マガジンのカバー画像

良かった小説

22
小説や漫画の中で話が長いものを読むのが苦手。 そんな私が夢中で読めた小説を載せていきます。 最高でした。もっと気持ちは熱くなっているのですが、表現が上手くできません。つまり、とに…
運営しているクリエイター

記事一覧

言葉の港(2024秋ピリカ受賞作)

言葉の港(2024秋ピリカ受賞作)

老人は窓越しに海を見ていた。
「鉄の船」が去った後のさざ波が、港の静けさを際立たせた。

かつて、老人はこの港で働いていた。
次々に運ばれる積荷の中では、無数の文字がひしめきあって、口々におしゃべりをしていた。

文字は、他の文字と惹かれあって、言葉になった。

仲良しの文字同士は、物語になった。
愛し合う文字同士は、詩になった。
出稼ぎを望む文字同士は、情報になった。

くっついた言葉を、そっと

もっとみる
【短編】 シンフォニーおじいさん

【短編】 シンフォニーおじいさん

町の片隅にある、メタセコイヤがそびえ立つ大きな公園に、ひとりの老紳士がやってきた。

歳のころは80歳を過ぎているだろうか。

薄い白髪に丸いメガネ、そして古びた背広を着て、背中を少し丸めたその姿は、一見するとどこにでもいそうな普通のおじいさんだ。
しかし、このおじいさんにはある特別な特徴があった。それは、彼が毎日、公園で“シンフォニー”を演奏するということだ。

もっとも、この演奏は楽器を使うも

もっとみる
🌌銀河童伝説🌌

🌌銀河童伝説🌌

あるところにかっぱがいた。
かっぱの名はかっぱだった。
と言うのは、その村には河童はそのかっぱ1匹だったからである。
かっぱはただかっぱと呼ばれるだけで他の名を持たなかった。
かっぱもそれを何の不思議と思わなかった
かっぱは人間と仲良くなりたかった。
それで数々のいたずらをして人間に嫌われてしまった。
ある夜、村外れの池でカッパはしくしく泣いていた。
その姿を空の上から見ていたものがある。
かっぱ

もっとみる
【創作大賞2024/恋愛小説】眠る女 1

【創作大賞2024/恋愛小説】眠る女 1

あらすじ

第1話  第2話 | 第3話  | 第4話  | 第5話 | 第6話|第7話| 第8話| 第9話| 第10話(最終話)

1 さんざめく街の揺らめきの中からやっとの思いで帰宅した|葵には、いま約束された安眠が待っているはずだった。
 狭い玄関で体を曲げて靴を脱ぎ、ようやく立ち上がると、身体は海水から砂浜へ上がった時のように重く、だるい。夫の時生は、まだ帰っていなかった。

 服をばらま

もっとみる
彩りと心のしわあわせ【第1話】はじまりのとき

彩りと心のしわあわせ【第1話】はじまりのとき

《あらすじ》

「誰でも、輝きを持っているはずなんだ。その原石を、一人ひとりが見つけられていないだけ。まかせたよ。」

わたしがまだ小さい時から、おばあちゃんは、こう話していた。

もしかしたら、おばあちゃんと言葉を交わしたこの日から、この挑戦は、すでに始まっていたのかもしれない。

【第1話】はじまりのとき

ある日、不思議な夢を見た。

あたたかい光が差し込む部屋に、わたしはいた。

目の前に

もっとみる
【掌編小説】彼女の選んだ未来

【掌編小説】彼女の選んだ未来

1.未来が見える人

 アメリカ合衆国初の女性大統領になったアリサ・マックウェルは、幼い頃から未来が見えていた。
 日本人の母とアメリカ人の父のもとに生まれ、ボストンで育ったアリサは、よくフリーズしたように立ち止まって、ブラウンの瞳でどこか遠くをじっと見つめる少女だった。
 親も周りの人たちも、彼女がなぜそうするのか不思議だったが、アリサは自分の予知力について誰にも話さなかった。親に打ち明けようと

もっとみる
小説:ナースの卯月に視えるもの 1 #創作大賞2023

小説:ナースの卯月に視えるもの 1 #創作大賞2023

あらすじ
看護師の卯月咲笑はあることをきっかけに、人が亡くなる少し前になると、その人の思い残したものの一部が視える特殊な能力を持つことになった。病院で働く間、患者の思い残したことを視る卯月は、何とかその「思い残し」を解消しようと試みる。患者の「思い残し」は、いつも思わぬミステリーを連れてくる。意識不明の男のベッドサイドに現れた女の子は誰なのか。癌を患い余命の少ない男のベッド下に横たわる女性との関係

もっとみる
「一泊二日」 第一話

「一泊二日」 第一話

  ◇

 頭にきた。もうあんな男とは別れてやる。
 電話を切ってから、一時間近く経つのに、この腹立たしさが収まる気配はない。気がつけば、ベッドに座ったまま、膝の上で、ずっとこぶしを握りしめていた。開いてみると、手のひらにはじっとりと汗がにじんでいる。私はティッシュペーパーを一枚引き抜き、手を拭く。それをグシャグシャに丸め、ゴミ箱めがけて投げ入れようとしたが、角に当たってポロリと落ちてしまった。何

もっとみる
今晩する?

今晩する?

これは藤家 秋せんせが企画された『炭酸刺繍』に参加させていただいた『BOSTON COOLER』が生まれるきっかけとなった物語です

あのさぁ俺は仔猫を拾ったわけじゃねえのよ
雨の中、足首痛めたようでツラそうだったから
目の前にあった俺んチにどうぞって言っただけなんだけど
もう何時間ここにいるんだよ

だって行くとこないんだもん

だからってさぁ

だから労働でお返しするって言ってんじゃん
とりあ

もっとみる
【エッセイ】遠き日の夢「虎吉の交流部屋プチ企画」

【エッセイ】遠き日の夢「虎吉の交流部屋プチ企画」

ドスンッ

「アイタタタ」
はじき出された衝撃で、したたかに頭を打った。
ドクンドクンドクン
小さな地震のような波が規則的に私の身体に伝わって来る。

『タイムリミットは3分です』
白装束の男は私にそう言った。
『分かったわ』
(カップ麺かウルトラマン?)
笑みがこぼれそうになるのをこらえた。
『時間に間に合わなければ…』
『私が……でしょ?』
男は深く頷いた。
『じゃあ、いってらっしゃい』

もっとみる
〔新生活20字小説〕その1

〔新生活20字小説〕その1

新しい食器棚に、古いマグカップがひとつ。

こんばんは。
こちらに参加してみます。

もし何か浮かべば、また書くかも知れません。もう何も浮かばないかも知れませんが💦
とりあえず今日は、これでお願いします!

春と風林火山号に乗って #短編小説

春と風林火山号に乗って #短編小説



 とうとうこの日がやってきた。
 直紀は抑えきれぬ想いを胸に、帳面駅バス停に到着した。駅前の掲示板に貼られた一枚のポスターに目をやる。
   春と風林火山号に乗って新宿に行こう!
 弾けるような文字が躍り、そこにはバス乗務員の制服を着た女の子のキャラクターが描かれていた。何度見ても、溌剌とした明るい笑顔が可愛いらしい。
 直紀はこれまで、こういった萌え系のキャラクターには全く興味がなかった。

もっとみる
【短編小説】ニシヘヒガシヘ~夜行バスに乗って~ 第1話

【短編小説】ニシヘヒガシヘ~夜行バスに乗って~ 第1話

   第1話

21:00 帳面駅バス停 出発

「本日はご乗車いただき、まことにありがとうございます。こちらの夜行バス『風林火山号』は帳面駅発、バスタ新宿行きでございます」

 帳面駅前ロータリーの一角にある路線バスの発着場は、帰路につく人たちが列を作っている。

 それとは反対側の端に停車する鮮やかなデザインのバスに近づき、入り口の前で足を止めた。バス停に立つ制服姿の女性にチケットを見せる。

もっとみる
小説/おめでとう。卒業と、《#夜行バスに乗って》《#シロクマ文芸部》

小説/おめでとう。卒業と、《#夜行バスに乗って》《#シロクマ文芸部》

卒業の季節、イコール絶望。
卒業式って何だろう。結局一度も参加してないから分かんない。ただ通う場所が変わるだけで、毎日やることは変わらないじゃん。
一体なにから卒業すんの。一体なにが おめでとう なの。

新宿に向かう夜行バスの、カーテンをそっと開けて外を覗く。
景色は真っ暗で何も見えない。こんなド田舎だからダメなんだ。腐った人間ばっかりだ。
すれ違うヘッドライトの数も多くはない。こんな時間だもん

もっとみる