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メディア時評

先日、アメリカの政局にまつわるこんな記事があった。

この記事、一言でいえば、バイデン大統領が最高裁の一連の判決を批判し、それを覆そうとしているという趣旨の話で、それをBBCも素直に紹介しているんですが、

これ、立場が逆だったとして、つまり、トランプが同じように最高裁の何らかの判決について文句を言った、といったことがあったとすれば(実際に任期中ありました)、メディアは一斉に「三権分立を脅かすものだ!」「司法の独立性が損なわれる!」などと、ものすごいスキャンダラスな見出しをつけて非難轟々だったんじゃないんですかね。

 バイデン氏はさらに、トランプ前大統領など大統領経験者について刑事訴追を一部免除されるとした今月1日の最高裁判決を覆せるよう、合衆国憲法の修正案を可決するよう求めている。
 寄稿の中でバイデン氏は、「大統領の権力は絶対的ではなく、限定的だという建国者たちの信念を私は共有している」、「私たちの国は法治国家だ。王や独裁者の国ではない」とした。

「バイデン氏、連邦最高裁の改革案を発表 「極端な意見」を批判」Yahoo!ニュース

印象的な箇所を太字で強調しましたが、このあたりを素直に読むと、「おいおいおいw」ってなってしまうんですよね。「最高裁判決を覆せるよう」働きかけた当人が、同時に「大統領の権力は絶対的じゃない」「私たちの国は法治国家だ」と平気で言ってしまう。法治国家だと言いながら、最高裁判決はキャンセルできるしそうすべきだと言えてもしまう。そしてこの明らかな矛盾を、BBCも平気でスルーしてしまっている。

民主党およびCNN, BBCなどといった主流メディアは、本当に国家の正当性を信頼しているんでしょうか。メディアはしばしば三権分立や司法の独立性など、制度機構の正当性を訴えますが、見たところ明らかにその正当性を毀損しかねないバイデンの発言に対しては、かなり甘いわけです。

ジャーナリズムの名で安易に党派政治に加担し、これを推進しているだけと見られても仕方がないですし、また、上の引用に見られるような矛盾を、ジャーナリズムとして隠そうとも努力しないあたり、近代ジャーナリズムの黄昏というか、末路みたいなものを見させられているかのよう。


今回の選挙はトランプが勝つ公算が高いわけですが、そうなった場合、今から予測しておきたいと思うんですが、たぶんメディアは、「選挙は操られていた」「中国やロシアの介入があった」などと言い出すのではないか。

「前科」もあります。2016年にトランプが勝ったときも、NYTをはじめとする左派メディアは「ロシアの干渉があった」とする根拠のない陰謀論(ロシアゲート)を大々的にキャンペーンして、結果的には、証拠不十分でうやむやになったという経緯がある。2020年の選挙ではトランプが負け、今度はトランプ側が「選挙は盗まれた」「不正選挙だった」という異議を申し立てたわけですが、果たして主流メディアにそれを非難する資格があったのか…甚だ疑問ではありますね。


民主党は基本的に礼儀正しい(polite)政党なので、トランプが際どい発言をするたび、それを問題視して人格攻撃に走らざるをえない。でも、そうすればするほど、肝心の政策を論争の舞台に引き上げることができなくなる。気づいたら、人格には問題があるが中身の政策は国民の利益にかなっていそうなトランプ共和党と、人格的高潔さは掲げるが国民の総意とはズレたことをしがちな民主党という対立構図ができあがってしまっている。

僕も、トランプはさすがにずっと出っぱなしで飽きられるだろうと高を括っていましたが、いまだに根強い人気で、YouTubeでちょっと演説やディベートを覗いてみても、言葉に力があり、舌鋒鋭く皮肉も効いている。民主党や主流メディアは、ハリスを立てることで「検察官 v.s. 犯罪者」という構図を演出しようともしていますが、全体に、なんか学芸会感があって、出てくる人間の凄みもあまり感じられないんですよね。

だいたい、トランプが犯罪者だという構図は8年前から変わらないのであって、そのような本来は「論外」なはずの人物に、なんでちゃんと真面目に仕事してそうな民主党はいつも苦戦しちゃうのか、そこが一番クリティカルなんじゃないですかね?

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