マガジンのカバー画像

アクセスの多い記事

110
全体ビュー(全期間)でアクセスの多い記事を集めました。アクセスの多い順に並べてあります。
運営しているクリエイター

2024年9月の記事一覧

小説にあって物語にはないもの(文字について・03)

小説にあって物語にはないもの(文字について・03)

 小説にあって物語にはないものがあります。今回は、誰が見ても明らかなもの、誰の目にでも付くものを挙げてみます。

 空白と黒いページです。

 読んでいて不意に現れる白い部分、真っ黒なページですから、目に付くはずです。

 こうしたものは、物語にはありませんでした。あり得なかったというべきでしょう。

 ここで言う物語とは、もとが口頭で語られ、長い間口頭で伝えられていたものです。口承文学とも呼ばれ

もっとみる
文字の世界(文字について・01)

文字の世界(文字について・01)

 私にとって身近でありながら、最も気になるものであり、不思議で仕方がないものである文字についての連載をしようと思います。

 文字については、これまで何度も記事にしてきました。というか、私の投稿する記事のすべてが文字について書かれていると言っても言い過ぎではない気がします。

 この「文字について」という連載では、長くなりがちな記事をなるべく短くして、一回の記事では一つのテーマを扱うように努めるつ

もっとみる
さえぎる、うつす、とおす(スクリーン・01)

さえぎる、うつす、とおす(スクリーン・01)

 私の趣味は辞書を読むことです。読むと言うよりも眺めていると言ったほうがいいかもしれません。辞書をぱらぱらめくって、気になるページをぼっーっと見ていると時の経つのを忘れます。

 国語辞典では「うつる」「うつす」「かげ」をよく訪ねます。訪ねるたびに新しい発見があるのは、忘れっぽいせいでしょう。

 英和辞典でよく訪ねるのは「figure」「sign」「a」ですが、このところよく会いに行くのは「sc

もっとみる
続・小説にあって物語にはないもの(文字について・04)

続・小説にあって物語にはないもの(文字について・04)

 今回は「小説にあって物語にはないもの・03」の続きです。前回は、小説にあって物語にはない、空白とまっくろ黒なページについてお話ししました。

「小説にあって物語にはないもの」とは、たとえば音読すると伝わりにくかったり伝わらないものだとも言えます。小説は視覚芸術だと考える私にとって、小説では目で鑑賞できる部分にはできるだけ目を注いでやりたいという気持ちが強くあるのです。

 ただし、小説の朗読やオ

もっとみる
白と黒の世界(文字について・02)

白と黒の世界(文字について・02)

 今回のタイトルは「白と黒の世界」です。

 私の趣味は辞書を読むことですが、実際には辞書の文字を眺めています。文字や文字列のありようを観察しているのです。

 文字を目にして真っ先に気がつくのは、白と黒だということではないでしょうか?

     *

 よく見ていると、文字における白と黒では、白と黒の間の濃淡というかグラデーションがないことに気づきます。その点が、たとえば白と黒の濃淡からなる写

もっとみる
音もなく動くもの(スクリーン・06)

音もなく動くもの(スクリーン・06)

「薄っぺらいもの(スクリーン・05)」の最後に書きましたが、その記事で紹介した川端康成の『名人』の一節に、私がどきりとしたと言うか、はっとした部分があるので、今回はそれだけに絞ってお話ししたいと思います。

静の描写 細かく見てみます。

・「二日目の対局室は、明治時代のさびのついたような二階で、襖から欄間まで紅葉づくめ、一隅に廻した金屏風にも光琳風のあてやかな紅葉であった。床の間に八つ手とダリア

もっとみる
場を移りながら生きるものたち

場を移りながら生きるものたち

 今回は「薄っぺらいもの(スクリーン・05)」と「音もなく動くもの(スクリーン・06)」の続きです。

 両記事で引用した川端康成作『名人』の一節の最後のセンテンスを取りあげますが、話を広げるために、記事のタイトルから「スクリーン」というシリーズの枠は外してあります。

結論
 まず、引用します。

 引用文の最後のセンテンスですが、私にとっては衝撃的な一文なのです。

 私がどう感じたかの結論か

もっとみる
や ゆ よ

や ゆ よ

 小学校に入ってまもなく、教室に掛けてあった表を授業中によく見ていました。先生の話にあきて、よそ見をしていたわけです。

 その表全体を見ていたのではなく、ある部分をよく眺めていました。

 や ゆ よ
 らりるれろ
 わ   を
 ん

 なんであそこがあいているのだろう? なんであれだけがひとりぼっちなのだろう?

 横書きではなく縦書きの表でしたが、特に気になったのは「や ゆ よ」でした。 

もっとみる
ならう、ならす、ならぶ(文字とイメージ・01)

ならう、ならす、ならぶ(文字とイメージ・01)

「文字とイメージ」という連載を始めます。私の気になる文字や文字列を並べて、そのイメージをながめていきます。なお、ここで言うイメージとは、あくまでも個人的で私的な印象のことです。

     *

 文字を並べてみます。

 ならう、ならす、ならぶ

 文字を転がしてみましょう。変奏するのです。変奏、変装、変相、返送。

 ならう、習う、倣う、学習、模倣
 ならす、均す、平す、慣らす、馴らす、均一、

もっとみる
わける、へだてる、かくす(スクリーン・03)

わける、へだてる、かくす(スクリーン・03)

「screen」という英語の言葉を英和辞典で調べて、その見出し語のもとに並んでいる日本語訳を眺めていると不思議な気分になります。

 1)さまたげるもの、さえぎるもの。ついたて、すだれ、びょうぶ、幕、とばり、障子、ふすま、仕切り、障壁、目隠し、遮蔽物、遮蔽、スクリーンプレー。おおい隠す、かくまう、かばう。

 2)うつすもの、うつされるもの。スクリーン、映写幕、銀幕、画面、映画。映画化する、脚色す

もっとみる
はなす、はなつ、はなれる(文字とイメージ・02)

はなす、はなつ、はなれる(文字とイメージ・02)

 この「文字とイメージ」というシリーズでは、私の気になる文字や文字列を並べて、そのイメージをながめていきます。なお、ここで言うイメージとは、あくまでも個人的で私的な印象のことです。

     *

 はなす、はなつ、はなれる
 話す、放す、離す、放つ、離れる、放れる

 音声としての言葉は、放され放たれると離れていきます。離れて聞こえなくなると消えたという思いが残りますが、本当に消えたのでしょう

もっとみる
映・写、移・動(スクリーン・02)

映・写、移・動(スクリーン・02)

 今回は「さえぎる、うつす、とおす(スクリーン・01)」の続きです。

「リーダーズ英和辞典」(研究社)と「ジーニアス英和大辞典」(大修館書店)で screen を調べると、以下の日本語訳が目に付きます。

 1)さまたげるもの、さえぎるもの。ついたて、すだれ、びょうぶ、幕、とばり、障子、ふすま、仕切り、障壁、目隠し、遮蔽物、遮蔽、スクリーンプレー。おおい隠す、かくまう、かばう。

 2)うつすも

もっとみる
薄っぺらいもの(スクリーン・05)

薄っぺらいもの(スクリーン・05)

 以上は「映・写、移・動(スクリーン・02)」の最後のほうで書いた文ですが、今回は紙のように「薄っぺらいもの」もスクリーンと見なして話を進めていきます。「影」についても触れるつもりです。 

 スクリーンを板と見なし、その薄さをおしすすめていくと、紙や膜や布状の「薄っぺらいもの」になります。三次元の立体(物体)であるスクリーンにそなわっている二次元性(表面性)にこだわってみたいのです。

    

もっとみる
スクリーン越しに(スクリーン・04)

スクリーン越しに(スクリーン・04)

「わける、へだてる、かくす(スクリーン・03)」で予告したように、今回は「ついたて・衝立」の出てくる小説を取りあげます。

 昨年十一月に亡くなった山田太一さんの小説『飛ぶ夢をしばらく見ない』です。今回の投稿は、タイトルを改め、若干の加筆をしての再掲載です。

「スクリーン」という連載で『飛ぶ夢をしばらく見ない』を取りあげるのは、そこに出てくる「衝立」(ついたて)が、「さえぎる、うつす、とおす」と

もっとみる