緊張のシーンには凄みがある。

この物語には森さんの思考が100億個詰まっている感じがします。森さんの目を通して、その感覚を通じて書かれたものだから、最初から最後まで全て辻褄が合っている

多くの人にとっては共感を呼ぶ物語ではないかもしれないけれど、そこがいいのです。自分ではない誰か、その人だけが持つ感覚を知ることになる。すると、そこに自分が今まで目を向けていなかった事実に気がついて、罪悪感を抱き、心に痛みを感じます
各章ごとにはっとさせられる部分があり、他人はそういう視点でものを見ることがあるのかという、新鮮な刺激を受けながら読み進めるのです。

時々、森さんは体中に目がついているのかもしれないと思う事があります。もしくは、逆にひとつしかないのかもしれない。それくらい、唯一の視点でこの世界を見ている気がします。森さんが作品を通してストレートに言葉にして伝えるメッセージが心に響きます。この物語には、匂わすとか、そういうややこしいことは見られません。

幸せとはなにか。生きるとは。この問いが常に巡っている作品です。
痛みと絶望をちゃんと知っている人の表現したものだから、森さんの小説を読むと、自分の中にあるわずかに繊細な部分が震えだします。

わざと視界を曇らせて見る世界で、透き通った大切な感覚をちゃんと信じようとした二人の結末はとても切なかった。だけど最後に主人公の僕が、過去にあった時間をしっかり手元に引き寄せたラストに深い溜め息がでました。




森さんへ。
執筆お疲れ様でした。
この作品は、推敲を重ねれば確実に良くなることは誰が見ても明らかなので、細かい部分に悔いは残ったかもしれませんがあまり気にしなくて良いのでは無いでしょうか。

森さんにしか書けない、森さんのこれまでが言葉になり紡がれた物語に出会えてとても嬉しいです。読みながら何度も心が震えました。
感想を書かせていただきありがとうございました。



#創作大賞感想
#森葉芦日



最後に、どうしても小説は読めないという方へ。エッセイをご紹介します。










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