辻浦圭

マスクしてる死に損ないです。

辻浦圭

マスクしてる死に損ないです。

最近の記事

【短編小説】女々しい妖怪たちのパレード

 テレビをつけると夕方のニュースがやっていた。画面には仮装をした可愛らしい女の子がインタビューを受けている様子が映されており、それを見ているアナウンサーたちは口々に可愛いですねなどと口元を緩ませている。  季節はハロウィンである。本来なら可愛らしい子供たちがトリックオアトリートと拙い英語で家にお菓子をねだりに来る可愛らしいイベントである。しかし、いつからかハロウィンは承認欲求に思考を奪われた醜く哀れな大人が町を練り歩く百鬼夜行のようなイベントと成り下がってしまった。彼らが通っ

    • 【愚痴日記】イケメンっていいな

      先日、お昼休みに同僚の男性が女性社員と仲良く話していたのを目撃しました。その同僚は同い年なのですが、色白で細身。清潔感の権化のような存在です。しかも、高身長で声も低く綺麗なバスボイス。頭もそこそこ良くて仕事もできるまさしく非の打ちどころのない人間。そんな彼はいつものようにその魅力を存分に発揮して、女性社員を周りに集めていました。  僕は彼に興味はないので一人で携帯を眺めていたのですが、如何せん湖の水面くらい静かな場所だったので、どうしても話し声が聞こえてくるわけでです。まあ、

      • 【短編小説】水色の平凡な日常

         お昼休み、トイレから戻ると僕の席に岡田さんが座っていた。足を組み手を叩いて笑う姿はまるでここの席は私の席だといわんばかりの堂々とした態度だ。どけ。そこは僕の席だ。話すなら立って話せ。と心の中で呟いて僕はトイレへと逃げる。  今日でもう五日目だ。最初は偶然だろうと思っていたけれど、どうやら偶然ではないらしい。岡田さんは僕が何も言ってこないことを知ったうえでわざと僕の席に座っている。三日目に近づいてみたとき、なぜかびっくりしてまさしく鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。その顔

        • 上手く書けないなぁ

          【短編小説】森の中の珈琲店

           体が動かない。  朝起きてしばらくの間布団の中にいる。先日洗ったばかりの掛布団と敷布団のシーツは柔軟剤の匂いが強くて少し気持ち悪くなりそうだ。外は夏らしく蝉が鳴いていて開けっぱなしの窓から心地よく響いてくる。  枕元に置いてある携帯に触れて時計を見ると時刻は六時半過ぎだった。始業は七時だ。ここからどうやっても会社に間に合うことはない。今すぐにでも連絡をしなくてはならない。連絡をしなくては皆に迷惑をかけてしまうし、怒られる。頭ではわかっている。それでも体が動かなかった。  七

          【短編小説】森の中の珈琲店

          【短編】夏の終わりとタイムカプセル

           どこを見ても田んぼと家。休日にも関わらず、車も通ってなければ、人も歩いていない。耳をすましても聞こえるのは蝉の声と葉擦れの音。まるで夢の中を歩いているようだ。  信号すらもないこの道を汗をだらだらと流しながら歩くこと数十分、母校の小学校に着いた。訪れるのは小学校以来だから十年ぶりだ。十年もあればどこかが変わっていてもおかしくないのだけれど、時が止まっていたかのようにすべてが当時の面影を残している。正面玄関まで続くレンガの道。校庭の広さや遊具たち。すべてがあの頃のままだった。

          【短編】夏の終わりとタイムカプセル

          【短編小説】シック

           家から出られなくなった。  ワンルームの間取りで汗が染み込んだベッドに横たわりながら視線を横に向ければ玄関が見える程度の広さしかないこの部屋からまことに不思議なことに出られないのだ。ゴミが散乱し、足の踏み場がなく、玄関のドアにたどり着かないほどこの部屋にゴミがあるわけではない。むしろ綺麗な方だ。キッチンのシンクはメダカが棲めるくらいだし、部屋の空気は綺麗過ぎて清浄機が作動しないほどである。物理的には歩いていけば出られるはずなのだ。それなのに、玄関から出られない。確かにこの手

          【短編小説】シック

          【短編小説】にこ

           時計を見ると時刻は夜九時を過ぎている。仕事がようやく終わり、疲れた目をこすると、目の周りの皮脂が不快な感触を残して指にこびりついていた。  今日で五日連続の残業だ。結婚をしているわけでもないから遅く帰ったとしても何も困ることはない。けれど、さすがに夕飯が遅くなるのは健康面で良くないのではないかと心配にはなる。  周りを見てみると、人は誰もいない。定時である六時にはほとんどの人が帰り、八時には上司も帰っていった。しょうがないことだ。彼らには家庭がある。待っている家族がいる。結

          【短編小説】にこ

          恋と呪い④

          恋と呪いと山吹  セミの鳴き声も聞き飽きてきた八月の下旬。私は一人、部屋で考え込んでいた。大学三年生である私の学友たちは既に就職活動なるものを始めていて、インターンシップや会社説明会に足を運び、準備を整えているらしい。そうでない学友たちは学校のブランドを生かし、芸能関係の仕事をする予定だったり、絵や音楽ができる人はyoutubeに作品を投稿しつつ、プロを目指している。  私には何ができるだろうか。勉強はしているものの、特にやりたいこともなく、就きたい仕事はない。音楽や絵画、

          恋と呪い④

          恋と呪い③

          パラレルワールドと山吹  夏の長期休暇になる前、大学三年生の私はそれは有意義に過ごそうと考えていた。海外でも国内でも好きな景勝地に赴き、その土地の郷土料理に舌鼓を打ち、旅を満喫する。映画や本を読んでゆっくりする。やったことのないスポーツ、例えば、スカッシュや乗馬、フットサルなどで汗を流すのもいい。大好きな日本文学の研究をするのもいいだろう。  しかし、現実はそんなに甘くはなかった。現実の私は冷房を効かせた涼しい部屋で、肉と大きく書かれた奇妙なシャツを着た山吹と向き合っている

          恋と呪い③

          恋と呪い②

          赤い女の子と山吹  家にずっといるのは精神的に良くないことだと聞いたことがある。根拠はわからないけれど、母親は子供のころから「家にいるのは良くないから外に出て散歩でもしてきなさい」と私にしつこく言っていた。子供の頃はその意味がわからず、ゲームや本や漫画を楽しみたかったから反抗してしまったけれど、二十歳を超えた今ならその意味がわかる。少しでも運動した方が頭がすっきりするのだ。そして何より、招かざる客と遭遇せずにすむ。 「こーんにーちはー」  服を着替え出かけようとしたその

          恋と呪い②

          恋と呪い①

          あらすじ  悠々自適に夏休みを満喫している大学生の私。ある日、家で最高な一日をスタートさせるべく、散歩をし、朝食を作り、いざ食べようとするところにやってきたのは、高校、大学の後輩である山吹海だった。山吹はライフワークである怪談探しに無理やり私を誘い、熊本や台湾など、様々な場所で山吹と一緒に奇妙なものに巻き込まれていく。そんな中で、私は少しづつ自分の感情に気付いていく。夏の少しおかしな物語。 猫と山吹    夏の早朝が好きだ。まだ日の出ていない空気は澄んでいる。夜中に湿った

          恋と呪い①

          【ショートショート】自己怪奇譚

           それは…季節外れの暑さが続いた梅雨の日のことでした…  暑さに弱い私は家に引きこもり、涼しい部屋でサイダーを飲んでいました。夏と言えばサイダーだよね。なんて思いながら、コップを揺らし、氷のからからという音を楽しむ。これが私の夏の楽しみの一つです。  そして、もう一つの楽しみがホラーです。夏と言えばやはりホラーは外せません。私はnetflixを開き、ホラー映画を探しました。そこにはずらっと並んだホラー作品の数々。私はその中から「IT それが見えたら終わり」を選びました。この

          【ショートショート】自己怪奇譚

          【短編小説】なりかわり

           人間に対しての恐怖心なんて一切持ち合わせていなかった。それはたまたま容姿が良く生まれてきて、周りの人間がいつも笑顔で優しく接してくれたからかもしれない。または、悪意に触れることがなかった幼少期を過ごしてきたため、性格が捻じ曲がることもなく、人に優しく接することができて、そのたびに「鈴木君は優しいんだね」なんて褒められてきたからかもしれない。とにかく、鈴木啓太から見える人間たちは常に優しく、笑顔でポジティブな言葉ばかりを口から出している。悪意のある発言や行動をする人間などニュ

          【短編小説】なりかわり

          【短編小説】砂の女王

           机と椅子がおかしい。教室で本を読んでいたら、野蛮な同級生たちから突然に殴られ、それから逃れるために一時避難していた30分くらいの短いお昼休みの時間で、僕の机と椅子は砂に変えられていた。とてつもなく精巧な作りで、写真を撮りたいくらいだけど、あと数分で授業が始まる。教科書はもちろん木でできた方の机の中、と言いたいところだが、ご丁寧に砂の机の中にすべて移されているではないか。しかも、驚くことに、この砂でできた机と椅子はかなりの強度で僕が座ってもびくともしない。これなら授業も受けら

          【短編小説】砂の女王

          【短編小説】メメント・モリ

           業務用のSNSにメッセージが届いていた。内容を見ると、「プロフィールに書いていることは本当ですか?」とコミュニケーション能力に乏しいのだろうとわかる文章が短く書かれていた。  どんな人間なのだろうと送り主のアカウントを見てみた。やはり、やたらとSNSに書き込みをしている友達や恋人の影が一切見えない、勉強だけはできそうな雰囲気を感じるアカウントだ。櫻井のこのアカウントに連絡をしてくる人はこういう人間が多い。彼らはコミュニケーション能力が無いから会社に馴染めず、常に不満を抱えて

          【短編小説】メメント・モリ