兄弟航路

文学(小説、随筆、評論、俳句、短歌、詩、戯曲)の海を旅する兄弟。 自由闊達に航路を拓き、 新たな出会いと珠玉の文章を探し求める。

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【俳句】弟の句をよむ 令和六年秋

 前回(本年春)に引き続き、今回は秋の句を取り上げたい。芸術の秋と言われるように、俳句も今が旬というか、味わい深い頃ではないだろうか。もののあわれを痛切に感じる季節である。  ところが、四季ごとに分けられた季語のうち、最も数が多いのは夏のようだ。興味深く調べてみると――  なるほど、夏は草木も虫も生気に満ちる為、動植物に関する季語が断然多いようだ。  それでも、俳句は秋という、ずぶの素人ながらの印象に自らお墨付きを与えるべく、俳聖と称えられる松尾芭蕉の句を紐解いてみた。

    • 【小説】紙に畳んで

      和志くんへ お返事の手紙を何度も読みました。 丁寧に伝えてくれて本当にありがとう。 私は、和志くんの正直な告白、 その誠実さに胸を打たれて、 もう一度だけ、 お伝えしなきゃいけないことが出来ました。 結論から申し上げると…… あなたは、決して悪くない。 和志くんのせいで、 大地が亡くなったわけではありません。 あの千羽鶴は、 雑に捨てることなど出来ませんから、 神社の宮司様にご相談して、 先月お焚き上げしました。 全校生徒の皆さんで 折り鶴を作ってくださった喜びは、

      • 【小説】推し認欲求

         お腹がすいているのに、ご飯を食べないで帰ることにしたのは、仕事帰りのお父さんと顔を合わせたくなかったから。 「お父さんには、まだ言わないでね」 「別にいいじゃない。おめでたいことなのに」  さっき喜んでくれたお母さんは、ちょっぴり呆れ顔だった。  薄暗くなった外は、異常な残暑が立ちのいて、秋らしい空気が心地よかった。遠回りして駅に向かうと、大きな公民館の前にある、インドカレーのお店に目が留まった。学生の頃から気になっていたけど、店構えが怪しげだから、一度も入ったことはなか

        • 【小説】炭酸よりも君が好き

           久しぶりに晴れて、西の空が夕焼け色に輝き、東から刻々と迫る夕闇の、群青色との境界線が曖昧だった。そのグラデーションを背景に浮かぶ雲は、ピンクと紫が溶け合うように、色彩豊かに染まっていた。  高校一年生の風間は、バドミントンの部活を終えて、バス停に向かう途中だった。大通りから外れた道で、左手に赤い鳥居の小さな神社があり、風間の前方を背の高い女子学生が歩いていた。彼女は、自販機の前でふいに立ち止まり、白いブラウスの肩に下げた鞄の中をまさぐった。風間には、ショートカットの後ろ姿

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        記事

          祭りの夜に ~ショートショート500字~

           風鈴と遠花火の音が、母の視線を窓に向けさせた。パソコンの使い方を出来るだけ分かりやすく教えている僕は、どことなく落ち着かない様子の母に苛立った。 「聞いてんの?」 「もちろん。でも、なんだか難しいよね」  呆れて溜め息をついた時、どこかに置き忘れた僕のスマホが鳴った。少し間を置いて、迷惑そうな顔で部屋の中に入ってきた妹は、鳴り続けるそれを手にしていた。 「おう、ありがとう」  知らない番号からの電話だったが、今日あたりに掛かってくる、心当たりはあった。  緊張しながら通話

          祭りの夜に ~ショートショート500字~

          【小説】家族の存在証明 -後編-

           中学二年の冬、苗字を変えて、母と二人で暮らし始めた。住まいは日当たり不良の安アパートの一角で、風呂とトイレを別々に備えていたが、古畳の部屋が二つあるだけで、延べ床面積はこれまでの五分の一ほどになった。驚くべきことに、俺が通っていた中学校の側だった。  一部で物笑いの種にされていただろう。世間体を大事にしてきた母が、そんなことを気にしていたら生きてはいけないと言い放ち、俺にも強くあることを求めた。  ある日、スーパーマーケットの外で働く母の姿を見た。段ボールを片付けているよ

          【小説】家族の存在証明 -後編-

          【小説】家族の存在証明 -前編-

             俺には腹違いの姉がいた。彼女の名前を古くさいと貶していた母が、純子というそれを口にする時、頭の濁音はひどく濁った。憎々しげに、この上なく汚い音だった。  純子と香純。純の読み方は異なり、母の名前に濁音はない。純子は香純さんと呼んでいた。同じ漢字を使うのは運命的な偶然だが、近づけば反発し合う磁石を連想させて、名前すら最悪の相性に思えた。  ねぇ、俺はそう言って純子に話しかけた。決して姉を意味するねぇではなく、どう呼んでいいのか分からなかった。母に睨まれることを恐れ、そもそ

          【小説】家族の存在証明 -前編-

          【四周年】進水記念日

           当方は、毎年六月八日に、“進水記念日” と題する文章を航海している。本稿は、四回目である。  読者諸賢の中に、毎年恒例と思われる方がいらっしゃれば、我が兄弟航路のファンとして認定いたしたい。過去三回をご存知でない方も、いやいやファンですよ――とおっしゃっていただけるなら、丸四年の旅路を共に祝いたい。  旗揚げから今日に至るまで、兄弟航路のファンは、最低一人、必ずいる。その一人とは、当方の、要するに我が兄弟の、実母である。  還暦を過ぎた母は、デバイスの操作に不慣れだが、朝

          【四周年】進水記念日

          【小説】使い道を知らなくて

           いかに仲睦まじい夫婦でも、生まれ育った環境が違うのだから、意見がたびたび対立するのは当然のことだ。例えば子育てに関して――  実家が自営業の咲良は、子供が小学校低学年のうちから、小遣いを与えてお金の管理を覚えさせるべきだと考える。  一方で、母親がなにかと過干渉だった僕は、中学にあがるまでお年玉も回収されていたから、まだ小学三年になったばかりの奏哉には、必要な物を買い与えればいいと考える。 「親の言うことばかり素直に聞いてると、なにも自分で決められない大人になっちゃう。り

          【小説】使い道を知らなくて

          転機 ~20文字の文学~

          花が散り、人が去り、日陰から今、始まる。 【あとがき】  本稿は、小牧幸助さんが主宰する「新生活20字小説」への参加作品です。惜春と新生活を意識しつつ、20文字ぴったり、というルールに沿って仕上げました。名付けたタイトルは、「転機」です。  当方は、この少ない文字数に畳む形式を日本的だと感じています。短詩形文学はもとより、物を畳む文化は、布団、扇子、ちゃぶ台など、日本人の暮らしに古くから根付いていますね。  今後も補足説明を控え、作品において雄弁であるよう、寡黙に取り組んで

          転機 ~20文字の文学~

          【俳句】弟の句をよむ 令和六年春 

           我が兄弟航路は、実の兄弟の二人組である。共有のアカウントを舟に見立て、文学の大海原にしがない航跡を描いている。  だが、昨年の七月に次女を授かった弟は、育休を宣言し、二人の娘の父として日々奮闘している。近々、新しい住まいに引っ越すようで、まだしばらくは、腰を据えて執筆する余裕はなさそうである。  そんな中でも、筆者の作品を航海する直前は、弟が必ずこの舟に戻ってくる。最初の読者という、唯一無二の役割を担うためである。  感想にしろ、指摘にしろ、それは実に朴訥たる、短い言葉

          【俳句】弟の句をよむ 令和六年春 

          【小説】蝶に宿りて

           愛とは、見捨てないことだと、誰かが言ったそうです。けれど、見捨てるべき人を見捨てられない場合は、愛と呼べるのでしょうか。  結局、私は何度裏切られようとも、母を見捨てられませんでした。  六年ぶりの再会は、歌舞伎町で働いていた頃です。  桜が咲き始めた三月の夜、どこで噂を嗅ぎつけたのか、母は客として現れました。金回りの良さそうな身なりで、目立つ黄色いジャケットを着ていましたが、瞬時に誰か分からないほど年老いて、まだ六十前のはずが、七十くらいに見えました。顔に出る強欲さが、

          【小説】蝶に宿りて

          【小説】かっこつけた成績の上げ方

           甘ったるい声の駒木先生が、あいうえお順に生徒の名前を呼び、英語の期末試験の結果を返却していった。 「倉本くん、百点!」 「おお!」  皆の前で点数を発表されるのは、百点満点の時だけだ。  俺は、首にマフラーを巻いたまま、寝ているふりをしていた。すると、一人だけ順番を飛ばされ、最後に名前を呼ばれた。 「新田くん」  不敵に聞き流した。 「こら! 新田大輔」  後ろの生徒に背中をつつかれてから顔を上げると、皆の視線を集めていた。教壇に立つ先生は、くりっとした目の幅を狭めるように

          【小説】かっこつけた成績の上げ方

          【小説】二梅 -FUTAUME-

           思春期を迎えた女の子は、まるで白梅のようだ。同い年でも幼げな、まだ蕾のままの男の子に先駆け、ちょっぴり生意気な花を可憐に咲かせる。ふとした仕草から、“女” がほのかに匂い立つと、私のような父親は、どきっとさせられ、どことなく不安になる。  或る晩、髪をまとめた万葉が、台所でお手伝いをしながら、千里に何かをねだっていた。二階から降りてきた私は、隣接する居間で文庫本を開き、耳をそばだてた。  どうやら万葉は、お洒落なチョコレートを作りたいようだ。渋る千里は、大雑把な性格を自認

          【小説】二梅 -FUTAUME-

          雪の降る日に ~ショートショート410字~

           雪化粧の庭は、取り澄ましたような顔をしていた。  母は、予定が書き込まれた壁掛けのカレンダーを指でなぞり、はたと思い出したらしい美容室に電話を入れた。   「俺が切ろうか?」  柄にもない提案をすると、母は照れ臭そうに微笑んだ。    板の間の窓辺に新聞紙を広げ、雪見席の美容室を即席でこしらえた。遠方の山並みは、どんよりと垂れ込める雲に閉ざされていた。  母を椅子に座らせると、痩せ細った首に大きな風呂敷を巻いた。マント代わりのそれを洗濯バサミで留めた時、母に同じことをしても

          雪の降る日に ~ショートショート410字~

          小さな祈り ~20文字の文学~

          結局、お年玉を使えなかった。寄付をした。 【あとがき】  手前味噌で恐縮ですが、昨年末に開催された「小牧幸助文学賞」で大賞の栄誉にあずかりました。数ある作品の中からお選びいただいたことを大変嬉しく思います。  本稿も、小牧幸助さんが主宰する「20字小説」への参加作品です。思い描いた物語を20字に折り畳み、「小さな祈り」と命名しました。

          小さな祈り ~20文字の文学~