二十年前からこの露地を歩いているけれども、影が眼にはいるようになったのはつい最近のことになる。それまでは陽があたる場しか見れていなかった。つまり、片目のみで明るいものだけを眺めてきたのであろう。影を觀てこなかったが故に、両目で物事を経験するといった営みが疎かになっていたのである。