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アクセスの少ない記事

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全体ビュー(全期間)でアクセスの少ない記事を集めました。アカウントを開設した初期の記事が多いのですが、意外と面白いかもしれませんよ。下へ行くほどアクセスが少なくなっています。
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目まいのする読書

目まいのする読書


目まいのする読書
 目の前に三冊の本を置いて、同時には無理ですから、それぞれをつまみ食いするようにして読んでいるのですが、さすがに目がまわってきます。あちこち視線を移動させるせいか、読んでいて頭の中がこんがらがるせいか、目まいに似た感覚に襲われます。

 本物の目まいは不快だし苦しいですが、目まいに似た感覚はときとして快感である気がします。

 現在読んでいるのは小説で、次の場面で始まります。

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ひとりで聞く音

ひとりで聞く音

 ひとりで聞く音は寂しいものです。ひとりだけに聞こえる音は不気味さをもたらします。寂しいと感じ不気味だと思うそばには他人のまなざしがあるのではないでしょうか。その他人は、おそらく最期の自分でもあるのです。

「おずれ」と「おずれ」
 川端康成の『山の音』の冒頭には、主人公の尾形信吾(おがたしんご)の家に半年ばかりいて郷里に帰った「女中」の加代の話が出てきます。

 散歩に出るために下駄を履こうとし

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あやしい動きをするもの

あやしい動きをするもの

 今回は小話っぽい文章を二つ投稿します。そのうちの「抽象を体感する、具象を体感する」は「【小話集】似ている、そっくり、同じ」に収録したものです。少しだけ加筆しました。

「【小話集】似ている、そっくり、同じ」は、かなり盛りだくさんな記事なのですが、これまでのアクセス数(全期間・全体ビュー)がいちばん多かったものです。よろしければお読みください。

 この記事は新顔の「人間椅子、「人間椅子」、『人間

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ドナドナ

ドナドナ

 最近、こんなことを考えています。

*はかる:人が苦手な行為。人は、「はかる」ための道具・器械・機械・システム(広義の「はかり」)をつくり、そうした物たちに、外部委託(外注)している。計測、計数、計算、計量、測定、観測。機械やシステムは高速かつ正確に「はかる」。誤差やエラーが起きることもある。

*わける:人が得意な行為。ヒトの歴史は「わける」の連続。分割、分離、分断、分類、分別、分解、分担、分

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病室の蛍

病室の蛍

 いま「信号」について考えていますが、それにはわけがあります。いろいろありますが、ある出来事が大きくかかわっている気がします。

 母が生きていたころの話です。ある年の初めに母が大病をしました。それまではわりと元気で入院をした経験も一度しかない人だったので、病に倒れたさいには、こちらもてんてこ舞いしました。

 一時は危篤状態となり約一か月間の入院でした。そのとき看病をしながら、「信号」についてよ

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顔



 朝起きると、見知らぬ顔が鏡の中にいた。忘れもしない、二十年前のゴールデンウィーク最終日のことだ。驚いたのは言うまでもない。誰にも言わなかったのは、誰も気づいていないみたいだったからだ。家族も、学校でも。最も敏感であってほしい我が家の犬さえも。

 翌日の午後、学校から帰る途中に、私を追い抜いていったバスの一番後ろの窓から見ていた私の顔と目が合った。私たちは互いに目を見開き、口を手で被った。

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多層的で多元的なもの同士が、ある一点で一瞬だけつながる世界

多層的で多元的なもの同士が、ある一点で一瞬だけつながる世界

「春」を感じるたびに連想するのは「張る」です。辞書の語源の説明には諸説が紹介してありますが、私は「張る」派です。

 春になると、いろいろなものが張ります。木々や草花の芽やつぼみが膨らむのは張っているからでしょう。

 山の奥でも雪解けが進み、川面が膨らんで見えます。道を歩く人たちの頬も上気したかのように見えます。細い血管が膨らんでいるようです。

 山川草木、そして人が膨らみ張って見えます。膨張

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音読・黙読・速読(その3)

音読・黙読・速読(その3)

 シリーズ「音読・黙読・速読」の最終回です。

・「音読・黙読・速読(その1)」
・「音読・黙読・速読(その2)」

◆センテンスが長くて読みにくくて音読しにくいけど素晴らしい文章
 まず、前回に取りあげた文章を再び引用します。なお、あえてお読みになるには及びません。ざっと目をとおすだけでかまいません。

(Ⅰ)

(Ⅱ)

*節のある竹のような文章

 上で見た、井上究一郎訳によるマルセル・プル

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「ない」文字の時代(かける、かかる・02)

「ない」文字の時代(かける、かかる・02)

 川端康成の『反橋』は次のように始ります。

 興味深いのは、この歌を覚えて帰った語り手の「私」の手によって歌が書き写され、それが切っ掛けとなって、絵や他の歌へと話がつぎつぎとつながっていく展開になることです。

 歌が架け橋になっていると言えます。

 かけはし、架け橋、掛け橋、懸け橋、梯、桟。

 当然のことながら、「書く」と「かける」と「縁」という言葉が頻出します。連想が連想を呼ぶように、さ

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短いけれど長いもの(辞書を読む・01)

短いけれど長いもの(辞書を読む・01)

「辞書を読む」という連載を始めます。私は辞書を読んだり眺めるのが好きです。小説を読んだり眺めるよりも好きかもしれません。辞書の場合には、ストーリーがありそうでないというか、ストーリーを自分でつくらないと読めないところが好きだという気もします。

 これまでに辞書で出会った言葉の模様みたいなものを書いていきたいのですが、第一回である今回だけは、それとは違った話をします。短いけれど長いものがあるという

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言葉は魔法(言葉は魔法・01)

言葉は魔法(言葉は魔法・01)

 言葉は魔法。
 言葉は魔法です。
 言葉は魔法でございます。
 言葉は魔法だ。
 言葉は魔法である。

     *

 こうやって並べると、それぞれずいぶん印象が違うなあと思います。

 私は「です・ます体」で書くときと「だ・である体」で書くときには違った自分を感じます。違った自分がいると言ってもかまいません。軽度の憑依(軽度を付けてもおおげさな言葉ですね)を覚えます。

 ようするに、人格が

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異物の異物性(異物について・02)

異物の異物性(異物について・02)

 今回は、異物(文字)の異物性についてお話しします。

異物を入れる
 入れるのに苦労します。小さいころから多大な時間と労力を費やして、入れる道を作るのです。脱落する子もいます。そもそも不自然なものですから、自分に入れる道を作る機会を奪われている子もたくさんいます。

 入れるというか入ってくる道ができてきても、容易には入りません。入ったはずなのに消えていると思われる場合があります。ザルやふるいに

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「私」を省く

「私」を省く


「僕」
 小学生になっても自分のことを「僕」とは言えない子でした。母親はそうとう心配したようですが、それを薄々感じながらも――いやいまになって思うとそう感じていたからこそ――わざと言わなかったのかもしれません。本名を短くした「Jちゃん」を「ぼく」とか「おれ」の代わりにつかっていました。

 さすがに学校では自分を「Jちゃん」とは言っていませんでした。恥ずかしいことだとは、ちゃんと分かっていたよう

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異物を定義する(異物について・01)

異物を定義する(異物について・01)

「異物について」という連載をはじめます。私は連載が大の苦手なのですが、やってみます。今回は、異物を定義してみます。

異物を定義する
 文字どおりに取ってくださいーー。

 猫とはぜんぜん似ていないのに猫であるとされて、猫の代わりをつとめ、猫を装い、猫の振りをし、猫を演じている。そんな不思議な存在であり、私たちにとってもっとも身近な複製でもある異物。

 いま、あなたの目の前にある物です。

感じ

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