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アガサ・クリスティー再読感想文 その1 推理小説に詳しくないけれど

 初めに

 長編小説を再読することが好きです。
 アーヴィングとかドストエフスキーとか『指輪物語』や『百年の孤独』など。
 その中にアガサ・クリスティーもあって、折に触れ、読み返します。

 でもクリスティーの作品のほとんどは推理小説。

 推理小説なのに再読するの?
 トリックも犯人もわかったのに?

 と思う方も多いと思いますが。

 よくできた推理小説は再読に値する魅力を持っている。

 と私は思っています。
(少し前に公開した「『カラマーゾフの兄弟』再読感想文その2」の記事の中でもお話しました。そちらも読んでいただけると嬉しいです。)

 というよりは。
 元々私は推理小説をほとんど読まなかったので。
 そしていまだにいわゆる古典の海外推理小説しか読んでいないので。
 最新のトリックとか謎解きとか、そういったものの知識はありません。
(もちろん古典海外推理小説のトリックも素晴らしいものが多いと思うのですが。あくまでも私に知識がない、ということです。)

 推理小説の面白さを語るには単純にこの分野の知識不足。
(クリスティーを語る資格はないのでは? と少し心配なのですが。)
 
 でも再読するほど好きなのはどうしてだろうと考えると。

 多分私はクリスティーを推理小説としてではなく物語として読んで楽しんでいるのだと思います。

 クリスティーは単に「物語」として読んでも面白い。

 推理小説ファンの方々とは読み方がちょっと違ってしまうと思うのですが。 

 「物語」としてのクリスティーの魅力。

 そんなお話をしたいと思います。




1 簡単に著者紹介

 まずは著者紹介。
 前回から引き続き東京創元社の公式サイトから。

イギリスの作家。1890年生まれ。1920年に『スタイルズ荘の怪事件』でデビューして以来、長編と短編集あわせて100冊を超す作品を発表した。巧妙な着想と錯綜したプロット構成に、独創的なトリックの加わった『アクロイド殺害事件』や『オリエント急行の殺人』『ABC殺人事件』といった多くの作品が、古典的名作としての評価を確立している。71年には長年の功績により、大英帝国勲章(DBE)を授与された。〈ミステリの女王〉たる彼女の創造した名探偵には、エルキュール・ポワロやミス・マープルなどがいる。76年没。

東京創元社公式サイト


 言わずと知れた名探偵ポアロとミス・マープルの生みの親。
 長短編合わせて100冊を越すとか。
 聖書、シェイクスピアに次いでよく読まれるとか。
 ミステリーの女王です。
 
 とはいえ私は作品を読むまで名前しか知らない存在でした。



2 出典は。

 今回はハヤカワ文庫で。
 本屋さんの海外推理小説の文庫コーナーの一角を占める赤い背表紙のアレです。

 創元推理文庫の方も数冊持っていますが。
 早川文庫の方が網羅していて、全作品を手に入れやすいのではないかと思います。
 私はハヤカワ・クリスティー文庫のほとんどを持っていて、新刊が出るたびに購入して再読します。


 あと一番大切なところは。
 ハヤカワ文庫。活字が大きいので。
(これがすごくありがたいです。)


3 参考文献は。

 ハヤカワのクリスティー文庫の中には小説の他にクリスティーについての解説なども同じ赤い背表紙の書籍として出版されています。

 私が愛読しているのは下の二つ。

① 『アガサ・クリスティー百科事典 ―作品・登場人物・アイテム・演劇・映像のすべて―』
 数藤 康雄編 竜 弓人編、早川書房、2004/11/18出版

 
 クリスティーを読み始めた早い段階で見つけて購入し、ずいぶん助けられました。

 まず全作品の「作品事典」が長編、短編などに分けて発表年順に載っているので、順番に読みたい私にとってはとても嬉しい。

 それから「作中人物事典」。
 あ、この人、別の作品に出ていたな、なんだったかな? と思った時にすごく便利です。

 さらに映像化作品についても詳しく、日本ではあまり見られない作品のこととか、ドラマを見て脚本演出などが気になった時にも便利でした。

 手元にある一冊はかなりボロボロです。
 ページが外れるほどに。

 感謝です。


② 『アガサ・クリスティー完全攻略〔決定版〕』
 霜月 蒼著 杉江松恋解説 早川書房 2018/04/30


 こちらは私がクリスティーを読むようになってかなり後の方に手に入れました。
 ミステリ研究家によるクリスティー評論集です。

 クリスティーを現代ミステリーとして読んでも面白いと感じるか、という視点で、ポアロもの、ミス・マープルもの、短編集、ノンシリーズなどにわけ、ハヤカワ・クリスティー文庫の発表順に批評していきます。
 ミステリーに対する造詣の深さとか、知識量とかすごくて、あくまでも公平な視点とか、勉強になりました。

 面白かったのは、著者が次第にクリスティーの作品にハマっていく感じがわかること。


未読の者は書店に走れ!

霜月 蒼著『アガサ・クリスティー完全攻略〔決定版〕』早川書房 p.90

驚いた。傑作。傑作である。

同上 p.144

 今や私はミス・マープルのファンだ。
 自分がそんなことを口にする日がくるとは想像もしなかった。

同上 p.190

未読はおれが許さぬ

同上 p.397


 なんておっしゃっていて面白かった。

 私がクリスティーに感じていた魅力を、専門的にわかりやすく解説してくださって。
 烏滸がましいのですが「そうそう。そうですよね!」と何度も頷いてしまいました。
 


4 パディントンから始まって。

 
 さて、クリスティーの魅力を語る前に。
 私がクリスティーを好きになった過程を少し。

 おそらく私は推理小説ファンとは言えないかも。
 という言い訳です。

 推理小説はアルセーヌルパンを子供の頃に少し読んだ記憶があります。
 それからいつの間にかシャーロック・ホームズは読んでいましたが。
 ミステリーを読むというより、やはり単純に読み物として読んでいたように思います。

 その後は、ジョン・アーヴィングとかドストエフスキーとかトールキンなどの海外小説、それから友人に勧められてSFなども読んでいましたが、基本的に推理小説とは縁がありませんでした。
(復刊アンケートの記事でもお話ししたウイルキー・コリンズの『月長石』と『白衣の女』も推理小説だと思って読んではいなかったので私的にはノーカウント。)

 ところがある時たまたま手に取ったクリスティー。
 電車で移動中に読むものがなくなって、駅ビルの書店で見かけた『パディントン発4時50分』。
 クリスティーって聞いたことある作家だな。推理小説家?
 いかにも列車ミステリーな題名。二時間ドラマみたいなもの?
 読んでみる?
 と、あくまでも軽い気持ちで購入。

 ところがこれがもう面白くて。

 賢くて有能、人気すぎてなかなか予約が取れない、自立した家政婦(時代を先取りしています)ルーシー・アイルズバロウが死体を見つけるまでの話の流れがとにかくうまい。
 一気に読みました。
(ミス・マープルものでした。後に公開予定の記事で好きな作品として詳しくお話しします。)

 そして気に入った作家の作品は発行年順に全部読みたくなってしまうので。
 クリスティーの推理小説をほとんど読むことに。

 出版年の順に、ポアロもの、マープルものを全て読み返したり。
 気に入ったものだけを何度も読み返したり。
 新訳が出ればまた購入して翻訳の違いを楽しんだり。

 それからクイーンやカー、ヴァン・ダイン、チェスタトン、クロフツ、フィルポッツにセイヤーズ。『モルグ街の殺人』や『隅の老人の事件簿』に『赤い館の秘密』までも。ルパンやホームズも再読して、改めて面白さに気付いたり。
(ルパンは子供の読み物のイメージが強いと思いますが、著者ルブランの短編推理小説などかなり洒落ていて大人な感じで面白かったです。)
(ちなみに日本の推理小説は江戸川乱歩と横溝正史を結構読みました。横溝はクリスティーに似た感じがします。)

 というわけでクリスティーについての再読感想文を書こうと思ったのですが。

 いざ書こうとしたところ。
 いわゆる謎解きとかトリックとか、そういうテーマはあまり出てこなくて。
 殺人とか犯罪とか、そもそもあまり好きではないし。

 では何が好きなのだろう。
 どうしてこんなに読んでしまうのだろう?

 物語自体の面白さ?
 結構コメディな感じ?
 かなり健全で正義感が強いところ?
 いや一番は。

 という感じで。

 その辺りを次回から少しずつお話ししていきたいと思います。
 手探りしながらになってしまいそうですが。


『推理小説に詳しくない読み手が、ミステリーの女王アガサ・クリスティーをなん度も読んでしまうほど好きな理由を探る再読感想文 推理小説ではなく物語として』
(正しく題名をつけるとこんな感じです)

 その1 推理小説に詳しくないけれど。(本稿)
 その2 探偵と魅力的な脇役たち
 その3 人物造形で騙す
 その4 叙述で騙す
 その5 犯人の魅力
 その6 映像作品のお話
 その7 好きな作品1『アクロイド殺し』
 その8 好きな作品2『ナイル殺人事件』
 その9 好きな作品3『五匹の子豚』
 その10  好きな作品4『書斎の死体』
 その11  好きな作品5『予告殺人』
 その12  好きな作品6『パディントン発4時50分』
 その13  好きな作品7『ポケットにライ麦を』
 その14  好きな作品8『鏡は横にひび割れて』
 その15 好きな作品9『ゼロ時間へ』

 毎週火曜日更新予定です。
(たぶん内容が変わったり順番が前後したり、色々変更あります。)
(長いです。)


 というわけで。
 まずは次回。
 クリスティー作品の登場人物のお話を。

 ポアロは全然嫌味な人ではないし。
 ミス・マープルは実はものすごくかっこいいし。
 脇役の女性達がすごく魅力的で。

 なんてお話をしたいと思います。

 次回。
『アガサ・クリスティー再読感想文その2 探偵と魅力的な脇役たち』
(2025年2月18日公開予定)


 

#海外文学のススメ


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