遊亀

哲学者/投資家。思考のデッサン、即興のようなものを投稿しています。1994年生まれ。京…

遊亀

哲学者/投資家。思考のデッサン、即興のようなものを投稿しています。1994年生まれ。京都⇄高知

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    労働や資本主義についての記事をまとめました

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最近の記事

なぜ労働はなくならないか、なぜ「仕事」はブルシット化してでも生き延びようとするのか(雑記)

たとえばこんな問題設定を念頭に、散歩しながら労働と現代社会についてあれこれ考えてみたんですが、 衣食住足りても、というか足りれば足りるほど、人間の余分な精神性がより強く浮かび上がってきて意識されるので、バランスを欠いて神経症的に情報や記号に従属し、それ自体は実在しない欲望とか不安に左右されやすくなってしまう。 人に合わせよう、ママ友界隈に乗り遅れないようにしよう、あいつよりいい車に乗ろうと無理するから、余計に働かないといけなくなるし、身の丈に合わないことをしていると借金も

    • 医学情報をどう受け取るか

      医学系の本を読んでいたら、HPVワクチンの話に出くわした。一般には子宮頸がんワクチンとして認知されているこのワクチンだが、2020年のある研究によれば、有効率は63%、年間では、子宮頸がんの発症を10万人あたり5人から1人に減らすことができるらしい(青島周一『薬の現象学』)。 パーセンテージに直すと、接種なしで全体の0.00527%が発症し、接種ありだと0.00073%「しか」発症しない。7倍くらい効果が違うわけですが、逆に、発症しなかった人の割合は、100から引くので、未

      • 國分功一郎氏の消費社会批判について

        生活を楽しむしかなかった時代? 久しぶりに、國分功一郎の『暇と退屈の倫理学』を手に取ってなんとなく読んでいたら、生活を楽しむための訓練を説いている箇所が目に留まった。 イギリスの哲学者バートランド・ラッセルや社会運動家ウィリアム・モリスを引き合いに出しながら、現代人は消費社会によって人間性を疎外されており、人間らしい生活を取り戻すために、それを楽しむための「訓練」が重要になってくると國分さんは主張する。 ここで訓練というのは、古典文学を楽しむためにギリシャ語を習得するとか

        • 男女の進化論

          プレジデントオンラインのポッドキャストを聴いていると、東大の小林武彦教授の記事が取り上げられていた。 小林氏は『生物はなぜ死ぬのか』(講談社現代新書)という面白い本を書かれた生物学者で、上の記事でも、「生物にとって死とは何か」という問題について、わかりやすく説明されている。小林氏によれば、「なぜ死ぬのか?」というのはもう問いの段階でズレている。そうではなく、人間は死ぬから生きるんだと。死ぬことで変異がたくさん起き、進化するんだと。 昆虫なんか、交尾を終えるとすぐ死んでしま

        なぜ労働はなくならないか、なぜ「仕事」はブルシット化してでも生き延びようとするのか(雑記)

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        記事

          お金のゆくえ

          ところで、お金をバンバン使ったほうが道徳的に優れているというのは、直感には反するけど、やっぱりそれだけ現代がサービス業主体の社会だということなんだと思う。 衣食住足りたらそれでいいと満足してたら、サービス業で自分の労働力を売るしかない大多数の人々を食わせられなくなる。 もちろん、道徳とか倫理とはいっても、同時に遊び、あるいは美意識の感覚にも支配されている。ほんまに困ったら田舎に住んで畑耕して自給自足すればいいっていうのはそうなのだが、しかし、現実に、人間は衣食住足りたら足

          お金のゆくえ

          メディア時評

          先日、アメリカの政局にまつわるこんな記事があった。 この記事、一言でいえば、バイデン大統領が最高裁の一連の判決を批判し、それを覆そうとしているという趣旨の話で、それをBBCも素直に紹介しているんですが、 これ、立場が逆だったとして、つまり、トランプが同じように最高裁の何らかの判決について文句を言った、といったことがあったとすれば(実際に任期中ありました)、メディアは一斉に「三権分立を脅かすものだ!」「司法の独立性が損なわれる!」などと、ものすごいスキャンダラスな見出しをつ

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          乳製品から医学的エビデンスを考える

          だいぶ前のものになるが、New York Timesで、"Are Low-Fat Dairy Products Really Healthier?"(低脂肪乳製品はホントに健康的か)という記事があった。 記事によると、これまで健康のためには低脂肪乳製品が良いということが言われてきたが、最新の研究では、低脂肪であろうとなかろうと、乳製品の摂取は高血圧や心血管疾患、糖尿病のリスク抑制に貢献することがわかってきた。低脂肪の方が太りにくいということもあまりないようだ。 僕は、牛乳

          乳製品から医学的エビデンスを考える

          AIの発展で識字率が下がる?

          サウナでTVをみながらぼんやり考えたんですが、生成AIの発展で人口の識字率が下がる展開、わりとあるんじゃないか。 AIのアシスタンスやエンパワメントに頼っていると、自分で読解したり計算したりする必要がなくなりますからね。 現に、どこかで聞いた話ですが、最近はマニュアルが読めなかったり、お釣りの計算ができなかったり(しかもそれでいて本人は平然としている)というZ世代の若者が少なからずいるみたいですしね。これは、Z世代に片足突っ込んでるような自分でも体感的によくわかる。もう一

          AIの発展で識字率が下がる?

          スピノザ考察ノート

          西田幾多郎の『善の研究』をちびちび読んでいる。読みながら、「汎神論だよなあ」との感慨を強くする。西田自身は直接に神とは言わず実在と言うのだが、実在は統一かつ矛盾であるとか、「一なると共に多、多なると共に一、平等の中に差別を具し、差別の中に平等を具するのである」とか、とにかく汎神論的な気分が横溢しているのだ。『善の研究』の終盤で直接神について語る地合いにおいても、「万物は神の表現である」「神即世界、世界即神」と西田は書いている。 汎神論といえば、しかし、やはりスピノザである。

          スピノザ考察ノート

          「政治が変わらないと世の中良くならない」について

          最近、批評家の宇野常寛さんのポッドキャストを聴きながら散歩するのが日課になっている。7月5日の放送は、都知事選の展望を語るものだった。 宇野さんは放送で、「自分は蓮舫に入れたい」と語っている。蓮舫が良い候補だからではなく、小池百合子への批判票を投じたいという考えのようだ。これは構造的関心からのものでもある。民主主義において、「政権交代」の可能性を人々がリアルに感じられるということそれ自体に価値がある。体制が覆るかもしれないという「夢」が見られるかどうか、このことが、誰がどん

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          『ぼっちな食卓』を読んで雑感など

          岩村暢子さんの『ぼっちな食卓』という本を読ませてもらいながらぼんやり考えるんですが、 やっぱり、「家族」という制度は限界にきてるんじゃないかと。 われわれ現代人が、資本主義や市場経済の文脈で、世の中を豊かにしよう、便利にしよう、あるいは困っている人を助けようとすればするほど、市場の世界が強くなって、生活と共同体の世界はぼろぼろになる。 ぼろぼろになればなるほど、資本主義的善意(企業のサービス)への需要も高まる。そういう呪いが現代社会にはあるわけです。 生きていくために

          『ぼっちな食卓』を読んで雑感など

          名古屋ひとり旅

          思い立って名古屋に行く。 前日は深夜まで友達と飲んでいたが、最近、夜型が定着していたので、これを良い機会に通常に戻したい。徹夜敢行である。 名古屋は、何年も前、中日新聞の説明会で行ったことがあるだけで、実質初めてみたいなものだ。本と着替えと小物類だけ入れて、いつものトートバッグで家を出る。 天気が良い。朝のさわやかな感じは久しぶりで、木々が青々と茂っている。朝はこんなに美しかったのか。 京都駅。新快速に乗るが激混み。通勤通学の人でいっぱいだ。そういえば月曜日だった。草

          名古屋ひとり旅

          「歩くと健康になる」を考える

          ちょっと前の記事になりますが、こんなニュースがありました。 年をとっても、歩くと健康になれる。日本でも「一日一万歩」を目指す健康法がありますが、その「正しさ」が、最新の研究によっても実証された。だからみなさん、年をとっても健康で居続けるためにしっかり歩きましょうという話です。 記事によると、「研究グループは昨年、AIを使った機械学習で年齢や性別、病気の有無など約40項目から健康寿命を予測する指標を開発」し、このAI指標を用いて、成人約4900人のデータを解析したそうです。

          「歩くと健康になる」を考える

          サードプレイス再考

          新聞を読んでいると、サードプレイスの話が出てきた。 家でも職場でもなく、自由に交流を楽しみ、自分自身を取り戻す第三の場所、サードプレイス。具体的にイメージしやすいのは、街の居酒屋、バー、スナック、喫茶店あたりだろうか。スタバなんかも、この概念に刺激を受けて誕生したとも聞く。 ところで、「サードプレイス」って、非常に訴求力があって惹かれる言葉なんですが、一方で、それが肯定的に言及されるにつけ、折に触れて違和感を抱いてきたのも事実なんですよね。会話、交流、居場所、帰属意識、街

          サードプレイス再考

          NISAのリスク

          新聞を読む。盛り上がるNISAについて、識者の対談が記事になっている。 最近、もはや新聞でもネットニュースでもNISAの話題が出ない日はないが、現時点で考えられるNISAのリスクについて、長期的・未来予測的な角度から少し書きつけてみた。 読み返すと、なんだかイヤな目線で見てるな・・という感じが自分でも否定できないが、こうやって未来予測みたいなことをすると、現在の世界に対する認識もリフレッシュできるし、将来何かあっても、「そこまで驚かされないで済む」という効用がある。 大

          NISAのリスク

          『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』への違和感を考える

          三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読ませてもらった。いろいろメモをとりながら一通り読んだのだが、ノートが膨大になったので、ここで一度まとめておきたい。労働と読書の現在を扱っている第七章以降に絞って、書いてみたいと思います。 *    *    * 本書は、「かつては本が読めてたけど働き出して読めなくなった」という人たち向けに書かれたものらしい。「働いていると読めなくなった」わけだから、「かつては」読めていた。しかし、客観的にみて、働き出す前、つまり学

          『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』への違和感を考える