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ハードボイルド書店員日記【223】
<悩みは消える>
平日午前中のレジカウンター。店の番線印にスタンプ台の黒インクを付着させ、返品の際に使う伝票へ押していく。3枚がワンセットで100セット。つまり同じ作業を300回繰り返す。「判で押したように」が比喩ではないケースだ。
「なんで先輩がそんなことしてるんですか?」
横では、雑誌担当の契約社員が女性誌へ付録を挟み込んでいる。レジ要員は空いた時間に何をするかも重要だ。
「さっき店長に頼
誰でもできる「○○○」を大事にしたい
先日の話。
あるお客さんが↓を全巻レジへ持ってきてくれました。お買い上げありがとうございます。
アニメが放送中の「チ。―地球の運動について―」(小学館)全8巻です。
しかしよくよく見ると、1~7巻と↓の組み合わせでした。
「こちらはトリビュートブックで最終巻ではありませんが、よろしいですか?」と確認したら「え、そうなんですか」と驚いた表情。8巻と表紙の感じが似ていて隣り合わせで積んでいるか
末端のイチ従業員が「書店活性化へ向けた共同提言」に思うこと
なるほど。
「図書館との連携」「キャッシュレス負担軽減を」はわかります。
「ICタグで書店のDX化を」はどうだろう。漠然としてませんか?
万引き防止の強化かと思いきや「購買傾向把握し返本削減」と記されている。どこの本屋もずっと取り組んでいるテーマです。にもかかわらず減らない事情まで踏み込む気があるのかどうか。
むしろ「AIを使って新刊や売れ筋の配本を適正化」及び「返品率を下げる代わりに書店
ハードボイルド書店員が丸善ジュンク堂書店の「magmabooks」に思うこと
その手があったか!!
丸善ジュンク堂書店さんが、東京都港区にある虎ノ門ヒルズ「グラスロック」の2~3階に新業態となる店舗「magmabooks」をオープンします。
これまでの「本を探す」書店から「本と出会う」書店を目指すとのこと。有料ラウンジやギャラリースペースも設けるようです。
3階は約185坪で、従来通りのジャンル別構成。2階は約85坪で「テーマごとに編集し、本棚を通じて新たな世界観や価
ハードボイルド書店員日記【222】
「このなかに食器を売ってる店、ある?」
マスクの下で欠伸を噛み殺す平日の昼。レジ誤差が続いている、気を引き締めるようにと店長が朝礼で苦言を呈していた。ミスが増えるのは繁忙期だけとは限らない。
時々考える。早くすべてのレジをセルフへ刷新したらどうかと。その暁には図書カードの引き落としを忘れたり、お釣りを渡し間違ったりするケースは消滅するはずだ。仕事を奪われる? 心配無用。品出しや選書、検品、発注
ハードボイルド書店員が読みたい「2025年本屋大賞・ノミネート作」
またこの季節が巡ってきました。
「本屋大賞」については、イチ非正規書店員として思うところがあります。ただ企画そのものを否定してはいません。小説を読むことの喜びを知ってほしい。本と本屋にいままで以上の関心を抱くきっかけになってくれたら。その気持ちは当然持っています。
さっそくノミネート10作品の概要を調べました。スイマセン、偉そうなことを書いておきながらどれも読んでいません。たまに「書店員はプル
イチ書店員が「新装版と旧版」に思うこと
↓が2月5日に発売されます。
伊坂幸太郎「死神の精度」(文春文庫)の新装版です。著者の特別インタビューが巻末に収められているとのこと。
カラフルな背景に黒いシルエットとイヤホン。ゼロ年代に目にしたiPodのコマーシャルを思い出しました。
本作の単行本が刊行されたのは2005年6月。iPod nanoが出る直前ぐらいです。その辺りを含めてのデザインだとしたら素晴らしい。ちょっと欲しくなりました
ハードボイルド書店員日記【221】
「いらっしゃいませ!! お、本屋さんあけましておめでとう!!」
だから、その呼び方は誤解を招く。あともう2月だ。たしかに訪れるのは今年初めてだけど。
職場が入っている商業施設から徒歩数分。雑居ビルの一階にあるラーメン屋へ足を運んだ。L字カウンターだけの空間である。店主とは同世代。たまに雑誌やマンガを買いに来てくれる。
「あれが売れて忙しい?」
「あれ?」
「何賞っていうんだっけ。難しい小説が
「1%の少数意見」かもしれないけど
楽しみな本が発売されます。
出版社は文藝春秋。著者は、2024年の東京都知事選で15万票を獲得した安野貴博さんです。
彼は2021年に自動運転をテーマに据えた「サーキット・スイッチャー」(早川書房)で作家デビューしています。昨年7月には、AIに習熟した女性が会社を起ち上げるお仕事小説「松岡まどか、起業します」(同)を上梓しました。
AIエンジニア、SF作家、起業家、そして政治の道へ。
作品
「新刊だから」「大量に入ったから」ではなく
12月の中旬ごろに↓が発売されました。
版元は講談社で320ページ。↑いわく「チャンドラー研究の完成形にして決定版」とのこと。
「ハードボイルド書店員」を名乗る身なら避けては通れぬ一冊。いやそんな些末な自負心はどうでもよく、レイモンド・チャンドラーを愛読するひとりとしてぜひ買いたい。
2860円。ドカンドカン売れる本ではないかもしれない。でもこういう書籍を置いてこそ専門店という気がします。
「新たなファンの開拓」&「○○○の効用」
11月に発売された↓が売れています。
文芸誌「GOAT」の第1号です。紙を愛してやまないヤギにちなんで名づけたとのこと。公式サイトはこちら。
「自分たちが心の底から読みたい、みんなに読んでほしい小説を集めた文芸誌を作りたい」
「エンタメや純文学といった線引きは一切なしで、もっと小説をカジュアルに」
書かれていたコンセプトに賛同します。小説の読み手にとって重要なのはジャンルではなく、シンプルに
元・雑誌担当が「鉄道ジャーナル」の休刊に思うこと
驚きました。
1967年創刊の「鉄道ジャーナル」が、4月発売の6月号で休刊するようです。ウェブ版へ移行する予定はないとのこと。
雑誌担当の頃、平台に「鉄道ジャーナル」「鉄道ファン」「鉄道ピクトリアル」「鉄道ダイヤ情報」「鉄道模型趣味」「RM MODELS」「Rail Magazine」「とれいん」「N」などを毎月21日に積んでいました。「鉄おも!」は途中から幼年誌の棚へ移した記憶があります。当
ハードボイルド書店員日記【220】
「芥川賞の本、どこ?」
「申し訳ございません、売り切れてしまいました」
発表があった週の後半。何度このやり取りをしたことか。
安堂ホセ「DTOPIA」(河出書房新社)は11月に刊行されていた。3回連続の候補入りである。一応「獲る可能性が高いのでは」と文芸書担当に伝えてはいた。しかし売れ残りのリスクを危惧したか、多めに仕入れることはしなかったらしい。どうせ満数は来ないだろうが。
鈴木結生「ゲー
ハードボイルド書店員は「こういう出会い」を大事にしたい
少し前の話。
年配のお客さんから、ある文庫本の在庫の有無を訊かれました。検索すると一冊あり。棚を調べ、抜き出してお渡ししました。
すると「え、あったの?」と驚いた表情。長くこの業界で働いていますが、まあまあ新鮮なリアクションでした。「ないの?」「この店は何もないなあ」みたいなお叱りはたまに頂戴しますが(ケースによって理不尽と感じたり、仰る通りですと納得したり)。
会計をしながら訊ねると「近所