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露地から茶室へと、ドラマが生まれる

新古今和歌集の、藤原定家の一首。

見渡せば 花も紅葉もなかりけり  浦のとまやの秋の夕暮れ

 こういう心持ちで静かに、その聖なる庵に近づいていく。そして、もしあなたが武士ならば、その刀を軒下の刀架(とうか)にかけて置く。それは、茶室がすごく平和な場所であるからである。客は低く身をかがめて、高さ1メートル弱の狭い入口である躙り口(にじりぐち)から、にじって、その聖なる空間に入る。この動作は身分が貴い人も、そうでない人も同様に、全ての客に負わされる義務であって、自分を低め相手を高めるための行為なのである。席次は待合で休んでいる間に定まっており、客は一人ずつ静かに入って、その席に着く。そして、まずは床の間の絵、または書、そして生花に敬意を表す。主人は、客が皆着席して部屋が静まりきり、茶釜のたぎる湯の音を除いては、何一つ静けさを破るものもないようになってから、初めて入ってくる。茶釜は美しい音を立て鳴る。特殊なメロディーを奏でるように、茶釜の底に鉄片が並べられてある。これを聞けば、雲に包まれた滝の響きか、岩に砕ける遠海の波の音か、はたまた竹林を払う雨風か、それともどこか遠き丘の上の松林に吹く風か、とも思われるような湯の沸く音なのである。

 昼間でも室内の光線は和らげられている。傾斜した屋根のある低いひさしは、日光を少ししか取り入れない。天井から床に至るまで、全ての物が落ち着いた色合いにしつらえられている。客みずからも雰囲気を壊さないように、目立たぬ着物を選んで着る。それらの古めかしい調和が、すべての物に行き渡っている。ただ一つ、清浄無垢な白く新しい茶筅と麻ふきんが著しい対比をなしているのを除いては、それ以外の新しい物はすべて厳禁とされている。茶室や茶道具がいかに色あせて見えても、それらすべての物は、清潔に保たれている。(※茶道の所作の一つ一つには時間の流れの中で磨き抜かれた意味が込められていることがわかる。そのことを理解してもらうために、「茶の本」の一部をわかりやすいように修正して紹介しました)

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カゲロウノヨル
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