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#言葉

山の記憶、「山」の記憶

山の記憶、「山」の記憶

 今回は、川端康成の『山の音』の読書感想文です。この作品については「ひとりで聞く音」でも書いたことがあります。

◆山と「山」
 山は山ではないのに山としてまかり通っている。
 山は山とぜんぜん似ていないのに山としてまかり通っている。

 体感しやすいように書き換えると以下のようになります。

「山」は山ではないのに山としてまかり通っている。
「山」は山とぜんぜん似ていないのに山としてまかり通って

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うつす、うつる、うつってしまう

うつす、うつる、うつってしまう

 川端康成の『名人』には「うつす」と「うつる」と「うつってしまう」が出てきます。

 頼まれて「うつす」ことになった写真に「うつる」ものを見て、「うつってしまう」を感じたときの気持ちが文字にされているのです。「みる・みえる」について考えさせてくれる刺激的な記述に満ちています。

 なお、『名人』については以下の記事に書きましたので、よろしければお読みください。

写す・写る
 写真を撮る場合には、

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言葉は「出る」、文字は「現れる」

言葉は「出る」、文字は「現れる」

「赤ちゃんのいる空間」の続きです。

 今回は個人的な語感に基づいた話をします。まず、まとめから書きます。

*まとめ 
 まず、今回のテーマである「出る」と「現れる」という言葉と文字についての私のイメージをまとめます。

「出るもの」と「現れるもの」という分け方をしますが、世界に「出るもの」と「現れるもの」の二種類のものがあるという意味ではありません。

「出る」も「現れる」も言葉です。この日本

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赤ちゃんのいる空間

赤ちゃんのいる空間

 先日、病院で見て感じたことと考えたことを書きます。

 子も孫もいない私にとって、総合病院は赤ちゃんを間近で目にすることができる唯一の場所でもあります。病院の待合室や総合ロビーで待機する時間はけっして楽しいものではありませんが、近くに赤ちゃんがいるとそれだけで心と体がやすらぎます。

*目と耳で追う
 私は言葉を広く取って、話し言葉(音声)と書き言葉(文字)だけでなく、視覚言語と呼ばれることもあ

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音声として立ち現れるもの、文字として立ち現れるもの

音声として立ち現れるもの、文字として立ち現れるもの

 戻れない、もうあそこには戻れない、あの状態を取り戻すことはできないだろう。そんなふうに思うことが多くなりました。

 年を取り、複数の持病をかかえているからかもしれません。

 今頭にあるのは歌です。痛みや苦しみや悲しさをこらえるときに、知らず知らずのうちに頭のなかで歌や旋律の断片が鳴っていることがあります。

 勝手に鳴るのです。流れているという感じ。

 有り難いものです。

 歌の場合だと

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始まりと途中と終わりがないものに惹かれる

始まりと途中と終わりがないものに惹かれる

*「複製としての楽曲(複製について・01)」
*「絵画の鑑賞(複製について・02)」
*「複製でしかない小説(複製について・03)」

「複製について」という連載をしていて気づいたことがあります。オリジナルか複製にかかわらず、作品には始まりと途中と終わりがあるものと、ないものがあるようです。

 作品と言いましたが、ジャンルによって異なると言うべきかもしれません。

 また、作品の制作や執筆には時

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文字の世界(文字について・01)

文字の世界(文字について・01)

 私にとって身近でありながら、最も気になるものであり、不思議で仕方がないものである文字についての連載をしようと思います。

 文字については、これまで何度も記事にしてきました。というか、私の投稿する記事のすべてが文字について書かれていると言っても言い過ぎではない気がします。

 この「文字について」という連載では、長くなりがちな記事をなるべく短くして、一回の記事では一つのテーマを扱うように努めるつ

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当てる

当てる

 石に石を当てる。
 石に「石」を当てる。

 いまここにあるたった一つのものに、一本化された「たった一つのもの」を当てる。

 猫に猫を当てる。
 猫に「猫」を当てる。

 いまここにいるたった一つのものに、一本化された「たった一つのもの」を当てる。

     *

 愛に愛を当てる。
 愛に「愛」を当てる。

「たった一つのもの」とは言えないものに、一本化された「たった一つのもの」を当てる。

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まなざし、目差し、眼差し

まなざし、目差し、眼差し

 私は言葉を転がすのが好きです。眠れない夜とか、昼間にぼーっとしているときにやっています。

 具体的に言うと、次のように連想にうながされる形で言葉を並べていくのです。

 まなざし、目差し、眼差し、なざし、名指し、名付ける

 よく記事の中でも、言葉を転がしています。あれは記事を書きはじめたり、書きつづけるために、取っ掛かりを探しているのです。見切り発車で記事を書くので、どうしてもそうなります。

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振りをする振り、語ることで騙られてしまう

振りをする振り、語ることで騙られてしまう


Ⅰ. 引用

 引用にさいしては、蓮實重彥著『フーコー・ドゥルーズ・デリダ』(河出文庫)を使用していますが、この著作は講談社文芸文庫でも読めます。

Ⅱ. 振りをする振り、語ることで騙られてしまう
 自然界には名詞はもちろん、名詞的なものがない気がします。名詞は、事物のある一面をとらえて名付けた結果です。

 多面的で多層的で多元的で、おそらく多義的でもあるはずの事物のある一面だけをとらえて、固

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うつろう かげろう

うつろう かげろう

 見出しの付いた各文章は連想でつなげてありますが、断章集としてお読みください。どこからでもお読みいただけます。

*言葉を転がす

 映る、鏡に映る、水面に映る、瞳に映る、壁に映る、スクリーンに映る
 映る、見える、眺める

 映す、鏡に映す、水面に映す、瞳に映す、壁に映す、スクリーンに映す
 映す、見る、観る

 映してみる、映しみる
 映して見る、映し見る
 移して見る、移し見る

 うつしみ

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はかるとわかる

はかるとわかる

「わけるとわかる」の続きです。

     *

「わける」と「わかる」が似ているように、「はかる」と「わかる」も似ています。見た目というか字面が似ているのです。

 わける、わかる
 はかる、わかる

 ただし、「わける」と「わかる」はイメージも似ている気がしますが、「はかる」と「わかる」のペアのほうはイメージは似ていないと感じます。

 とはいえ、イメージや似ているは個人的な印象ですから、人そ

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言葉の中に言葉がある(言葉の中の言葉・01)

言葉の中に言葉がある(言葉の中の言葉・01)

 今回の記事の「Ⅰ.  短いけど長いもの」は再掲です。実は再掲の再掲なのです。複製の複製であり、引用の引用とも言えます。

 現在書いている記事の原点になる内容なので、あらためて再掲します。もとは十年以上も前にブログに投稿した記事に加筆したものです。

Ⅰ. 短いけど長いもの
 たしか高校二年生になった春でした。

 新学期が始まって、新任の英語教師が教壇に立ちました。教師も生徒たちも、おたがいに

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顔(散文について・02)

顔(散文について・02)

 再掲です。

*「ジャンルを壊す、ジャンルを崩す(言葉とイメージ・07)」
*「壊れていたり崩れている文は眺めているしかない(散文について・01)」 

 今回は、上の記事の続きですが、以前に散文――「何をどんなふうに書いてもいいもの」と私はイメージしています――を模索=模作していたときに投稿した文章を再投稿します(少し加筆してあります)。

 散文は眺めるものだ、とも私はイメージしているので、

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