遊亀

哲学者/投資家。思考のデッサン、即興のようなものを投稿しています。1994年生まれ。京…

遊亀

哲学者/投資家。思考のデッサン、即興のようなものを投稿しています。1994年生まれ。京都⇄高知

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記事一覧

なぜ労働はなくならないか、なぜ「仕事」はブルシット化してでも生き延びようとするのか(雑記)

たとえばこんな問題設定を念頭に、散歩しながら労働と現代社会についてあれこれ考えてみたんですが、 衣食住足りても、というか足りれば足りるほど、人間の余分な精神性が…

遊亀
5日前
22

医学情報をどう受け取るか

医学系の本を読んでいたら、HPVワクチンの話に出くわした。一般には子宮頸がんワクチンとして認知されているこのワクチンだが、2020年のある研究によれば、有効率は63%、…

遊亀
12日前
16

國分功一郎氏の消費社会批判について

生活を楽しむしかなかった時代? 久しぶりに、國分功一郎の『暇と退屈の倫理学』を手に取ってなんとなく読んでいたら、生活を楽しむための訓練を説いている箇所が目に留ま…

遊亀
2週間前
23

男女の進化論

プレジデントオンラインのポッドキャストを聴いていると、東大の小林武彦教授の記事が取り上げられていた。 小林氏は『生物はなぜ死ぬのか』(講談社現代新書)という面白…

遊亀
1か月前
17

お金のゆくえ

ところで、お金をバンバン使ったほうが道徳的に優れているというのは、直感には反するけど、やっぱりそれだけ現代がサービス業主体の社会だということなんだと思う。 衣食…

遊亀
1か月前
21

メディア時評

先日、アメリカの政局にまつわるこんな記事があった。 この記事、一言でいえば、バイデン大統領が最高裁の一連の判決を批判し、それを覆そうとしているという趣旨の話で、…

遊亀
1か月前
13

乳製品から医学的エビデンスを考える

だいぶ前のものになるが、New York Timesで、"Are Low-Fat Dairy Products Really Healthier?"(低脂肪乳製品はホントに健康的か)という記事があった。 記事によると、こ…

遊亀
1か月前
15

AIの発展で識字率が下がる?

サウナでTVをみながらぼんやり考えたんですが、生成AIの発展で人口の識字率が下がる展開、わりとあるんじゃないか。 AIのアシスタンスやエンパワメントに頼っていると、自…

遊亀
2か月前
21

スピノザ考察ノート

西田幾多郎の『善の研究』をちびちび読んでいる。読みながら、「汎神論だよなあ」との感慨を強くする。西田自身は直接に神とは言わず実在と言うのだが、実在は統一かつ矛盾…

遊亀
2か月前
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「政治が変わらないと世の中良くならない」について

最近、批評家の宇野常寛さんのポッドキャストを聴きながら散歩するのが日課になっている。7月5日の放送は、都知事選の展望を語るものだった。 宇野さんは放送で、「自分は…

遊亀
2か月前
20

『ぼっちな食卓』を読んで雑感など

岩村暢子さんの『ぼっちな食卓』という本を読ませてもらいながらぼんやり考えるんですが、 やっぱり、「家族」という制度は限界にきてるんじゃないかと。 われわれ現代人…

遊亀
2か月前
28

名古屋ひとり旅

思い立って名古屋に行く。 前日は深夜まで友達と飲んでいたが、最近、夜型が定着していたので、これを良い機会に通常に戻したい。徹夜敢行である。 名古屋は、何年も前、…

遊亀
3か月前
37

「歩くと健康になる」を考える

ちょっと前の記事になりますが、こんなニュースがありました。 年をとっても、歩くと健康になれる。日本でも「一日一万歩」を目指す健康法がありますが、その「正しさ」が…

遊亀
3か月前
29

サードプレイス再考

新聞を読んでいると、サードプレイスの話が出てきた。 家でも職場でもなく、自由に交流を楽しみ、自分自身を取り戻す第三の場所、サードプレイス。具体的にイメージしやす…

遊亀
3か月前
42

NISAのリスク

新聞を読む。盛り上がるNISAについて、識者の対談が記事になっている。 最近、もはや新聞でもネットニュースでもNISAの話題が出ない日はないが、現時点で考えられるNISAの…

遊亀
3か月前
22

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』への違和感を考える

三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読ませてもらった。いろいろメモをとりながら一通り読んだのだが、ノートが膨大になったので、ここで一度まとめ…

遊亀
4か月前
99
なぜ労働はなくならないか、なぜ「仕事」はブルシット化してでも生き延びようとするのか(雑記)

なぜ労働はなくならないか、なぜ「仕事」はブルシット化してでも生き延びようとするのか(雑記)

たとえばこんな問題設定を念頭に、散歩しながら労働と現代社会についてあれこれ考えてみたんですが、

衣食住足りても、というか足りれば足りるほど、人間の余分な精神性がより強く浮かび上がってきて意識されるので、バランスを欠いて神経症的に情報や記号に従属し、それ自体は実在しない欲望とか不安に左右されやすくなってしまう。

人に合わせよう、ママ友界隈に乗り遅れないようにしよう、あいつよりいい車に乗ろうと無理

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医学情報をどう受け取るか

医学情報をどう受け取るか

医学系の本を読んでいたら、HPVワクチンの話に出くわした。一般には子宮頸がんワクチンとして認知されているこのワクチンだが、2020年のある研究によれば、有効率は63%、年間では、子宮頸がんの発症を10万人あたり5人から1人に減らすことができるらしい(青島周一『薬の現象学』)。

パーセンテージに直すと、接種なしで全体の0.00527%が発症し、接種ありだと0.00073%「しか」発症しない。7倍く

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國分功一郎氏の消費社会批判について

國分功一郎氏の消費社会批判について

生活を楽しむしかなかった時代?

久しぶりに、國分功一郎の『暇と退屈の倫理学』を手に取ってなんとなく読んでいたら、生活を楽しむための訓練を説いている箇所が目に留まった。

イギリスの哲学者バートランド・ラッセルや社会運動家ウィリアム・モリスを引き合いに出しながら、現代人は消費社会によって人間性を疎外されており、人間らしい生活を取り戻すために、それを楽しむための「訓練」が重要になってくると國分さんは

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男女の進化論

男女の進化論

プレジデントオンラインのポッドキャストを聴いていると、東大の小林武彦教授の記事が取り上げられていた。

小林氏は『生物はなぜ死ぬのか』(講談社現代新書)という面白い本を書かれた生物学者で、上の記事でも、「生物にとって死とは何か」という問題について、わかりやすく説明されている。小林氏によれば、「なぜ死ぬのか?」というのはもう問いの段階でズレている。そうではなく、人間は死ぬから生きるんだと。死ぬことで

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お金のゆくえ

お金のゆくえ

ところで、お金をバンバン使ったほうが道徳的に優れているというのは、直感には反するけど、やっぱりそれだけ現代がサービス業主体の社会だということなんだと思う。

衣食住足りたらそれでいいと満足してたら、サービス業で自分の労働力を売るしかない大多数の人々を食わせられなくなる。

もちろん、道徳とか倫理とはいっても、同時に遊び、あるいは美意識の感覚にも支配されている。ほんまに困ったら田舎に住んで畑耕して自

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メディア時評

メディア時評

先日、アメリカの政局にまつわるこんな記事があった。

この記事、一言でいえば、バイデン大統領が最高裁の一連の判決を批判し、それを覆そうとしているという趣旨の話で、それをBBCも素直に紹介しているんですが、

これ、立場が逆だったとして、つまり、トランプが同じように最高裁の何らかの判決について文句を言った、といったことがあったとすれば(実際に任期中ありました)、メディアは一斉に「三権分立を脅かすもの

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乳製品から医学的エビデンスを考える

乳製品から医学的エビデンスを考える

だいぶ前のものになるが、New York Timesで、"Are Low-Fat Dairy Products Really Healthier?"(低脂肪乳製品はホントに健康的か)という記事があった。

記事によると、これまで健康のためには低脂肪乳製品が良いということが言われてきたが、最新の研究では、低脂肪であろうとなかろうと、乳製品の摂取は高血圧や心血管疾患、糖尿病のリスク抑制に貢献することが

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AIの発展で識字率が下がる?

AIの発展で識字率が下がる?

サウナでTVをみながらぼんやり考えたんですが、生成AIの発展で人口の識字率が下がる展開、わりとあるんじゃないか。

AIのアシスタンスやエンパワメントに頼っていると、自分で読解したり計算したりする必要がなくなりますからね。

現に、どこかで聞いた話ですが、最近はマニュアルが読めなかったり、お釣りの計算ができなかったり(しかもそれでいて本人は平然としている)というZ世代の若者が少なからずいるみたいで

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スピノザ考察ノート

スピノザ考察ノート

西田幾多郎の『善の研究』をちびちび読んでいる。読みながら、「汎神論だよなあ」との感慨を強くする。西田自身は直接に神とは言わず実在と言うのだが、実在は統一かつ矛盾であるとか、「一なると共に多、多なると共に一、平等の中に差別を具し、差別の中に平等を具するのである」とか、とにかく汎神論的な気分が横溢しているのだ。『善の研究』の終盤で直接神について語る地合いにおいても、「万物は神の表現である」「神即世界、

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「政治が変わらないと世の中良くならない」について

「政治が変わらないと世の中良くならない」について

最近、批評家の宇野常寛さんのポッドキャストを聴きながら散歩するのが日課になっている。7月5日の放送は、都知事選の展望を語るものだった。

宇野さんは放送で、「自分は蓮舫に入れたい」と語っている。蓮舫が良い候補だからではなく、小池百合子への批判票を投じたいという考えのようだ。これは構造的関心からのものでもある。民主主義において、「政権交代」の可能性を人々がリアルに感じられるということそれ自体に価値が

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『ぼっちな食卓』を読んで雑感など

『ぼっちな食卓』を読んで雑感など

岩村暢子さんの『ぼっちな食卓』という本を読ませてもらいながらぼんやり考えるんですが、

やっぱり、「家族」という制度は限界にきてるんじゃないかと。

われわれ現代人が、資本主義や市場経済の文脈で、世の中を豊かにしよう、便利にしよう、あるいは困っている人を助けようとすればするほど、市場の世界が強くなって、生活と共同体の世界はぼろぼろになる。

ぼろぼろになればなるほど、資本主義的善意(企業のサービス

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名古屋ひとり旅

名古屋ひとり旅

思い立って名古屋に行く。

前日は深夜まで友達と飲んでいたが、最近、夜型が定着していたので、これを良い機会に通常に戻したい。徹夜敢行である。

名古屋は、何年も前、中日新聞の説明会で行ったことがあるだけで、実質初めてみたいなものだ。本と着替えと小物類だけ入れて、いつものトートバッグで家を出る。

天気が良い。朝のさわやかな感じは久しぶりで、木々が青々と茂っている。朝はこんなに美しかったのか。

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「歩くと健康になる」を考える

「歩くと健康になる」を考える

ちょっと前の記事になりますが、こんなニュースがありました。

年をとっても、歩くと健康になれる。日本でも「一日一万歩」を目指す健康法がありますが、その「正しさ」が、最新の研究によっても実証された。だからみなさん、年をとっても健康で居続けるためにしっかり歩きましょうという話です。

記事によると、「研究グループは昨年、AIを使った機械学習で年齢や性別、病気の有無など約40項目から健康寿命を予測する指

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サードプレイス再考

サードプレイス再考

新聞を読んでいると、サードプレイスの話が出てきた。

家でも職場でもなく、自由に交流を楽しみ、自分自身を取り戻す第三の場所、サードプレイス。具体的にイメージしやすいのは、街の居酒屋、バー、スナック、喫茶店あたりだろうか。スタバなんかも、この概念に刺激を受けて誕生したとも聞く。

ところで、「サードプレイス」って、非常に訴求力があって惹かれる言葉なんですが、一方で、それが肯定的に言及されるにつけ、折

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NISAのリスク

NISAのリスク

新聞を読む。盛り上がるNISAについて、識者の対談が記事になっている。

最近、もはや新聞でもネットニュースでもNISAの話題が出ない日はないが、現時点で考えられるNISAのリスクについて、長期的・未来予測的な角度から少し書きつけてみた。

読み返すと、なんだかイヤな目線で見てるな・・という感じが自分でも否定できないが、こうやって未来予測みたいなことをすると、現在の世界に対する認識もリフレッシュで

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『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』への違和感を考える

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』への違和感を考える

三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読ませてもらった。いろいろメモをとりながら一通り読んだのだが、ノートが膨大になったので、ここで一度まとめておきたい。労働と読書の現在を扱っている第七章以降に絞って、書いてみたいと思います。

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本書は、「かつては本が読めてたけど働き出して読めなくなった」という人たち向けに書かれたものらしい。「働いていると読めなくなった

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