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【短編小説】週3日投稿

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SF・ミステリー・コメディ・ホラー・恋愛・ファンタジー様々なジャンルの短編小説を週に3日(火〜木)執筆投稿しています。 全て5分以内で読めるので、気になるものあればご気軽に読んで…
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2023年9月の記事一覧

【短編】『大きな人形』

【短編】『大きな人形』

大きな人形

 私は、二人の幼い娘と最愛の妻と四人で順風満帆な暮らしをしている。いつも仕事から帰ると三人が玄関で出迎えてくれ、毎度のこと家庭の温かみを感じるのだ。妻と結婚したのはつい3年前で、それまで半年間にわたってお付き合いをした。妻が初めての恋人であった。私は所謂モテない人間なのである。一見人並みに恋愛をしてきているように見られがちだが、実際のところ経験が皆無なのだ。それもあって妻と結婚できた

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【短編】『宇宙大戦争』

【短編】『宇宙大戦争』

宇宙大戦争

 とある二つの宇宙間で二つの勢力の対立があった。それは物質勢力と反物質勢力である。両勢力は、同じ進化、同じ文明、同じ時間を辿っていた。言うならば、左右対称の全くの同質な存在なのである。分かりやすく説明しよう。今あなたは宇宙に唯一無二の存在と考えているかもしれないが、遠い向こうに全く同じ身体で全く同じ考えをするもう一人の自分が存在するのだ。そして、それは人に限らず物質と呼ばれるもの全て

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【短編】『彼への花言葉』

【短編】『彼への花言葉』

彼への花言葉

 私は駅の近くの花屋を経営している中年の男性店員です。花屋というと、これまで数多くのストーリーが語られてきましたが、私もいくつかの面白いエピソードを持っています。今回はその中でもとっておきのものをお話ししましょう。

 これは、私がまだ花屋で店員として修行をしていた頃の話です。私は当時花の知識は十分に身につけていたのですが、恥ずかしながら接客が大の苦手でした。人に花をアレンジするこ

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【短編】『恐怖研究室』

【短編】『恐怖研究室』

恐怖研究所室

 私はとある大学にて研究費を支援してもらいながらとある研究をしている。研究生はいないが、学内でもなかなかの研究実績を出していた。テーマは、人が感じる恐怖についてである。人が恐怖という感情を抱くが、その思考の仕組みだったり、身体や精神に対する影響だったり、また認識作用における主体・客体の関係性など広範囲にわたって研究をしている。実験は簡易的なものばかりだが、検証は教授自身も被験者とな

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【短編】『逃げ惑うジャグラー』

【短編】『逃げ惑うジャグラー』

逃げ惑うジャグラー

 ピーターは固唾を飲んで巨大なワイン色に染まった帯の隅で、自分の出番が来るのを待っていた。向こうでは、まるで80年代のハリウッド映画のワンシーンで懐中電灯を持った警官が逃走犯を追いかえるように、身体を曲げて舞う女性にあらゆる方角から光が差し込んでいた。女性は床に這いつくばっては、股を270度にまで曲げて軟体動物と化していた。ピーターはさらに重圧に押し潰されそうになりながら自分

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【短編】『50回目のファースト××』

【短編】『50回目のファースト××』

50回目のファースト××

 私は大学に落第してからのこと一人暮らしをしながらニートを満喫していた。他のニートがそうであるように、私も昼夜逆転の生活を送っていた。夜目が覚めると、冷凍庫から冷凍食品を取り出し、温めている最中にテレビの電源をつけ、ごはんができると、ソファに座ってアニメを見ながらご飯を済ませる。それから作業デスクに移ってテレビゲームを始めるとあっという間に一日が終わるのだ。まあ、言うな

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【短編】『小説家、否』

【短編】『小説家、否』

小説家、否

 私は恥ずかしながら五十にして小説家を目指す身分である。日々仕事をしながら隙間を縫って小説を書いている。そして、執筆をしながら試行錯誤を繰り返し、より自分の腕に磨きをかけている。もうかれこれ三年も続けているので、特に執筆に対しては抵抗感もなく、今となっては自然と浮かんだアイディアをそのまま文字に落とし込むという作業を行なっているのに等しいのかもしれない。しかし、継続は力なりと言うよう

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【短編】『転生できたけど、しませんでした。』

【短編】『転生できたけど、しませんでした。』

転生できたけど、しませんでした。

 僕は学校の授業をサボって独りゲーセンで暇をつぶしていた。後にゲームすら退屈になってしまった僕は、屋上のベンチに寝そべりながらふと自分の人生のことを考えた。そしてそのまま眠ってしまった。すると、何者かが私に向かって何かを問いかけるのである。その声は、まるで天から聞こえてくるように宙で反響し、私の耳ではなく、どちらかと言うと頭の方に吸収されていった。

「もしもし

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【短編】『人喰い成敗』

【短編】『人喰い成敗』

人喰い成敗

 街では詐欺や窃盗、殺人などあらゆる悪事が横行していた。そんな混沌とする街で突如として、悪事を働いたであろう者が次々と行方知れずとなる事件が多発したのだ。最初は、街から逃げたと思われていたものの、どうにもそ奴らの住処を観察する限り、逃げた跡とは思えないほど普段の日常がただ残されているのである。そしてそ奴らの女房たちは、旦那は何者かに拐われたんだと口々に呟いた。

 ちょうど同じ時期に

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【短編】『無名の巨匠』

【短編】『無名の巨匠』

無名の巨匠

 私は、作曲家である。それは社会的地位である職業としての作曲家ではなく、むしろ社会なくしても永遠と残り続ける私が私自身を認めるがためだけのアイデンティティーとしての作曲家である。

 普段は特に、作曲するわけではなく、そしてこれと言って他にすることもないのだが、時に自分が一体何者なのかと自問自答した際にその答えが出ないことから、仕方なく自分が唯一できる作曲をするのだ。これまで自分が作

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【短編】『岩穴の記憶』

【短編】『岩穴の記憶』

岩穴の記憶

 私はパキスタンのシャトゥン・ピークの頂上を目指して、快晴の中麓を発った。あたりは真っ白だったが、余計に日差しが眩しく、どこか暖かく感じられた。そこら中に生えている植物はその実体すらわからないほどに雪に埋れ、春の到来を待っていた。シャトゥン・ピーク登頂は私にとって特別なものだった。今まで何度も試みたのだが、天候の影響で毎度断念せざるを得なかったのだ。しかし、ようやくこの山を私の手に収

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【短編】『門出のとき』

【短編】『門出のとき』

門出のとき

 私は使用人の目を盗んで、靴箱からお母様のハイヒールを手に取りドレス姿で表玄関から屋敷を出た。真っ暗の中、木々が生い茂る森の方へと裸足で急いだ。懐中電灯をワニ革のバッグから取り出して行き先を照らすと、あたり一体草に覆われており、一箇所だけ人が通ったような痕跡があるのを確認した。私は草をかき分けながらその限りなく細い道に入って行った。地面は冷たく、乾ききった土を踏みつけながら小走りで道

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【短編】『裁き、裁かれ』

【短編】『裁き、裁かれ』

裁き、裁かれ

 私は隠し扉を一押しして人々が集う大きな部屋に入った。起立する人々を見て一礼をしてから着席し、静寂になったところで一言申し上げた。

「それでは開廷いたします。」

すると、右の方に座るスーツの男が起立して話を始めた。

「被告はありもしない事実を記事にして週刊誌に大々的に掲載したため名誉毀損で慰謝料を請求します。」

その後すぐに左の方に座るもう一人のスーツの男起立し話し始めた。

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【短編】『現代人進化論』

【短編】『現代人進化論』

現代人進化論

 私は「あの人には才能があったんだ」とか「あの人は運が良かったんたんだ」とかいう言葉が大嫌いです。そして、これらの言葉を巧みに使う人々に対して別の人はこう言うのです。「才能がないのはしょうがないとして、君たちは努力さえしなかった」と。これは大変遺憾なことです。なにもかも諦めたのならまだしも、彼らは才能と努力を天秤にかけては、努力の方を慎重に手に取り、才能というものは易々と手放してし

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