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他者の痛みと共感|文學界10月号を読みました

他者の痛みと共感|文學界10月号を読みました

『文學界』10月号を読みました。

今月は、仙田学『また次の夜に』、永方佑樹『字滑り』、宮内悠介『暗号の子』の3作の創作が面白かったです。

仙田学『また次の夜に』は、娘を亡くしてアルコール依存症になってしまった母親が、自助グループに参加し、そこで出会ったルナと呼ばれる女性をきっかけに立ち直っていく話。

永方佑樹『地滑り』は、「字滑り」呼ばれる、自分が思ってもいない文字の読み方をしてしまう現象が

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『君はどう生きるか』を読みました

『君はどう生きるか』を読みました

鴻上尚史『君はどう生きるか』を読みました。

タイトルは『君たちはどう生きるか』をもじったもの。多様性が叫ばれる時代では、「君たち」と、ひとくくりにできないので、「君」はどう生きるかになっている。

おそらく中高生向けに書かれた本ではあるが、それ以外の人が読んでも、考えさせられる内容になっている。

以下気になったことを書いています。

1.コミュニケーションについてもめた時の解決法

解決するに

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情報の非対称性 / エリート過剰生産|『群像』2024/10を読んで

情報の非対称性 / エリート過剰生産|『群像』2024/10を読んで

10月号は早めに借りられた『群像』。

ちなみに、12月号がもう発売されていて(11/7)、11月号はもう貸出中でした。追いついた時には、図書館で読んじゃった方が楽かもしれない。

2つの連載について書いておこうと思います。

小川哲『小説を探しにいく』かなり楽しみにしている連載。具体と抽象を行き来しながら小説を書く思考について書いている。今回は、小説の書き方について書いていた。

鴻上尚史『君は

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日常の感じた方と感情を言葉で伝えることの難しさ 『世界の適切な保存』を読んで

日常の感じた方と感情を言葉で伝えることの難しさ 『世界の適切な保存』を読んで

文芸誌『群像』で連載されていた頃から読んでいた、永井玲衣『世界の適切な保存』を単行本になって改めて読んだ。

今でも、最初に読んだときの美容室でのエピソードは忘れられません。

特に後半の、「自分がどのような自分でありたいのか、どのような仕方で他者にまなざされたいのか、そのことを宣言する時間でもある。」が衝撃でした。

視点が面白い。確かに、美容室で「どんな髪型にするか」という質問は「自分がどうな

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RPG×ミステリーの新ジャンル? 『誰が勇者を殺したか』を読んで

RPG×ミステリーの新ジャンル? 『誰が勇者を殺したか』を読んで

前々から読みたいと思っていた、『誰が勇者を殺したか』を読みました。知ったきっかけは、以下の動画だったのですが、リンクを調べたらもう1年経ってました…。

急に読もうと思ったのは、図書館でこの本の続編が貸出可能になったからです。セットで予約していましたが、続編の方が早く借りられるようになってしまい、「どうしたものか」と考えていました。これを逃せばまた待たなければならなくなるし、最悪、行きつけの本屋で

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え、そんな。 プロテスタンティズムに根ざすサービスと説明責任

え、そんな。 プロテスタンティズムに根ざすサービスと説明責任

先週、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を理解しようとしていることを書きました。

その補助線として、プロテスタンティズム周りについて他の本で理解しようと思って、『プロテスタンティズム』を読みました。

と、ここで本のページリンクを探したところ、著者の研究不正を発見…。この本は図書館で借りた本なのだが、現在は出荷停止されており、中古でしか手に入れられないようだ。そうなると、内容も怪しく

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「日記」ってなんなんだろう

「日記」ってなんなんだろう

ブクログのピックアップで気になった、くどうれいん『日記の練習』を読んだ。

noteも日記という体で書いている。けれども、自分で読み返して、「これは日記なのか…?」と呼べるものの方が圧倒的に多い。「毎日書いているから日記」と割り切ってるけれども、全然身近なことは書いていない。

冒頭で引用した「日記のあとがき」がグサッと刺さる。

書けない理由、書く理由を探してる。たとえ書けなかったとしても理由を

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漠然とした興味は何から手をつけたらいいか分からない

漠然とした興味は何から手をつけたらいいか分からない

「なんとなくアートに興味がある!」でこれまで何冊か本を読んできた。

『企業戦略とアート』、『アートコレクター入門』、『教養としてのアート投資としてのアート』、『なぜ人はアートを楽しむように進化したのか』。

今こうやって読んできた本を振り返ってみれば、アートを取り巻く状況やアートを分析したものしか読んでこなかった。具体的な作品やアーティストが分からないまま周辺情報を手に入れてきたと言える。

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読むページ数が増えていく『群像』

読むページ数が増えていく『群像』

図書館で借りているので、どうしても読むのが遅くなる文芸誌。

最新号は貸出不可で、直近の号はたいてい貸出中になっている。そんなわけで、2ヵ月遅れで話題に乗っかる。特に『文藝』は季刊誌で、読むのがもっと遅れる。ペラペラめくって読みたいものがあればその場で読むこともあるが、後回しにしがちだ。

9月号からの新連載、全卓樹『わたしたちの世界の数理』、竹田ダニエル『リアルなインターネット』、三宅香帆『夫婦

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怒られることを忌避する社会での自律

怒られることを忌避する社会での自律

『Z世代化する社会』を読んだ。

シンプルな表紙、ポップな字体で書かれた目次。「おそらく軽い社会分析だろうな~」とか、「自己啓発書に近い感じだろうな」とか、そういう先入観を持って読んだ。

語り口調も関西弁まじりで、セルフツッコミもあり、読みやすい。けれど、書いているのは経済学の先生。図表も1度しか登場しなく、読みやすさに重点が置かれた本なのは間違いない。

本書は学生との会話を始点に、「え、それ

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はじめての古典小説

はじめての古典小説

サン=テグジュペリの『夜間飛行』を読んだ。

古典の中でも小説を読んだのは『夜間飛行』が初めて。読んだ理由はタイトルがかっこいいから。ヘミングウェイの『老人と海』もかっこいい。今度読んでみようと思っている。

タイトルの夜間飛行はそのままで、夜に飛ぶことを意味している。この時代は夜間飛行をすることに批判的であり、一般的ではなかった。航空輸送業者にとって、昼間の輸送は鉄道や船に遅れを取らないが、夜に

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ザッと書く2冊: 『若い読者のための音楽史』『なぜ人はアートを楽しむように進化したのか』

ザッと書く2冊: 『若い読者のための音楽史』『なぜ人はアートを楽しむように進化したのか』

返却期限が迫った2冊について書いておきます。

『若い読者のための音楽史』

「若い読者」と書いているから、とっつきやすいのかな?と思いつつ、そうでもなかった。

さらには、本書のページのURLを手に入れるためにGoogle検索をすると、リトルヒストリーという一連のシリーズの中の1冊だと知った。ちなみに本書は8冊目で、9冊目?として美術史(さっき調べたのにもう忘れた)がある。これまで刊行されたもの

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アランの即興思考から考える、書き続ける意味

アランの即興思考から考える、書き続ける意味

ネタがないときはとりあえず書き始め、のちの展開を思うがままに進めることが多い。

今日は、それでいいんだと知り、勇気をもらった。

図書館でアランの『幸福論』を借りてきた。

まだ訳者である神谷幹夫の解説しか読んでいないが、そこにはこう書かれている。

そう、即興なのだ。そして、それらはモチベーションに関わらず、毎日2時間で一気に書き上げられた「プロポ」(紙葉1枚に2ページにわたる断章)だ。

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半角文字は256文字まで

半角文字は256文字まで

今、『数学思考のエッセンス: 実装するための12講』を読んでいる。

この手の本にしては珍しく、数式が一切出てこない。「数式が1つでも登場する本は売上が激減する」ことを聞いたことがある。そんなことを狙ってなのか、登場しない。

数式による説明はなく、あくまでも文章と図表で説明している。

私としては、あるていど数式があった方が、文字の解釈が合っているのか確かめられていいのだが、世間的には受け入れら

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