再び寝室の扉が開き 冷たい空気が居間を流れる ひゅっと身ぶるいをした 円(まどか)は、仏壇を見上げて 香炉の少し奥に 小鉢を置いた 手を合わせると爪の先だけが すっかり冷たい 妹と母はまだ寝息を立てている 窓辺に掛けられた 祖父の写真と 目が合い ふしぎな気持ちになった
朝日が一段と強く差し込む 瑞雲堂の箱に 新聞と虫めがね 赤青の鉛筆で線が引かれていた おはよう 鳥が来ているよ まどかを縁側に促し 団子を口に運ぶ はっと振り返り キヨと目が合う 「仏さまにあげてきてね」 キヨが渡した小鉢は温かく 団子のぬくもりを手にじわりと感じた
東の窓から射す光に 私は目を顰めた 警笛は いつまでもまどろむ私を 彼女の代わりに説伏せる 襖を開け、温かい風が 一気に流れ寄せると 妻は 布団の襟元を閉め、あちらを向いた 胡麻は食べられるの? ああ、まだ食わせたことないな 琥珀色の甘辛いタレの香りに 思わず唾を飲み込んだ