
2024年おすすめ本⑤
「人間の絆」サマセット・モーム

〈あらすじ〉
イギリスに戻ったフィリップの前に、傲慢な美女ミルドレッドが現れる。冷たい仕打ちにあいながらも青年は虜になるが、美女は別の男に気を移してフィリップを翻弄する。追い打ちをかけられるように戦争と投機の失敗で全財産を失い、食べるものにも事欠くことになった時、フィリップの心に去来したのは絶望か、希望か。モームが結末で用意した答えに感動が止まらない20世紀最大の傑作長編。
(Amazon概要より)
〈感想〉
人生のバイブルとして手元に置きたい、名言が詰まった本だった。
主人公フィリップの成長を通じて、「人間は何のために生きるか」という普遍の問いについて考えさせられる。
フィリップだけでなく、彼を取り巻く登場人物ひとりひとりの人間性が緻密に描かれているのが特徴のひとつだ。
フィリップの運命は波乱に満ちたものだった。
彼の人生は母との死別から始まる。
芸術の道を目指すも己の才能のなさを自覚した彼は、一転して医者を志す。
しかし悪女に振り回された挙句、投資にも失敗し無一文に。
どん底まで落ちたフィリップは、自分にとっての人生のあり方を見つめ直す。
生きる目的についてのフィリップの悟りは、彼に絶望ではなく救いをもたらした。
私は彼の出した答えに強く共感した。
生きていると紆余曲折あるけれど「ああ、なかなか味のある良い人生だったじゃないか!」と、この世を去る時には思っていたいし、そうある自分の姿を少しだけ想像することができた。
淡々とした無駄のない文章の中にある、はっとするほど美しい描写にも酔いしれた。
名作「月と六ペンス」と肩を並べる、思い入れ深い本となった。