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SF、読書のよろこびマガジン

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大人になってからSFの楽しみを知った人の記録。本が好き、ゲーム興味ないかたはここで。
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#読書

【読書記録】坂口恭平「継続するコツ」から岡本太郎の味がした

【読書記録】坂口恭平「継続するコツ」から岡本太郎の味がした

前回の記事が「死」「あきらめ」がテーマだったけど、対比したように同じタイミングで読んだ「生」と「執着」の本です。

躁鬱を患う著者が、軽い躁状態を保って走り抜けていって、後には風がふわっと残るだけ…みたいな読書体験。

これは…、仕事もやりたいことも見つからなくて精神的に閉じこもって参っていたとき、図書館で岡本太郎や中島らもや高野秀行を読んだ、あの感じ!

自分の世界の外にいる人たちが、スコーンと

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【読書記録】「平成くん、さようなら」(ネタバレ)

【読書記録】「平成くん、さようなら」(ネタバレ)

古市憲寿「平成くん、さようなら」読みました。
こういう話だったんかい!
世代による価値観のギャップとか、これからのの生き方とか、そういう話じゃなくて、パラレルワールドSF?

一発で好きになった。
もしも日本が安楽死を認める国だったら…という「歴史IfものSF」だった。
小説やゲームでよく「もしもドイツがアメリカを統治していたら」を見るけど、こっちの方がずっと肌でわかる。

死が身近な世界で、いか

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【読書記録】直木賞を獲るヤクザ「破門」

【読書記録】直木賞を獲るヤクザ「破門」

151回直木賞受賞作「破門」。
純文学のあとに読むとスピード感の違いで車酔いするぞ。

主人公が「疫病神」とあだなされる旧知のヤクザにつきまとわれて、厄介事に巻き込まれる話だ。

今作では映画で一発当てて儲けようとする話から、責任者が逃げて大事になるのだが、ガンガン移り変わる景色とふたりの漫才のような掛け合いがずっと続く。

疫病神にいきなり押しかけられて、「ついて来い」って言われて
「顔だけでも

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【読書】すばる2025年2月号を買った。李琴峰から読む

【読書】すばる2025年2月号を買った。李琴峰から読む

前に、すばる文学賞受賞作発表号を買ってたけど、感想が形にならなかった。

大賞の「泡の子」は、いわゆるトー横キッズと呼ばれる若者の暴力や売春が出てくる話で、期待の作家は発掘できたけど、一作だけでいうと去年の「みどりいせき」みたいな衝撃ではない感じ。

今月のすばるはいい! 
金原ひとみと高山羽根子の新連載、読み切りは太宰治文学賞でデビューした新鋭の市街地ギャオ。

これだけのメンバーがいるのに、い

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【日記】ブックオフに本を売るのが毎年恥ずかしい。

ブックオフで割引券がもらえるので、本棚一列ぶん買取に持っていきました。自分の趣味をさらけ出すのが毎年恥ずかしい。

自意識過剰で趣味を人前で言うのが恥ずかしくて、(書くのはいくらでも晒せる)
店員に「こいつ、このコーヒーの染みつき本に値がつくと思ってんのか」と思われてる気がして、あらかじめ
「あ、汚れてる本もあるんで、よかったら処分してもらえたら・・・」
とか、言っておいて査定してもらうの、毎年や

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ファンタジー小説への苦手意識が減った

ファンタジー小説への苦手意識が減った

ほぼ初めての筒井作品だったけど、あまりに文章が落ち着いてて心地よくて、過酷な場面でもずっと幸せだった。
「超能力を持つ人々が出てくるSFファンタジー」を読んでいる感覚はなくて、旅行記を読んでいるみたいだった。

主人公はラゴスという青年。
「スカシウマ」に乗って南を目指している。この世界の人々は心を読んだり超能力を使ったりできるようだが、科学技術は発達していない。

最初の話に出てくる能力は「転移

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「さようなら、ギャングたち」を読んだり、ネットニュースを見るクセがついてしまったりした

「さようなら、ギャングたち」を読んだり、ネットニュースを見るクセがついてしまったりした

いつか読もうと思っていた高橋源一郎デビュー作を読んだ。(アマゾンの中古本シミだらけ)

「ギャングたち」がアメリカ大統領を殺し、「わたし」は詩の学校の先生をしながら恋人の「ソングブック」猫の「ヘンリー4世」と暮らす。

何百個も不条理な詩のようなものが連続して、読んだ人によって違う世界が浮かび上がる。

途中で娘の「キャラウェイ」もしくは「緑の小指」ちゃんがすてきなレディになるには、ダンスと数学と

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【読書】人生は痛いものだとしつこくしつこくしつこくしつこくしつこくしつこく

【読書】人生は痛いものだとしつこくしつこくしつこくしつこくしつこくしつこく

しつこくしつこくしつこくしつこく語りかける、花村萬月の「ハイドロサルファイト・コンク」を読んだぞ!
「なんでこの作品への賛否で世間は荒れ狂っていないんだ!」と思いながら読んだ。

血液のがんになった作者の体験をもとにした、フィクションと一応銘打った、ノンフィクションに見える小説。
もともとの血液に放射線をあびせて殺し、ほかの人の血液を輸血して入れ替える治療で、血液型が変わり、顔かたちが変わり、爪が

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【読書】台北プライベートアイ2(ネタバレなし)

【読書】台北プライベートアイ2(ネタバレなし)

前作は風呂で読んだから紙がしけちゃったけど、今回は夏なので湯船の影響を受けない。
かわりにマウントレーニアのコーヒーをトートバッグに入れて、フタしてるから大丈夫だろう、って忘れててしっかりシミになっていた。

なんで毎回半月で好きな本をボロボロにできるんだ!

台湾のミステリー「DV8 台北プライベートアイ2」
読みづらい。進まない。わき道にそれる。
登場人物がやたらと多く、主人公は本筋と関係ある

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【読書】権力を持つ人はなんでもやる「ルナ・ゲートの彼方」

【読書】権力を持つ人はなんでもやる「ルナ・ゲートの彼方」

R・A・ハインライン「ルナ・ゲートの彼方」を読みました。

見た目で本を選んでいるので、この、あえて派手じゃない、といって古臭くもない、表紙が気に入った。

でも、amazonにはまた違ったテイストのカバーしか載ってない。美しいけど、本格派の難解なSFと似たタッチ。

新しいほうは「トライガン」の内藤泰弘によるもの。
小中学生から楽しめる「ジュブナイルSF」のシリーズなので、あえて少し昔の少年マン

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【読書記録】ヴァージニア・ウルフ「灯台へ」

【読書記録】ヴァージニア・ウルフ「灯台へ」

文学を学んでいないから、ちゃんとした文章の書き方も、おさえておくべき古典も知らない。

ブックオフでそれっぽいオーラを出してたら「さては古典やな」というのが僕の文学に対する姿勢です。
だから英文学で重要な、ヴァージニア・ウルフという方も全く存じ上げず…。
すごく良かった。
今思えば、ドストエフスキーを読んでたときは無理してた。通好みとされてる音楽や味付けを、わかったフリじゃなくて、
「あ!これ好き

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【本好き日記】ヤーレンズ出井の禁煙、海外小説ツアーを経まして、四国のあやしい古本屋へ

【本好き日記】ヤーレンズ出井の禁煙、海外小説ツアーを経まして、四国のあやしい古本屋へ

年に一度の本棚整理の準備をしています。
8月は僕だけじゃないだろうけど異常なだるさ。
温度差と無気力が原因なのはわかってるのに、何これ軽めの熱中症?症状の出ないコロナ?と疑うぐらいだった。

読み切れなかった本も、難しいけどなんか好きな本も、自分ごときが感想書けない本もいっぱい出てくる。

台風の時に家にこもって、秘密基地みたいにして分厚い文芸誌を読むのよくね? って思ってできるだけお菓子を買い込

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北海道の刺身

北海道の刺身

河﨑秋子はちゃんと北海道では誰もが知る超有名作家になってるんですか?短編集「土に贖う」のうちの一遍でもいいから、学校でちゃんと読ませてるんですか?
 
トロの刺身を食べただけでマグロ全体が生きていたことを想像できるように、数ページの短編ひとつで北海道の大地と寒さが頭に注入される。
この本は北海道の刺身。北海道の切り身。北海道のえんがわ。

地方小説としてすごくかっこいい。このテキストは四国で書いて

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【読書】団鬼六「大穴」

【読書】団鬼六「大穴」

昭和30年代、大阪。
勝負事に強くてリア充の恭太郎と、彼の言うままに金をもらって授業の代返をする耕平。
対照的な大学生コンビの、湿度高めのねっとりした昭和大阪キャンパスライフ。

話は大学生ふたりが小豆相場に大金を出す場面から始まる。
僕はあずき相場とたぬき蕎麦の違いもわからないけど、
「台風が来ると穀物がとれなくなって相場が上がるから、買い占めておけば儲かる」みたいなこと。
今だと、新NISAで

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