見出し画像

【読書】すばる2025年2月号を買った。李琴峰から読む

前に、すばる文学賞受賞作発表号を買ってたけど、感想が形にならなかった。

大賞の「泡の子」は、いわゆるトー横キッズと呼ばれる若者の暴力や売春が出てくる話で、期待の作家は発掘できたけど、一作だけでいうと去年の「みどりいせき」みたいな衝撃ではない感じ。


今月のすばるはいい! 
金原ひとみと高山羽根子の新連載、読み切りは太宰治文学賞でデビューした新鋭の市街地ギャオ。

これだけのメンバーがいるのに、いちばん良かったのは李琴峰の短いエッセイ「ある転生者の告白」。

はやりの転生モノに文学者が物申す、みたいなしょうもないことじゃないぞ。
李が、世間に「トランスジェンダー」と名付けられた自分は、「転生者」だと宣言する短い文章。

自分は、前世では中国語を使う男性で、自ら命を絶った。
だが、今の自分は、自分を一回殺して生まれ変わった女性である。

見た目が男性で心は女性とか、そういう人の話をたくさん聞くけど、複数のアイデンティティを持つ人を「前世のつながりが残っている人」と表現する。

ぼくは李琴峰という人がどんな経歴か全く知らない。調べればわかるだろうけど、顔も年齢も知らないままで読みたい。
じつは名前の読み方も知らない。(漢字をコピペしてる。)けど、旅行記が毎回うなるほどおもしろい。
アメリカの大学で反差別のコミュニティに関わったやつとか、読むといつも新しいことが知れるし、鮮度の高い怒りや驚きがパッキングされていて、読むと衝撃で若返るような感覚がある。
差別に対して、やれやれって疲れじゃなくて、いつも初めてされたみたいに怒っている。

市街地ギャオの読み切り「君が夢から醒めないように」は、男性カップルの同棲生活を描いた小説。
ゲイカップルと整形ってワードが続くと、関係ない世界の話になりそうなのに、
「脱毛」「歯の矯正」「二重まぶた」ひとつひとつにどう興味を持って、生活費を切り詰めて、手術のあとにどんな経過があるかを書いているのがおもしろい。脱毛の勧誘、マウスピースの感触、二重整形のダウンタイムの話が出てくる。
すでに整形手術した人じゃなくて、している最中の話は初めてかも。
実家でテレビを見た家族の反応に疲れる場面は、筋トレ小説の「我が友、スミス」みたいだった。

金原ひとみ「アディショナルライフ」と、高山羽根子「2022」
著作全部がすごくて面白いふたりの新連載も、さすがに強い。

「2022」が松本人志映画の「しんぼる」を思わせる導入で、1話の時点で期待度上がる。
お笑い養成所に通ってる人が、目覚めたら知らない部屋にいた。手元には持ち主不明のサイフだけがあり、自分が持っていたはずの「ゆで太郎」のクーポンを入れているサイフがなくなっている。
コロナ自粛期間がキーワードなのか、実際はなかった2020オリンピックあたりの出来事を回想しながら今の状況を確認していく。

SF作家の新連載って、ここから壮大な宇宙規模の話に広がっていくのか、日常の話が続いていくのか、先が全く予想できないから面白い。


「アディショナルライフ」は、女子中学生の一人称の話。
娘から影響を受けて、若さとベテランの筆力の両方を手に入れた金原ひとみのパワーがバキバキに出てる。

創作の中高生ってふしぎ。
中学生の会話をまんま文字起こししたら、とても読めたもんじゃない。
アニメの女子高生は、もうなんだかわからない。
大人の想像で書いた中学生は、いい子すぎても悪すぎても「なんか違う」。

自分が中高生だったころに見た創作の中高生は、大人が無理して作った感じがした。
けど、世代の近い人が描いたマンガの高校生は、どんなあり得ない設定でも無理を感じなかった。
言動のリアルさより、テンションが若者と近い、みたいなことなのかな。

「アディショナルライフ」の主人公には、行動力のある友達がいて、その子は「3年生になるまでSNSを禁止する校則」と戦う。
校則を変えるためにチャットGPTやネットを駆使して作った文章を、先生に提出して校則を変えさせた。

そんな子は英雄扱いされるか、先生に面倒くさがられる存在になりそうなもんだけど、3年になるまでSNSをがまんしていた上級生たちに「生意気な1年」として目を付けられるようになった。

ここだけで、なんかたまらなく良い。
今っぽい題材だけど、上級生から目をつけられるところは昔からの学園マンガみたい。力はあるけど窮屈な世界で生きている。
大人目線だと、こんなに恵まれてる環境ないよなあって子が、すぐ、死ぬだの殺すだの言い出す。それに若さを感じる。

子供のころ、別につらいこともないのに「いつ死んでもいいわー」とか言ってた。あれ何だったんだろう。
今はヒトとして生まれることのレアさを知ってるから、そう簡単に命を手放せない。なのに毎日10時間寝たい。若さの浪費。

いいなと思ったら応援しよう!

南ミツヒロ
読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。