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しゃぼん玉になったインドネシア旅行、あるいはLCCの洗礼を受けて

しゃぼん玉になったインドネシア旅行、あるいはLCCの洗礼を受けて


Ⅰ トラブル インドネシア14日間の旅に出る、はずだった。こちらの旅、出発直前になって、大波乱だった。

 1つ目。出発9日前になって、行きのフライトを予約したGo to gateから、フライトの一部が航空会社によってキャンセルされた、という英文のメールが来ていることに気がつく。出発まで1ヶ月を切った頃にメールが来ていたのだが、気づかないでいたのだ。
 慌ててGo to gateにメールで返事し

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出発前から、忘れられない旅に?

出発前から、忘れられない旅に?


Ⅰ ルネサンスの魅力の虜になって
 3月後半、タイ北部を一人で旅した。暑さは半端なかったし、世界遺産の歴史公園で野犬に吠えられるという、ちょっと怖い思いもした。けれど、いつも聞こえてくるのとは違う言葉を耳にし、目にしないものを見て、口にしないものを食べることで、「私」という存在が内部からも外部からも日々更新されるようだった。ささやかなルネサンスを経験したように感じた。

 ルネサンスの魅力にとり

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ウスユキソウの如き君なりき

ウスユキソウの如き君なりき

 7月、北アルプスを歩いて、ミネウスユキソウという、エーデルワイスの仲間を目にした。中心に黄色い小さな花が咲いていて、その周囲を放射状に白っぽい葉が取り囲んでいる。
 高山で、星のようなミネウスユキソウを見ると、小学校時代の友達のIちゃんのことを思い出す。Iちゃんとは週に一度、進学塾で顔を合わせていた。

 私は小学校4年の終わりから、中学校受験のための進学塾に通った。毎週日曜日に国数理社のテスト

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三ツ矢サイダーでハンガー・ストライキ?

三ツ矢サイダーでハンガー・ストライキ?

 私は、食が細い子供だった。自分の気に入っている場所では食べるけれど、気に入っていない場所では食べない、そんな子供だった。

 小学校3年生まで、毎年夏になると、新幹線に乗って、中国地方にある母方の祖母の家と、母の弟の家に出かけた。祖母の家と、叔父の家は、同じ市内だった。叔父の家には、年の近い従姉妹が二人いた。従姉妹の家に長いこと滞在して、従姉妹とプールや海で目一杯遊び、祖母の家にも1、2泊する、

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ジェンダー平等は「私」から始まる

ジェンダー平等は「私」から始まる

 高校の「文学国語」の教科書を開く。今年は何を取り上げようかしら、とぱらぱらとページをめくる。多和田葉子の『空っぽの瓶』というエッセイが目にとまる。こんな内容である。

 日本語では、一人称を表現するのに、「わたし」「ぼく」などさまざまな表現がある。小さい頃、周りの女の子のように、「あたし」と自称することに違和感があった。大人になり、ドイツに渡った。ドイツ語の一人称は、イッヒしかなく、日本語のよう

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唇のシミを取ってから 

唇のシミを取ってから 

 10年前、5日間にわたって、北アルプスを縦走した。毎日、長時間歩くせいか、足の甲が腫れた。最終日には唇が腫れたので、帰宅してから皮膚科に行ったら、疲れから来るヘルペスだと診断された。けれど、長い行程を歩ききったという満足感は得がたいものがあった。

 その後しばらくして、唇に小さな黒い点が浮き上がってきた。痛くもないし、腫れてもいないけれど、いつも海苔をくっつけているようで、気になる。そこで、勤

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山に行きたし、焼けたくはなし

山に行きたし、焼けたくはなし

 夏でも必ず長袖、長ズボン。一歩、外に出るとなると、必ず帽子をかぶり、首にはタオルマフラーか何かを巻く。それが私だ。

 会う人には、見るだけで暑そうだ、と言われるけれど、私は日焼けが嫌なのだ。20代の頃は、夏は日傘を差すものの、半袖で、腕をむき出しにして歩いていた。けれど日焼け止めを塗っても、ひと夏が終わると、やっぱり腕が焼けている。日焼け止めを塗り忘れることもあったせいか、腕にシミができて、い

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タイでアン王女になる?

タイでアン王女になる?

 3月下旬、ひとりでタイを旅した。まず、スコータイ遺跡公園のあるスコータイに行き、旧市街にある、遺跡のすぐそばの宿に泊まった。
 翌日、宿のおかみさんに、旧市街から12キロほど離れた新市街に行くソンテウ(乗り合いタクシーのようなもの)がないか聞くと、ないから、アプリを使ってタクシーを呼べという。自分でできなければやるが、手数料がかかるという。  

 2023年夏にマレーシアに行ったとき、Grab

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タイの遺跡で、チャップリン『犬の生活』のわんちゃんになる

タイの遺跡で、チャップリン『犬の生活』のわんちゃんになる

 3月末、タイのスコータイとその周辺の、世界遺産となっている3つの遺跡を巡った。

 遺跡は公園として手入れされ、敷地は広々としており、観光客はまばらで、混雑とは無縁である。出会えるのは、遊行仏のような、日本で見るのとは一味違う仏様たち。道沿いには、木々には名前も知らない熱帯の花が、今を盛りと咲いている。こんな中を散策していると心が広々として来るのだけれど、問題は野良犬の多さである。 
 こちらは

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どこでもドアがあったなら

どこでもドアがあったなら

 ひと月以上、山に行っていない。相方が土曜日に仕事だったり、少し遠出しようとしたら、定宿がいっぱいでだめだったり。近場の低山は、蒸し暑くなって来たため、行く気が起きず。

 山行記録を投稿するサイトをのぞくと、みなさん、働きながらも週末に精力的に遠出しておられる。雪解けしたばかりで、一気に高山植物が咲き出した、そんな山々で、お花の写真をたくさん撮影して、掲載されている。コマクサ、サンカヨウ、ハクサ

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「推し」に手紙を書き続ける―私の推し活

「推し」に手紙を書き続ける―私の推し活


Ⅰ 文章とは愛する人への手紙である
  noteにあきる野のフレンチレストランL’arbreについての記事を書いた。記事のURLをシェフの方にお送りしたら、返信をいただいた。いわば一方的なラブレターに、返事をくださったことが嬉しかった。

 若くして亡くなられた、英文学者にしてフェミニズム研究者の方とお話ししたことがある。その方は、論文は一番読んで欲しい人を想定して書きなさい、とおっしゃっていた

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ペンテコステの日に

ペンテコステの日に

 2024年5月19日日曜日。午前中に用事があり出かけたので、午後から小石川植物園に行く。冷温室や温室では、センカクツツジやエゾカワラナデシコなど、日本各地の固有種のお花が咲いていて、東京にいながらにして、北へ南へと旅した気分になった。

 冷温室で大事に栽培されている鉢植えのお花を見ているうちに、小学校時代の同級生Мちゃんのお母さんのことを思い出す。

 Мちゃんは、同じ団地に住んでいて、小学校

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喜びを与える人に―太宰治『正義と微笑』に学ぶ

喜びを与える人に―太宰治『正義と微笑』に学ぶ

Ⅰ 太宰治『正義と微笑』と出会う
 「なりたい自分」は、一生かけて目指し続けるもの、私はそんなふうに思っている。私が目指すのは、人を喜ばせることができるようになることだ。

 そう思うようになったきっかけは、今から25年以上前の大学時代に遡る。文学を専攻していた私は、卒業論文で何を取り上げるか、さんざん迷った末に、太宰治の『正義と微笑』(1942)という中編小説を取り上げることにした。

 小説の

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チェンマイのイエス

チェンマイのイエス


Ⅰ 出会い 2024年3月下旬、タイにひとり旅に出た。まずスコータイに行き、3日かけて遺跡を見た後、30日にチェンマイにバスで移動することにしていた。
 30日、スコータイのバスターミナルに着くと、ヨーロッパ系の男女が2人、私と同じバスを待っている。遅れては大変、と急いで来たのに、待てど暮らせどバスは来ない。

 予定の時間を過ぎたあたりで、同じくチェンマイ行きを待っているヨーロッパ系の女性に話

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