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芥川賞を読む

『文藝春秋 2025年3月特別号』

渾身の告発 君臨33年─その罪と罰を知るジャーナリストが描く
日枝久 フジサンケイグループ代表 への引退勧告 中川一徳
中居正広騒動 すべての責任はこの最高権力者にある


特集 日の丸企業のチャレンジ
日産鈍感力社長にいら立つホンダ暴れ馬社長 井上久男

裏読み業界地図1 新連載
日本製鉄に立ちはだかる鉄鋼王の栄光 カーネギー 大西康之

短期集中連載 第3回 ミスター円、世界を駆ける
為替介入 水面下の国際工作 神田眞人

アップル創業者生誕70年 ジョブズは和と禅に人生を救われた 柳田由紀子

新連載 成田悠輔の聞かれちゃいけない話 第2回 ゲスト 隈研吾
大きな新築は宿命的に炎上するんじゃないかな

秋篠宮の「いじめ発言」─「皇族はつらいよ」ではいけない
大座談会 皇族はなぜ日本に必要か
格差と分断の時代にこそ「国と民族との非分離の象徴」として価値がある
保阪正康
島田雅彦
先崎彰容
河西秀哉


第172回 芥川賞 発表 選評
松浦寿輝
島田雅彦
小川洋子 
奥泉光
山田詠美 
吉田修一
平野啓一郎 
川上弘美 
川上未映子

恋愛ゲームを勝ち抜く謎の男「Mr.東京」の冒険譚
DTOPIA 安堂ホセ
受賞者インタビュー 恋愛リアリティショーを舞台にした理由

学者一家の名言をめぐる謎解きミステリ
ゲーテはすべてを言った 鈴木結生
受賞者インタビュー 大江さんと同じ年齢で受賞できやしないかと

日本の顔 インタビュー 村山由佳
「賞が欲しい」作家心理をさらけ出した

決定版 美智子さまが入院した東大病院の先生が教える
大腿骨骨折 転ばぬ先の傾向と対策
東京大学医学部附属病院 骨粗鬆症センター長 齋藤琢

「日枝、出てこい!」太田光絶叫の舞台ウラ
「お笑い社長繁盛記」番外編 太田光代 石戸諭

薩摩の倒幕を助けた富山の薬売り 宮本輝 磯田道史

話題騒然の新連載スタート
No time for doubt(ノータイムフォーダウト)大谷翔平と2016年のファイターズ 
ノンフィクション作家 鈴木忠平
世界の「SHOHEI」はいかにして生まれたか
迷ってるヒマなんてない。日本ハム日本一の年、大谷は5年後、10年後を見てひたむきに努力していた――
ノンフィクション界の新星による秘話満載の物語

眠れぬおまえに遠くの夜を 桐野夏生

有働由美子対談74 増田明美 スポーツジャーナリスト
最近は親御さんが選手のネタをくれます

記者は天国に行けない 最終回 清武英利

BOOK倶楽部
鈴木涼美、佐久間文子、池上彰、梯久美子
「保守」と「リベラル」のための教科書
「今」と「未来」を見通す科学本
著者は語る   
今月のイチ推し新書! 

グラビア
日本の顔(村山由佳)
中野京子の名画が語る西洋史151
名品探訪41「春眠暁を覚えず」
作家が愛した名店 最終回(五木寛之)
短歌・・・永田紅
俳句・・・網倉朔太郎
詩・・・文月悠光

ユーモアさえあれば 古風堂々70 藤原正彦 ぼんやりした不安 吉田恵里香 さよなら、メロディーレーン 岡安譲 「mixi2」始動 笠原健治 私のコーヒー 大坊勝次 五年目の島暮らし 寺田直子 波乱と奇跡に満ちた創立記念行事 越智光夫 ボロリゾマン二拠点生活はリスクか? 高殿円 自他ともに、オリコウとされてきた男たちへ 日本人へ257 塩野七生
新連載 ゴルフ春秋1

言霊のもちぐされ5 山田詠美
地図を持たない旅人11 大栗博司
日本の地下水脈52 保阪正康
ムーンサルトは寝て待て20 内館牧子

ベストセラーで読む日本の近現代史 佐藤優

日本語探偵・飯間浩明
数字の科学・佐藤健太郎
大相撲新風録・佐藤祥子
スターは楽し・芝山幹郎

芥川賞関連しか読まないのだが、眺めてみると現代詩から短歌、作家情報など読むものが多くある。政治的なノンフィクションとかも読んだらおもしろそうだけど、あまり読まなかった。

『文藝春秋』は芥川賞の選評も出ているので面白いが昔のように石原慎太郎と宮本輝のご意見番がいなくなって、誰もが理解ある選者で最近はおもしろさも半減しているような。大体に似たようなことを言うので面白みがない。山田詠美が選評としては面白いかも。『ゲーテはすべてを言った』を「文学的おしゃまさん!」とか、皮肉なのか?

『DTOPIA』この言葉が何語か調べたら安堂ホセの創作というようなものだった。一応この言葉を追求したサイトがあったが、そうなのかぐらいでいいかもしれない。

小説のなかではTV(配信番組)のエンタメショーということで似たようなのは『推しの子』であったような。ただここではミスユニバースは一人で各国代表の候補者(男10人)から一人選んでカップルになるという番組。その中に日本人枠としておまえ(キースと呼ばれる汽水)がいるのだが、その島がフランスの元植民地であり環礁域が潮の関係で浮き上がったりするのは、宮地尚子『環状島=トラウマの地政学』を連想したが、トラウマは誰にあるのだろうか?と気になった。語り手はモモという睾丸を抜かれて女性化した語り手であるのだが、そんなに弱さは見せないような気がするけど、その隠された部分にネガティブさがあるように感じる。それはあいつが暴力の「暴」を取って力(権力)を得るというような観念に取り憑かれており、それが睾丸ということなのか、モモの睾丸を抜いたのが中学の時でそれをモモの父親からモモのためではなく快楽の為にやったのかと責められるのだが、モモは父親から性玩具にされたようなイメージの対立があって、その睾丸摘出男としての話が半分ぐらいで、それらは情報として例えば渋谷界隈のダークな文化として語られるのだった。TVの番組が情報エンタメ番組であり、その裏側の暴露話もあるのだが(『推しの子』と似ている)、結局は裏社会を描いた小説なのかと思った。そんな中でモモという語り手はエンデ『モモ』を連想させるので、彼女は時間泥棒の話だったということでおまえがその時間を奪って行ったのかと思うのだ。時間はここでは情報ということかもしれない。
それで結局ミスユニバースの心を奪うのはおまえなのだが、そこでミスユニバースに告白するところで「俺はアロマンティックだ」とカミングアウトする。

ミスユニバースはそれを「ロマンティックだ」みたいに聞き間違えたのかもしれず、その意味を知るのはももなのである。つまりももは「おまえ」が恋愛感情もなく睾丸を抜いたのは、やはり父が言うような快楽のためであったのかと愛の不信に悩んでいる。この「デートピア」という番組がミスユニバースは女神様の位置にいて、コンプレックス(トラウマ)を告白することによって愛が成立するというシステムだった。
最後に父たちの世代の兵士たちが現地人と恋人になって子供を産み落とす。その子供たちは核戦争の犠牲となっているという展開が急に裏情報のように明らかにされるのだった。「おまえ」はその子供だったのであり、有吉佐和子 『非色』を連想させた。

愛と言えば芥川賞を取った『ゲーテはすべてを言う』も読んだ。この小説もゲーテ愛の研究者が紅茶のティーバッグ(ティーパックと表記は悩むのだがTバックにしないだけいいかな)に書かれていた英語のゲーテの格言を巡って、その言葉が引用されている元本を探すのだが見つからない。それはネットの格言集から拾ってきたもので、そういう引用元を問わないということだった。ただゲーテ研究者はそれでは済まされないので(知らないことはないというプライドの問題か)、その言葉探しに奔走する中で人々と関係性を築いて、言葉よりも愛を知るのだが、その妻がガーディニングが趣味でゲーテの言葉をガーディングに表現するのだが、それを夫は気が付かずドイツ人の引用元を探す元になったゲーテのラブレターを秘匿している人がそれを褒めるのだった。つまりその言葉は愛から発生したものであって、意味的には言葉の上面を訳してもしょうがないということなんだが(翻訳によってそれはすでにゲーテの言葉ではなく、ゲーテにとっては外国語=エイリアン)、そういう愛の物語の展開なのだが、それを面白いと思うかはゲーテ好きとか言葉好きとか文学好きとか限られてくるだろうと思った。ちょっと長すぎるような。半分ぐらいの短編で良かったかなと。

ゲーテの『ファウスト』とかその他の作品の批評(解釈論)が面白い人には面白いというかそういう内輪(大学研究という)世界の話だと思った。その中で100分de名著のパロディがあったり、大江健三郎の引用があったりして面白いのだが、偽教授というスキャンダルになる引用捏造事件とかわからないことはないけど、物語を複雑化した。

そこは筒井康隆や丸谷才一の小説の影響なんだろうなと。またその教授のスキャンダルとは別に、彼を批評する匿名の手紙は実は娘の彼氏であり、その彼氏が夫となって義理の父の顛末記を小説として描くというメタ構造になっているのだ、それが芥川賞選者には受けたのかなというか、そういう現代文学に理解を示したのだと思う。石原慎太郎ならこんな小説はわからんというものなのだが。

その引用されたゲーテの言葉を教授が訳したのが「愛はすべてを混淆せず、渾然となす」という言葉だった。渾然は婚前と変換されたので、そういう意味も含んでいるのかもしれない。それは混淆ということなのだが読めない(最近スマート辞書という神アプリを入れたので読めた)。そういうネットの言葉がお騒がせの元になる話でもあった。


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