マガジンのカバー画像

2021年に詠んだ短歌まとめ

26
(三年目)
運営しているクリエイター

#短歌連作

短歌連作「雑誌をさがすことを楽しむ」 7首

短歌連作「雑誌をさがすことを楽しむ」 7首

駅前の小さな書店お目当ての雑誌をさがすことを楽しむ

腕時計、家庭菜園、手芸など雑誌の棚の未知の惑星

湊かなえ、東野圭吾のすぐそばに陳列されるカフカやヘッセ

ものものしい鏡 防犯カメラあり 婦人誌やたら見ている男

オレンジページ・婦人画報に挟まれてMeets四冊棚に重なる

『Meets』取り「レッツ短歌!」へページ繰る上昇してく心拍数も

とくとくとく鳴る心臓と有線のサンボマスターだけの世

もっとみる

短歌連作「園長が見守っていた」 9首

ようちえんに行きたがらない母親と離れたくないはるのバス停

日直がいやで休んだようちえん また翌日も日直だった

きげんよく通えるための母と子の一ページずつ交換日記

学歴の話でひとが変わる母この頃はまだこの頃はまだ

たんじょうび会にて好きないろ聞かれぱっとオレンジと答えたけれど

おとうとに兄と呼ばれるのがいやだ 縦社会にはなじまぬ僕か

いもの絵が収まりきらず二枚目を付け足す先生いての大作

もっとみる

短歌連作「信仰の不自由」 20首

一定の拍子で進むしめやかな十数人の唱歌と踊り

拍子木に笛に太鼓に三味線にお経のようなわからない歌

毎月の儀式につどい少年の僕は太鼓を叩かされてた

祭壇の前のひとびと一斉に拍手四回 轟音となる

一階は祖父母の部屋に台所 二階まるごと大部屋の祭壇

祖父母から強制があり「しゃあない」と母は子供に強制をする

大人らの拍手や礼のしかたにも微妙な違いあって見ている

寄付金の一部で買った米、魚、白

もっとみる
短歌連作「コロナワクチンを打つ(1回目)」 12首

短歌連作「コロナワクチンを打つ(1回目)」 12首

インフルエンザの予防接種を昔した内科へ向かう自転車漕いで

受付で名前告げると手際よく必要書類確認される

数人が待合室で時を待つ我も加わり沈黙の午後

それぞれの事情を告げてそれぞれのうなずき方で去る 受付を

子を連れた母は書きまちがいをしてふふふと笑うナースも笑う

せかせかとした青年は「予約なら来々月になる」と言われる

「先生と話がしたい」とおじいさん 健康だけでひと生きられぬ

コロナ

もっとみる
短歌連作「何もかも受け入れられぬまま時が経つ」 14首

短歌連作「何もかも受け入れられぬまま時が経つ」 14首

顔のない人々の群れ ひらひらと灰によく似た雪の降る街

言えるわけない言葉たちが残ってて景色が剥がれ落ちてく二月

腸を引き抜かれるような別れだ だけど笑って戦わなきゃな

冬のよる空が重くて遠い灯があまりに遠く行くあてはない

楽園のイミテーションだ 地下室の少年がドア強く叩いた

折れている翼で空は飛べないね 当たり前だね 当たり前、だね

皆はもう行ってしまった進めないたったひとりの僕の戦争

もっとみる
短歌連作「誰もがながい夢を見ている」 14首

短歌連作「誰もがながい夢を見ている」 14首

見ていられない現実があるために誰もがながい夢を見ている

多面体としての他者に着かぬまま脳の迷路を点から点へ

虹ですら赤のほかには見もしない人が見上げる真っ赤な空だ

現実と願望をすり替えたのだ無人の街の怒れる怪盗

話し合うほどに濃霧につつまれて果ては虚空と怒鳴り合ってる

絶滅のケモノの角はアクリルのなかで戦のゆめを見ている

強くなく美しくなく正しくもないケモノらは都市を創った

ビルとい

もっとみる

短歌連作「まだ欲することに励まされてる」 10首

世の中の細部に秘められてる愛たとえば飛び出す絵本だったり

絵本から飛び出すウサギ     浮き上がる罪悪感だこんな大人で

誰に言うわけでもないが生きていてごめんなさいとよく口にする

ゆうぐれの車窓にうつる鉄橋ととおき叫びと硬質な海

今日だけは沈み込みたいまろやかなキリンラガーの金色の海

発泡酒ではなくビール 爽よりもハーゲンダッツ ひとり飲み会っ

夏季メニューにレモンタルトを書き足した

もっとみる
短歌連作「自分だけ取り残されたような気が」 12首

短歌連作「自分だけ取り残されたような気が」 12首

自分だけ取り残されたような気がするのは自分だけじゃないはず

自分だけなのか意外と難しい 見られる芝は皆青くする

インスタに写りの悪い自撮りなどいったいだれが上げるだろうか

自殺したあの友達は冬の朝とつぜん消えたように感じた

「体力も時間もないしガチャ回すだけ」と気になるひとことを聞く

「面白いことがないからパチンコへ行く」と気になるひとことを聞く

女優すら首を吊ったり旧友がユーチューバ

もっとみる
短歌連作「沈めた鍵を見せたからだね」 10首

短歌連作「沈めた鍵を見せたからだね」 10首

無意識の海で出会った定理へとペン走らせた七年のこと

生と死のはざまに揺れる横顔は17才の紅い月蝕

羊には羊の苦難 ソテツにはソテツの苦難 星には星の

刺して笑う狂信者のど真ん中にいつも茨のような絶望

囚われた電子回路の短絡が火花散らせて温きまぼろし

偽りの回路を裡に奉る/千の扉の深い沈黙

なまぬるいミルクの夢にお邪魔して沈めた鍵を見せたからだね

渦を巻く嘘の粒子を浄化する灯台守の優し

もっとみる
短歌連作「絶望に見えたひとつの混沌へ」 80首

短歌連作「絶望に見えたひとつの混沌へ」 80首

※閲覧は要注意です穏やかじゃない表現を含んでいます

平静を欠いたブリキの槍兵は「すべてお前のせいだ」と言った

不安定な愛着ゆえに不安定な人らとひびき妙にからまる

自らの業から逃げる気はないが他人の罪を背負う気もない

考える葦 その前に一匹の獣だ 肉と愛情を喰う

ほんとうは些細なことのはずなのに気にされすぎて気にしすぎてる

あの頃は強酸性の土でしたみんな痩せててぎりぎりでした

幸せじゃ

もっとみる
短歌連作「スーパーでカツ丼を買う」 4首

短歌連作「スーパーでカツ丼を買う」 4首

いつもとはちがう駅から特急に乗ってあかるい車窓には山

スーパーでカツ丼を買うこんな日もいつかはなつかしくなるだろう

マンションの10F以上に入るのは初めてだっけ一月の空

こんなにも高いところでカツ丼を食べエアコンの音を聴いてる

短歌連作「小さき午後のお茶会」 8首

短歌連作「小さき午後のお茶会」 8首

そうじゃない角度で光あててみるノートとペンで出会える景色

茫漠とねむれる黒き黒き森をぬけた小さき午後のお茶会

アンティークの額縁たちに囲まれて『銀河鉄道の夜』の夢立つ

僕がいまミルクティーなど飲めるのもカムパネルラのおかげなのかな

ひとの趣味でべつの世界をのぞくのがけっこう好きだたとえば紅茶

8の字のようにぐるぐる庭園をめぐるソテツも過ぎるぐるぐる

デュオ・トリオのつぎのことばがわから

もっとみる
短歌連作「村人たちが谷に溶けゆく」 12首

短歌連作「村人たちが谷に溶けゆく」 12首

山頂の白い神殿から鐘はなにかを責めるように響いて

布きれで顔を覆った人たちが「罪人よ、悔い改めなさい」と

「身に覚えがない」と抗弁するほどに罰当たりだとざわついている

答えずにいれば「認めたわけですね」罰当たりだとざわついている

聖者ではないと盗賊なのですか 村人たちが谷に溶けゆく

囚われてる鎖をぶつけ捕らえたい まことの罪は夜の藪の中

横たわる老婆は狂者のふりをする道行く人を赤眼で睨

もっとみる