しゃぼん玉になったインドネシア旅行、あるいはLCCの洗礼を受けて
Ⅰ トラブル
インドネシア14日間の旅に出る、はずだった。こちらの旅、出発直前になって、大波乱だった。
1つ目。出発9日前になって、行きのフライトを予約したGo to gateから、フライトの一部が航空会社によってキャンセルされた、という英文のメールが来ていることに気がつく。出発まで1ヶ月を切った頃にメールが来ていたのだが、気づかないでいたのだ。
慌ててGo to gateにメールで返事したが、返信が来ないから、チャットで2回やり取りし、メールを寄こしてもらった。結局、羽田からジャカルタまでのフライトはそのままにして、飛ばないことが決まった、ジャカルタからジョグジャカルタまでのフライトのみをキャンセルすることにした。ジャカルタ〜ジョグジャカルタ間のフライトは、別途予約を取り直した。
2つ目。ボロブドゥール遺跡の登壇チケットが1週間前から売り出しだと思っていたのに、1週間前にチェックしてみると、とっくに売り出されて、売り切れになっていた。つまり、一番の目玉といっていい、ボロブドゥール遺跡に行っても、上までは登れないことが判明した。
3つ目。ジャワ島のイジェン山という火山でブルーファイアという現象が見られるので、現地でツアーに参加するつもりだった。その前日は、ブロモ山という火山で朝日を見る予定だった。出発1週間前を切ってようやく、ブロモ山にアクセスしやすい場所にある宿を予約をした。すると、その宿から、ブルーファイアを見に行くツアーをやっているというメールが来た。このツアーを利用すれば、イジェン山の最寄りの町まで自力で移動する必要がなくなり、ツアーの最後はバリ島へのフェリーが出発する場所で下ろしてもらえるので、とても便利である。そこで、イジェン山に行くツアーに参加したい旨を伝えると、地震でツアーそのものが催行されていないという。
4つ目。これは私のぼんやりのせいだけれど、羽田空港に行く際、京急の知らない駅にたどり着いてしまった。そこから電車で羽田に行ったのではチェックインに間に合わないかもしれない。フライトに乗れなかったら一大事、背に腹は代えられぬ、と思い、たまたま通りかかったタクシーを拾い、急ぎで空港に向かってもらう。高速を使ったせいで、信じられないくらい高くつく。ビジネスホテルに1泊できるくらいの運賃だった。
LCCのエアアジアXを使い、7キロの機内持ち込みで済ませるために、荷物を何度も計ってみた苦労も、これでは水の泡だな、と思う。
Ⅱ LCCの洗礼を受けて
5つ目。こんな思いをして、羽田空港にたどり着き、日付が変わる頃、クラアルンプール行きの飛行機に乗り込んだのに、機体に不具合があるとかで、待てど暮らせど、飛行機は出発しない。果ては飛行機から下ろされ、水とスナックを与えられて、搭乗ゲートで待機させられる。次第に夜が明けてくる。
しかし、復旧のめどはたたず、荷物の受取場所まで連れて来られる。係員から、現段階では何時出発になるかわからないと言われ、「飛行機の遅延のため、自宅に戻った場合の交通費、あるいはホテルに滞在した場合の費用を、上限を設けて返金する。」と記した紙が配られる。しばらく待っていると、1日後の同じ時刻に出発するという。
どうしようかなと思うが、出発までにあまりにトラブル続きで、無理やり行ったら、命に関わるような、とんでもないことが起きるような気もする。
今回は長い旅行なので、複数の町のホテルを取っている。到着が遅れるから、ホテルの宿泊日もずらす必要があるけれど、直前のため、返金不可のホテルもある。行かなくても損失はあるけれど、行くために予約し直せば、さらにプラスで費用がかかってくる。
そんなこんなで、今回は行くなサインが出まくっていると考えて、返って来ないお金はあるけれど、やめにしようと思いながら帰って来る。
帰宅途中に、Go to gateから、エアアジアの遅延について詳しく記されたメールが来ていることに気づく。やはり1日後に出発することは決まったようであり、一日遅れの飛行機に乗らずに代金の返金を求めるという選択肢もあると書いてある。Go to gateを通してチケットを買っているので、どのくらいの額が戻って来るかはわからないけれど、Go to gateに返金をしてほしいという意志を伝えるために、帰宅後にチャットをした。
Ⅲ しゃぼん玉になったインドネシア旅行
さんざん計画した挙げ句、実行されずにしゃぼん玉のように消えてしまった、今回のインドネシア旅行。帰りのスクートのフライト代、直前のため、返金不可となってしまった6泊分のホテル代、ジャカルタからジョグジャカルタまでのフライトのキャンセル料、見るはずだったラーマーヤナの舞踏公演のチケット代、空港に駆けつけるためのタクシー代、これらは懐から旅立ってしまい、戻っては来ない。
安いフライトを探しまくり、機内持ち込みの荷物で済ませようとした、ケチンボBBAは、ケチンボが仇となって、計画通りに旅行することができなくなった。労力の後に残ったのは、無駄な出費だけである。けれど、仕方がない、呼ばれていなかった、ということで、諦めようと思う。
Ⅳ 待機時間の出会い
ご本人は旅立たつことなく、お金だけが旅立ってしまった今回の旅行だけれど、飛行機の不具合のため、一度飛行機から出されて搭乗口で待っている間や荷物受取場所にいる間に、いろいろな人と話せたのが唯一の救いだ。
搭乗口付近で、隣の椅子に座った若い女の子は、就職したばかりの同業者だった。一人でランカウイ島に行くと言っていた。島に行くのが好きで、台風のときに1日遅れで奄美大島から戻って来たばかりだという。英語は全然聞き取れない、と言っていたけれど、それでも一人で海外に行くんだから、若いってすばらしい。彼女は成田発のチケットを取り直して、すぐに成田に向かって行った。
その隣の、日本語の上手な髪の長いタイ人の女性は、おいしいチョコレートをくれた。春にタイに行って、食べ物が美味しかった、と言ったら、暑かったでしょう、と言われた。
目の前の床に座っていた若くて元気いっぱいの男性は、モロッコ出身で、日本に住んでいて、ユーチューバーでもあるという。マレーシア、韓国なんかを回ると話す彼も、日本語が流ちょうで、びっくりした。彼もまた、成田からのクラアルンプール行きのチケットを買い直して、消えて行った。
幼稚園ぐらいのお嬢さんを連れた若いお母さんは、旦那さんがマレーシアの方で、日本のご両親のもとに里帰りして、これからマレーシアに戻るところだという。お嬢さんは、お母さんの隣でブランケットをかけてもらって、スヤスヤ寝ていた。「二人だから、ANAにすればよかった。アライアンスに入っている会社なら、今回のような場合、他社から機体の提供があるけれど、エアアジアはそうではないから、自社の機体で何とかするしかないのだ。」と話していた。なるほど、LCCは安いけれど、弱みはそんなところにあるのか、と思う。お母さん、色白で、とってもきれいだったな。
搭乗口で、メガネをかけたお母さんが係員に何やら聞いている。お母さんは、同じくメガネをかけた小学生の男の子を連れていた。聞けば、男の子は9月からマレーシアの学校に入学するそうで、フライトが遅れると、向こうで、学校のバスがお迎えに来てくれる時間に間に合わなくなるという。自力で学校に向かわなくてはならず、追加の費用が必要になると話していた。
荷物の受取場所では、四人家族のお母さんと話した。ピンクの髪のファンキーなお母さんだった。お子さんは二人ともこんがり日焼けしていた。
二人のお子さんの教育のために、マレーシアに家族で移住するという。私自身は、日本の地を離れて生計を立てる手段は思いつかないから、向こうで生計を立てる目処が立っているということにびっくりする。今はパソコンがあれば、職種によってはある程度仕事になるのかもしれないけれど。
お嬢さんに、インターに通っているの、と聞いたら、そうではない、という。すごいなあ、いきなり英語漬けになるのか、でも二人とも、すぐに現地の学校に馴染めそうな雰囲気だなあ、と思う。お嬢さんは別れ際に、バイバイ、と手を振ってくれた。
荷物受取場所で係員に流ちょうな日本語で詰めよっていた黄色っぽい髪の男性は、イラン出身で、日本人と結婚して、埼玉県で奥さまと一緒に美容院を経営しているという。これからタイの友人に会いに行くところだという。
自分の普段暮らす世界では出会わない人と出会い、自分とは全く異なる価値観で生きている人と交流する。そうすることで、これまでの自分の価値観が揺らぎ、刷新される。そんな体験ができるのが、海外旅行の醍醐味のひとつではないかと思う。そんな醍醐味を日本から出ずして味わえたのだから、これはこれでよかった、と自分を慰めることにしたい。
Ⅴ 次の旅へ
今回の手痛い失敗にも関わらず、私の気持ちはすでに次の旅に向かっている。
今年の春から、来年の春の航空券が気になり、スカイスキャナーで検索している。現段階では、ギリシャ行きのスクートのチケットが安いので、ずっと行きたかったギリシャに行こうかと思っている。ただ、オフシーズンだと船便がなくなるようなので、島巡りをする際は要注意である。
昨年春に、大学の先生をしていらした方が説明役として同伴するギリシャツアーに参加した知人の方がいる。その方にメールでお願いして、行程表を見せていただいて、計画を考えているところである。
ギリシャは、ギリシャ神話に代表される、ヘレニズムの源泉とされる場所である。と同時に、使徒パウロがテサロニキやコリントの信徒に手紙を送っていることからもわかるように、原始キリスト教と縁の深い場所でもある。できれば、ギリシャ神話にまつわる遺跡だけでなく、キリスト教にまつわる遺跡にも行きたい。一番ラクなのは、そのいずれにも造詣が深い先生のツアーに参加することだけれど、12日間で60万で、昼と夜の食事代が別途かかるから、ケチンボBBAの私が即決できる金額ではない。
また、ギリシャは、敬愛する映画監督テオ・アンゲロプロス(1935〜2012)の生まれた国でもある。アンゲロプロスは、パウロが一番最初に書簡を送った地でもあるテサロニキを、繰り返し撮影に使っている。たとえば、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した『永遠と一日』(1998)で、主人公の、死を目前にした詩人(ブルーノ・ガンツ)が散策するのは、テサロニキの町だ(予告編の1分32〜35秒をご覧下さい)。だから、北にある第二の都市、テサロニキにはぜひ行きたい。
なあんて、やけ酒の代わりに炭酸水をがぶがぶ飲みながら考えるのは、楽しい。けれど、海外に行く際は、職場の許可を得る必要があるから、日数が必要なギリシャ旅行は、計画しても実行できるかどうかはわからない。春に少し長めに休んで、夏のリベンジで海外旅行に行けるといいけれど、往復だけで3日かかり、物価も高いギリシャのはずが、近くて安いアジア旅行に化けたりして。
長い独り言にお付き合いくださり、ありがとうございました。みなさんがこれまで体験した、旅にまつわるトラブルはどんなものがありますか? みなさんがこれから行ってみたいところはどこですか?