徴候なしに狭心症と診断されショックを受ける。右手首の血管からカテーテルを差しこみ冠動脈にステントをいれる手術をした。心臓壁を突きやぶればすべて終わる。細い血管をさらに細いケーブルが這うのを感じ数種類の投薬をはじめる。消化器なら進行は遅いが循環器は一瞬の恐怖に慄く日々。でも慣れた。
アソコが立たない心臓病患者がバイアグラと求心を一緒に飲んでいたと知り合いの看護師から聞いて噴き出したが不能の自分には他人事ではない。むかし黒電話をコードレスフォンに交換したとき嬉しくて子機を持ち歩きどこかに置き忘れて見当たらなくなり仕方なく本体に紐で繋いだことをなぜか思い出した。
ゆく血の流れは絶えずしてしかももとの血にあらず。淀みに現わるプラークは冠静脈を堰き止め良い兆なし。カテーテルが右手首から血管を這い心臓に至りステントを膨ませ隧道が拡がると血流が戻りぬ。あたかも自在ブラシが水道管の汚れ清掃するが如し。手術中は生きた心地なく命は水の泡にぞ似たりける。