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わすれない

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小説 平成の亡霊

小説 平成の亡霊

前説

本作は、ある新興宗教団体と、その「狂気」を最初に報じた週刊誌編集部の物語です。

物語のほとんどは1989年を舞台にしています。この年は特異年で、4つの大きな出来事が重なって起きました。

1、天皇の死去による63年ぶりの改元。

2、ベルリンの壁崩壊による冷戦の終了。

3、日経平均株価が史上最高値を記録。

4、新興宗教団体による弁護士一家惨殺。

小説としては「4」を主に描いています

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芥川賞を読む

芥川賞を読む

『文藝春秋 2025年3月特別号』

芥川賞関連しか読まないのだが、眺めてみると現代詩から短歌、作家情報など読むものが多くある。政治的なノンフィクションとかも読んだらおもしろそうだけど、あまり読まなかった。

『文藝春秋』は芥川賞の選評も出ているので面白いが昔のように石原慎太郎と宮本輝のご意見番がいなくなって、誰もが理解ある選者で最近はおもしろさも半減しているような。大体に似たようなことを言うので

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トラウマと向き合う精神科医

トラウマと向き合う精神科医

『樹をみつめて』中井英夫

『樹をみつめて』は精神科医が書いたエッセイで読みやすいのだが、ただエッセイとするには専門用語やその世界では有名な精神科医が出てくるので、わかりにくいところはある。最近の話題で「トラウマ」ということを取り上げているので興味が持てる。

「樹をみつめて」は樹木についてあれこれと。樹木は動けないし痛みを受けても何も言わないのでなすがままという感じだが(トラウマになる人の状態に

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あの頃はジャケットも芸術だった

あの頃はジャケットも芸術だった

『ヒプノシス レコードジャケットの美学』(2022年/イギリス/英語/101分/配給:ディスクユニオン)監督:アントン・コービン 出演:オーブリー・パウエル、ストーム・トーガソン(ヒプノシス)、ロジャー・ウォーターズ、デヴィッド・ギルモア、ニック・メイスン(ピンク・フロイド)、ジミー・ペイジ、ロバート・プラント(レッド・ツェッペリン)、ポール・マッカートニー、ピーター・ガブリエル、グレアム・グール

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『異常 アノマリー』エルヴェ・ル・テリエ(ハヤカワepi文庫)

『異常 アノマリー』エルヴェ・ル・テリエ(ハヤカワepi文庫)

面白かった。興奮した。素直にそう思う小説に出会ったのは久々だ。群像劇がもともと好きだというのもあるけれど、読みながらわくわくが止まらない。が、なんでだろう。始まりは、一人の殺し屋の仕事の様子が書かれている、普通の小説だ。なのに、すごく、話に入り込める。文体だろうか。解像度だろうか。

まず、第一章では何人かの人物の、三月と六月の様子が描かれる。殺し屋、作家、映像編集者、癌患者、7歳の少女、弁護士、

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panpanyaしたくなる

panpanyaしたくなる

panpanyaが面白すぎるよー。

やっと一つ大仕事が終わりまして、今日は小休憩を午前中だけとって、panpanyaやスーパースターを唄ってやそら頭はでかいです、世界がすこんと入りますを読みながら喫茶店でモーニングを食べて、午後からはせこせこ頑張っておりました。
一日通して、虚脱の雨、童謡の虚無虚無プリンを受け流す。そんな時間でございました。

大仕事は卒業のための論文でして、自然科学分野として

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思い出は美しすぎて

思い出は美しすぎて

『地下: ある逃亡』トーマス・ベルンハルト (著),今井 敦 (訳)

自伝五部作の二作目。『原因』の続きで暗い寄宿生生活から貧民街の団地の食料品店で働くことになる。職安ではもっといい仕事を紹介してくれるのだがベルンハルトは最低限の仕事を求めてザルツブルクの明るいほうではなく貧民街の方へ行くのだ。そこの経営者である男から商売の方法を学び商人も悪くないと思うのだが、あるきっかけで音楽の道に進む。ギム

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共同性を薄めるための距離

共同性を薄めるための距離

忙しいアピールをしたくないものの最近忙しすぎるため、あまり考えずにとりあえず書いてみる。

4年ほど前くらいから学校の心理士のカウンセリングにお世話になっていて、次の面談が最終回みたい。
何を話すのがいいのだろうと思いながら前回の面談で話したことを思い出してみるとーーそれはたくさんあるのだけれどーー自分は自分のことがそれなりに好きであるし、自分視点で自分が会った中で一番自分が賢く、その賢さはベスト

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札幌ラボに行った。

札幌ラボに行った。

 初めて北海道に行った。友だちの帰省にくっついて三日間北海道にいた。その二日目、山下澄人さんがやっている「ラボ」に参加した。
 昨日のことなのにもう記憶があやふやだ。でも、だからこそ書いてみよう。

「ラボ」に参加するのは三回目。最初は中野の水性で、次は神楽坂のコ本やでだった。

 前に椅子が二脚置いてあり、そこに二人が座る。それを見ている人々がいる。やがて二人が喋り出す。台本などはない。即興演劇

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評伝 『ECDEAD あるラッパーの生と死』第1回 「あるリスナーの回想(前書きにかえて)」 磯部 涼

評伝 『ECDEAD あるラッパーの生と死』第1回 「あるリスナーの回想(前書きにかえて)」 磯部 涼

その夜、ダンスフロアで
 ECDについて考えると思い出す光景がある。
 高速道路の高架に空を覆われた通りの、雑居ビルの地下にある小さなクラブ。薄暗い店内はふたつのスペースに仕切られていて、左半分がバー、右半分がダンスフロアになっている。平日の深夜。イベントはお世辞にも盛り上がっているとは言い難い。バーでは出番を終えたDJたちが談笑している。フロアにいるのは僕だけで、DJブースにはトリを務めるECD

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トイレットペーパーのプラスチックフリー

トイレットペーパーのプラスチックフリー

共働学舎のトイレットペーパー。わが家は一昨年から愛用しています。

東京都町田市の障害者施設でつくられる無漂白&100%雑古紙製のトイレットペーパー。お手頃な値段もありがたいです。

町田近辺の方は直接取りに行けば、さらに安く!小分けに買わせていただけるそうですよ。

48ロールまとめて届くので、近所の友人家族と山分けする形で、数か月に一度購入しています。置き場所さえ確保すれば、しょっちゅうトイレ

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第172回芥川賞と直木賞受賞作決定! 『DTOPIA』『ゲーテはすべてを言った』『藍を継ぐ海』

第172回芥川賞と直木賞受賞作決定! 『DTOPIA』『ゲーテはすべてを言った』『藍を継ぐ海』

第172回芥川賞と直木賞が決定!芥川賞には安堂ホセさんの『DTOPIA』と鈴木結生さんの『ゲーテはすべてを言った』が選ばれました。直木賞には、伊与原新さんの『藍を継ぐ海』が選ばれました。

それぞれ、どんな作品なのか、見ていきましょう。

『DTOPIA』安堂ホセ安堂ホセさんは2022年に『ジャクソンひとり』で第59回文藝賞を受賞して小説家デビューした作家です。フランス領ポリネシアのリゾート地、ボ

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【お気持ち】文学について

 李恢成が死んだ。昨日、北海道新聞の記事で知った。彼は晩年を札幌で過ごしていたから、道新はわりあいページを多く扱っていた。「地上生活者」という大長篇小説を執筆中だったようだ。私は追ってはいなかったけれど、惜しまれる死だと思う。

 私は芥川賞受賞作「砧をうつ女」ではじめて彼を知った。芥川賞全集の第9巻に収められている。高校時代、この全集をブックオフで100円で買った。当時といえば私はマイナーな小説

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2024年度直木賞・芥川賞速報!知られざる歴史と違いを徹底解剖。

2024年度直木賞・芥川賞速報!知られざる歴史と違いを徹底解剖。

2024年度直木賞・芥川賞速報!知られざる歴史と違いを徹底解剖。

直木賞の起源直木三十五賞(以下、直木賞)は、日本を代表する文学賞の一つで、プロの作家としての才能を持つ新人や中堅作家を対象にした賞です。直木賞は1935年に創設され、同時に設立された芥川賞とともに、文芸界で大きな影響力を持つ存在となっています。この賞は、雑誌『文藝春秋』を創刊した菊池寛によって設立されました。

_創設の背景

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